うーちゃんは今日も元気だぴょん♪
いつものようにおどけ、いつものように笑い、いつものようにそうしている姿を見せつける。
みんながうーちゃんを見る目は『またこいつか』と言うあきれた目と、数人からはなんの感情も読めない表情を向けられている。
でもしょうがない、うーちゃんはうーちゃんだもんねー♪
悪戯好きで、空気が読めない、純真と言うには汚れてるけど邪悪と言うほど黒くない。いろんな人からそういわれちゃうけど、そんな言葉じゃうーちゃんは変わらないもんねぇー、ぷっぷくぷぅー。
「ねぇ~、しれーかーん♪ 今日もうーちゃんは頑張ってるぴょん?」
「はいはい、えーと? うーの好みは唐辛子満載の激辛狸鍋だったか?」
「うーちゃんはどこかのかちかち山のウサギさんじゃないぴょん」
「そうか。まあ、作っちゃったし持ってけ」
「……前にもおんなじ感じで極辛麻婆狸を持たされたような気がするぴょん」
そう言われて司令官から持たされた保温機能付きの鍋……なんかまだぐつぐついってるのを手土産に、うーちゃんは自分のお部屋に戻る。途中で赤城の口に鍋の中身をちょっとあげたら、その場で口と喉を押さえて七転八倒し始めたのを大笑いしながら通り過ぎ、自分の部屋の扉を開ける。
右にも左にも、上にも下にも、正面にも後ろにも、どこを見ても可愛いものがたくさん置かれたうーちゃんの部屋。机の上に置きっぱなしになっているエラー猫の鍋敷きに持っていたお鍋を置いて、やっと一息。
いくらうーちゃんでも、あっつあつの激辛鍋を頭から被りたいだなんて思わないしねぇ~。
……ドアの鍵は閉めた。カーテンも閉まってて、鍵もちゃんと降りている。壁は防音がしっかりしてるのは知ってるし、この部屋にはうーちゃん以外にはだーれもいない。
……よし。
「……っはぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~……いつものことながら疲れるわコレぇ……」
全身から力を抜いて、オレっちは可愛らしすぎるクッションを抱き締めてカーペットの上を転がる。カーペットはもふもふしているし、クッションも柔らかいので勢いよく床に倒れ込んでも大丈夫だ。
「あ゛~……やっぱ落ち着くぜぇ……」
オレっちはクッションを抱き潰すくらいの強さで抱き締める。元々どこか抜けていたクッションは、更に妙な顔になっている。
……そう、実はこっちの方がオレっちにとっては楽だったりする。
明るく元気で悪戯好きなうーちゃんの姿からは思いもよらないかもしれないが、外見に合わせて大分変えたしな。しゃーない。
この事を知っているのは、司令官の旦那とオカン、それにサトリ妖怪とプラ公だけだ。
本当は誰にも教えるつもりはなかったんだが、旦那に気付かれプラ公に気付かれサトリ妖怪に気付かれ……まあ、それでも黙っててもらってオレっちはこうして過ごしている。
「いつも申し訳ないのです」
「いぃよ、別に……つかプラ公、どっから入ってきやがった」
「全身を一瞬プラズマ化すれば、壁や扉を構成する原子間結合の隙間を抜けてくることくらい容易いのです」
「け、相変わらずのバケモノっぷりで」
勝手に人の部屋に入ってきたプラ公に憎まれ口を叩きつつ、ついさっき旦那にもらった激辛狸鍋を食べる準備を整える。可愛い箸に小さい匙、掌に収まる程度のお椀に、お玉。
「で、一応聞くが食ってくかい?」
「ご遠慮するのですよ。プラズマは辛すぎるものは苦手なので」
「そうかい」
そう言いつつも初めから一人分しか用意してねえんだけどな。どんな答えが返ってくるかはわかってたし。
「……ほんじゃま、いただきます」
よそった真っ赤な汁を啜り、唐辛子とにんにく、ネギで大分臭みを消されている狸肉を頬張った。
この微妙に残った臭みと、非常に噛みきりにくい筋ばった歯応え。そしてこの狂気的なまでの辛さ。オレっちはこれが好きなんだ。
「卯月さんは割と下手物好きなのです」
「オレっちの勝手だろい。臭いとかで迷惑かけないように部屋で食ってんだから見逃せや」
「はいはい」
そう言いながらプラ公は持っていた書類をオレっちに手渡してきた。あー……特殊改装だ?
