連続投稿十話目。艦これをリクエストされたので応えてみました。
いつの間にか海の上に居た。目の前には優しい笑顔を浮かべた誰かがいて、私のことを抱き締めてくれた。
私より少しだけ背の高い彼女は私の頭を撫でながら言う。
『助けさせてくれて、ありがとう』
私は彼女に抱き締められながら、ゆっくりと意識を落としていった。
目を覚ますと、見知らぬ場所に居た。周りを見回してみると、私のことを抱き締めていた女の子が近くに座っていた。
「……ここは……?」
「ここは存在しない鎮守府です。目が覚めたばかりですみませんが、お話聞かせていただいても構いませんか?」
私は一つ頷いた。
目の前の彼女は『プラズマ』と名乗り、私に色々なことを聞いてきた。
記憶はどこまであるか。───私は『気が付いたら海の上にいて、貴女に抱き締められた所まで』と答えた。
私の名前はなんなのか。───『私は瑞鶴、翔鶴型正規空母の二番艦』と答えた。
自分がどういう存在なのかわかるか。───『艦娘、と呼ばれる、かつて戦争で戦った船の記憶っ力を持つ存在』と答えた。
敵とされる相手は?───『深海棲艦』。
「……艦娘として最低限のことはわかるようですね」
「ええ。武器の扱い方も、なんとなくわかるわ」
「身体に異常は?」
「……無いわ」
両手を開閉し、首を回してみても異常はない。ただ、全体的に武器が大きいので慣れるのに少し時間がかかりそうだと言うだけだ。
「そうですか。それでは瑞鶴さん。私達はあなたを歓迎します。───ようこそ、名無しの鎮守府へ」
プラズマと名乗った彼女は、私の頭を撫でながらそう言った。
「……撫でないで。恥ずかしいわ」
「新しくドロップされた子は秘書艦になでなでされるのがこの鎮守府の決まりの一つなのです。決まりは守らないとダメなのですよ?」
「……むぅ」
決まりなら……まあ、仕方ない。私は仕方なく……仕方なく!プラズマさんに頭を撫でられ続けていた。
……仕方なくよ? 本当に仕方なくなのよ? 頭を撫でられて気持ちよかったりとか、ほっと安心できたりとか、安らげたとか、手が離れた時に名残惜しさからつい声をあげてしまったりとか、物欲しげな視線を向けてしまって『しょうがない子なのです』なんて言われてもう一度優しく抱き締められながら頭を撫でられてプラズマさんの体温に包まれて安心してそのまま眠ってしまいそうになったところで「寝ちゃっていいのですよ」って促されてそのまま寝ちゃったりとか……そんなことは絶対に無いんだから!
……そう、だから、今朝になってプラズマさんに寝顔を見られたなんて事実は無いし、目を覚ました時に『おかーしゃん……?』ってプラズマさんのことを呼んじゃったなんて事実も無いし、目を覚ますために顔を洗う洗い場まで手を引いてもらったなんて事実も無いし、顔を洗っても眠気が覚めなくて歯を磨いた後に仕上げ磨きをお願いして膝枕でもう一度磨いてもらったなんて事実も無いし、着替えさせてもらった時に襦袢の重ねを間違えて結局着付けてもらったなんて事実も無いし、朝ごはんを『あーん』で食べさせてもらったなんて事実も無いし、食事が終わって食後のお茶を飲んでいる途中でようやくしっかり目が覚めて今までの自分の失態を自覚して悶えたなんて事実も無いし、そんな私を光が完全に消えた目で見つめる加賀さんを見てしまって腰が抜けて立てなくなったなんて事実も無いし、腰が抜けたことに気付いたプラズマさんにお姫様抱っこで私の部屋まで運んでもらったなんて事実も無いし、お姫様抱っこのまま鎮守府中を案内されて色んな人ににやにやと生温い視線を向けられたなんて事実も無いし、時々壁の影から私を睨み付ける加賀さんの目を見る度に身体が震えて動けなくなってその度にプラズマさんにほっぺにキスしてもらって落ち着いてたなんて事実も無いし、最終的に私がプラズマさんのことが大好きになっちゃって『また明日も会えるかな……でもきっとプラズマさんも忙しいよね……だってプラズマさんは秘書艦だし……』って悩んで溜め息ついちゃったなんて事実も無いんだから!本当にそんなことは絶対にあり得ないんだから!
……で、でも……演習や実戦でたくさん頑張ったら……プラズマさんは褒めてくれる……かな?
その時には、また……あ、頭を撫でたりとか……抱き締めてくれたりとか……してくれるの……かな……?
もしも……もしもそういう決まりがあるんなら……私も従わなくちゃ駄目よね? 来たばっかりの艦娘が秘書艦に頭をなでなでされなくちゃいけない決まりがあるんなら……きっとそういう決まりだって……あるよね?
……よし、頑張ろう。
私は夕暮れの空に向けて拳をつき出した。
……いや、別に褒めてほしい訳じゃないのよ? ただ、決まりがあるならそれには従わなくちゃいけないわけだし、それに頭を撫でられるくらいなら……その、まあ、そこまで嫌って訳でもないし……暖かいのは嫌いじゃないし……。
……いやいや、撫でられるのは恥ずかしい。恥ずかしいから嬉しくなんてないけど、でも決まりとしてあるんだったらそれはもうしょうがないことだから仕方なく受けてるってだけで───
私が何にしているかもわからない言い訳を辞めたとき、空はもう真っ暗に染まっていた。
艦娘紹介
瑞鶴
翔鶴型正規空母二番艦にして、この鎮守府一素直になれない艦娘。
慣れない環境と言うこともあるし、ドロップしたばかりでまだ子供の体格ということもあり、精神も若干退行している。その結果があの見ていて面白い無駄な弁解の嵐である。
プラズマ大好き。素直になれないため言葉には出さないし出せないが、周りから見ていれば丸わかり。そんな姿を見た加賀は壁の影から身を乗り出してぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱる…………
まだ染まっていないため装備やステータスは普通。成長に期待。