連載休止 僕たちのカルデア アスクレピオスと女の病 作:里見レイ
あと、今回はあとがきにも力を入れました。
「いいわ。君がそこまで言うのなら、彼と話してみたら? ここで断ると、逃げたような気がしちゃうから。それに、どちらにしても居るなら手間じゃなさそうだし」
景虎の我儘な最期の賭けを、ブーディカは了承した。そして、ふらっと後ろを向く。
「ずっと聞いてたんでしょ? 誰かに案内されたのかは知らないけど、ここに居てくれて良かったわ」
「......妙なメモを貰ってな。こいつが良く話をする際に連れて来るこの場所に息を潜めていたらこの様だ」
物陰からアスクレピオスが出てきた。
「景虎がトレーニングルームで何かやらかすって書いてあってな。嫌な予感がしたんだよ」
「医師殿! 妙な瓦版とは誰から受け取ったのです? この作戦は私以外には数名にしか伝えてないはず!?」
「フードを被った男だった。声は、良く聞き覚えのあるやつとだけ言っておこう」
動揺を隠せない景虎と淡々とするアスクレピオス。彼がメモを渡した人物の名前を言わないのは、一種の駆け引きなのだろうか。
「......フード、心当たりがないですね。まあ、これもまた毘沙門天のお導きなのでしょう」
疑問を出すのも程々に、景虎はゆっくりとアスクレピオスに近づいた。
「改めて、単刀直入に言います。私と結婚して下さい。私には、医師殿が必要です」
ここまでスッキリとしたプロポーズもないだろう。
「済まない。既に僕はブーディカとの結婚を決めている。これは、彼女が何かしら汚い手を使った訳ではない」
「......それは、私の生前とこのカルデアでの孤独をもってしても言えますか? 私にはずっと昔も現在も貴方しかいないんですよ! 貴殿の前でしか弱みを見せられないし、貴殿じゃないと私の心の闇は晴れない! 今、私は貴殿が居ないと何も出来ないんです!」
泣いてはいない。しかし、その訴えはもはや悲鳴だった。景虎の抱える孤独はブーティカのそれとは違う。強さと引き換えに仲間を失った人。誰かとの関わりを警戒し過ぎ、誰にも心を開けなかった
「......景虎」
アスクレピオスの表情が若干曇った。男としても人間としても、ここまで依存されるような宣言をされては喜ぶどころか困惑してしまう。
「お前、何故僕がお前でなく彼女と結婚するのか分かるか?」
「い、医師殿?」
若干前かがみになっている景虎の頭を撫で、諭すような声を出すアスクレピオス。
「結婚は男を独占し自分の為に尽くしてくれる執事ではない。お前は僕に依存をしているようだが、結婚はその依存欲を満たす為の物ではない。誰かに依存しないと正気を保てない女は男にとってはつらいだけなんだよ」
その空間に流れる空気は異様に冷たかった。景虎の顔はいつになく青ざめており、ブーティカはここに来て気まずそうな目をした。
「勿論、ブーティカも僕に依存する要素はある。しかし、無理のある束縛もないし僕の悩みも聞いてくれる。今までは、僕自身も孤独だったからお前との他愛もない会話も癒しとなるが結婚となればまた別だ。お前の人格を否定するわけではない。けど単純に僕が結婚に求めている要素ではなかったと言っておこう」
景虎の頭から手を放し、アスクレピオスは後ろを向いた。そして、静かに状況を見ていたブーティカの手を取りそのまま歩き出す。
「景虎。お前との下らない話は悪くなかった。今まで僕の所に遊びに来てくれてありがとう。けど、もうこんな話をする機会はないだろうな。だから......ごめん」
後ろ姿をそのままに、彼は申し訳なさげに立ち去った。
いつもは済まないと言って謝罪するアスクレピオス。後にも先にも、彼がカルデアでごめんと口に出したのはこれが初めてだった。
個人的な補足。アスクレピオスにとって景虎は孤独なカルデア創成期に自分のいる価値を高めてくれた大事な友人なのですよね。イアソンのカルデア加入とアルゴノーツ結成により彼の孤独感は大分癒える一方「頼られる」の量が多くなってしまったんですよ(縛り攻略のかなめ、我儘船長の世話、カルデアの医学部門の価値の上昇)。よって「頼られる」に価値を全振りした景虎より「頼りあう」「支え合う」の価値を持つブーディカを選んだって感じです。
皆さんの意見等も聞かせてください。では。
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