「天龍さん、ちゃんと遠征できたよ!」
「ああ、よくやったぞお前ら!」
天龍ちゃんが一緒に遠征に行った駆逐艦の子達に抱き着かれているのを見て、私はくすくすと笑ってしまう。口では『面倒だ』とか色々言っているけれど、本当は彼女たちのことを一番心配していることを私は知っている。
勢いよく後ろから飛び付かれたり、手を繋いで一緒に行動したり……天龍ちゃんはちょっと子供っぽいところがあるから子供に好かれやすいのかな? 何て考えてしまう。
……私達にも、ああやって人に甘えていた頃があった。今ではそんなことはできそうもないけれど、この鎮守府に来たばかりの小さな私達は、プラズマさんと鳳翔さんに甘えてばかりいた気がする。
確か、一番初めにこの鎮守府に来たのがプラズマさんで、そのすぐ後に鳳翔さん、それから私と天龍ちゃんが未来の第二・第三艦隊を率いるためにと先行されて建造されたのだと、提督から聞いたことがある……気がする。
……当時からもう何年経ったのか……少なくとも四十年か五十年は過ぎているはずだ。戦国時代なら五十年あれば人が産まれて死んでいくのには十分な時間だと言うけれど、艦娘にとっては五十年なんて大した時間ではないらしい。
それもしっかりと手入れをしていればの話だろうけど、この鎮守府では基本的に『誰かが中破したら帰る』という方針なので、今のところ撃沈した艦娘はいない。これからも撃沈数が増えないことを願いたい。
多分この願いは、プラズマさんが居る限りは護られていくだろう。何故かと言われてもプラズマさんだからとしか答えようがないけれど、きっと大丈夫。
昔だって、私と天龍ちゃん、鳳翔さんを率いてカレー洋に資材拾いに行った時に現れた潜水艦達をほとんど一人で海の藻屑へと変えてしまっていたし、その後に現れた戦艦や正規空母も駆逐艦とそう変わらずに沈めてしまった。
天龍ちゃんは『駆逐艦のスペックじゃない』だとか色々言っていたけれど、実際にプラズマさんは駆逐艦で実際に戦艦や正規空母を一撃で落としていたのだから、認めるべきだろうと思うんだけどね?
私はそれより、軽空母なのに正規空母から発艦された艦載機を全て撃ち落として正規空母を攻撃不能にまで追いやってしまった鳳翔さんの方に注目したのだけれど……天龍ちゃんは脳筋だから実際に戦艦や正規空母を撃沈した方が凄いと思ったんでしょうね。
けれど、その戦いでMVPを取ったのは鳳翔さんだった。多くの駆逐艦や軽巡を開幕爆撃と航空魚雷で轟沈させ、合計ダメージ量でプラズマさんを上回る戦果を上げた。
鳳翔さんは本当に頭のいいお方。自分にできる最も効率のいい攻撃を瞬時に選択して実行できるというその判断力には脱帽せざるをえない。
……天龍ちゃんって、目の前でMVPを取られるとすごーく悔しそうな顔で睨んでくるのよ? ちょっと涙目で……うふふふ♪
「うぉあっ!?」
「ど、どうしたの?」
「い、いや、なんか突然物凄い悪寒と寒気が……」
「体調でも崩してしまったのかい? 艦娘と言えど、生きていることには変わりないんだ。ちゃんと体調管理をしておかないと……」
「あーあーうるせえわかってるよんなことは。心配すんなよ」
突然身体を震わせた天龍ちゃんに黒髪の駆逐艦の子が心配そうな声をかけるけれど、天龍ちゃんは何でもないと言ってその子の頭を撫でた。
そうやって男前なことをしてるから駆逐艦の子に懐かれ過ぎて遠征に行くことを『天龍青空保育園』なんていわれるようになっちゃうんだと思うけれど……面白そうだから言わないでおこうかな? ご飯の時とかに私に嬉しそうに愚痴を言う天龍ちゃんも可愛いし……ねぇ? うふふ……♪
でも、ああやって誰かに甘えている姿を見ていると……昔の天龍ちゃんを思い出すわねぇ……。
昔は深海棲艦の前で一緒にぶるぶる震えて動けなくなったり、鎮守府に戻ってきたら戻ってきたで気が抜けて動けなくなったのをプラズマさんと鳳翔さんに入居ドックまで運んでもらったり、動かないからって身体を洗ってもらったりしたこともあったっけ……今思い出してもちょーっと恥ずかしいかなぁ?
