GOD VEIN-ゴッドヴェインー   作:かり~む

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2:Good luck. I’ll see you later.

 かつては人の繁栄と営みの中心であり、今はその面影を微かに残すヴェインの『崩壊都市・市街地』。それに酷似した街並みをナナシとイオは歩いていく。

 

 乾いた大地、朽ちたビルを貫く審判の棘。それらを横目に見ながら、ナナシ達は足を止めた。

 

 ひび割れたアスファルトの上に捨て置かれた自動車、ナナシとイオと陰になる位置から獣にも似た唸り声が微かに聞こえる。

 

 

墜鬼(ロスト)がいますね」

 

 イオが囁くように言う。

 

 墜鬼(ロスト)――吸血鬼のなれの果て。人の血と血涙を長期間接種できなかった、或いは墜鬼(ロスト)の発する瘴気に飲まれた吸血鬼はその体を変異させ、理性なき墜鬼(ロスト)へと墜ちる。

 

 墜鬼(ロスト)は本当の意味で不死の怪物だ。吸血鬼と言えど心臓を潰されれば、灰となり死を迎える。しかし、奴らは違う。例え心臓を潰され灰となろうとも、長い時をかけながら、再びその体を再結合させ蘇る。

 

「ああ、迎え撃つぞ」

 

 ナナシは右手の『女王討伐の片手剣』の柄を強く握りしめた。1体だけではないだろう、恐らく6体か7体は近くに潜んでいる。自分たちは彼らの縄張りに入り込んでしまったようだ。

 

 ナナシはアスファルトの上を駆けだした。

 

 車の影に潜んでいた墜鬼(ロスト)を視界に収める。片手剣をもった墜鬼(ロスト)だった。肌はタールのように真っ黒だが、フォルム自体は比較的吸血鬼であった頃の原型を留めている。

 

 墜鬼(ロスト)がナナシに気づいて剣を振りかぶるが、既にナナシの剣は敵の胸元に叩き込まれていた。肩口から入りこみ身体を斜めに横断する、人であれば確実に絶命する一撃。いや、吸血鬼であっても致命傷となるだろう。

 

 しかし、墜鬼(ロスト)はまだ生きていた。

 

「グガァ!!」

 

 と吠えながらナナシに向かって剣を力任せに振り下ろす。ナナシは地面を転がり、剣をすり抜けるように回避する。ガァン!!と墜鬼(ロスト)の剣がナナシを空振り、アスファルトを砕く。

 

 ロストの再生力は吸血鬼を遥かに凌ぐ。

 

 生半可な攻撃は致命傷にはならない。

 例えダメージを与えたとしても、すぐさま傷を塞いでしまう。とはいえ、無限に再生する訳ではない。先ほどナナシが与えた一撃も見た目は綺麗に完治しているが、確かに再生力の残量を削り取っている。

 

 ―――如何に自分の心臓を守りながら敵の再生力を削り取るか。

 墜鬼(ロスト)との戦いとはそれに終始する。

 

 

 地面を転がり、墜鬼(ロスト)の攻撃を回避したナナシは、その背後に回り込む。

 

 墜鬼(ロスト)が振り向くよりも先に、その背中、正確には心臓がある位置に向かってナナシは手をかざす。

 

 バチイイ!!!と墜鬼(ロスト)の身体に赤い電流が奔り、その全身を痙攣させる。無防備な心臓に直接錬血を流し込み、その動きを止めたのだ。謂わば、電気ショックのようなものである。

 

 大きな隙を晒す墜鬼(ロスト)を前に、ナナシは自身の右腕の『吸血牙装:オウガ』を展開させる。

 右腕が数舜の内に黒い帯で覆われていき、敵を穿つ巨大な爪を形成される。勢いよく腕を振りかぶり、光を飲み込むような漆黒の爪をナナシは叩き込んだ。墜鬼(ロスト)の強靭な外皮を穿ち、その肉体の内側の心臓を握りこむ。

 

 バキメキゴシャァ!!

