二階も一階同様に四隅に部屋があった。少し違っていたのは一階の玄関に
あたる部分にも部屋があり、間取りは階段から時計回りに『Ⅰ』、『Ⅲ』、
『何も書かれてない部屋』、『Ⅱ』、『トイレ』となっていた。
「この部屋なんだろうね? 」
何も数字の書かれていない部屋のドアノブにちひろが手をかけた。
「こらこら。勝手に...。」
ドーラが止めようとした時には、既に部屋の扉が開かれていた。
鍵はかかっておらず、中には誰もいなかった。
部屋の中は真っ暗だった。廊下の明かりが室内の一角を照らし出した。
そこに見えたものはパソコン用モニターと青いゲーミングチェアだった。
「ちひろどの。駄目じゃないか。」
ドーラは慌てて扉を閉めたのだが、ちひろは閉ざされた扉を見つめたまま固まっていた。
「ちひろどの? 」
ドーラが話しかけても、ちひろは反応を示さなかった。
「見た...。」
「えっ?」
「
ちひろは、ゆっくりとドーラの方へ顔を向けた。その顔には一切の感情がなく、
真っすぐにドーラの紅い瞳の奥をどこまでも覗き込んできた。
そのちひろの只ならぬ様子にドーラの背筋に冷たい何かが走った。
見たことがある?
客室でもない部屋の中を見たことがあるなんて、あるはずもないだろうに
何故ちひろはそんなことを言ったのだろうか。
ドーラが困った顔でちひろを見つめていると、ちひろはハッと我に返ったように
瞬きを始めたと思えば、いつものように可愛らしい微笑みを浮かべた。
「あれ? どうしたの? ドラちゃん。」
ドーラは自分が今見ていたものが幻覚や蜃気楼のようなものだったのかと
錯覚するほどに何事もなかったように、ちひろは笑っていた。
「あら。ドーラさん。」
前方から聞きなれた声がした。ドーラが顔を上げると『Ⅲ』の部屋の扉が、
いつの間にか開かれており、その部屋の前には
郡道は不思議そうに二人を見つめていた。ちひろも声に反応し振り返っていた。
「ありゃ。美玲先生じゃん! 」
「美玲もおったのか。なんという偶然。」
まさか先客がメンバーであったとは思ってもいなかった二人は先ほどの部屋のことも忘れ、
郡道に歩み寄った。郡道も最初こそ驚きと戸惑いの表情で二人を見ていたが、
こんな怪しい宿に見知った顔が居ることに安心したのか気が付けば笑顔に戻っていた。
「もしかして、お二人も例の事故で? 」
「そー! 帰れなくなっちゃったのー。」
三人が部屋の前で話していると誰かが階段を上ってくる音が聞こえてきた。
「郡道? お前も居たのか。」
階段を上ってきたのは社だった。社のすぐ後ろには夏芽も付いて来ていた。
「来栖もおったのか。となると、今このホテルに泊まってるのは、六人全員ライバーなのか。」
「あれ? ドーラさん。五人しか居ませんよね? 」
群道は社と夏芽の周りをきょろきょろと見渡していた。確かに群道の目からは自分を含めた
五人の姿しか見えていなかった。
「凛お姉ちゃんが来てないね。」
ちひろも群道のように二人の後ろをきょろきょろと見渡し、静の姿を探していた。
「静さんなら部屋に行ったよ。疲れたからは先に休むってさ。俺は夏芽を皆に合わせようと
思って二回に来ただけだからさ。」
「静さんも来てるんだ! 本当にすごい偶然。」
社の言葉により静も泊まっていることを知った群道だったが、彼女が驚くのも無理がなかった。
偶然に起きた架線切断事故。偶然にも居合わせた六人のライバー。偶然にも辺境の小さなホテルに
泊まることになった。
でも
ホテル アレキサンダーでの偶然の一夜は、まだ始まってすらいなかった