「何でオレっちに? 加賀とか天龍とか色々居んだろ?」
「天龍さんたちの分はもうあるのですよ。本人には伝えてませんが」
「ふーん……」
飯を食いながら仕様を眺める。……回避力と命中をガン上げ、か。攻撃しても避けられ、相手からの攻撃は弱々しくてもほぼ必中……となると……
「やっぱ今の路線のままってことか?」
「そういうことになりますね」
「か~……一次接触を大分ミスった気分」
オレっちはどんどん減っていく鍋の中身から目を逸らし、かつてこの鎮守府に来た当時の事を思い出……そうとして、やめた。あの頃のオレっちはどうにもアレすぎたし、自分で言うのもどうかと思うが正直あまり好きじゃない。
……恥ずかしいしな。
「『若かりし頃の思い出』なんて、恥ずかしいものだと相場は決まっているのですよ?」
「それでも恥ずかしいもんは恥ずかしいんだよ」
特に、初めて会った相手に仮面を見抜かれて、見抜かれていたことにも気付けないで必死に仮面を押さえ続けていたことなんざ……思い出したくもない。
「当時の卯月さんは可愛かったのですよ?」
「……はぁ……この鎮守府に拾われたのが運の尽き……って奴かね?」
ぱくり、と最後の一口を食べ終えると、いつも通りに鍋が消える。いったいどうなっているのかはわからないが、便利だ。
「……で、オレっちはこれからもこれまで通り、能天気で悪戯好きで空気の読めない『うーちゃん』でいた方がいいか?」
「できるのならば。それが司令官さんのためになるのです」
「……じゃ、しょうがないか。───うーちゃんにしかできないなら、できる限り頑張ってみるぴょん♪」
……そんなわけで、オレっちは今日も仮面を被る。
能天気で、悪戯好きで、純粋かつ汚れていて、空気の読めない……そんな『うーちゃん』と言う名の面を。
「女の子が胡座で座ってそんなこと言っちゃダメなのですよ?」
「……いいじゃねえかよ、どうせオレっちとプラ公しかいねえんだからよ」
「パンツ見えてるのです」
「パンツくらい気にすんなよ、オレっちも気にしねえ」
「司令官さんはそういうのをちょっと気にするタイプなのですが?」
……よし、特に理由はないんだが胡座はやめとくか。うん、理由はないんだがな? 理由はないんだが……なんとなくな? 本当に理由はないんだぞ? 本当だぞ?
「そうやって自分に言い訳をしながらもちゃんと直す卯月さんは、加賀さんと同じくらい可愛いのです」
「おい馬鹿やめろ加賀の名前を出すなしかもそう言うところで。あいつあんなクールな顔してかなり嫉妬深い上に独占欲も強いんだから」
「知っていますよ? 加賀さんをああ育てたのは、他ならぬプラズマなのですから」
クスクスと笑いながら小首をかしげるプラ公。見た目はコレだってのに中身が真っ黒すぎなんだよな。オレっちが見た目と中身のギャップについてなんか言うのもどうかと思うけどよ。
「実は結構乙女な卯月さんが思うと説得力があるのです」
「乙女じゃねーし」
「そうですか? ……ところで、卯月さんの部屋ってちょっとだけ香水の匂いがしますね」
「……新作のファ○リーズだし」
「あそこの台、鏡が上につけられそうな形をしていますが……」
「……元は鏡台だったけど、オレっち鏡とか使わねーから捨てちまったし」
「あそこにある布がかけられた板は……」
「……趣味のシルクスクリーンセットの板だし」
「爪、とっても綺麗ですね?」
「……つ、爪の手入れが不十分だと、主砲の引き金に引っ掛かったりして危ないときがあるから気にしてるだけだし」
「司令官さんの前に出る時、いつも服の皺を何とかしようとしてますね?」
「ほ……埃が目につくことが多かったからで……」