 骨の折れる音と血液の粘着質な音を響かせながら、ナナシは容赦なく心臓を握り潰した。

 

 ……当たり前だが、手足の十回二十回切り刻むよりも心臓に一撃大きなダメージを与えた方が、墜鬼(ロスト)の再生力を削ることができる。

 

 もっとも、墜鬼(ロスト)の固い外皮を貫くためには吸血牙装を直接心臓のある胸元に叩き込む必要があるし、その為にはこちらも大きな隙を晒す必要がある。事前に外皮の薄い背後から心臓に錬血を流し込み、その動きを止めなければ確実に回避されるだろう。俗に言う、バックスタブを行う必要があるが、どんな状況でも確実に成功できるわけではない。

 

「ガ、ガァァ!??」

 心臓を潰され、再生力をすべて削られた墜鬼(ロスト)は呻きながら燐光を放つ灰と消えていく。

 

 そんなナナシの背後に向かって、別の墜鬼(ロスト)が突進する。

 

 ナナシは振り向きもしなかった。

 イオが錬血ライトニングソーンを放つのが分かっていたからだ。大気を焦がしながら飛来する紫電の塊は墜鬼(ロスト)を飲み込み、一撃で灰と変えた。

 

 相変わらず凄まじい威力だ、とナナシは苦笑した。

 

「ありがとう」

「いえ。……増えてきましたね」

 

 ぞろぞろ、と街の影から数体の墜鬼(ロスト)が現れる。

 ナナシは眉すら動かなさなかった。ただ、作業のように墜鬼(ロスト)を処理していく。

 

 ナナシは歴戦の吸血鬼(レヴナント)だ。クイーン討伐戦の功労者でもあり、かつては血骸の継承者だった。その身から神骸は既にないが(・・・・・)、並みの吸血鬼や墜鬼(ロスト)とは一線を画す戦闘能力を持つ。

 

 イオもまたその出自故に、吸血鬼(レヴナント)としては最上位の力を持っている。『神骸の継承者』に寄り添う為、クイーンであったクルスの血英から産まれた彼女は『神骸の伴侶』であり、吸血鬼と言うよりはむしろ『干上がった海溝』の継承者が生み出した『守護者(ガーディアン)』に近い。

 

 そんな二人にとっては、この程度の墜鬼(ロスト)はものの数ではなかった。

 

(……待て、俺はもう血骸の継承者ではない、だと?)

 

 ナナシは自身の思考に違和感を覚える。

 

(………自分の身体から血骸が失われたという情報(・・)は覚えてる。だけど、その経緯が思い出せない。そうだ、俺は暴走したシルヴァを止めるために臨時総督府に向かって、それで?―――)

 

 イオと共に廃墟を探索するナナシの脳裏には別の光景が浮かんでいた。

 

 古城の如く変貌した臨時総督府。そこで出会った神骸の伴侶たち。その最深部、歪んだ血の牢獄。邂逅した変わり果てたシルヴァ、いや『髄骸の王』。その肉体を母体として、過剰な数の神骸が暴走して産まれた『再誕せしモノ』。それを鎮めるために、ナナシは自身の身体を人柱として捧げる筈だった。

 

 そして。

 

 

 そして。

 

 

 

 ――――『大丈夫』。

 

 そう囁いたのは、一体誰だったか。

 

「あのビルに入ります。屋上が貴方の目的地です」

「あ、ああ……」

 

 イオに促されるがまま、朽ちたビルの内部に入る。ビル内の墜鬼(ロスト)を処理しながら、屋上を目指す。階段を上り切り、鉄製の扉を蹴破って屋上に到着する。

 

 

「………は?」

 

 

 ――――世界が夜に変わっていた。ビル内にいたのは精々10分程度だ。明らかに時間の流れがおかしい。

 

「っなッ!?」

 

 

 間髪入れず、ビル群が砕けた。アスファルトが砂へと変わり、審判の棘がバラバラになりながら地の底に落ちていく。

 

 

 世界が崩壊していく。

 大崩壊さえ超える、世界の終わり。

 

