連載休止 僕たちのカルデア アスクレピオスと女の病 作:里見レイ
その後すぐ、ロビンフットとジャック・ザ・リッパーはトレーニングルームへやって来た。アスクレピオスとネロの会話は全部聞いていたので、すぐ対応してくれたのだ。
他にも、マシュとレオナルド・ダ・ヴィンチも緊急事態に備え駆け付けてくれた。勿論、ジークとジャンヌダルク・オルタ(水着)も駆け付けた。
「......このドロドロラブゲームが終演をすれば、他の皆さんもドンドンくっつくはず! もどかしい両片思いとか水面下でけん制し合う三角関係はもうお腹一杯ですからね」
「マシュ、少し深呼吸しようか。私達の仕事は、あくまで緊急事態の時だからね」
武器を構えるカルデアの主力二人。やはり、ロビンフットの妻はカルデア全体から見ても注目されている。
「......まあ、ようやく決着がつくと言うのなら見届けてやりましょ。ただし、あたしたちの結婚式の方が先だからね! そこは絶対よ」
「ジャンヌ、そこはどちらでも良いのではないか? 結婚式の順番くらいで俺の想いは変わらないぞ」
「~~~~~」
そして、残りの二人はもう勝手に仲良くして欲しいレベルだ。もはや、アスクレピオスが何かメスを入れる必要すらない。という訳で、今はこちらのオペに集中である。
「......それじゃあ、改めてルールを説明する。ネロ、ジャックの両名はそれぞれ一時間ほどシミュレーターの中でロビンフットとデートをして貰う。その中でなら、洗脳などの強行手段以外何をして良い。だが、念のためロビンフットの胸元に盗聴機を付けさせて貰う。その後に一時間の思考時間をロビンには設け、このメンバー全員の前で誰と結婚するか宣言して貰う。勿論、他に意中の者がいるのなら構わない。この場での彼の意思表明を基に、僕たちが結婚式の準備に取り掛かる。これでいいな?」
「ここまでお膳して頂いたんです。それに従いますよ」
電子タバコを一息吸って、ロビンフットは答える。その何とも言えない面持ちは、一体何なのか。
「......弓兵に全て委ねる」
「義賊さんが納得しているなら、信じるだけだよ」
ネロ、ジャック両名も一応の合意は貰えた。あとは、見守るだけである。
「それじゃあ、まずはネロ・クラウディウスが行ってくれ。時間になったら盗聴器にあるアラームを鳴らして知らせるから、それまでは気ままに過ごしてくれ」
「う、うむ」
「了解しましたよ」
武器をしまったネロと盗聴器を取り付けたロビンフット。そのままトレーニングルームからシミュレーターの直通通路を通って行った。
「さて、ロビンフットから拾われる音声はこのマイクに繋いである。皆で聞いてみようじゃないか」
「......そうだな」
一同がマイクの傍に集まって、スイッチがオンになった。ジャックが震えながら聞いている事については、もはや言うまでもないだろう。
「......弓兵」
「何ですかい?」
「余がお主に惚れた理由は沢山ある。ありのままの余を受け入れてくれる事や、悩んだ時も余の個性を尊重した助言をしくれる事。何より、どんな時も余の事を見捨てずに色々と手を貸してくれた事。都合の良い召使などとは思って居らん。むしろ、夫婦に近い感覚で甘えていた。もし、それが負担だったたとしたら謝罪する」
「別に、今に始まった事でもないですし私が世話焼き気質である部分もあるので一切困ってないですよ。夫婦になったとしても、どーせ妻の我儘に付き合って色々と世話を焼くでしょうし」
シミュレーター内部の林をのんびりと歩く二人。手が触れ合わない微妙な距離感を保ちながら、当てもなくフラフラとしていた。
「お主のお陰で、余は奏者とお供に前線で戦い続けることが出来た。即ち、余が『功労者』として今カルデアにいられるのはお主あってこそなのだ。だから、そのお礼も兼ねて余の伴侶となって欲しい。今回の騒ぎで、余の立場に不満を持つ者は出てくるだろう。しかし、それも余は甘んじて受けるつもりだ。お主がいれば、そんな声など一切気にも留めぬ。だから、余の隣にいてくれないか?」
