「鳳翔さーん!このコロッケおかわりー!」
「はい、すぐ作りますから少しだけ待っていてくださいね」
「鳳翔さん、こっちに豚角煮定食と青椒肉絲!」
「はーい」
「鳳翔さーん!」
次々に舞い込む注文を手早く片付けていく。しっかりと煮込んだ角煮を盛り付けてお盆に並べ、お味噌汁とご飯をのせて直ぐに出す。
焼きたての魚をお皿に乗せて、今日のお漬物を盛り合わせる。
「お待たせしたのです、カレーライスとコロッケ、それにメンチカツ定食なのです」
そうした仕事の合間に聞こえてくる声に、私は頬を緩ませる。私がこの鎮守府に来たばかりの頃にはあんなに人見知りだった子が、今ではあんなに立派になっている。ただそれだけのことが、私にはとても嬉しく感じる。
私がこの鎮守府に来たのは……もう何年前の事だろうか。忘れてしまった。
ただ、その頃はまだ今のように艦隊をいくつも組めるほど大きくはなかったと言うことはよく覚えている。
当時は私と、まだ電だった頃の彼女。そして提督の三人だけだったはずだ。私は、提督が初めて建造した時にちょっとボーキサイトを多目に入れて建造した結果生まれただけの、搭載数も速力も低い軽空母だった。
そんな私達を目の前にして、提督は何でもないように言ったのだ。
「それじゃあ、出撃しようか」
私とプラズマちゃん───当時は電ちゃんだったけれど───は、鎮守府近海をゆっくりと見て回った。初出撃と言うことで提督も一緒に出撃し、一隻の深海棲艦、駆逐イ級を撃破して、それだけで一度戻っていった。
ただ、当時からずっと優しかったプラズマちゃんは、その事で提督に話をしに行った。そこでいったいどんなやり取りが行われたのかは知らないけれど、それ以来、プラズマちゃんはずっとなにかを頑張り続けていた。
毎日朝早くに起きて布団を片付け、それから走り込むようになった。ご飯をいつもよりちょっとだけ多く食べるようになり、武器の扱いをずっとよく勉強するようになった。
時には妖精さんにまで話を聞きに行って、夜遅くになって提督に抱えられて戻ってくることが時々あるようになった。
そして気が付くと、プラズマちゃんは私よりもずっと先に進んでいた事に気が付いた。
深海棲艦でもできれば救いたいと言ったプラズマちゃんは、救える深海棲艦を間違いなく救えるようになるための練習をしていたらしい。
妖精さんに聞いて武器の癖を教えてもらい、提督の話で出た『深海棲艦から艦娘が現れる可能性』を信じて救いたいと願った。
『深海棲艦とは、海で散った者達の悪意でできている』と言う話と、『艦娘は、海で戦った者達の希望でできている』と言う話は有名だ。事実かどうかはわからないとそうだが、提督はどうやらその説を信じているらしい。
提督が言うには、『どんな深海棲艦にも艦娘となる可能性がある。しかし艦娘として呼び戻すには、深海棲艦の奥深くに眠る僅な希望に活力を与えなければならない。それは圧倒的な力でもいいし、優しさでも、誠意でもいい。とにかく中にいる希望を叩き起こして、あちらからこちらに手を伸ばさせなければいけない』と言うことだった。
そしてプラズマちゃんは心の底から信じ、それを実行できるように全力で自分を鍛えた。
その間、たった一度の出撃もなかったのにこの鎮守府がやっていけたのは、間違いなく提督がなにかしら手を回していたからだろう。そうでなければ、なんの成果も上げていない鎮守府に物資が届き続ける等と言うことは無いのだから。
まあ、その頃はただ強くなることに必死だったプラズマちゃんはその事には気付かなかったようだけれど、私はその事に気付いて提督に話を聞きに伺いもしたのだ。
けれど、提督は少し……いや、かなり常識と言う言葉から嫌われ、縁を切られている方だったらしく、心配する私の目の前で夜の海に出掛け、ちょっとした散歩とでも言うかのように海面を艦娘のように歩行し、望遠鏡で夜空の星を見付ける程度の気軽さで深海棲艦を捕捉し、お豆腐に包丁の刃を入れるように気安く深海棲艦を解体し、装甲は鋼材と僅かなボーキサイトとして、体液を燃料と極一部の濃厚な部分を深海棲艦の核と混ぜて高速修復材として、体内に詰まっていた弾薬をそのまま弾薬として持ち帰ると言う離れ業を見せた。
確かに、これならば深海棲艦を倒していることから鎮守府の機能を止められるようなことにはならないし、非常に多くの資材を短期間に得ることができる。何しろ重量で言えば太平洋戦争で活躍した駆逐艦等と同等。簡単な修理と毎日の演習を行うには十分な量と言えるだろう。