 気づけばヤドリギに酷似した純白の樹の根で編まれた一本の道が、ナナシの目の前にあった。それは螺旋を描きながら天へと続いていく。

 

「どう、なっている? いくらヴェインと言っても、こんな…」

「……今は先に進みましょう」

 

 崩壊していく世界から逃げるように、イオと共に空へ空へと階段を駆け上がる。

 

 下を見ると、廃墟の街並みは殆ど塵へと変わっていた。螺旋階段の下方部分も、分解され始めている。

 

 そして辿り着いたのは、巨大な円形の空間。床にはやはり、ヤドリギに似た純白の材質だ。その円形の空間、ナナシ達の対角線上に一本の道が続いていた。その道の先に光が見える。

 

「アレが出口です」イオが言う。

 

「イオ……ここは……俺は、いやお前は……」

 

 ナナシはイオに視線を向ける。

 記憶は未だ、欠落している。だが、こうしている間にもナナシの脳内には多くの光景がフラッシュバックし続ける。

 

 ―――仲間たちと共に深層に封印されたバケモノに挑んだ光景。

 

 ―――カレンやアウロラの血涙増産計画に被検体として協力した光景。

 

 そこに、イオはいない。

 ある記憶―――臨時総督府で『再誕せしモノ』に挑んで以降、イオはそこにいない。

 

 いつだって、ナナシの傍らにはイオがいた筈なのに。彼女はナナシの『伴侶』だった筈なのに。

 

 イオは微かにほほ笑んだ。哀しい笑みだった。

 

「GUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 獣の咆哮が響いた。

 地の底から翼を持った巨大な四足の獣が飛行し、ナナシ達の前に着陸する。

 

 獅子にも似た漆黒の身体。しかしその顔面は壮年の人間の男性のものだ。

 

「大崩壊のバケモノ……!」

 

 かつてミドウが棺の塔で見せたあのバケモノだった。

 姿形はかつてジャックらと共に対峙した封印されしバケモノ、雷帝に似ている。しかし、そのプレッシャーは雷帝の比ではない。

 

 何故ならば、

 

(これがヴェインの外で吸血鬼を超える進化を遂げた全てを喰らう本物のバケモノ、か!!)

 

 

 漆黒のバケモノが動いた。

 その爪をナナシは正面から受け止める。悪手だったことにすぐに気づく。バケモノの怪力により、バキバキイ!!と足場が凹む。バケモノと力比べをするべきではなかった。

 

 イオがライトニングソーンを放ち、注意を逸らす。バケモノの頬に紫電の塊が激突し、力が緩んだ瞬間、ナナシは脱出する。バケモノの股下をすり抜けるように地面を転がりながら、すれ違いざまにバケモンの後足を剣で切り払うが、ダメージは薄いようだった。

 

 バケモノはその巨体に見合わぬ運動性で方向転換し、背後のナナシをその黒爪で叩き潰そうとする。咄嗟にそれを回避するが、爪の切っ先が肩の肉を抉り、思わず舌打した。

 

「ちぃッ!!

 

「時間がありません……!」

 

 イオが焦ったように言う。もとよりナナシも時間をかけるつもりはない。

 

(そうだ。前回(・・)はこのバケモノ相手に様子見を選択したせいで敗北した。血を失い、ジリ貧となって、最期は心臓を貫かれ(・・・・・・)谷底に落とされた)

 

 同じ轍を踏むつもりは、ない。

 

 しかし、

(反撃のタイミングが無い! この巨体で何て速さ!)

 

 バケモノは鋭利な翼をまるで刀剣のように振るう。空間自体を断裂するかの如く、広く鋭い斬撃。それを態勢を低くして避けながら、ナナシはバケモノから距離をとった。

「イオ!」

 

 ナナシの意をくみ取った間髪入れず、イオが前に出てバケモノの相手を担当する。お互いの位置を入れ替える。これで僅かに時間が確保できた。

 

 

 ナナシは自身の胸に手を当てた。

 

 

「――――ラスト、ジャーニー」

 