その時の話は天龍ちゃんと私の間では絶対に出しちゃいけない話ってことになってるから、この事で天龍ちゃんをからかったりはしない。凄いブーメランが飛んでくるし、ガタガタと震えながらも私を守ろうとしてくれた天龍ちゃんはかっこよかったし……知ってるのは私だけでいいんだぁ♪
ああ、もう、涙目になってる天龍ちゃんも、ぷるぷる震えて恥ずかしがってる天龍ちゃんも、隠し事がバレて焦ってる天龍ちゃんも、調子にのって失敗しちゃった天龍ちゃんも、プラズマさんにぶつかっちゃって顔を真っ青にしてる天龍ちゃんも、駆逐艦の子達にくっつかれて慌ててる天龍ちゃんも、駆逐艦の子達に好きだってまっすぐな目で言われて恥ずかしがってる天龍ちゃんも、いつも通りに元気な天龍ちゃんも、ちょっと無理をしちゃって艤装を壊しちゃった天龍ちゃんも、鳳翔さんのご飯を食べて喜んでる天龍ちゃんも、背後からプラズマさんに耳元で囁かれてなんか変な声を出して驚いてる天龍ちゃんも、とーっても可愛いわよねぇ……♪
うふふふふ……♪
「……愛情表現が歪んでいるのです」
「えー? 歪んでないですよぉ? 元々こうですから」
「元の形から歪んでないと言っても、一般的には歪んでいると言われるに足ると思うのです」
いつの間にか隣に立っていたプラズマさんの言葉ににこにこしながら返す。プラズマさん自身もにこにこ笑っているし、私もにこにこ笑っている。
実のところ、天龍ちゃんはプラズマさんのことを苦手としているけれど……私はプラズマさんのことが嫌いではない。
だって、似た者同士だもの。
「『歪んでいる』って言いますけど……止めないんでしょう?」
「前にも言った通り、それが原因で不和が広がったり司令官に迷惑がかからない限りはノータッチなのです。龍田さんは龍田さんで、思う存分天龍さんを愛でていればいいと、プラズマは思うのです」
「ふふふ……流石はプラズマさんですね。その歪みなさは驚嘆に値します。帽子ではないですが、脱帽しましょう」
「別に構わないのですよ。天龍さんが龍田さんの生きる理由になってくれるのならば、プラズマにそれを邪魔する理由も理屈もないのです。プラズマはできるだけ多くの方を助けたいだけなのです」
プラズマさんはクスクスと笑い、どろりと濁りきった瞳で私を見つめる。私の背筋に一瞬だけ寒気が走るけれど、濁った瞳から目を離さない。
たった数秒の見つめ合いの後、プラズマさんの瞳に光が戻る。
「……どうやらまだプラズマが『助けて』あげる必要は無さそうなのです」
「ええ。天龍ちゃんが居れば、私はまだまだ大丈夫ですよ?」
「それはよかったのです」
……『深海棲艦は絶望が形を持った姿である』。一番初めの深海棲艦はそうしてできたと言われる。
絶望と言う負のエネルギーが、海の底で熟成されて海の底の船や英霊の魂を核に集結し、形を取ったもの。その存在は実態であると同時に精神生命体、つまり幽霊である。
そして、周囲を負のエネルギーで被い尽くされた魂は内側に込もって力を溜める。運が良ければ外の殻が壊された時に解放され、形を作ることができる。
それが、深海棲艦を倒すと艦娘が手に入るメカニズムの正体。一度にどれだけ倒しても一隻しか手に入らないのは、倒した深海棲艦の中の正のエネルギーが一ヶ所に全て纏まって生まれるからだと言われている。
また、海域によって出てくる艦娘に偏りがあるのも、海域ごとの環境の違いによって特殊な成長をすることがあるから。
プラズマさんは、そう言った魂などの救済を自分の仕事としている。時には絶望や悪意なども改心させることもあり、それができた時のプラズマさんは機嫌がいい。
「……それでは、プラズマはこれからちょっとでかけてくるのです。今度こそ初風ちゃんを助けてあげるのです!」
「ふふふ……行ってらっしゃい」
プラズマさんが目にも止まらぬ速度で走って行く姿に、私はなぜか胸が暖かくなる。天龍ちゃん程ではないけれど、やっぱり私はプラズマさんのことも大好きらしい。
……それじゃあ、また天龍ちゃんをからかってこようかな?
艦娘紹介
龍田改
天龍型二番艦であり、第三艦隊の旗艦を務めていることが多い。天龍のことが大好き。でも基本的にそれを素直に外に出すようなことはない。題名の『歪まない』は『歪みねえな』的な意味。
お腹の中身は白かったり黒かったりする。天龍の事をからかうのが大好きだが、とてもとても大切に想っていることは言うまでもない。
からかうのが好きだがからかわれるのは苦手。特に天龍にからかわれるとつい本気で受け取ってしまい、色々と危険なことになることも。
時折鼻から愛情が溢れ出て天龍に心配されることもある。実は結構残念な娘だったりする。
現在のLvは天龍よりも一つ高い86。実はこの鎮守府の最初期組。ちなみに最初期は駆逐艦(?)1、軽巡洋艦2、軽空母1、戦艦1、正規空母1である。