連載休止 僕たちのカルデア アスクレピオスと女の病   作:里見レイ

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重さが増した聞き込み

 その後、ロビンフットは自室に籠った。一時間後にここに居るメンバーへ「誰と結婚するか」を公表することになる。勿論「結婚しない」という選択も彼には存在するが、今までの彼の発言を見ているとネロ・クラウディウスかジャック・ザ・リッパーのどちらかとは結婚するようだ。

 

「......さてと、僕はこの時間の間どうしようか」

 

 トレーニングルームに残っているアスクレピオスは、軽く伸びをして一息ついた。周りには、まだダ・ヴィンチとマシュも残っている。ジークとジャンヌダルク・オルタ(水着)はそのまま食堂へ移動し、ネロ・ジャックの両名は誰にも行き先を消えずにこの場を離れていった。まあ、ロビンの部屋に向かうのは事実上ルール違反になる為そこには行っていない訳だが。

 

「連絡、とってみるか」

 

 通信機を使って、厨房へ音声を飛ばす。時間帯から考えて、そろそろ夕飯の準備がひと段落する頃だろう。

 

「アスクレピオスだ。そっちはどうだ?」

 

『うん、アサシン・パライソは一週間の謹慎になったよ。結局、被害者であるパラケルススが必死に弁護して彼も謹慎することで周りが納得したからね』

 

 互いに離れている数時間の密度が濃かったせいか、若干疲れたように聞こえる夫婦の通話。結婚と同時に、二人のカルデア内での重要度が増したのは一種の「幸せ税」なのかと疑うレベルである。

 

「とりあえず、こっちはロビンが最後の考察時間に入った。嫁候補の二人は自由行動に入った。多分、相当消耗しているだろうから多少の我儘は受け流さないとな......」

 

『......静かにしてほしいけどね。その後も大変になる訳だし』

 

「そうだな。それじゃあ、僕は二人の様子でも探ってくる。そっちも無理しないようにな」

 

『うん。ありがと』

 

 通信を切って、アスクレピオスはトレーニングルームを後にした。そのまま管制室あたりに向かおうとした矢先のことである。

 

「相変わらず、医師殿は気苦労が絶えないようだな。それもまた、色恋を納めた(おのこ)の宿命か」

 

「......気配を消していた、訳ではないよな。というか、流石に復帰していたのか」

 

「まあ、あれから時間がかなり経過したからな。中の会話は一切聞こえていないから安心してよいぞ」

 

 トレーニングルーム監督官、佐々木小次郎である。そういえば、ネロがこの部屋で暴走を起こしたときに部屋の外で倒れていた。

 

「お前も、かなり損な役回りではないのか。急にキャスター宝具を受けてはきつかっただろ?」

 

「なあに、心配無用だ。最近は出撃機会も減って警戒心が薄まっていただけ、己の油断なのだからな」

 

「......そうか。ただ単に、お前が回避スキルを使っても無敵貫通の宝具によって無意味になっただけだろ」

 

「......皆まで言うな。あの幼きアサシンは図書館に向かうと言っていたぞ」

 

 小次郎は、若干気分が落ちた様子。情報と引き換えに会話の終了を提案してきた。

 

「分かった。それじゃあ、仕事をしますかね」

 

 提案を受理したアスクレピオス、念のため手元にあった回復薬を置いて今度こそトレーニングルームを去った。

 

「......あんたもお人よしだよね。宝具発動まで時間のかかるキャスターに対して防御態勢を取り、そのまま倒されることで多少なりとも暴走の具合を緩和させるなんて。返り討ちにして残りの処理をマスター達へ投げやりにすることだって出来たはずなのに」

 

 物陰からマルタが顔を出す。いつからか不明だが、恐らく彼にヒールをかけたのだろう。

 

「下手に思いを封じ込めるのは愚策であるからな。自然の摂理に従うが如く身を委ねたまでの事よ」

 

「はいはい。ウチの初聖杯サーヴァント様は心の余裕が違いますこと。あんなにボロボロでヒールにかなり時間がかかったのに、それらを完全に水に流すだなんて。昔景虎に頼まれた約束事まだ守っているつもり?」

 

「......単なる気まぐれという事にしておいてくれまいか」

 

「はいはい」

 

 こうして、二人は食堂へ向かうのだった。全てを見た上で見て見ぬふりをしたサーヴァントとは、影そのものなのかもしれない。

 

 

「アスクレピオスだ。ジャック・ザ・リッパーはいるか?」

 

「あら、いらっしゃいお医者様。彼女なら奥にいるわ」

 

 本日も、元気な声で出向かえてくれた図書館司書ナーサリーライム。しかし、彼女もまた己の伴侶を求め一喜一憂している身。内心は穏やかではないだろう。

 

「......近い内に、パラケルススとの面会を設ける。それまでに言いたいことをまとめておいてくれ」

 

「!? わ、分かったわ」

 

 軽く言い残すと、彼はそのまま奥へと向かった。具体的な場所については把握していないが、まあ何とかなるだろう。

 そう考えていると、意外と近くにその少女はいた。読み漁っているのは、イギリスの歴史書だ。

 

「......イギリスが君たちを繋ぐ縁だと考えているのか?」

 

「そうではないけど、少しでも不安を取り除きたいし万が一を考えると少しでもあの人との繋がりを求めちゃう。だから、私たちにとってこの一時間は不安以外のの感情を持てないの......」