 ドクン!!!!!!と、ナナシの内側で何かが跳ねる。自身の中心…BOR寄生体とそこから流れ出る血流、細胞の一片一辺が悲鳴を上げながら限界を超えて駆動し始める。

 

 

 ナナシは地面を蹴った。

 先ほどとは比べ物にならない、まるで地面を滑べるかのような疾走。

 

 一瞬でバケモノの眼前に躍り出ると、顔面に強烈な一閃を放つ。バケモノは呻きながら、ナナシを攻撃するが、そこには既にナナシはいない。逆に攻撃後の隙を晒したバケモノの肩口を切り刻む。

 

 バケモノは堪らず空中へと逃げ出した。紫電の雨を大地に振らせるがナナシはそれら全てをステップで避けながら距離を詰める。着地したバケモノにステップの勢いを利用した更なる追撃を加える。片手剣の切先がバケモノの喉へと深々と突き刺さった。

 

 先ほどまでとは、比べ物にならない速度と膂力。

 これこそがナナシの錬血:ラストジャーニーの力だ。

 

 心臓のBOR寄生体を限界を超えて駆動させ、自身の能力を飛躍的に高める。濁流の如き勢いで流れる血液は通常時とは比べ物にならない速度を実現し、無意識化のリミッターを外した筋肉は吸血鬼の枠を超えた膂力を成立させる。

 

 勿論そんな無茶をすれば血管は裂けるし、筋肉は断裂する。数秒動いただけで戦闘は続行不可能となるだろう。ならば、異常駆動したBOR寄生体により傷ができる前から治癒すればいい。

 

 当然リミットはある。

 

 一分。

 それがラストジャーニーの限界。

 

 一分を超えると、BOR寄生体は自己保存機能によりナナシの身体を霧散させ、その生存を図る。

 

 

「お、おおおおおおおおお!!!」

 

 

 ここが攻勢と見たイオも距離を詰め、斧槍を振るう。

 

 

 切り刻む。

 

 

 

 切り刻む。

 

 

 

 切り刻む。

 

 

 その度にナナシの脳内には様々な光景がフラッシュバックする。

 

 

 ―――『大丈夫』

 ―――『私は貴方の傍にいます』

 ――ー『私の心の中に貴方がいるように』

 

 

「GUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!」

 

 

 ――『だから』『さようなら』

 

 

 最後の足搔きとしてバケモノは、巨大な黒爪をナナシに振り下ろす。

 

 

 それを展開したオウガで受け止め、バケモノの体勢を崩す。パリィの成功だ。ラストジャーニー中ならば、ナナシの膂力はバケモノに引けをとらない。

 

「これで、終わりだ……!!」

 

 大きな隙を晒したバケモノの醜悪な顔面に向かって、ナナシはオウガを叩き込む。固い外皮を穿ち、貫き、握りつぶす。

 

 そしてバケモノは沈黙した。その体躯は霧散し、崩壊する世界に溶けていく。

 

 

「………」

 

 ナナシは全てを思い出した。

 

 なぜある記憶を境にイオは傍にいないのか。自分は『誰』の意志を継いで、外の世界を救おうとしたのか。

 

 答えは決まっている。

 

 ―――イオは、もう、いない。

 

 だからこそ、自分が彼女の意志を継ごうとした。ヴェインの外の世界に足を踏み出した。そして、漆黒のバケモノに敗北し、心臓を貫かれ谷底に落とされ死亡した。

 

 ならば、今ここにいるナナシは何だ? この世界は?

 

 全てはナナシが死の淵で見ている走馬灯のようなものなのか。それもある意味答えに近いだろう。

 

 だが、正解ではない。

 

 ここは、きっと

(俺の血の中、記憶の世界だ)

 

 本来ならば、ナナシは死んでいた。血骸を失った自分に、かつての再生能力はない。

 

 だが、ナナシにはイオから受け取った琥珀色の血涙がある。あれは神骸に極めて似た素材と力を有しているとアウロラたちが言っていた。だからこそ、こんな現象が起こったのか。

 

「間に合いましたね。流石です」

「……ああ。お前のお陰だ。イオ」

「ありがとうございます」

 

