GOD VEIN-ゴッドヴェインー   作:かり~む

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3:蒼穹の月

 ―――神薙ユウはよく空を見る子供だった。

 

 

 空が好きな訳ではない。

 ただ、世界を見たくないだけだった。

 

 だって、目線を下ろして世界を見渡すと、そこは『食い残し』だらけだから。アラガミによって世界は食われたが、彼らは決してお行儀よく食事をした訳ではない。

 

 この『贖罪の街』のビル群を見れば一目瞭然だろう。虫食いのように、ビルには丸い穴がいくつも空いている。

 

(いっそ、全部食べてくれたら良かったのに)

 

 中途半端に残っているからこそ、どうしようもなくかつての繁栄を思い起こさせる。もっとも、神薙ユウはアラガミ出現以降に産まれた子供であるため、『食い残し』のない完全なアーカイブでしか世界を知らないが。

 

 そんな子供たちの大多数は、アラガミに食い残された世界を見てもなんとも思わない。彼らはそんな世界で産まれ、そんな世界で育った。虫食い状態の世界こそが子供たちにとっては、当たり前の日常だった。

 

 ただ、神薙ユウは少し違った。

 

 ―――このビルにはどんな店が入っていたんだろう。

 ―――店にはどんな人が働いていたんだろう。

 ―――彼らの性別は? 人生は? どんな最期を迎えた?

 

 そんなとりとめのないことを考えて、少しだけ、悲しくなる。

 

 とどのつまり。

 神薙ユウは他より少しだけ『感じやすい』子供だった。

 

 そして、それを自分でも分かっているから、神薙ユウは空を見る。

 

 青い空。

 白い雲。

 

 『食い残し』なんて何処にもない、何万年も変わらない空。それを見てると、頭が空っぽになって落ち着く。

 

「新入り、リラックスしてるみたいだな」

 

 声の方向を見る。

 

 二十代半ばの黒髪の青年、雨宮リンドウが神機を携えてこちらに歩いてきていた。リンドウは神薙ユウが配属されたフェンリル極東支部第一部隊隊長、つまりユウの直属の上司にあたる。

 

「うん、よろしく」

 

 言った傍から、ああ失敗したなぁ、とユウは思った。

 

 ユウの口は性能が余り良くない。

 

 凡その場合、自分が言おうとした言葉よりもぶっきら棒で短い言葉が発せられる。今だって、本当ならもっと丁寧な言葉遣いをするつもりだった。

 

 まあ、表情筋はちゃんと仕事してくれたので良しとしよう。

 

「お、若者らしい良い笑顔だな新入り! さーて、今日は新型2人とお仕事だな。足を引っ張らないように気を付けるんで、よろしく頼むわ」

 

 ユウの傍らの少女が口を開く。

 

「……旧型は旧型なりの仕事をして頂ければいいと思います」

 

 ユウと同じフェンリル極東支部に配属された新型新規使いのアリサだ。アリサの新人にしては不遜な物言いにリンドウは快活に笑って返した。

 

「はっは! ま、精々期待に応えられるように頑張るさ」

 

 ポン、とリンドウはアリサの肩を叩く。

 

「きゃあ!?」

 

 と、アリサは大きく飛びのいた。

 

「おうおう、随分と嫌われたもんだなぁ」

「す、すいません…」

「ふ…冗談だ。んー、そうだなぁ。…よし、アリサ」

 

 と、リンドウは頭を掻きながら言う。

 

「混乱しちまった時は空を見上げるんだ。そんで動物に似た雲を見つけてみろ。落ち着くぞ。それまで、此処を動くな。これは命令だ」

「な、なんで私がそんなこと…」

「いいから探せ、な? なにせ、新入りもやってる。効果はお墨付きだ。お陰でこいつの成績は新入りの神機使いとは思えないほど高い」

 

 な?、とリンドウはユウに目配せしてくる。

 

 ユウは頷いた。

 別にユウは動物に似た雲を探している訳じゃないが、よく空を見上げて気分を落ち着けているのは事実だ。

 

 空を見上げて雲を探すアリサを置いてユウとリンドウは先に任務に向かう。『贖罪の街』を歩きながらリンドウが話しかけてきた。

 

「……アイツのことなんだが、どうも色々訳アリらしい。まあ、こんなご時世、皆いろんな悲劇を背負ってるちゃあ、背負ってるんだが…」

 

 極論、この世界で何も失っていない人間なんていないだろう。誰だって、何かしらの不幸を背負って今を生きている。そして、それを比べ合うことに意味はない。

 

