連載休止 僕たちのカルデア アスクレピオスと女の病 作:里見レイ
時間だけで言ったら、十秒も満たなかっただろう。アスクレピオスは己の衝動的な行動に恥ずかしさを覚え、瞬時にブーディカから離れた。顔面は、いつになく真っ赤である。
「す、済まない」
「い、いいよ。別に。泣いちゃった私がいけないんだから。けど、私を想って抱き着いてくれたのなら、嬉しいよ」
一方のブーディカ、泣き止んだ上に若干笑顔が見える。彼の行動に相当救われたようだ。
「ねえ。アスクレピオス」
ブーティカは、枕元にある小さな小箱から何かを取り出した。そして、彼の手をしっかりと握りしめながらゆっくりと渡す。ずっしりとした重厚感をアスクレピオスは感じた。
「これ、生前の夫が使ってたやつ。彼は本当に最高の旦那だったんだよ」
「思い出として、取っておいても良いのではないのか?」
ブーディカは静かに首を横に振った。
「本当はね。このカルデアに来てから辛いことが多かったんだよ。ネロも、ロムルスもカエサル最初っからもいたんだから。それに、育成リソースは彼らの方が先に回されたし。ずっと厨房で無機質にかつての仇敵に食事を提供し続けるのかなって思っちゃって」
彼女がこんなに深い心境を語ったのは、彼が初めてかもしれない。それくらい、今のブーディカの話す勢いは凄まじかった。
「そんな時、貴方が接してくれた。頼ってくれた。貴方も、以前はほとんどリソースを回されずに医務室にしか仕事がなかった。なのに、貴方はとても楽しそうだった。ただひたすらに己の務めに注力してて、ずっと貴方がまぶしかったの」
「ただ単に、戦闘よりやりたかっただけだ。生前は神に邪魔されたからな」
「確かに、私の本業は王妃。ここでは絶対に叶わない幻の職。料理人自体は楽しかったけど、そこはかとない怒りと悲しみと諦めが交錯してそれどころじゃなかったのよ」
ここに来て、ブーディカは一回口を噤む。恐らく、生前の苦悩やここでの苦痛が蘇ったのだろう。
「貴方が毎朝会ってくれるだけども嬉しかった。それに、貴方は私の過去も気にしてなかった。貴方の愚痴を聞くことも新鮮だったし、何より私を話し相手として頼ってくれたのが嬉しかったの。過去にも現状にも縛られない貴方が魅力的で、その一方で支えたくなった」
アスクレピオスの手には金属の器。生前彼女の旦那が食事に使っていたのだろう。そして、渡し終わったブーディカはくるりと後ろを向き数歩進む。
「以前、マシュから貰った本に書いてあったんだ。女からプロポーズする時はこうしろって」
そのまま立ち止まったと思ったらゆったりと振り向くブーディカ。ぎこちない動作で髪を撫でた後、静かに笑ってこう言った。
「こんな私だけど、お嫁に貰ってくれますか?」
この笑顔、しぐさ、シチュエーション。意図せず起こった部分(泣いてしまった事など)もあるが、恐らくこの騒動が始まった時点でブーディカが決めていた事だろう。そんな彼女の切り札に惚れない男などいない。
元より彼女には安心感を覚えていたアスクレピオスも例にもれず。
「......分かった。お前の過去を全て置き去りにするくらい幸せにする」
こう言うのももはや本能の領域だった。こんなものだろう、恋愛なんて。そして、こうでなければ恋愛ではないだろう。
そしてその翌日、彼はマスターの部屋へと向かった。案外早く結論づいた結婚報告をしに。
いやはや、何か「やっちまったなあ」って感じです。まだ話は続けますし新キャラも出す予定ですけど。
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里見レイ
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