何とも奇妙な場所での出会いだった。
「あら。二人も宿探しかな? 」
笑顔で首を傾げる静は隣に立つちひろの手を握っていた。
その姿は傍から見れば、親子と言うよりは年の離れ離れた姉妹のようにも見えた。
「静さんたちもですか。それにしても凄い偶然ですねー。」
社とドーラが先輩二人に挨拶をすると、静とちひろもホテルの入口近くまで
歩み寄ってきた。
「ここ本当にホテル? お化け屋敷の間違いでは? 」
ちひろが訝し気な目でホテルを見上げていた。
「まぁまぁ。ちひろどの。とりあえず入ってみましょう。」
ドーラは少し屈むと、ちひろの背中を押しながら入口の両開きの扉へと向かった。
ドーラに背中を押されたちひろは、成す術もなく両開きの扉へと突入していった。
外観の期待を裏切ることなく、内装も何とも風情のある造りとなっていた。
所々傷んだフローリングに顔のような染みが幾つか見える壁や天井。
入口の正面には小さな腰ぐらいの高さのカウンターのようなものがあり、
その左奥には二階へ上がる人一人が通れるぐらいの狭い階段が見えた。
カウンターの後ろには一人の女性が立っていた。
慌ただしく訪れた奇妙な四人組を何も言わずにぼんやりと眺めていた。
長い黒髪が腰のあたりまで伸びており、きっちりと揃った前髪が入口から
吹き込んできた夜風にさらさらと揺れていた。
「すいません。お部屋って開いていますか? 」
雰囲気に少し呑まれそうになる三人を差し置き、静が何の迷いもなく女性に話しかけた。
「はい。四名様ですか? 」
虚空を見つめていた女性の瞳が静の顔に焦点を合わせた。
「はい。出来れば四人別々が良いんですけど。」
そう言われると女性はくるりと後ろいた。女性が振り返った壁には『Ⅰ』、『Ⅱ』、『Ⅲ』、
『Ⅳ』、『Ⅴ』、『Ⅵ』と書かれたフックがあり、『Ⅲ』と『Ⅴ』以外の四か所に鍵が
ぶら下がっていた。予想外と言えば失礼になるのだが、どうやら先客がいる様だ。
女は残りの鍵を全て取ると、それをカウンターの上に並べた。鍵にもフックに書かれていた
ローマ数字と同じローマ数字が書いてある札が付けられていた。
「『Ⅰ』と『Ⅱ』は二階。『Ⅳ』と『Ⅵ』は一階になります。シャワーは各お部屋に
付いてますが、トイレは共同になります。各階一か所ございます。食事はでません。
精算はお帰りの際になります。部屋は全てシングルで税込2434円ですがよろしいですか? 」
女性は早口で説明し終わるとジッと静の顔を見ていた。
「ちひろは二階ー! 」
対していた静が何かを返す前にカウンターの下から飛び出してきた小さな手が『Ⅰ』の鍵を
持ち去っていった。
「私はどこでもいいなー。ドラちゃん二階行く? 」
静が『Ⅱ』の鍵をドーラに差し出した。ドーラは少し迷ったようだが鍵を受け取った。
「わしはどこでも良いけど静どのがそう言うならそうしよう。」
「俺もどこでもいいですよ。」
カウンターを覗き込んできた社に「じゃあ...。」と言って静が『Ⅵ』の鍵を社に渡した。
静が適当に鍵を配り終えると、カウンターの女が一礼をした。
「二階へはそこの階段を上がってください。扉に鍵と同じ数字が書かれていますので。」
そう言い終えると女は、また虚空を見つめる作業に戻った。
「じゃ。ちひろたちは二階だからー。行こー。」
ちひらはドーラに手を差し出した。その手をドーラが笑顔で握り返すと
二人は階段の方へ歩いて行った。
残された静と社が一階の間取りを確認するように見渡した。
カウンターから時計回りに『Ⅳ』、『Ⅵ』、『Ⅴ』、『トイレ』と書かれた部屋が
建物の四隅にあった。
「本当に最低限のものしかないって感じですね。」
社がぐるりと辺りを見渡した後、トイレの中を確認しようとドアノブに手を伸ばした。
その時、トイレの中から水の流れる音がした。誰かが使っていたのだ。
しばらくの間を置いて扉が開くと、驚くべきことにトイレの中から見知った人物が出てきたのだ。
「あら。来栖さんじゃない。」
静が驚きの声を上げた。社も驚きの余り手を伸ばしたまま固まっていた。
トイレの中から出てきたのは
夏芽も二人を見て驚いているよで、トイレの前で口を開け固まっていた。