連載休止 僕たちのカルデア アスクレピオスと女の病 作:里見レイ
「まず、俺が今回の騒動を知った経緯から話すぞ。本人からしちゃあ些細な情報も必要になって来るかもだからな」
さてさて、ここは「アルゴー号ゆかりの者」特性持ちのみが出入りできる所謂「VIP室」だ。イアソンがメディアに関わる事以外で密談がある時に使用することが多い。
「船長、とりあえず全体の概要も細かくは聞く。ただ、先に結論を教えてくれ。僕は未だに状況の大まかな把握すら出来ていない状態なんだ」
そして、当のアスクレピオス。有能だが若干慌て気味なイアソンを軽く落ち着かせつつ話を促した。
「そうだったな。では、教えるぞ」
イアソンは軽く咳払いをして息を整える。
「結論から言うとだな。長尾景虎がお前へプロポーズをしたと噂になっている」
「?」
「......」
一瞬だが部屋の空気が凍る。視線をそらすアスクレピオスと頭を抱えるイアソン。
「説明を、お前の言いたいように行ってくれ。恐らくそれで何とかなる」
「わ、分かった」
こうして、イアソンによる懇切丁寧な説明が始まった。
「まず、この話題を持ってきたのはキャスターアルトリア、ジーク、ナーサリー・ライムの三人だ。景虎がお前に当てて書いたというプロポーズ文書を持ってきたんだ。で、その時食堂にいたのが恋バナが好きな清姫とかだった。まあ、この話は景虎本人に確認すればここまで大騒ぎにはなってなかったんだよなあ」
「ん? 今回の騒ぎ、そのプロポーズ関連で噂が凄いことになっているだけではないのか? いや、噂が立っている時点で厄介なことは確かなんだが」
「あ、その件に関してはこれからの話を聞けばわかる。あれだけ食堂が大騒ぎだったのはもう少し理由があってだなあ......」
イアソンの苦笑いレベルが上がる。しかし、彼の背中に流れる汗の量から既に事態はとんでもないことに進展していることが伺える。一息ついて、遂に騒動の根幹を話し始める。
「実はなあ......」
時間は、キャスター三人衆が食堂で一通り景虎の手紙を興奮気味に読み上げ終わった地点まで遡る。
「まあまあ! あの景虎さんがこんなにお熱い文をお書きになるなんて!」
真っ先に反応したのは清姫。自身も熱烈な愛を持っているせいか食いつきが非常に良い。
「こ、ここではサーヴァント同士が婚姻を新しくすることがあるのか? 如何せん、私はカルデアに来てからの日が浅くてよく知っていないのだが」
ラクシュミーが続いてこの反応。清姫やナーサリーと比べると経歴の上ではド新人である。
「今のところは無いわね。けど、あの温厚で規則に縛られない私のマスターなら容認してくださると思うわ」
シグルドやブリュンヒルデ、クレオパトラにセミラミスに天草と、この手の話題になりそうなサーヴァントはこのカルデアにはいない。久々の恋バナに清姫は更にトークを加速させる。
「......清姫。俺たちは何もそこまでは考えていない。とりあえず、この手紙を読んでしまった以上どうすればと考えて無意識に足が向いてしまった訳で」
おいジーク、言い訳が完全にゴシップ大好きマダムそのものだぞ。
「ま、とにかく。長尾景虎及びアスクレピオスに直接連絡を取らないといけないな。これは二人の問題になるわけだから」
厨房で夕飯の支度をしているエミヤが事の次第を整理する。彼もまだカルデアに来て日は浅いがサーヴァント歴は長いのでしっかりと頼られるコックだ。
「はーい、お疲れ様です!」
と、ここで大勢のサーヴァントが厨房になだれ込む。先ほど管制室で実験をしていた研究職の者たちだ。
「あのう。景虎さんとアスクレピオスさんが何処にいらっしゃるかご存知でしょうか?」
キャストリア、事態の発起人である故に収束に向けて真っ先に行動をとる。
「ん? アスクレピオスなら今は医務室に戻っていると思うぞ。こいつらの治療を一通り終えた訳だからな」
はい、ここでイアソンの登場。彼は例の実験で駆り出されていた万能スタッフだったのだ。
「景虎は多分自室だな。先ほど、私と共にトレーニングルームを後にしたからな」
アタランテの付けたし。ここに来る途中でイアソン達と合流した。
「そうですか。ありがとうございます」
ペコリとお辞儀をしたキャストリア。居場所を把握しすぐに向かおうとする。が、彼女の足を止める衝撃的な言葉が放たれた。