「......」
「余は、お主にとってやはり負担か?」
「......」
「弓兵?」
「負担だったら、私はとっくにジャックと結婚してますよ。迷っているからこそ、今ここにいるんですから」
行き止まりだ。一応、ここにベンチがある。二人は無言で座る。
「何で迷っておるのだ? 負担でなければ教えてくれ」
「......単純な話です。お二人とも魅力的であるって事だけですから。それに、結婚ってイメージが湧かないからどちらをお嫁さんにするべきか分からないだけですよ」
「そうか。なら、余にするのを勧めるぞ。余は結婚の経験があるから『良き妻』というものを良く理解している。例えお主が結婚生活において落ち度があったとしても助けられるぞ」
ベンチに座ってすぐ、ネロはロビンとの距離を詰めて彼の肩に寄り掛かった。「正しい夫婦のイチャイチャの仕方選手権」があれば高得点を狙えそうな仕草である。
「あとは、純粋にお主は余かあの暗殺者に『恋愛感情』というものは持っているのか? このままだと、結婚が形だけになって結果として離婚もありうるのだが......」
「......」
「これは、正直に答えて欲しい。どんな言葉でも、余は否定しないから」
ネロはこのままロビンの膝の上に乗っかって顔を近づける。
「......持ってますよ。そりゃあ」
ロビンがついに動いた。近寄せてきたネロの顔の後ろに手を回し、そのまま己の胸元へと引き寄せた。
「あんたら二人のどちらも魅力的で迷ってるんですよ。こんだけ一緒にいれば情も沸きますよ」
「......つまり、暗殺者がいなければお主はすんなり余と祝言を挙げていたのか?」
「......可能性は高かったかもしれませんね。正直、彼女が来るまではあんたと一緒になっても良いとは思っていたんでね。まあ、今振り返ればの話ですけど」
「!!?」
一時の沈黙。しかし、ネロの体は物凄く震えている。そして、ロビンの動きは一切分からない。
「......ろ、ロビン」
「何ですかい?」
「これからは、お主の事は名前で呼んで良いか? 例え夫婦になろうとならずとも、お主に少しだけ愛して貰ったという証として、せめて呼び方を変えたい。お主も、ネロっと呼んでくれ」
ロビンに体を預けながらネロは儚げに言った。もはや、皇帝としての面影は一切ない。
「......構わないですよ。それで良いのなら」
「感謝するぞ、余の愛おしいロビン。愛しているからな......」
「......その愛、有難く受け取らせて貰いますよ。あんたといた時間は、凄く楽しかったですよ」
このまま、何もせずに時間は過ぎていった。言葉がいらないというよりは、言葉すらも二人の間に挟みたくないという願いと想いが形になった故だろうか。沈黙こそが、二人の愛の現れだ。
「......皇帝さんと話してた内容は、全部聞いていた。苦しかったけど、嬉しかった」
その後、ロビンはジャック・ザ・リッパーとシミュレーターの中を巡っていた。その手はしっかりと繋がれており、身長差がしっかりあれど傍から見れば夫婦に見える。
「私たちの事もちゃんと愛してくれるって分かったから。例え、結婚できなかったとしてもその事実が私たちの心を温めてくれる。それだけで少し嬉しかった」
「......そうですかい。それは良かった」
ネロの場合と違い、ジャックはシミュレーター内を縦横無尽に歩き回っていた。変化する風景を見ながら、ただ徒然なるままにウロウロする、それだけでも彼女は幸せだった。
「......私たちの出来ることは義賊さんを愛する事と守る事だけ。だけど、それだったら誰にも負けない。私たちはカルデアでの立場も責任もない。だから、全てを投げ出すことが出来るんだよ」
心の中で研ぎ続けた愛のナイフは、もう想い人の心臓の側にまで届いていた。そうでもなければ、彼の口から両名を愛しているといった発言はなかった。