しかし、提督はこの事はプラズマちゃんには内緒だと言った。使う前に浄化はしてあるから使用感で気付かれることは無いだろうけれど、言ってしまったらプラズマちゃんが壊れてしまうかもしれないから、と。
私は、その言葉に頷きを返すことしかできなかった事を覚えている。そして、頷くしかできない自分の事が、とても嫌になったことも。
それから、私はプラズマちゃんの演習に付き合うようになった。何度も負けてしまったし、燃料と弾薬、ボーキサイトを沢山消費してしまったけれど、そのお陰で今、こうしてプラズマちゃんの隣に立つことができている。
提督に改造してもらって搭載量も格段に増えたし、今では余裕ができたお陰で使われることのなくなった深海棲艦製の資材を使った結果、普通の空母にはできないようなことも少しだけできるようになった。
例えば、特殊探照灯による夜間攻撃。肉眼で見ることのできる光より遥かに波長の長い光を使うことにより、相手に注目されること無く夜間に敵艦隊を照らし、さらに特殊探照灯が並んで点灯している部分の間を狙えば夜間に着艦することも可能。
勿論、特殊な装備をそれぞれの航空機に配備しておく必要があるけれど、夜間に攻撃することができると言うのは大きい。
……なお、この装備は提督が立案・資材集め・製作・試用・改造・試用を全て一人でやったものらしい。ありがたいけれど提督は本当に人間なのかと。
それに、私って今正確な名前は『鳳翔・天』なんですけど、私ってこんな改造無かったと思うんですよね。無いと言うか、できないと言うか。
だって私、今のところ艦載機の数で言えば赤城さんと同等ですしね。それに、何故か5スロに提督に似た小さな男の子が丸くなってすやすやと眠っている影響で4スロが追加配備されてますし、甲板に装甲が張り付けられているようで中破していても艦載機を発着できるようになっているし……いったいどうなっているのか私にもよくわからない状況にあります。
けれど、今ではもう半ば引退してこの鎮守府から出ることは殆ど無く、あの頃と比べて遥かに多くなった艦娘達にご飯を作ったり、ボロボロになった服を繕ったり洗濯したりして過ごしています。
「プラズマちゃん、できたのからどんどん持っていってあげて?」
「わかったのです!豚角煮定食と青椒肉絲なのです」
プラズマちゃんは時々私のお店に現れ、お店を手伝っては私のところでご飯を食べてふらりといなくなる。
昔よりも話をする時間は減ってしまったけれど、それで仲が悪くなるわけでもないと言うことを表しているようだ……と言われたこともある。
私は今日も忙しく働く。提督から資材や食材を仕入れ、艦娘用、人間用に分けて調理して行く。
……少なくとも、海に出て戦うよりもやりがいのある仕事ではある。私は笑みを浮かべ、揚がったばかりのコロッケをお皿に盛ってプラズマちゃんに渡しておいた。
艦娘紹介
鳳翔・天
鳳翔型空母一番艦にして唯一の鳳翔型。あと一回の改造を残しているそうだが、実際にそうなのかどうかは本人も知らない。事実は提督のみぞ知る。
この鎮守府に来た最初の軽空母。初めは軽空母としては貧弱だったが、何時の間にやら正規空母である赤城を未改造であれば凌駕する性能を誇るようになった。
その包容力と優しさ、そしてかなりの古参であるという事実から、よく母親扱いされている。その対象は駆逐艦に止まらず、一部の軽巡や重巡、雷巡、果ては同じ軽空母や正規空母、戦艦からも母と呼ばれることがあり、本人は複雑そうな笑みを浮かべている。
ただし、年齢の事に関しては聞いてはいけない。聞くなら命を失う覚悟をしよう。
改造方法は、Lv99の鳳翔改を『深海棲艦から剥ぎ取った資材で改造する』ことである。これによってLvが99から1にリセットされてしまうが、ステータスは近代化改装分がそのまま繰り越されるため、事前の近代化改装をしっかりしていればしているほど強化される。
こんな奇妙な改造ができるようになってしまったのは大体提督のせい。提督が暇潰しに狩ってきた正規空母ヲ級改フラグシップから採れた鋼材とボーキサイト、燃料を使い続けた結果、現在に至る。
なお、現在のLvは55。Lv75になると更なる改造が待っている……らしい。