連載休止 僕たちのカルデア アスクレピオスと女の病 作:里見レイ
医師、アスクレピオスの朝は周りより一足早い朝食から始まる。理由は単純、彼は静かな朝食を望んでいるから。そして、手の込んだ朝食を不要としていないからだ。
かと言っても、朝が早いサーヴァントは彼だけではなかった。朝早くからトレーニングの予約をしている者、研究やら何やらで徹夜してそのまま朝食を食べて来た者。他にも諸々の理由で早めの者もいるが、安定して朝食が前倒しなのはアスクレピオスくらいだが。
「......おはよう。いつもすまないな」
キッチンで彼女の後ろ髪を確認し、いつもの席に腰を掛けるアスクレピオス。シリアル、牛乳、フルーツが綺麗に配置されている。変わらぬ気配りに感謝をし、食事を開始する。
「おはよう。今日はいつもより若干早いかしら?」
大人数分の仕込みが終わったのか、休憩がてらにアスクレピオスに声をかけ来る女性。このカルデアの厨房の総責任者、ブーディカだ。
「昔の夢を見てな。多くは話す気になれないがとても悩ましい夢で半ば強制的に目が覚めたのかもしれないな」
シリアルを食べる手を緩めることもなく、彼はそのまま受け答えする。
「そう、私はいつでも愚痴とか聞くからね。不満やストレスは溜めない方がいいし、あると夢に悪影響があるかもってキミ自身も言っていたじゃない」
「そうだな。ただ、単純な事だよ。長尾景虎が昨日も医務室でダラダラしていただけさ。で、去り際になんか頭にこびりつく言葉を残しって行ってな」
牛乳を一口飲み、アスクレピオスは淡々と話した。シリアルは食べ終わったので、そのままフルーツに手を出す。
「あら、景虎さんが貴方をこんなに困らせるようなことを? 意外な気がするわね」
「......感謝しているって言われた。そして、夢の中でではあるが僕に依存しているとも。夢は僕の勝手な印象だけかもしれないけど、日々の言動を見ていると何だかよく分からない焦燥感に駆られるんだ。お前はこの原因が分かるか、ブーディカ?」
朝食を終え、食器を重ねるアスクレピオス。ついでにその時の彼女の表情なども話した。
「そういうことなのね。まあ、貴方たちは何かと変な縁があるものね。残念だけど、私は人間関係まで口を出せそうにないわ。しかも、私は景虎さんのそんな顔しているの見たことないし」
食器を受け取りながらブーディカは答える。彼女もまた古くからカルデアにいるので大方のサーヴァントについては把握している。しかし、そんな彼女でも景虎の奇妙な笑顔は分からないようだ。
「無理もない。お前に解決策は聞いていないからな。ただ、少々すっきりした。礼を言うよ」
話をしている時は少々曇っていた彼の顔も、ほんの少し明るくなった。そのまま医務室へ向かおうとする。
「......」
しかし、扉近くで立ち止まるアスクレピオス。何かを思いついた様子だ。
「ブーディカ、お前は僕が一対一で話す人間の中では五本指の中に入る。しかし、他の面々と違うのは僕の話を唯一聞いて貰っているという事だ」
やり場のない右手で頭をかき、また小難しそうな表情をするアスクレピオス。
「もし、景虎が話を聞いて貰う事に安心感と信頼を覚えているとしたら。僕はお前に対して同じような感謝の心を持っているのかもしれない」
「そんな改まったお礼なんていらないよ。私は、君の助けになれればそれでいいんだからさ」
「疑問は解決しない時が済まない性分なのでね。おかげであの女に答え合わせをすることが出来る。毎日のように突撃してくるのだから、悩みの種はない方がいいからな。そのヒントとなってくれたのは、今まで以上のお礼ものだな」
そうして、今度医務室に来たら何か協力すると言った後。アスクレピオスは午前業務に取り掛かるべくブーディカとの会話を終了させた。
「......その言葉、私だって持っているんだからね。私にとっても、貴方は心の助けなんだから」
アスクレピオスが見えなくなった後、壁に寄り掛かってブーディカはこう独り言を溢した。長い間カルデアの厨房を支えてきた彼女にも、過去と現在の特殊な人間関係があるという事なのだろう。
アスクレピオス、長尾景虎、ブーディカ。この三名がこの連載の「主人公及びメインヒロイン」になってくると思います。
史実どころかFGO内でも関わりはないでしょが、私のカルデアだからこそ描けるドラマだなあとつくづく感じております。
ではまた。感想などお待ちしております。
里見レイ
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