「如月さんにお願いして、いいシャンプーとリンスを分けてもらってるそうじゃないですか」
「……か、髪がごわごわだと寝にくいからだし」
「青葉さんが集めた情報は一度プラズマのところに集まってくるのですが……勝負下着、買ったそうですね?」
「……なんの話かわからねえな?」
「経費で落とそうとしたら報告は来るのですよ?」
「嘘だろ自腹で買っ……いや、なんのことだ?」
……だんだんとハイライトが薄くなっていって、瞳孔が開いていくプラズマがめちゃくちゃ怖い。
にっこりと、目以外は完璧な笑顔を浮かべながら、プラズマはオレっちを襲おうとする獣のように両手を床に付き、少しずつオレっちににじりよってくる。
「ベッドの下、デフォルメ司令官人形が置いてありますね?」
「……趣味のぬいぐるみ作りの練習で作った奴だ。駄目か?」
「ダメではないのですが……毎晩キスして寝てますね?」
「げっほっ!? なん……のことだよ?」
一瞬口が滑りかけたが、なんとか修正する。完全に瞳孔を開いたプラ公は、まだじりじりとオレっちに迫る。
オレっちも後ろに下がってはいるが、もう後がないと言う状況に追い詰められてしまった。
後ろはタンス。前はプラ公。ヤバイもう逃げ道がない。
「いえいえ、ただ……プラズマも司令官さんが欲しいな~……と言うだけの話なのですよ?」
「絶対それ最後に『今は』って付く系だろ……まあ、材料か材料費にちょっと色つけてもらえりゃ作りますがね……」
「お話した甲斐があったのです」
お話じゃねえよ脅迫だよ……と言う言葉は飲み込んで、オレっちは壁に背を預けた状態のまま溜め息をついた。
……やれやれ、プラ公やっぱ怖いわぁ……。
艦娘紹介
うーちゃん/卯月
睦月型四番艦にして、作者的腹パンしたい艦娘ランキング堂々一位。そろそろ殿堂入りします。
『うーちゃん』
明るく、元気で、悪戯好きで、空気が読めなく、純粋と言えば純粋だがどこかヨゴレキャラ気質でもある不思議な艦娘。時々洒落にならない嘘をついたり、会議などではあり得ないほど鋭く本質をついてしまったりする。嫌われてはいないが厄介な艦娘ではある。
ただし、能力事態は低くなく、何故か戦艦・正規空母・重巡洋艦・いくつかの鬼級・姫級の攻撃を一手に引き受ける。よっぽどドヤ顔がウザいらしい。
割と新人ではあるが、プラズマから気に入られて鍛え上げられている。かわいそうに……。
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『卯月』
面倒臭がりだが任せられた仕事はきっちりするタイプ。基本的におっさん臭く、胡座もかけば畳にごろ寝もする。麻雀もできる。
『うーちゃん』と言う仮面を持っていて、人前では基本そっち。『うーちゃん』時には甘いものが好きで辛いものは苦手なよくいる子供だが、卯月本人は甘いものも辛いものも好き。酒も好き。
この鎮守府では、主に『思考のブレイクスルー』をさせる仕事についている。凝り固まった概念を一度砕き、新しい何かを放り込んで再構成させるのは主に『うーちゃん』の仕事。
着任当日には提督に『うーちゃん』仮面は見抜かれていて、『今まで見つけてくれる人のいなかった本当の自分を見つけ、受け入れてくれた』と思ってすっかり提督LOVE勢に。本編では全力で否定していますが、結構乙女です。キスに夢持ってるくらいに乙女です。
なお、うーちゃんも卯月もどちらも嘘ではありません。どちらも彼女の顔であり、どちらかが偽物と言うわけではないのです。
ちなみに、旦那→司令官。オカン→鳳翔、プラ公→プラズマ、サトリ妖怪→扶桑です。