連載休止 僕たちのカルデア アスクレピオスと女の病 作:里見レイ
「......アスクレピオスは、どちらの部屋から先に訪れると思いますか? イアソン様」
アルゴノーツ専用部屋からアスクレピオスが出てから数十秒後。部屋の片隅の空間から一人の魔術師がその姿を可視化させてくる。今回の事件の大戦犯、メディア・リリィだ。その顔に詫びるような表情はない。ただ、いつになく真剣そのものの表情もしている。
「メディア、事前に連絡くらいしておいて欲しかったぞ。俺もアタランテも今までの情報があったから即座に周りを動かすことに成功したが、もしあの場に俺がいなかったらどうするつもりだったんだ?」
そして、元妻と二人きりのイアソン。しかし、唐突な登場にも関わらず一切の動揺がない。彼女の存在に既に気が付いていたという事だ。
「その時は、貴方方ともう少し打ち合わせしてから事を起こすつもりでした。ただ、これほどの好条件は他になかったものでしたから」
「それもそうだ。で、見込みはあるのか?」
「本人にまだ知らせられてないのが確実性を失っているのがネックです。ただ、そっちのほうが結果としては良いのかもしれませんね。誰かに植え付けられた愛は、自分で本物の愛に昇華させない限り保てなくなりますので」
「お前が、言うと。何か不気味になるのはなんでだろうな?」
「本物の愛を持っているからですよ。例え、それが最初は神により植え付けられた偽りの愛だったとしても。私は、今でも貴方を愛しておりますので」
自然な受け答えをした上でそっと夫に近づくメディア・リリィ。華奢な腕をゆっくりと回してイアソンに抱き着いた。普段なら、彼は真っ青になるところだろう。
「わーたよ。今日は暫く一緒にいてやるよ。何はともあれ、お前の行いがあいつの周りの気持ち悪い人間関係が洗濯されるんだろうからよ」
イアソンが面倒くさそうに彼女を受け入れる。
「ったく。あいつには誰かを幸せにすることは出来るのかね? ま、俺が一切できない訳だからアドバイスどころか批評も出来ないんだけどよ......」
イアソンの目線は部屋の天井の小さなシミへと固定されている。彼にとっては、今ここにいる少女が彼の栄光と挫折。そして、彼女の存在は夫婦や恋愛関係においての失敗そのものなのだ。
「イアソン様、愛してますよ。今も、昔も......」
小さくつぶやいたメディア・リリィの一言。二人のこのある意味面倒な関係は、カルデアで良い待遇であるからこそ余裕のある会話なのかもしれない。
ある意味二人を知っている昔の英雄達が見たら驚くだろう。
イアソンと若若奥様が毎日一緒に昼食をとっているなんて。
「......アスクレピオスだ。入っていいか?」
「ええ」
スパイ同士の密談のような雰囲気の下、彼は一人の女の個室へと入った。
「......なんか、あの飲んだくれや船長の嫁のせいでとんでもない事態になってしまったようですまない」
「気にしないで。この手の話題は世代や国を問わずに盛り上がるものだし、カルデアではほとんどないような話だからね」
いつもと変わらない表情で彼を迎えたブーディカ。アスクレピオスが彼女の部屋の中を見たのはこれが初めてであるが、不思議な安心感を覚えた。
「綺麗な部屋だな。いつもは食堂でしか話さない分、ここは新鮮だが落ち着く場所に感じる」
「ありがとう。私も貴方も清潔さに厳しい職種だから、綺麗って言われるのは嬉しい話ね」
ブーディカのその優しげな笑顔を見て、アスクレピオスは多少ではあるが胸をなでおろした。
「いつ知ったんだ?」
「さっき、食堂の電話でエミヤが教えてくれたわ。今は部屋から出ない方がいいって。詳しい経緯とかは、貴方から聞かせてもらえる?」
「分かった。うちの船長の話によると......」
さりげなく用意された椅子に座って出された紅茶に手を出すアスクレピオス。一口飲んでからゆっくりとイアソンから伝えられた内容を話していく。傍から見れば、仕事帰りの夫が今日の出来事を妻に話ているような光景であったのは二人の知る範囲ではないのだが。
ブーディカは、正直アスクレピオスとは穏やかな関係性にしたいんですよね。景虎との騒がしい関係とは真逆に考えてます。
展開は、まだ細かく詰めています。お楽しみに。
里見レイ
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