 イオは視線で出口を指示した。きっとあそこは外の世界に繋がっている。イオのいない外の世界に。

 

「行こう」

 ナナシはイオの手を握って、歩き出した。

 

「あっ……」

 しかし、イオの手は道の道中ですり抜ける。

 

「花、いつか見たかったです」

「イ、オ…」

 

 ナナシはイオが自分で手を放しのだと思った。だが、違った。ナナシとイオの間には見えない透明な壁があった。ナナシはその壁を通り抜け、イオは壁を弾かれた。

 

「なんだ、これは…! クソっ!?」

 

 ナナシは拳を叩きつけるが、壁はびくともしない。

 

 生者と死者を分かつ彼岸の如く。決して覆せない摂理がそこに横たわっていた。

 

 イオは微笑んでいた。

 

「……わたしは覚えています」

 

 哀しそうに、だけど、微笑んでいた。

 

「貴方と一緒に初めて外に出た時に感じた、胸のざわめきを。眠っている貴方を一目見た瞬間、胸が暖かくなったことを。貴方と共に過ごした時間は決して永くはありませんでしたが、私にとっては忘れることのできない…大切な思い出でした」

 

「……俺も覚えている。俺にとってもそうだった…!」

 

「良かった。本当に良かったです。良い、答え合わせですね」

 

 ナナシの頬に触れるようにイオは手を伸ばす。しかし、それは叶わない。2人の間には決して超えることのできない壁がある。

 

「そして、また貴方と会えた。ほんの短い間でしたが、また言葉を交わし共に戦うことができた。私にはそれで充分です」

 

「……本当にもう無理なのか。ここから2人で出る方法はないのか…っ!」

 

「ごめんなさい」

 

「やっと、また、お前と会えたのに……」

 

「大丈夫。私はいつでもそばにいます。どうか忘れないで」

 

 イオのすぐ背後の足場も崩れ去ってきていた。時間はもう残されていない。この崩壊に飲まれると、自分は本当に死ぬのだろう。

 

 

 己の為すべきことは分かっている。その意思もある。

 

 でも、だけど。

 

 少しだけ、歩き出すまでの時間が欲しかった。

 

 ナナシは目を細めた。

 

 目の前の少女の姿を決して忘れぬように。何度死しても記憶から取りこぼさないように。イオの微笑みを脳裏に刻み付ける。

 

「ああ、行ってくる」

 

 ナナシは踵を返した。光に向かって歩いていく。光が自分を飲み込んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――その吸血鬼(レヴナント)は心臓を穿たれていた。

 

 

 死の一歩手前。身体が灰となる数秒前。

 

 

 突然、胸元が輝いた。

 

 その吸血鬼(レヴナント)がある意味己の命以上に大切にしていた琥珀色の血涙だった。それは砕け、粒子となり、心臓に入り込み、破損したBOR寄生体を埋め合わせる。バケモノの翼を介して毒のように体を侵していたオラクル細胞すらも駆逐する。

 

 

 

 ドクン……ドクン、ドクン、と心臓が再び鼓動を刻む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゆっくりと、ナナシは瞼を開けた。

 

 白い少女はいなかった。ただ、荒廃した世界があるだけだった。

 

 

 それでも、ナナシは聞こえた気がした。幻聴かもしれない。気のせいかもしれない。

 

 

 

 

 

『―――ええ、いってらっしゃい。ナナシ』

 

 

 ナナシ。

 

 イオは自分をそう呼んだ。だからこそ、彼は己の名をそう定めた。

 

 

 

 刃毀れした『女王討伐の片手剣』を地面に突き刺す。

 それを支えとしてナナシは立ち上がる。

 

 軋み、震え、悲鳴を上げる身体に鞭打って。血反吐を吐きながら、立ち上がる。

 

 

 

 生きろ、死して尚。

 

 いつか世界(みんな)を救うために。いつかすべてを覆すために。

 

 

 

 そして―――闇の住人は蘇る。

 

 

 




これでプロローグは終わりです。
次回からGEの物語に合流します。

次回「3:蒼穹の月」。


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