連載休止 僕たちのカルデア アスクレピオスと女の病 作:里見レイ
次の日、医務室近くで大掛かりな引っ越し作業が行われていた。言わずもがな、ブーディカとアスクレピオスの同居の為の移動だ。
昨日に二人の結婚が正式に発表された事を受け、興味本位で野次馬が結成されていた。しかし、その野次馬からひときわ注目を浴びていたのは当の結婚する二人ではなかった。
「■■■■!」
「勢い余って壊すんじゃないぞ。あと、ドアはお前の部屋より高くはないからな。荷物を持っている時はいつも以上に注意してくれ」
アスクレピオスの戦友の一人、ヘラクレスだ。力仕事が必要だと知り、自ら助太刀を申し出た。
「よし船長。今ヘラクレスが入れたテーブルを中央に置いてくれ。壁と平行になるように注意な」
「ったく、何で俺がこんな雑用を......」
「まあまあ。これからの私たちの大役と比べれば楽なものですよ、イアソン様」
部屋の中にいるのはイアソンとメディア・リリィ。ヘラクレスに優しい目で頼まれたので止むなくの手伝いだ。
「それも俺は納得をしていない! 何でこの俺が仲人というハタ面倒な仕事をやらねばならぬのだ! マスターがやれば良いだろ、マスターが!」
不平不満が壊れた蛇口のようにあふれるイアソン。メディア・リリィが
「マスターは代表挨拶をしますので出来ないそうです。他の主要な方々も司会や挨拶、裏方の指揮を行うそうで手が回らないそうですよ。ただ座っているだけの大役なのですから、甘んじて受け入れましょ」
「......まあ、この俺が大役にふさわしい事は今更にも程があるがな。暫くクエストも免除になる上に式での食事も一段と豪華になるようだからな。せっかくの俺の専属医師様の花道な訳だ、俺も少しは真面目にやるよ」
イアソン、やれやれと首を振る。口でこそイヤイヤだが、本心はかなり嬉しいのだろう。
「さて、もうすぐ終わりだよ。色々手伝って貰って助かった」
部屋の中を一通り見渡し、満足げにアスクレピオスは頷いた。
「ブーティカに確認をして貰う。呼んでくるから、少しの間彼女の作ったこのお菓子でも食べていてくれ」
テーブルの上にクッキーを皿と一緒に出す。そして、そのまま食堂へと向かった。
「貴方、あいつと結婚するに至って考えていることはあるのかしら? 貴方も知っているとは思うけど、夫婦というものは初手に色々約束事を決めて置かないと後々苦労するわよ」
こちらは食堂。アスクレピオス達の荷物移動作業を待っているブーディカとその話相手のメディアである。テーブルの上で向かいに座り、吞気にお茶を啜っている。
「そうね。強いて言うなら、互いに秘密は程々にって感じかしら。私も彼も、大してそんなものは存在しないけど」
「結構、自由な感じなのね。自分から聞いといてあれだけど、知り合いの惚気を聞くのは耳が痛いわね。私は夫婦という言葉に呪われているから手伝う気に慣れなかったけど、純粋に貴方の幸せは祈っているわよ」
メディアが一見おサボり状態に見えた理由である。イアソンとの仲は今でこそ険悪ではないが、やはり何か思うところがあるのだろう。
「ありがとう。貴方も、過去にとらわれ過ぎずに新しい出会いを探しても良いんじゃないの?」
「今は気分じゃないわ。ここに居ると研究が充実しているし、昔の私があの男と未だにイチャイチャしているのを見ているとある意味寒気がするのよね」
彼女の軽い溜息はまさに主婦。ブーディカはそのように思ったが触れない事にした。
「それも一つの選択かもね。ただ、マスターはこれからカルデアの皆の恋愛を後押しするみたいだから考えてみてもいいんじゃない?」
「ま、私の眼に叶うあいつより良い男がいればの話だけど」
頬杖をつくメディア。何かイアソンに対して思うモノがあるのだろう。
「取り合えず、ありがとうね。貴方が羨ましがるくらいに幸せになるからさ」
そう言って、彼女は立ち上がった。迎えが来たのである。
「ブーティカ、終わったぞ」
「ありがとう。じゃあ、見させて貰うよ」
「おう」
静かに肩を並べて歩き出す二人。それを見たメディアがボソッと一言。
「......いい夫婦になりそうね。ベタベタし過ぎない適切な距離な訳だから」
その予感が的中するのも、時間の問題だった。
「......こんな感じだ」
「......うん」
「何かあるか?」
「無いわね。綺麗な位置取りだと思うよ」
「良かった」
静かに、一つ一つの言葉の重さが増す会話をする二人。最近、アスクレピオスは特に口数が減った。
「どうしたの? すっかり無口になっちゃって?」
横からのぞき込む形で気にかけて来るブーディカ。
「さあな。ただ、下手なことを言ってお前を傷つけたくないから必要以上に言わないだけだ」
「別に、私は悪口でもない限り傷つかないと思うよ。例え、それが独裁っぽい男のエゴに満ちた言葉でもさ」
「......女の感は、恐ろしいな」
彼は驚きを少しだけ上回る軽いため息をつく。
それで何かの糸が切れたのか若干荒々しく彼女を抱き寄せる。
「お前の笑顔を見るたびに、滅茶苦茶に甘えたくなる。けど、そんなことは出来ないし必要以上にする必要も全くない。だから、たまにこうしていたい。それだけだ」
若干切なげな表情をするアスクレピオス。こんな表情をするのは初めてかもしれない。
「構わないよ。貴方に特別に頼られるのは嬉しいし、また今度私も甘えられるって事だからさ」
抱きしめられて優しい笑顔が浮かぶブーディカ。
「そっか、嬉しいよ」
二人がそのまま抱き合う時間は、彼女が夕食を作りにキッチンへ向かうまで続いたのだった。
本当は、「結婚前夜」ってタイトルにしようと思ったのですが。まだ早いと思ってこうしました。次こそこのタイトルで行く予定です。
アンケート待ってます。感想や評価もお待ちしております。
里見レイ
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