連載休止 僕たちのカルデア アスクレピオスと女の病 作:里見レイ
さて、今日もアスクレピオスの一日が始まった。しかし、今日は食堂に向かわない。医務室のパソコンをチョコチョコと叩いてメッセージをいくつか送信。後は、他の面子が手を回してくれるだろう。
「彼女の事だ。どうせもう起きているだろう」
部屋に置いてある間食用のお菓子を一口、咀嚼も程々に彼は部屋を出た。恐らく、朝から彼のようにあの部屋へ向かう者はいないだろう。食堂でもトレーニングルームでもなく、図書室に向かおうとしているのだから。
図書室の開館時間は、基本的に管理人の都合で開館する。まあ、朝八時半が通常だ。しかし、現在は朝の五時。それでも既に鍵はかかっていなかった。
「ったく、連絡を遅らせてしまった僕が言うのも変だがよく対応してくれたもんだ」
扉の前でお辞儀を一回。そして、静かに中へと入っていくアスクレピオス。
「いらっしゃい、素敵なお医者様。こんな朝早くに何の御用かしら?」
出迎えたのはナーサリー・ライム。紫式部や清少納言がいないこのカルデアでは図書館司書を務めている。
「少し、調べたいっというか参考にしたいものがあってな。かなり時間がかかりそうだから今日一日中ここに籠って本を読ませてもらおうと思ってな」
「そういうことならオッケーよ。恋愛小説はここを真っ直ぐ行って左側の棚よ」
「......流石に分かっていたか。今回の噂で僕が女心の勉強をしようとしていたことは」
何だかんだ、ナーサリーもカルデアの超古参メンバー。アスクレピオスとも長い付き合いとなる。
「私も、貴方の幸せをを心から願っているわ。私たちの勘違いでこんな大きい事になってしまったのは申し訳ないけど、結果として良い方向に進むと思うの。だから、何か聞きたい事や頼りたい事があったら遠慮なく言ってね。私たちは、人の心について誰よりも見てきたのだから」
ニッコリと笑うナーサリー。幼き聖母を表現するなら、今の彼女のを指す言葉なのだろう。
「助かる。あと、僕宛てに食料などが送られてくるはずだから来たら呼んで欲しい」
「分かったわ。では、良い本の旅を!」
こうして、アスクレピオスのゆったりとした勉強会が始まった。
「......やはり、乙女心は理解しがたいな。何故素直に褒めると殴られて、褒めないと蹴られる? この対応に応えは存在するのか?」
「別に、お前は太ってなどいないぞ。むしろこれ以上痩せると健康に弊害を及ぼすレベルになるのだから食べろ。誰かと一緒にいる時間が大事ならまずは健康寿命を延ばせ」
「衣服の枚数が許容値を超えている。このままでは部屋の大半を占めることになり衛生面に支障が出てしまうぞ。いらないものは誰かに譲るなりして在庫を減らせ」
あれから数時間。アスクレピオスは数々の恋愛小説を読みふけった。しかし、読めば読むほど非論理的な女性の心理が理解できなくなっていく。彼からすれば、最新研究の医学書や魔術書を読んでいる方がよっぽど楽だ。
「お医者様、恋の病は決して簡単に治せるものではないのよ。その患者が女性なら尚更ね。そして、その病を治すのに必要なのは適切な愛。その適切って言葉は女性それぞれ、私たちが教えられる物ばかりでもないのよ」
お盆の上にお茶とサンドイッチを置いて、ナーサリーがやって来た。その笑顔は、数時間前と変わっていない。
「エミヤが昼食を持っててくれたみたいだね。感謝するよ。それじゃあ、少し休憩するか」
読んでいた本に栞を挟み、隣のテーブルに移動するアスクレピオス。エミヤにはナーサリーの分も頼んでおいてので、久々の誰かとの食事となった。
「ナーサリー、お前は誰かに恋愛感情を抱いたことはあるのか? このカルデアならではの想いとかあるだろ?」
エミヤのサンドイッチはまろやかで、非常に穏やかな気持ちになれた。それ故か、普段なら聞けない女性の恋愛事情について聞こうと思ったのだ。
「そうねえ。私はここに来て大分落ち着いた生活を送って来たわ。だから、誰かに感謝したり信頼したりすることは多いわね。だから、恐らくだけど恋愛事情はその延長線上にあると思うわよ」
彼女の紅茶を飲む姿は非常に様になる。そして、見た目の割に適切な助言だ。
「あいつらも、そして僕もそれに基づいた感情理論になるのかな? 後は、何をすれば良いのやら」
「実際に話した方が良いわよ。とりあえず、食堂の仕事が無くなって暇であろうお姉さんに会いに行ったらどうかしら? 貴方にとって、は彼女は癒しになるのではないのかしら?」
「......そうだな」
「そして、昼を過ぎたらトレーニングルームにも行くこと。彼女は絶対に貴方を必要としているのだから」
「分かっている。ったく、なんであいつらから選ばなければならないんだよ」
「全寮制の職場恋愛はそんな感じよ。心配しないで、同じ悩みを持っている人は大勢いるのだから」
「......まあな」
その後、暫く無言のランチタイムが続いた。雰囲気こそ穏やかだが、アスクレピオスの目は決して穏やかではなかった。
「それじゃあ、お邪魔したよ。色々と参考になった本もあったよ」
昼食後、本の片づけをしたアスクレピオスは早々と図書館を後にした。食器は空いている時間にエミヤが回収しに来る手筈となっている。
「ええ、貴方の素敵な恋路を祈っているわ」
ナーサリーは、扉の前まで見送りに来てくれた。
「あ、それと一つ僕から言うべきことがあった」
と、アスクレピオス。軽く咳払いをする。
「君自身も、早めに行動した方が良いと思うぞ。僕が言うのも変だけど、遅くなってもいいことはないんだからね。ライバルも、居るかもしれないんだからさ」
「!?」
硬直するナーサリーを背中に、アスクレピオスはさっさと図書館を後にした。別に、一矢報いたかった訳でも報いる必要もなかった。しかし、何となく彼女の周りは自分の後に修羅場になりそうだったからである。
この「僕たちのカルデア」シリーズはかなーり続けられるように世界観を統一していくつもりです(今後の今後ですが)。で、今後の展開(サブキャラたちの人間関係)に関しては私も知りません。書くべき時が来たら、マシュにあのデータを細かく見せてもらおうと思います。
では。
里見レイ
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