何時ものベッドの上で何時ものように目を覚ました。
ベッドの傍らに置いてあったスマホで時間を確認するために手を伸ばした。
『4/1 9:05』
やってしまった。今日は仕事も休みだっていうのに、こんなに早い時間に目が覚めてしまった。
それもこれも、最近よく見るようになった変な夢のせいだろうか。
いくら自分がデビュー出来ていないからといって、あんな夢を見るほど自分は
病んでしまっているのだろうか...。
爽やかな春の朝から陰鬱になってしまっては良くないと思いつつも、
視線を暗い部分探すようにを自分勝手に探し始めていた。
不安定に彷徨う視線がベッドの近くにある木製のローテーブルで立ち止まった。
テーブルの上には白い陶器のマグカップとタロットカードが散らばっていた。
吊るされた男や隠者や今の空模様のようにブルー一色の裏側を見せているカード。
毎日のように一回は占ってみてはいるものの、パッとした結果は出ないままだった。
重い腰を上げて、日課であるパソコンの前に向かった。
パソコンモニターの前には昨日の夜まで勉強していた厚手の本が山積みになっていた。
本の山をモニター前から動かすと、お気に入りのゲーミングチェアに腰を下ろした。
自分のイメージカラーである青を基調とした快適な椅子だ、
早速パソコンを起動させ、某動画投稿サイトに繋いだ。
せっかく早く目が覚めたことだし、普段よりも色々な登録チャンネルのアーカイブを
漁ってみようかと考えていたのだが、そこである異変が起こっていることに気がついた。
「あれ? 消えてる? 」
登録していたはずの勇気ちひろのチャンネルが見当たらなかった。
間違って解除してしまったのかと思いチャンネル名を検索してみるが見つからない。
見つからない。というよりは存在していなかった。
おかしい。昨日の夜にFPSゲームの放送を途中まで見ていたはずだ。
まだ寝ぼけているのだろうか? 検索名を間違ってしまったのか?
まだ眠っているかもしれない頭を起こそうと、一度背筋を伸ばし頬も軽く叩いてみた。
よし。再び丁寧にチャンネル名を入力して検索してみるものの、やはり結果は同じだった。
登録チャンネルを上から下まで確認してみるが、やっぱり見つからなかった。
それどころか、登録チャンネルを見ている内に別の異変にも気がついた。
ちひろだけではなかった。他の数名のライバーのチャンネルも見当たらない気がした。
ゆっくりと上から確認してみると、社築、静凛、ドーラ、郡道美玲、来栖夏芽のチャンネルも
見当たらなかった。おかしい。全員登録していたはずだし、他のライバーはしっかりと
チャンネルが残っていた。動画も検索してみたが、社の音ゲープレイ動画、静のバイオ実況、
ドーラの歌枠、郡道の麻雀実況、夏芽のマイクラ配信。どれもこれも見つからなかった。
まるで、最初からそんな名前のライバーなんか存在していなかったようだった。
記憶違いだったのだろうか? 夢の中で見た架空のライバーだったのだろうか?
混乱する頭を整理できない内にパソコンに一件のポップアップ通知が届いた。
どうやらメールが届いたようだ。見覚えのあるアドレスだ。
見知ったアドレスからのメールの件名は今までに見た事のない件名になっていた。
もしかして。これは。
恐る恐るに震える手でメールを開いてみた。
嘘だろ?
それは待ちに待った瞬間だった。ずっと。ずっと。ずっと一人で待っていた。
つい数分前まで気にかけていたライバーたちのことも忘れ、
気が付けば誰もいない自室で大声をあげて叫んでいた。
六人の存在が静かに消えてしまったモニターの中には開きっぱなしのメールだけが残っていた。
『ユードリック・アレキサンダー様
貴殿を「にじさんじ」メンバーとして正式に採用致します。
デビュー日その他契約及び説明が御座いますので、ご都合が良い日を
折り返しご連絡いただければ幸いです。
お待たせしてしまい申し訳御座いませんでした。
最後に誕生日おめでとうございます。素敵な一日を
四月一日 いちから株式会社 ライバー採用担当』
以上をもちまして、『ワンドのA』完結となります。
最後まで読んでいただいて有難うございます。
今回モチーフにした作品は『アイデンティティー』という洋画になります。
今までと違い作品名を最初に記載しなかった理由として、
この原作のオチが先にわかってしまうと楽しめないのではないかと思い
最初に記載しませんでした。
選出したライバーは『ユードリック』に当てはまる人物を選びました。
各ライバー名の部屋番号番目の文字を並べると浮かび上がるようになっています。
(作品内の夏芽のメモのライバー名を斜め読みすると分かりやすいと思います。)
ホテルの名前もアレキサンダーと、そのまま引用しています。
青は衣装から取り、魔法学校の先生というキャラクターと生肉好き(ネタ?)も
作品内にテイストとして入れたかったので散りばめてみました。
タロットカードについてはカード名に入っている数字はミスリードとして
使ったので意味はございませんが、ユードリックさんの気持ちになって
カードの意味を調べて順番に選んでみました。
デビュー出来ない苦しみから徐々に解放される心情を表すために使用しました。
また、タロットカードには一枚だけではなく前後にあるカードを踏まえたり、
カード自体にも解釈が違うパターンも存在します。
今回作品内に書かれている意味は一例でしかないので、書かれて意味が
全てと言うわけではありません。
作品の流れが一作品目の『虹の向こうに』とダブる部分が多いので、
構想の段階で投稿しようか迷ったのですが、今までと少し違うテイストの
作品を投稿してみたいと思い投稿しました。
長くなりましたが、最後にもう一度お礼を申し上げます。
最後まで読んでいただいてありがとうございました。
投稿済み他作品や今後の作品も目を通していただければ嬉しいです。