入渠完了!そして祈りが届いたのか、加賀さんと鉢合わせになることはなく平和に入渠が終わった。
まあ、加賀さんが入渠してくることなんてほとんど無いし、入渠じゃなくてみんなで使える普通のお風呂とかそう言うのの方をよく使ってるからドックの方に来ることは少ない。祈らないでもよかったとは言わないけど、とりあえず助かった。
そう言うことで完全復活した私は……プラズマさんに聞きに行くのは危険すぎると判断してこの辺りでちゃんとした取材を辞めることにした。私が新聞に載せるのはここまでで、ここから先は私の趣味だ。つまり、表には出ない……と言うこと。
こうすれば確かに仕事ではなくなるし、知ったことを全て新聞に書く必要はなくなる。仕事となれば知ったことは全て書く必要が出てくるけれど、趣味なら書こうが書くまいが関係ないしね。
そう言うわけで鳳翔さんのやっている店に行く。休養とほぼ同じような状態だけれど、できるだけ鳳翔さんが暇している時間を見計らって行く予定だから邪魔にはならないはずだ。
いくつか頼むものを考えておく。鳳翔さんの料理はどれも美味しいけれど、特に家庭料理にカテゴリされるものはなんだかよくわからないけど美味しいと思わせる何かがある。
……きっと、あれがよく言う『お袋の味』と言うやつなんでしょうね。鳳翔さんは色々な人から『お母さん』と呼ばれているようですし、適任だと思います。
……よし、時間としては『夕食にはまだ早い、昼食にしては大分遅い、おやつにしても遅すぎる』って言う時間だし、何か軽くつまめるものを頼もうかな。
お酒に枝豆……は、いくらなんでもちょっとおっさん臭いし、ハイボールに唐揚げかな? ハイカラハイカラ。
……カクテルとかそう言うのは流石に鳳翔さんのお店には無いだろうし……まあ、しょうがないよね。
鳳翔さんのお店の暖簾を潜ると、そこはいつも通りの鳳翔さんのお店。けれどいつもと違うのは、厨房に居るのが鳳翔さんではなく、ワイシャツを着崩した男の人だと言うことだった。
「……いらっしゃい。今は鳳翔は仕込み中だ。加賀がヤケ食いして今日の分の仕込みが全部食われたんでな」
「はぁ……」
「……まあ、鳳翔の料理が食いたかったんだろうが、今は無理だ。俺が代わりに立ってるわけだし、頼まれれば大体の物は作れるが」
その男性はぼんやりとした目で私を見つめる。焦点が合っているのかもわからない目だけれど、鳳翔さんが自分の代わりに厨房に入ってもらっているような人だ。愛想とかそう言うものはともかく、料理の腕は十分高いのだろう。
「……『大体の物は作れる』って言いましたね?」
「ああ。流石に鳳翔と全く同じに作れるかと聞かれたら首を傾げるが、俺なりに上手く作ることはできるぞ」
私の問いかけに、その人は誇るでもなしに淡々と答えた。当たり前にできることを当たり前に答えている……と言った風情だ。
「それじゃあ、唐揚げとハイボールを」
「あいよ」
注文を受けた男性は、その場でさささと行動を始めた。見る限り随分手慣れているようだけれど、今頼んで今から作るのではどれだけ時間がかかることやら。
私は適当にカウンター席の一つに座り、その男性を観察することにした。
「へいお待ち。唐揚げとハイボールね」
「早っ!?」
ちょ、まだ頼んでから一分も経ってないんですけど!? しかもいかにも揚げたてですって感じの凄く美味しそうな唐揚げと、キンキンに冷えたハイボールを用意するって……。
「ちなみに作りおきじゃないし、唐揚げの芯まで火が通ってないなんて事もない。安心して食べてくれ」
「あー……えーと……イタダキマス」
備え付けてある割り箸を割って、唐揚げを一口。
……あ、美味しい。
その唐揚げは鳳翔さんの作る家庭的なものとは全く違う、言わばよそ行きの料理。けれど、鳳翔さんの料理と同じくとても美味しい。
質が全く違うので比較するのは難しいけれど、美味しいと言う一点においては文句なし。なるほど、一時的にとはいえ鳳翔さんが店を任せる事を許可するわけだ。
「……美味しいです」
「そうじゃなかったら鳳翔も俺に任せたりしないさね」
その男性は上機嫌にカラカラと笑う。……少なくとも、悪い人ではなさそうだ。
ただ、私としてはなぜこの男性がこんなところに居るのかが気になるところだ。
なにしろこの鎮守府は一般的には存在すら認知されていないし、軍の中でも相当の上層部しか存在を知らない上に書類として存在が残る事のない場所だ。
そして、そのせいもあってこの鎮守府に新しく来る者は艦娘とはぐれ妖精さんのみ。新しく誰かが来ればそれは情報部である私には連絡が来るようになっているはず。
だとするとこの人は不法侵入者かあるいは元からこの鎮守府にいたってことになるんだけど……不法侵入者なら鳳翔さんが気を許すわけもないし、だからと言ってこの鎮守府の中でこの人のことは見たことが……。
……いや、可能性はある。今思い付いたけど、確かに可能性自体は間違いなくある話だ。と言うか、こうでもないと納得できない。
「あの……もしかして……貴方は…………提督さんだったり……?」
「……」
私が恐る恐る問いかけてみると、その人は突然無表情になった。そして私の事をじっと見つめてくる。
「……元々知ってた奴以外で気付いたのは、お前が二人目だな」
「やっぱり……!」
……そう、この男の人が提督であれば、私がその顔を知らず、そして鳳翔さんが安心して任せていられると言う二つの事象が同時に成り立つ。
だけどまさか、本当にそうだったとは……予想できるかと。
「……で、確かお前さんは鎮守府新聞局の局員だったな。噂の提督の事を調べてるって話を聞いてるが……直接取材してみるか?」
「……それは、個人的にも記者としてもひっじょーーにありがたい言葉ですね。では、取材させていただいても?」
「駄目なら始めから言わないさ」
提督は悪戯好きな子供のような笑みを浮かべ、私に先を促した。……あー、うん、確かにこれはちょっと魅力的に見えるかも。プラズマさんや扶桑さん、金剛さんまでもが首ったけになる理由もわからないでもないですね。
………………あれ、なんだろう、とても順調に話が進んでるはずなのに、なんだか凄く嫌な予感がする。いったいなんだろう?
命の危機……あるね。うん、いや本当にヤバい。一体なんで?
……なんだかもう回避方法が見当たらないので、とりあえず今は提督にしっかりと取材しておこう。私の最後の仕事になるかもしれないしね。
人物紹介
青葉
提督についての取材を続けるうちに、色々と危ない橋を渡ってきたせいかLvが上がってしまった。特に加賀との追いかけっこが大きかったが、実はちょっとした会話でも経験値が溜まっていたりする。
とりあえず、一度やり取りするごとに間違いなくオリョール海でA勝利してくるくらいの経験値が稼げている。もうこれ本当に出撃しないでいいんじゃないかな。