「......それは、嬉しいかもしれないな。誰かの為にをモットーにこのカルデアで過ごしてた俺にとって、命を懸けて守ってくれるという言葉は何よりも心の支えになる。オタクと夫婦になれば、その幸せを噛み締める生活を送れるのかもな」
「そうだよ。権力を持つ人は責任や仕事が多い。そんな苦労がなく『中流としての幸せ』を味わえるのは皇帝さんではなく私たち。元々、ここでは誰もが立場に関わらず最低限以上の生活と設備が保証されてる。だったら、私たちと一緒に静かでゆっくりとした日常が待ってるよ」
握った手は幼いながらも強かった。
「......サーヴァントである以上、ゆっくりとした日常なんて夢のまた夢かと思った。しかし、その夢を叶えるのもありなのかもしれないな」
ロビンの静かな返事。求婚を受けた時のアスクレピオスと感じが似ている。
「愛してるよ。そして、私たちはどんな立場でも貴方を支えると誓うわ。どうせ、私たちはクエストの出番も少ないから、その時間をぜーんぶ義賊さんにあげちゃうね」
「......せめて、結婚しない場合は自分の為に時間を使って欲しい。そうじゃないと、オタクがいつまで経っても自由になれないんだからよ」
チラリと彼女の顔を見る。若干影がかかっていてよく分からないが、並々ならぬ覚悟は感じる。
「......ここに来てお友達は増えたけど、それも義賊さんのお陰。この恩も、愛も、一生をかけて返したいの」
直後、ジャックは暗殺者の身のこなしでロビンを押し倒す。今も昔も、彼女の愛情表現はこれなのだ。
「私たちは、これから義賊さんの事を旦那様って呼びたいの。結婚して、貴方とずっと愛し合っていたい。選んで貰えなかったら諦めるけど、出来れば私たちだけを愛して欲しいの」
ナイフは、今回しまっている。その代わり、顔が既にロビンの首元に埋まっている。
「......ジャック。何か、すまんな。俺のせいでこんなに苦しい面をさせて」
「いいの。この苦しみが大きいほど、私たちの愛が大きいということだから。この先も、例え離れ離れになったとしても心の中に残る大事な苦しみだから」
「......幸せに、なって欲しいんだけどねえ」
そのまま、時間は過ぎていった。子供を寝かしつける父親のように見えたし、昼寝をしている夫婦にも見える。結局、二人の愛の形は外野からは一切分からないのかもしれない。
「......アスクレピオス、どうだい? ロビンはどっちを選ぶと思う?」
「さあ、僕からは何も言えないな。彼の思い描く『夫婦』において二人の内どちらの方がよいかだからな」
ダ・ヴィンチの問いに、医者はこう答えた。自分の立場を理解しているが故に、深く干渉は出来ない様子だ。
「......一時間後が楽しみですね。これで一区切りがつけばもう裏で情報収集や尻拭いをしなくて済むと考えると本当に本当に」
そして、息子の結婚を喜ぶ母親の如しマシュ・キリエライト。立場がもはやサーヴァントではなく一人の職員のようであった。
「......ジーク」
「......そうだな。とりあえず、俺たちは見守ろう。だけど、願わくば皆笑った結論が良いが」
マイクの右側に胡坐になって構えるジークと、彼の後ろから腕を回して寄り掛かるジャンヌ。確かに、誰もが二人のような幸せを掴んで欲しいものだが、果たして。
「......ロビン、ちゃんと後悔ないようにな」
最後に呟いたアスクレピオス。この言葉こそ結婚の真理ではあるが、いったいどれ程の人物が無事にたどり着けるのか。サンプル数が圧倒的に少ないカルデアでは、検証のしようがないが......
進み始めたトロッコ列車は、止まることを知らない。間もなく訪れる分岐スイッチをどう動かすのか、その線路の先に何があるのか、誰も知らないその夫婦それぞれの未知なる領域である。
最近、オリジナルを連載したいなあと(場所の候補はなろうです)考えてます。
こっちも続けながらですが、正直リアルが読めなくて不安定ですね。
それでは。
里見レイ
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