艦これ~ほんとはただ寝たいだけ~   作:真暇 日間

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長門さんは情けない

 

 

 

 

 ビッグ7等と呼ばれていても、できないことは多々ある。

 例えば魚雷を撃つことはできないし、艦載機で攻撃することもできない。開幕二連撃と言ったふざけた真似もできないし、潜水艦に対しては無力。私にできることと言えば、水上に居る敵艦を殴って殴って殴り抜いて撃沈させることくらいなものだ。

 流石に深海棲艦レ級のようになりたいとは言わないが、できることが多いと言うのは羨ましいと……そう思う。

 

「はい長門さん、シャンプーを流すのでしっかり目を閉じてほしいのです」

「……ああ」

 

 ……特に、自分のだらしなさが原因でこうして髪や肌、爪などの手入れをして貰っている時は……あれだ、死にたくなるとまでは言わないが、情けないとは思うわけだ。

 

 いつもは陸奥に洗ってもらっているんだが……今日は都合がつかなかったそうなので代わりの者を連れてきてくれたのだが……まさかそれがプラズマだとは思わないだろう?

 

「何を考えているのか知りませんが、プラズマは長門さんがものぐさでお風呂にだって一人では入りたがらない上にご飯も面倒なら抜いちゃうダメダメ戦艦だってことはよく知っているのですよ?」

「ははは……これはまた手厳しいな」

「事実なのです。何年一緒に居ると思っているですか?」

 

 ……まあ、確かに私は自分の髪を洗うときには適当に石鹸で洗ってしまうし、洗濯物も基本的に畳んでおくのが面倒だからと脱ぎ捨ててしまうし、料理も自分では作れない。ビッグ7と言ってもそれは戦闘でしか役に立つことはなく、こうした日常の事では私は他の艦娘達に比べて劣っているところが多々存在する。

 戦艦としてはともかく、女としてはかなり致命的だと陸奥にもよく言われていたのだが、どうやらこの性格は奥底にまで刻み付けられたものらしく今の今まで変わることはなかった。

 プラズマはその事をよく理解しているが、そうだとわかってからも私の欠点克服に協力してくれていた。

 

 ……ちなみに、私の本性と言うか、こういった所を知っているのはこの鎮守府内で言えば十人程度。プラズマ、鳳翔、加賀、陸奥、天龍、龍田、扶桑、金剛、そして提督くらいなものだ。

 後は青葉も知っているかもしれないが、それなりに隠しているつもりなので記事にはしないだろう。青葉は相手が本気で嫌がる内容は絶対に記事にしないし、その証拠もさっさと消してしまうだけの良心は持ち合わせているからな。

 ……勿論、それが犯罪などだったら自分が情報源だったと悟られないように上手に通報するだろうがな。

 何を隠そう、私も通報された一人だしな。やはりつまみ食いは駄目だと言うことがよくわかった。

 

 ……演習怖いプラズマ怖い提督怖い鳳翔怖い。夜戦でもないのに一対一で戦艦を真正面から打ち砕く駆逐艦は駆逐艦のカテゴリに入れておいていいのか? 軽空母とは中破したら艦載機が着艦できなくなるから飛ばせないものでは? それ以前に、開幕で重力砲のような物を撃つ人間とは人間なのか?

 

「そんなことより右腕を横に上げてください。洗えないです」

「あ、ああ、すまない」

「まったくもう……長門さんは美人さんなんですから、もう少し自分の身形を整えることを覚えた方がいいのです」

「……すまないな」

 

 プラズマが柔らかなタオルにボディソープをつけて、私の腕を優しく磨く。普段はこうして心優しく穏やかなのに、激昂したり深海棲艦との戦になると夜叉のような強さを発揮するのだから艦娘とはわからない。私も艦娘ではあるのだが、私自身も自分の事がよくわからないからな。

 わかるのは、私は戦艦であることと、普通の船であった頃の物だろう僅かな記憶が事実であること。そして私自身は戦以外では役に立たないと言うことだ。

 

「はい、右腕は洗い終わったのです。次は左腕を横に上げて欲しいのです」

「わかった」

 

 泡だらけになった右腕を下ろし、左腕を上げる。プラズマは右腕と同じように泡立ったタオルで包み込むようにして洗い始める。

 ……身体や髪が勝手に洗われてくれるのなら毎日風呂に入るのも悪くはないのだが、やはり自分の手で洗わなければならないと言うのが面倒だ。

 

「前回もその前もその前の前もそのまた前も、さらにその前もずっと陸奥さんに洗ってもらっている長門さんが言っていい台詞ではないのです」

「プラズマは本当に歯に衣着せないな……」

「長門さんを人間だとして考えれば、間違いなく『生活破綻者』にカテゴリされてしまうのですよ? 少しはちゃんとした方が良いと言うくらいの事は許容して欲しいのです」

「……すまん」

「謝らなくてもいいですよ。……腕と背中、髪は終わりましたが、身体もプラズマがやりますか?」

「頼む」

「……お願いするならするで構わないのですが、少しは躊躇って欲しいのです」

 

 そう言いながらもプラズマはタオルで私の身体を磨いていく。くすぐったくはなく、かと言って痛くもない絶妙な力加減だ。慣れているのか?

