一人だと楽しいけど、二人だともっと楽しい。
そう考えると人生はチームプレイなのか…?
だとすると俺は社会の中で二軍かもしれない…。
でも大丈夫、セーフセーフ。俺アタッカーだからソロでも行けるから。ていうか、孤高の方がかっこよくね。群れるよりさ。
別に友達がいないとかじゃねぇから。
………………はぁ(糞でか溜め息)
適当な妄想で落ち込むってアホすぎないか、俺?
By 日浦求
現代社会において最強であることは一種のステータスであって、誰しもが憧れ必要とするような要素ではない。
現代社会は資本社会だ。学生である自分はその言葉の意味を正しく理解しているわけではないが、これだけは分かる。現代は最強であることよりも富豪であることの方が敬われると。
いや、待て待て。そんなことがあっていいのか?
例えば、今から町中にゾンビが溢れ人々の命が危険に晒されるとしよう。そうしたときに必要なのはやはり強さだろう。貨幣の価値は互いにそれが通用する社会であると認識していることで発揮される。サバイバルな状況になれば諭吉なんてただのティッシュになりさがる。その点、最強であればどんな状況においても生き残れる可能性が高い。ゾンビなんぞ蹴散らして、欲しいものがあったら奪い取る。なんて気分がいいんだ。
しかし、それはやはり妄想の世界だ。目を覚ませ。現実を見ろ。くそっ、ゾンビなんていやしないんだ。校庭に現れるのはよくて得体の知れないワンコだけ。そいつの牙は狂犬病をもたらしはするかもしれないが、この社会を噛み砕いてくれはしない。
平和な日常の中で、最強であることが日の目を見ることはほとんどないのか?
まったく無いということはないだろう。格闘技において最強であるならば、全武術大会優勝なんてことも夢じゃない。そうして手にいれる富、名声、女。くっくっく、いい気分だぜ。
真に最強であれば、国家さえも敵わない。ありとあらゆる望むものを暴力で手に入れられる。そうすればオレが惨めな思いをすることもなくなる。
暴力で手に入れたとしてそれは幸せなのか?
おいおいおいおいおいおいおい。何を考えてる、オレ。急に冷めるな。もっとオレに夢を見させろよ。まぁ、確かに? 暴力で人を従わせたその日から、どんなに強かろうとオレは世間から屑野郎と認定されることは間違いないだろうが? なんだったら危険人物扱いされてありとあらゆる人から嫌われるかもしれないが? そんなことはどうだっていいじゃないか。だって最強なんだぞ。
最強、最強か。武術大会ねぇ。
大会で優勝するって言ったって。オリンピックにでも出るつもりか? それに出て勝ったところで、社長よりも稼げるのか? 格闘家の年収が最高いくらかなんて知らないが、大企業の社長より稼げるとは思えない。
だいたい、最強ってなんだ?
…ありとあらゆる力に勝つとか? …不死身とか?
不死身って、政府の研究組織に捕らえられて実験台にされるってのがよくあるオチだよなぁ。
政府の拘束すら無力化できるほどの強さって、やっぱりばれたら周りのやつらから腫れ物扱いされそうだよなぁ。怯えられるのも嫌だしなぁ。
って考えると最強ってそんなにいいものとは思えないな。
幸せになるのが結局一番だもんなー。
いや、でもある日いきなり地球に隕石が落ちてくるかもしれないし、ある日いきなり謎の組織がオレの命を狙ってくるかもしれないし、ある日いきなり異世界に飛ばされるかもしれないじゃないか。そんなときやっぱり最強だったら役に立つだろ。みんなを助けたり、無双したりすることができるだろ?
普段は冴えないやつだけど、ピンチの時は誰より活躍するってのもなんだかカッコよくね?
何かになれるとしたら何になりたいですか?って聞かれたらオレはやっぱり最強だよ。最強になりたいんだよ。
現代社会で使えなくてもいい。普段は日の目を見なくてもいい。でも、いざというときオレは誰より役に立つ。それでいいじゃないか。それこそ至高。
「あの~、日浦くん。ちょっといいかな?」
「…はい?」
「君、明日から来なくていいから」
「………え?」
オレは不意に現実へと戻される。目の前に現れたのは前髪が後退しているメガネをかけた背丈の低いおっさんだった。ややキレ気味である。
「え、っと…、それってどういう意味で…?」
「文字通りだよ。君、クビね」
「ほぁっ!?」
首、頚、………クビ!?!? な、なんの聞き間違いだ。何を言っているんだ。待て待て待て。天才で才能溢れる有能なこのオレがクビ!?
