ワンドのA   作:夏野 雪

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◎ワンドのA (ACE of WANDS)
【正位置】
物事をスタートさせよう。スタートさせるための熱意と力はそなわっている。
と背中を押してくれています。
新しく始めたいことがあなたの中にあれば、勇気を持って最初の一歩を
踏み出してみましょう。複雑に考えすぎず、まっすぐにぶつかっていく姿勢が
成功へとつながるかもしれません。

【逆位置】
熱意や気力が冷めてしまい不十分な状態や、やる気がなくなってしまっている
状態だと解釈できます。また、何かを始める際に、今のあなたでは上手く力を
発揮できない。もう少し準備をしたほうがいい。と教えてくれている可能性も。
ゴールや目標が高すぎないかチェックして、方向性を見直してみましょう。


Ⅰ

 人の騒めきと駅員の必死のアナウンスが混ざり合い、駅前は大混乱となっていた。

大都会のど真ん中という訳ではなかったのだが、地方にしては人通りの多い方の駅だった。

そんな駅の改札前には黒山の人だかりができていた。

多い方と言っても、目の前に集まっている人数は明らかに異常であった。

それには二つの原因があった。

一つは平日の帰宅ラッシュの時間帯であったこと。もう一つは駅近くの沿線に建っていた

仮設足場の倒壊であった。強風にあおられ倒れた足場が架線を切断してしまったのだ。

喧騒の中から聞こえてくるアナウンスから察するに本日中の復旧は不可能だということであった。

その人混みから少し離れた所に静凛(しずかりん)と勇気ちひろ(ゆうきちひろ)は呆然と立ち尽くしていた。

「どうする? ちーちゃん。」

「これは...。」

ちひろは少し考え、辺りを見渡していた。

駅前のバスターミナル、タクシー乗り場には既に長蛇の列が出来ていた。どちらの列も最後尾が

どこにあるのか、どこまで続いているのかわからないほどであった。

それを見て、早くも諦めて駅前の繁華街の方へ逆行する人々もちらほらと確認できた。

「凛お姉ちゃん! こっち! 」

「ええ!? 」

ちひろは静の手を握り、急いで繁華街の方へ向かい走り始めていた。

 

 

 その駅の別の場所。人混みの中から社築(やしろきずく)はようやく抜け出すことが出来たようだ。

「どうじゃった? 」

社の前に立っていたのはドーラだった。社とドーラも先ほどの二人とは別の用事で

この災難に巻き込まれていた。

「駄目だな。今日中の復旧は難しいみたいだな。しかも、バスもタクシーも

凄いことになってるよ。こりゃ近くのホテルを早々に探しに行った方が賢明だろう。」

「うむ。それもそうじゃな。では急ぐとしよう。社とラブホテルなんて御免だからな。」

「はぁ? そりゃこっちの台詞だ! 」

すたすたと先に繁華街へと向かっていくドーラの背中を社が追いかけていった。

 

 

 社とドーラは既に三軒目のビジネスホテルに振られていた。

「おいおい...ネカフェかカラオケかー。」

社が短くため息をつきながらスマホを操作しながら次の宿候補を探していた。

「わしはカラオケオールでも構わんぞ。」

ドーラは横から社のスマホを覗き込んでいた。

「やだよー。歩き疲れたしベッドで寝かせてくれよ...。」

そう言うもののスマホから得られる情報では、もはやラブホテルやカラオケボックスしか

見つけることができなかった。

「おい。あれはどうだ? 」

ドーラが何かに気が付き、前方のある場所を指さしていた。

「あ? 」

社がスマホから顔を上げると、ドーラの指す先にあったのはお洒落なカフェにあるような

小さなブラックボードだった。

『←300m ホテル アレキサンダー 素泊まり 2434円』

ブラックボードには白いチョークで綺麗に書かれていた。

「やっす。マジで? 」

先程まで調べていたビジネスホテルは一泊六千円前後がほとんどであった。

素泊まりと言っても半額の値段だ。しかし、スマホの情報では見かけなかったホテル名だ。

言葉の響きではラブホテルの類ではと言うのが社の第一印象だった。

「ダメ元で行ってみようぜー。」

社が何かを言おうとする前にドーラは既に歩きだしていた。

「まぁ。行くだけ行ってみっか...。」

半ば諦め気分で社もブラックボードに書かれていた矢印の方へと歩き出した。

矢印の伸びる先には薄暗く細い路地が伸びていた。

繁華街から外れた方向に伸びる寂しい路地を歩いて行くと、

そこに現れたのは小さな木造の建物だった。

その二階建ての建物の正面には両開きの扉があり、その入口であろう扉の上には

『ホテル アレキサンダー』と書かれた看板のようなものが掲げられていた。

「おいおい。営業してんのか? ここ。」

「電気がついてるし...やってるっしょ。」

ドーラの言う通り両開きの扉からは明かりが漏れ出していた。

二階部分には窓が三か所あるのが見えていたのだが、

そこからは漏れる光も人の気配も感じられなかった。

「えっ? もしかして...泊まる気?」

「ベッドがあるかもしれんだろ? 何よりラブホテルよりましだ。」

ドーラが入り口に向かい歩き始めた時だった。

「ああ。ドラちゃん! 」

後ろから聞き慣れた幼い少女のような声が聞こえ来た。

二人が振り向くと、そこに立っていたのは静とちひろの二人だった。

 

 

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