 

「確かに慣れてますよ? 小さかった子達は少なくとも一回か二回はプラズマがお風呂に入れてあげてますからね」

「……そう言えばそうだったな」

「はい。長門さんを初めてお風呂に入れた時の事も、よーく覚えてるのです」

「……頼む、忘れてくれ」

「嫌なのです。プラズマの記憶はほんの僅かな瑕疵も無く墓場の奥まで持っていくのですよ」

 

 くすくすと笑うプラズマの手が私の胸の谷間を抜けていき、腹や臍まで磨き抜いていく。プラズマは本当に世話焼きだ。陸奥といい勝負だな。

 鳳翔は……なんと言うか、母親だからな。空気と言うか、雰囲気と言うか……。

 

「雰囲気で言えば、長門さんはペットの犬なのです」

「ペット!?」

「作ってもらったご飯を食べて、時々出撃(おさんぽ)に行って、帰ってきて、作ってもらったご飯を食べて、寝る。こうしてみると間違いなくやっていることはペットと変わりないのです。身体を自分でちゃんと綺麗にできなかったりするところもよく似ていますね」

 

 否定できる場所がない。そうか、私はペットか……。

 

 ……心が折れそうだ。むしろ砕け散りそうだ。

 

「落ち込んでいてもいいですが、足を洗いますので少し上げてもらえますか?」

「……ああ」

 

 ひょい、と足を持ち上げると、私の足にプラズマの指とタオルが絡み付く。足の指の間から足の裏、足の甲、足首と来て膝まで上がり、それから反対の足も同じように。少しばかりくすぐったいが、それよりもこれは気持ちがいい。

 ……だがそうか、ペットか……。

 

「ついでに言うなら、陸奥さんと並べて見ると見た目はともかく行動から陸奥さんの方がお姉さんに見られると思うのです。まあ、長門さんは上手に隠しているのでなかなかそう言う風に見る方はいませんが」

「陸奥の方が姉に……だと……!?」

「……自覚が無かったことに驚きなのです。陸奥さんが面倒見のいい性格でよかったですね」

 

 プラズマとしては、ああいうタイプはダメな人を見付けて仲良くなると『この人は私がいないとダメなんだ』と思い始めてどんどん深みに嵌まっていくタイプだと思うので将来が不安なのです……等と言っている声は私に届かず、私自身はなんだかどんどんとダメになって行っている感覚に襲われていた。

 

「……さあ、泡を流しますよ」

「……ああ」

 

 ざぱん、と洗面器に汲まれた湯が私の肌を転げ落ち、泡を連れて流れていく。何度かそれを繰り返すと、私の身体から泡はすっかり消えていた。

 

「それではあとは湯船に浸かるだけなのです。肩まで浸かってゆっくり100数えてから出てくるのですよ」

「……プラズマは私の母親か」

「提督とプラズマの共同作業で長門さんを作ったので、間違いでは無いですね。基本的には鳳翔さんの役目なのですが……『ママ』と呼んでもいいのです」

「遠慮しておこう」

「遠慮したら『長門さんは陸奥さんみたいな胸の大きい方が好みらしい』と言う噂を流すのです」

「やめてくれ!」

「冗談なのです」

 

 プラズマは悪戯っぽく笑うが、その軽い冗談でこちらはかなり疲れた。風呂に入って疲れると言うのも珍しいな。

 

「上がって身体を拭いて服を着るくらいはできますね? プラズマはこれで失礼するのです」

「……ああ、そうか。……ありがとう」

 

 プラズマはそう言ってさっさと風呂場を後にした。さて、100まで数えて……………………

 

 ……Zzz……。

 

「こんなことになる気はしてたのです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 艦娘紹介

 

 長門改

 

 ご存知長門型一番艦、ビッグ7の長門さん。しかしこの作品では戦闘以外はからっきし、自活能力皆無の生活破綻者である。陸奥が偶然ドロップしていなければ、もしかしたら艦娘で初めての餓死者が出ていたかもしれないと言う、ある意味伝説を持っている。

 そのため長門の面倒を見ている陸奥の家事スキルは非常に高く、その料理スキルは恋姫で言えば第一回三国料理大会の優勝者を凌ぎ(普通)、その片付けスキルはゼロ魔で言えばモンモランシーを凌ぎ(そこそこ)、その掃除スキルはFateで言えばクーフーリンを凌ぎ(実は結構上手い)、その洗濯スキルはリリカルなのはで言えばシャマルに匹敵する(かなり上手い)と言う。微妙と言うなかれ、結構上手です。

 なお、本人はその事を隠しているため本性を知っているのは本人含めて10人程度。もしかしたら増える可能性もある。

 現在のLvは99。そう言う点では最初の第一艦隊では天龍と並んで最も常識的な艦と言える。プラズマ的な意味で『情け』が『無い』わけではない。

 

 

 

 

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