社が部屋の中から出てきたのは、静と群道が『Ⅵ』の部屋の扉を十回叩いた後だった。
「なんだ。なんだ。こんな時間にどうしたの。」
部屋から顔を覗かせた社の手にはスマホが握られていた。
「ごめんなさいね。社さん。寝てました? 」
「静さんに群道か。まだ寝てなかったんで大丈夫ですけど...。」
「社さん。勇気さんのこと見ませんでしたか? 」
群道が喋りながらも静の後ろから部屋の中を覗き見ていた。
「おい。群道。そんなジロジロ見るなよ。まぁ。見られて困るもんも無いけどさ。
ちひろ先輩は二階に夏芽を案内してから見てないな。居ないのか? 」
社は夏芽と二階に行った時に見たドーラとちひろと群道の姿を思い出していた。
あの時、階段を上がって直ぐのところで三人は話していた。
思い出していたのは三人の会話や表情ではなかった。
社は三人が話していた後ろの部屋。あの部屋にローマ数字表記がなかったことを
なぜだか今更ながら思い出していた。
あの部屋は何の部屋なのだろうか。
「大変です! 」
玄関からホテルに飛び込んできたのは夏芽だった。
彼女の手には、社がスマホを持っていたように一枚のカードを持っていた。
静と群道には見覚えのあるカードだった。
トランプよりも縦長で、裏面がブルー一色のカード。
「来栖さん。どうしたの? 勇気さんが見つかったの? 」
急に飛び込んできた夏芽に呆気に取られていた社と群道を残し、静は夏芽の元へ駆け寄った。
「静さん! ドーラさんが...ドーラさんが...。」
夏芽は遠慮することなく、静に抱きついていた。
しばらく静の腕の中で過ごし落ち着いた夏芽は、三人と共に再び玄関を出た。
「なんだありゃ。」
「あんな門あったかしら? 」
その門の存在を社も静も知らなかったようだ。さっきの夏芽たちのように三人は
押したり引いたりと動かそうと試みてみるが、やはりびくともしなかった。
諦めて玄関先に戻って来た三人に夏芽は自分の身に起きた不思議な出来事を語り始めた。
二人で外に出た時に現れた門と塀。ホテルを周っている内に消えたドーラ
そして、地面に落ちていた老人のカード。
「もしかして、それもタロットカードなの? 」
夏芽からカードを受け取った静がくるくるとカードを回しながら観察していた。
「そうですね。今スマホで調べ見たけど、やっぱりタロットカードでした。
トイレ前に落ちていたカードが『ソードの8』の簡単な意味は束縛、停滞、不自由、ジレンマ、
絶望的、判決って感じかな? さっき見つかったのが『隠者』ってカードで意味は魂の探索、
自己反映、熟考、孤独、撤退って感じだねー。」
群道がスマホを見ながらカードの意味を他のメンバーへ伝えた。
「ああ。タロットカードなのか。初めて見たな。」
社が興味津々に静の持っているカードを観察していた。静はその視線に気が付き「どうそ。」と
社へカードを手渡した。社は『隠者』のカードを受け取ると静のようにくるくるとカードを
回しながら観察をしていた。
「カードも気になりますが、二人は一体どこへ...。門は締まっているし、
塀も乗り越えられそうにもありませんし。ホテル内も居ないなんて...。」
夏芽は不安そうな表情で三人の顔を見回していた。
「確かに心配ね。警察に連絡した方が良いかな? 社さん。どう思います? 」
カードを観察していた社は、静が自分の名前が呼ばれたのに気付いたようだ。
「ん? ちひろ先輩は心配だけど、ドーラは大人だしな。もう少し待ってみても良いんじゃないか? 」
「そうよね。警察を呼んで帰ってきたら警察の方に申し訳ないわよね。」
夏芽以外の三人は消えた現場を見ていないこともあり、比較的に楽観視しているようで、
早々に様子見と言う判断を決定して、ホテルの中へ戻って行った。
ただ一人、現場を目撃していた夏芽は門の方を一度振り返り、
誰にも聞こえないような声で呟いた。
「