【正位置】
落ち着いた状態や安定した未来が見通すことが出来ることから来る、
幸せや前向きな気持ちを表す。
幸せな結婚や家庭の形成や子孫繁栄までの良い過程の意味など
【逆位置】
落ち着かない状況や不安定な未来から来る不安や悲観的な気持ちを表す。
恋愛関係や家庭が崩れていく過程やマンネリから来る孤立の状況。
手が届かないような理想や願望から来る不安とプレッシャーを表す。
群道のベッドの上に寝ていたのは、タロットカードだった。
その絵柄は、この奇妙で不気味な現状とは恐ろしく不釣り合いなものだった。
カードの中では成人しているであろう男女が虹の架かる青空に向かい
手を広げ、その横には男の子と女の子が手を繋ぎはしゃいでいた。
青空に架かる七色の虹の中には金色のトロフィーのような物が並んでいた。
数えてみるとトロフィーのようなものは全部で十個あった。
カードの上部には『Ⅹ』と書かれていた。
その嫌味なまでに明るいカードを夏芽は持ち上げ、裏返してみた。
やはり裏面はブルー一色で、前に見つかっていた二枚と同じ種類のカードであった。
夏芽が持ち上げたカードが目に入ったのか社が夏芽に近づいて来た。
「おいおい。またタロットカードか? 」
夏芽はコクリと一度頷くとカードを社へ手渡した。
「嘘。また? 」
シャワー室の扉を閉めて、静もすぐに二人に合流すると社と同じようにカードを観察していた。
「とりあえず、ちひろ先輩とドーラの部屋を見に行ってみよう。」
三人は三枚のカードと少しの恐怖を抱え、二階の部屋の探索を始めた。
しかし、ちひろの部屋もドーラの部屋もトイレも相変わらず、誰の姿も見つからなかった。
残すは数字のない部屋だけだった。静が数字のない部屋の扉を何度もノックをしながら、
ドアノブをガチャガチャと動かし始めた。
「もしもーし。開けてくれますか? 」
「静さん。どうしたんですか? この部屋は群道さんたちと調べたんですけど無人っぽいです。」
急に激しく動き始めた先輩に夏芽が少しばかり怯えた様子でなだめた。
「うーん。でも、この部屋ってさ。あのカウンターに居た女の人の部屋じゃないのかな? 」
「あの黒髪の女の人ですか? 」
「そうそう。来栖さんの時にも居たでしょ? 従業員っぽい人はあの人しか見てないし、
門は締まってるしって考えるとね。あの人に事情を話してから警察を呼んだ方が
良いんじゃないかなって。」
「確かに...。」
社が小声で同意を示すと、静はノックを続けた。だが、幾ら待っても中から反応が
返ってくることも、扉の鍵が開けられることもなかった。
そのノックが鳴り響いている間、すっかり忘れていたカウンター内のブロック肉のことを
社は思い出していた。
あの肉も...消えたのか?
あんな奇妙なものを見たという話も聞いていないし、考えてみれば最初に一度だけ見てから
社自身も見ていなかった。
肉のことを話すべきか迷ったが余計に怖がらせる必要もないし、三人の失踪やタロットとは
関係ないだろうと思い、社は喉まで出掛かった言葉を呑み込んだ。
「居ないんですかね? 」
「おかしいなー。ここしか無いんだけどな...。仕方ないか。来栖さん。警察に電話しちゃおう。」
静は隣で見ていた夏芽にそう伝えると、夏芽も「はい。」と返事をして、すぐにスマホで警察へと
電話を掛け始めた。
「あれ? 」
夏芽のリアクションは余りにも早いものだった。
「電話...繋がらないです。」
「そんな馬鹿な。」
夏芽の言葉を聞いた社も透かさずスマホを取り出して、電話を掛け始めた。
「はっ? マジか? 」
どうやら社のスマホにも同様の現象が起きているようだった。
番号を入力して、通話ボタンを押すと流れるコール音やアナウンスが全く無く、ただただ無音。
何も聞こえないのだ。幾ら待っても目の前の扉のように静寂を返してくるだけだった。
「駄目ね。警察以外も同じね。会社、他のメンバー、家族に掛けてみたけど、どれも同じ。
無音だわ。しかも、よくわからないのがネットは使えるのよね。」
静も夏芽の言葉を聞いて、黙々と操作を続けていたようで、現在自分たちに起きていることを
冷静に分析していた。
その結果、ネットワーク自体は繋がっているのだが、外部に何かを発信する行為。
電話、SNS、メールなどだけが使えない状態だった。SNSなどはメッセージを送ろうとすると
エラーメッセージが表示され、何もできないという状態だった。
しかも、全員のスマホで同様の現象が起きていたのだった。
「どうなってんだ。こりゃ...。」
プログラミングなどに詳しい社でも全く現状を把握出来ずにいた。いや、逆なのかもしれない。
より詳しい社だからこそ、現状の説明がつかないことに対し、知識があるが故に他の二人よりも
混乱を大きくしているのかもしれなかった。
「どうやら...
静が小さく、消え入りそうな声で呟いた。
「
ゲームに将棋にと社には聞きなれた単語であったが、この場には相応しくないように聞こえた。
「気づかない? 皆が
そう言うと静はちひろの部屋を指をさした。
「最初がちーちゃんで部屋は『Ⅰ』、次はドラちゃんで部屋は『Ⅱ』、そして...。」
消えた順番に静が指をさして行き、群道の『Ⅲ』に静の指先が向けられた時だった。
『あっ。』
社と夏芽が同時に声を上げた。順番だ。順番になっていたのだ。
『Ⅰ』、『Ⅱ』、『Ⅲ』。ちひろ、ドーラ、群道。部屋のローマ数字順に消えていたのだ。
「そう。だとすると、次は誰かな? 」
静は二人に向かいニコリと微笑みながら首を傾げて見せた。
『Ⅳ』の部屋。
それは間違いなく、静凛の部屋だった。
「つまり、唯一の手掛かりであるタロットカードの謎を解くか、脱出できない限り、
次に消えるのは私ってことよね? 」