 

「まあ、不安が限界を迎えたらこれを飲むといい。少しは気持ちを落ち着かせられると思うぞ」

 

「......ありがと。そのお薬に頼らなくていい女にならないとだけど」

 

 大した会話はしていない。しかし、状況把握には十分だ。アスクレピオスは次の仕事の為早々と立ち去る。

 

「ありがとうな、ナーサリーライム。あと、もしも彼女に万が一があったとしたら連絡を頼む」

 

「分かったわ。あと、あの人に伝言をお願い。一緒に暮らしませんかって」

 

「了解した」

 

 返事も簡潔に。さて、皇帝は何処にいるのか探さなければならない。

 

「ま、待ってお医者様! 一つ聞いて良いかしら?」

 

 しかし、彼女は呼び止めた。蚊帳の外では、終わりたくないという強い意志が見える。

 

「私たちの想いは本物なの。裏切りだろうが、罪悪感だろうが。私たちはあの人のすべてを受け入れるつもりよ。だけど、あの人は私たちを見てくれるのか。視界に入れてくれるのかが不安なの」

 

「......」

 

「面会の日を楽しみにしているわ。私たちは、もうあの人しか見えないから」

 

「......了解した。それじゃあ」

 

 無理な返事は出来ないアスクレピオスは、そのまま無難な返しをして図書館を立ち去った。

 

「これは、いろんな意味で厄介な話になりそうだなあ」

 

 彼のつぶやきは、錬金術師を取り巻く恋愛模様が収束へ向かわないことを示している。いや、むしろ拡散されているのかもしれない。しかし、当面は関われないだろう。調整に入らねばならないのだから。

 

 

 

「......恐らく、この調子だとここにいるのかなあ」

 

 こうしてアスクレピオスが訪れたのは、とある個室。使っているサーヴァントは、アサシンだ。

 

「アスクレピオスだ。ネロ・クラウディウスはいるか?」

 

「......おるぞ」

 

 返事があった。まあ、予想通りだから驚きはしない。

 

「様子を見に来た。お前の事だから、万が一の為に備えて最終策の強行作戦でも練っているのかと思ってな」

 

「......間違ってはいるが、遠からずだな。入ってこい」

 

 言われたままに、ドアを開ける。そこには、椅子にドッカリと座ったネロと蹲ったアサシン・パライソの姿があった。

 

「......で、結局君たちはまだカルデアで暴れるつもりなのか?」

 

 正直な話、彼はもはや彼女らに対して相当疲れている。結論はどうであれ、二人が静かに行動を起こしていればここまで面倒な事態には発展していなかったはずなのだ。

 

「余は、もうそんな気力はない。弓兵と祝言を挙げられなかったら、カルデアの功労者として静かに余生を送るつもりであるからな。その準備についても、今話しておったのだ」

 

「拙者は、まだ分かりませぬ。あのお方の伴侶になれるのか五里霧中な上に色々と後処理が面倒かと思われますので、その時にどう感じるか次第でしょうか?」

 

 しかし、彼女らも相当に疲れているようだった。まるで、自分たちが作り出した大波が思いもよらぬ方向へ進路を変えてしまったかのように。

 

「......アサシン・パライソ、一つ聞きたいことがある。お前は、ネロ以外に万が一のための協力者を用意していたのか?」

 

 アスクレピオスは、それでも動かなければならない。ずっと前からこびりついた違和感をぬぐい取る為にも、この行動はネロの目の前で執り行う必要があった。

 

「......何故、そのような事をお聞きになるのでしょう?」

 

「まあ、理由は色々ある訳だが一番はあれだな。レイシフトシャッフルの時だ」

 

 彼はゆっくりと説明をする。あまり確証はない様子だが、何か思う節があるようだ。

 

「あの時、オルレアンで僕が見たのはネロ、ジャック、ロビンの三人でこちらから来た僕と船長で合計5人のはずだった。しかし、帰還の時にダ・ヴィンチは『6人帰す』と言ったんだ。僕がレイシフトする時には詳細な人数は不明だったけど、とりあえずそこに違和感があったんだ」

 

「......」

 

「で、結局あれよあれよと君たちが騒動を起こしたから考える暇がなかったわけだが。僕らが君たちの動き意を予想した瞬間に先手を打たれた訳だし。情報提供してくれる仲間がいたのかなあって思ってね」

 

「......知ったら、貴方は後悔しますよ」

 

 パライソは、未だにテンションが低い。しかし、何か本質を突かれた為に必死に守りたそうなオーラもする。

 

「......そっか。じゃあ、あとは本人に軽く事情を聞くとするよ」

 

 これで全てを察したのか、アスクレピオスは踵を返した。

 

「ネロ、とりあえずロビンから発表があるまで静かにしていれば、その後の話についてもある程度協力しよう。君がカルデアにどれほど貢献したのかは、火を見るよりも明らかなんだからな」

 

 そして、言うべきことを言ってパライソの部屋を後にした。アスクレピオスの仕事は概ね終了である。

 

「......信じているからな」

 

 そう呟いた時の彼の表情が、ここ最近の中で一番不安定だったという事実を知る者は誰もいないのだった。




そろそろ、第二部も真相部分に入りそうです。多分。

里見レイ

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