連載休止 僕たちのカルデア アスクレピオスと女の病 作:里見レイ
彼女の剣技は、単純明快だった。ただひたすらに、斬る、回る、走る。まるで、舞台の上で踊る役者のようだ。そして、彼女の動き一つ一つに押し流されるくらいの魔力の波と愛の渦が溢れていた。
「......!! これ、一瞬でも本気出されたら僕の命はないな。今の時点でも随分不利なのに、かなり手加減されているみたいだし」
「流石、人を良く見ておるな。ならば、もう少し余の想いをぶつけても問題ないな」
若干苦しげなアスクレピオスに対し、ネロ・クラウディウスは更に強く攻めると宣言。剣の振りかざす速度が二段階速くなる。
「!! これじゃあ、援軍が来るまで耐えられるかどうか。そして、援軍が来て解決するのかどうか......」
擦れ擦れで剣先をかわすが、体勢を大きく崩す。
「......このまま終わっても興ざめだからな。少し、昔話をしようか。お主が医務室に一人で籠っていた頃の話を」
ネロは、満を持して攻撃を止めた。彼女からすれば、この医師神を自陣営に取り込む好機である。そして、ゆっくりと言葉を紡ぎ、思い出を奏で始めた。
「そもそも、あいつとはBBらと同じ世界で出会い......」
「別世界の縁、ですかい? オレには、どーにも実感が湧きませんねえ」
「余も奏者の言う事を鵜吞みにはしていない。しかし、奏者は何の因果か特定のサーヴァントに対し異様な執着を見せる。その者達には幾つか共通点があるらしいが、その一つが『別世界で仲良くしていた者たち』らしい」
「......あーもしかして、マスターが日ごろから『衛宮夫婦がー!』や『シロセミーーー!!』て言っている奴ですかい? ロシアを攻略してからは『カドアナカドアナ』言ってますし」
とある夕方のカルデア。クエスト帰りでヘトヘトのネロとロビンは食堂にて軽い雑談をしていた。現在は、北欧の攻略に乗り出しているがどうにも進みが悪い。
「マスターは妙にサーヴァントに対する知識が豊富ですからねえ。話し相手として成り立つのはフードのキャスターさんや長剣のアサシンさんくらいなのではないかい?」
「そうだな。あとは、小さな技術責任者と頻りに話をしておる。『俺の、俺たちのカルデアは少しでも多くのサーヴァントに幸せになって欲しい』と常日頃言っているそうだぞ。お、ここに座るぞ」
「へー、随分と思いやりのあるマスターで。じゃあ、以前オレたちに『他に面子がいないからしょうがないんだけどさ、クエスト帰還に関するペアアシストは君たちでやって』って言ったことも『別世界の縁』ってことですかい? どーにも回りくどいですねえ、説明してくれればいいのに。はいはい、そこですね」
話が佳境に迫ったところで食堂に到着。流れるように同じテーブルについて話を続ける。
「余にも、別世界の記憶が残っておる。ここにはいないが、あの赤ランサーとは共に歌を競い合ったし、キャス狐に対しては何とも言えない因縁を感じる。お主も......戦った記憶がある」
「メルトリリスとかは、オレたちと面識あるメンバーの中のお気に入りみたいですがねえ。して、そういう暗黙の了解を確認した上でオタクはどうしたいんです?」
ロビンにとって、目の前にいる皇帝はかつての宿敵に似た何か。他のサーヴァントよりは距離が近いかもしれないがそこまで親しい気はしない。
「余と、もう少し仲良くならぬか? 別世界では意志思想まで真逆であったが、だからこそ生み出せるものもある上に今は味方だ。奏者が軽く心配していたのだよ、軽い気持ちでペアにしてしまったが連携は大丈夫かとな」
「さあ、一応オタクとは上手くやっている気はしますけどねえ。あまり賛成しながら動く事は出来ませんですが、嫌いって訳でもないですし」
なあなあと受け答えする彼には、どうにも本心が見えてこない。やはり、ネロに対しては思う所があるのだろうか。
「正直に問おう。余といるのは苦痛か? 周回も特異点も異聞帯も奏者に選ばれ伝承結晶も強化クエストも幕間も遂行された余は妬ましいか? 聖杯も貰っていないのに絆がカンストしそうな余を嘲笑うか!?」
そして、徐々にネロの感情が爆発していく。食堂の喧騒から考えればまだ小さいレベルではあるが、このままでは魔力暴走も起こしかねない。
「一度、場所を変えましょう。愚痴や不安はそこで聞きますから」
手元にある夕食を置き去りにして、二人はトレーニングルームの一角へと移った。
「......なるほど。最近周りのサーヴァントからの目が冷たい。マスターも、最近クエストに呼んでくれない。完全に自分が用済みになってしまい今まで人脈をろくに築けていないから今後が不安だと」
「う、うむ。恥ずかしい話ではあるが、今まで余はクエスト出陣ばかりしており人間関係に一切手を付けていないのだ」
話を聞いた結果、これである。仕事一筋だった男が、定年後に虚無感に襲われるようなものだろう。しかし、これがカルデアでも起こるとは、ロビンも予想外だ。
「......それなら、今からやればいいんじゃないですか?」
タバコを吹かしながら、ロビンは答える。
「何やかんや、オタクは皆から愛されるものを持っています。それを活かして明るく、正しく接していればそのうち周りに人が集まると思いますよ」
「そうか? では、お主も余と仲良くしてくれるのか?」
蹲っているこの可愛い暴君は、顔だけ挙げて弓兵を見る。
「ま、お相手できる範囲で良ければ良いですよ。オタクも一人の女性なんです、失礼をしてはいけませんからね」
ロビンフットはここ一番の笑顔を見せる。
「......感謝するぞ。縁のある緑の弓兵よ」
ネロは、カルデアに来て初めての表情をロビンに見せた。重い鎧を脱ぎ捨てた、ひ弱な少女のように......
私個人としては、「惚れたきっかけ」というものを結構大事にするタイプではあります。なんというか、軽率な惚れた腫れたは気持ち悪いと思ってしまうので。出来るだけ丁寧に描いているつもりではありますが、それでも描写が少なかったら申し訳ありません。
感想・評価、心よりお待ち申し上げます。
里見レイ
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