 心に余裕がある者が、ない者のフォローをしてやればいい。恐らく、ユウはアリサに比べればある方だ。

 

「同じ新型のよしみだ。あの子の力になってやれ。いいな?」

「うん、任せてよ。ボクにできることはやってみる」

 

 正直、アリサと仲が良いとは言えない。向こうの態度も頑なだし、ユウにも責任がある。ユウも決して弁が立つ方ではないのだ。対人関係においては聞き役に回る方が多い。

 

 それでも、自分にできることはやっていこう。

 

「そうか、ありがとうな。俺もまー、アイツがアナグラに馴染めるようにできることはやっていくが、歳の近いお前のほうが色々できることも多いと思ってな」

 

 立派な人だな、とユウは思う。

 雨宮リンドウは強い、だけではない。大人なのだ。

 

 自分は今16歳だが、10年後今のリンドウを同じ年齢になって、彼のような人間になれるとはとても思えない。

 

 

 数日後、ユウはソーマ、コウタ、サクヤと共に『贖罪の街』にミッションに出ていた。

 

 

「なに?」

 ソーマが、彼には珍しい困惑の声を上げる。

 

 ユウたちの前方からリンドウとアリサが歩いてきていた。

 

「同一区画に2つのチームが……どういうこと?」

「考えるのは、後にしよう。さっさと仕事を終わらせて帰るぞ。俺たちは中を確認。お前たちは外を警戒。いいな?」

 

 ユウは恐らくかつては教会として使われていただろう建物には入っていくリンドウ達を見送る。

 

(……なんとなく、嫌な予感がする)

 

 

 

 

 そして。

 

 

「パパ!? ママ!? やめて、食べないでぇッ!!??」

 

 

「アジン、ドゥワ、トゥリー……」

 

 

 

「そ、空を…見る?」

 

 

 アリサは天井に神機を向けた。

 何が正しいのかも分からない。頭の中はぐちゃぐちゃだった。ただ、仲間に銃を向ける行為は、間違っていることだけは分かった。

 

 

 銃型に可変させた神機から弾丸が発射される。

 

 その直前、轟音と振動が響いた。

 

 それによりアリサは体制を崩す。結果としてオラクル弾は天井ではなく、教会の壁に当たった。

 

 

 

 二度(・・)の轟音により異変を察知したユウたちは教会の中に飛び込む。

 途中、アリサが倒れていた。意識はあるようだが目が虚ろだ。神機を誤射したのか、教会の石壁が抉れていた。

 

「アリサ!」

 

 衛生兵であるサクヤがアリサに駆け寄る。

 

「皆は先にリンドウの所に行って!」

 

 サクヤの声に従って、更に教会の内部に向かう。

 

 ステンドクラスにより太陽光が虹色に輝く長方形の空間。

 かつてはここで人々は神に向かって祈りを捧げていたのだろう

 

 現在そこには世界を喰らう神が横たわっていた。人間の女性の顔をもったヴァジュラ神族、プリティビ・マータだ。

 

(死ん、でる? 流石、リンドウさんだ。この短時間でマータを倒すなんて)

 

 と思考した次の瞬間、ユウは気づく。マータの腹にはブラスト型神機の一撃を受けたかのような大穴が空いていた。この傷によってプリティヴィ・マータは息絶えたのだろう。

 

 

(この傷は明らかにリンドウのブレード型神機による傷じゃない。誰、が―――)

 

 

 ザリ、と誰かが身じろぎした音がした。

 

 

 

 ユウは眼球を右に動かす。

 

 

 アラガミたちが獣道として使う教会の上方部分、割れたステンドグラスを背にしながら。

 

 

 ――――男が立っていた。

 

 

 

 男は満身創痍だった。

 

 黒を基調とし赤色のアクセントが加わった燕尾服にも似た衣服は、各所が擦り切れている。背骨を模したかのような片手剣は血で汚れ、刃毀れしている。栗色の髪は乱れ、泥に塗れている。

 

 それでも男には貴族の気品とでも言うべき不思議な雰囲気があった。

 

 口元を覆い隠すマスクで、その容貌の全ては伺えない。

 しかし、その冷ややかな目元から相当な美男子であることは予想しえた。

 

 

(目が、赤い)

 

 

 飲み込まれるような深紅の瞳とユウの視線が交錯する。

 

 

 ―――神機使いと吸血鬼は、そして出会った。

 




ナナシの容姿と装備は公式PVの主人公と全く同じです。

3話はもしかしたら加筆するかもしれません。

ゲーム本編と被っているところは今回のように割とダイジェスト風味にしていこうと思うのですが、飛ばしすぎたか?と思わないでもないのです。

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