「そういえば、聞いてくださいな! ここだけの話なんですけどね。景虎さんがアスクレピオスさんにプロポーズするようなんですよ!」
はい、清姫はまだ興奮が収まっていなかった。
「......事の顛末が終わるまでは、どうか内密に頼む。二人にも事情があるはずだ」
即座にフォローに回るエミヤ。流石の対応と言えよう。
「お、おう。何か色々大変そうだな。まあ、俺はその話は聞かなかったことにするぞ」
「そうだな。他の者の恋路に口を出すのは良くない」
納得するイアソンとアタランテ。しかーし
「え、アスクレピオスが景虎さんに? ちょっと違くないですか?」
イアソンの隣からひょっこりと顔を出した魔法少女。メディア・リリィだ。
「お、おい。待てメディア」
「今ここでそれを言っては......」
船団の二人が慌てだす。少し後ろに居る若奥様はもう息をしているかも怪しいレベルだ。
「だってー」
キョトンとしか顔で話を続ける幼いころの若奥様。
「アスクレピオスはブーディカさんと結婚するのではないのです?」
メディア・リリィよ。お前は冷却魔法でも使ったのか。アルゴノーツの面々はもうこの世とは思えない顔をしているし、他のサーヴァント達も動揺を隠せていないぞ。
「まあ!! それはまた面白、じゃなくて大変なことになりましたね! 彼はどちらを選ぶのかしら?」
そして、その静寂を破ったのが清姫のこれである。
『......あんdhhぢえへうrごえsじょf!』
はい、混沌。議論、動揺、不安などが入り混じり食堂が人数のわりにとんでもない喧噪具合となった。そして、騒がしいから様子見に来た他のサーヴァントも釣られて噂にのめり込む。更には噂が尾ひれを付けて泳ぎ出しあることないこと話され出して現在に至るのだ。
「軽く聞き耳を立てたところ、お前が二股どころか五股だって噂も一瞬だが浮上した。あの戦場にお前を放置してたら命の危機もあったかもしれん」
なるほど。イアソンが色々慌てていたのは大戦犯の一人が超身内だからという事だろう。まあ、カルデア単位で言えばイアソンとアスクレピオスも身内なので結局身内の大戦犯をこの医者は喰らった訳になるが。
「なーるほどな。なんか、色んな要素が絡み合った結果のようだな」
ようやく事態の深刻具合を把握したアスクレピオス、大きなため息をつく。
「とりあえず、僕と同じく噂の渦中にある二人の現状は分かるのかい?」
「まだだ。だが、安心しろ。俺がマスターから借りパクしている『個別通信機』の『緊急通信専用事前位置把握機能』を使って二人への隠密な道順を案内できる」
そう言ってイアソンは、この部屋にある道具入れから古めかしいディスプレイを取り出した。
「あと、これ。ステルス機能搭載のマント。これで万が一があっても誰かに見つかることはないだろうよ」
「......イアソン。お前はクエストがない時何をして過ごしてるんだ?」
「別に。ただ、あっちこっちをフラフラして色々作ったり貰ったり聞いたりしているだけだぞ」
キョトンと医者の質問に返答する船長。
この男は己の立場をフルに活用して自由に楽しくカルデアライフを送っているようだ。
「流石、高難易度などで集められる僕たち『選抜組』に加えて100レベにまでステータスを与えられる『上級聖杯組』は立場が違うなあ。こいつはカルデアでようやく王族らしいことが出来るようになったのかもしいれないなあ......」
部屋を出る時ボソッと言ったこの独り言は、どうやらイアソンにも聞こえていたらしい。なぜなら、後日イアソンはアスクレピオスに対して『カルデアでの過ごし方 選ばれし者の悠々自適な生活』というとんでもない著書をサイン付きで渡してきたからである。
補足説明しますと、うちのカルデアのイアソンは聖杯10個を貰っています。更に私が趣味で「アルゴノーツ縛り」とかもするのでそこのスタメンです。なので、イアソンの事だからカルデアで好き勝手やっているんだろうなあと思い本ストーリーでの「ギャルゲでいうサポート友人キャラ」という形になりました。
いつか彼が主役のストーリーも描きたいですね。
里見レイ
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