クビとは打首を語源としており、もう使えないものを切り捨てるという意味がある…、諸説ある…。
「な、なんでですか!?」
オレが叫ぶのも当然だ。理由を教えてくれ。オレがいったい何をしたって言うんだ?
「はぁ~、分からないのか。何度も言ったと思うんだけどね。君、レジ打ちの時ぼーっと突っ立てることがあるでしょ。お客さんを無視してさ」
え~、あったかな? そんなことするやついるのか? コンビニのバイトで? 二十歳を越えて大学2年生のオレが? そんな奇天烈な行動を?
あー、視線が辛い。そんなに睨まないでくれ。分かった。悪かった。そうオレは妄想癖が強すぎるため少々記憶が飛ぶんだ。でも、それは仕方がないだろう。だってオレは世界を救わなきゃならないんだぜ? レジ打ちなんて些細なことより優先しなきゃならないことはあるだろう。救う世界は妄想の中なわけだが。
「すみませんでした! 以後気を付けます!」
オレは下手な言い訳を脳内で済ませ、口からは即座に謝罪の言葉を発した。
「それは何度も聞いた。」
だが、その言葉は店長には届かなかった。
「君さ~、もう二十歳だっけ? コンビニのレジ打ちもまともにできないなんてさ~、色々終わってるよ。」
うっ、ぐ…。この男、ゴブリンみてぇな顔してるくせに言葉の刃はオリハルコン級だ…。メガネ割りてぇ…。
「ま、もう来なくていいから。さよなら」
店長はそう言い捨てて去っていった。優しさの欠片もないぜ。くそが、なんてことだ。ここをクビになったらオレはどこでバイトしたらいいって言うんだ。一寸先は闇とはまさにこのこと。家賃が…、今月の家賃を払わないといけないっていうのに…。
「うおおおおおおおおおおおお!!! あのゴブリンのバカヤロー!!!」
「いえーーい! 言ったれ言ったれー!」
バイトをクビになって傷心のオレは、後輩の南雲と一緒にカラオケに来ていた。
アルコールは最高です。未成年飲酒は犯罪ですが、私、日浦求は二十歳です。くそが、合法じゃい。クリーンな酒じゃい。
しかし、あれ南雲って後輩だから、19か? ん、頭が回らないぞ。
「南雲、それって…、さ「いえーい! なんぼのもんじゃい。今夜は無礼講じゃーい!」
「いや、無礼講って先輩が言うもんだろ。てか、それさ「ひゅー、先輩ちょっとテンション下がってきたんじゃないすか? ささ、飲んで飲んで」
「んぐ、っぐ…」
頭が回らない。飲んだ先からビールが注がれるから器が乾かない。っていうか、溺れる。酒に溺れる。死ぬ。
「ぐはっ…」
酒から逃れるようにして、後ろにあったソファに倒れこむ。
「先輩、今日はいつになく荒れてますね~」
「そうかー?」
「はい。今だって、いっそのこと殺してくれーって感じでソファに倒れこんでますし」
それは、お前が飲ますからだろ…。と、口にしようとしたが面倒くさくなってやめた。
南雲唯。大学一年生。オレの後輩だが、どうやって知り合ったのかは覚えていない。なんだったか? オレはサークル入ってないし。バイト先で知り合ったんだったか? 誰かの紹介だったような気がしないでもないが。…とにかく気が利く後輩だ。ダメなオレをよく支えてくれる。いいやつだ。
「それにしても災難でしたね。まさか、クビになるなんて」
「白々しいぞー。どーせ、オレはダメなやつですよー」
「そんなに卑屈にならないでください。先輩は頑張ってますよ」
「そうかー? …そう言ってくれるのはお前だけだよ」
「これで何回目でしたっけ? 10回目?」
「…9回目だ」
「9回目でしたか、失礼しました。ほら8度あることは9度あるって言いますし。これはもうことわざに裏付けされた必然だったんですよ」
「言わねーだろ。てか、言ったとしてそれもう9度あったら10度もあるだろ」
「あはははは! 先輩はうまいこと言いますね」
「いや、別にうまくないけど! なに笑ってんだよ、こえーよ。てか、やっぱ酒飲んでるだろ…」
あまり明るくない部屋のなかで、南雲の顔が心なしか紅くなっているように見える。なんか、…綺麗だ。
「飲んでませんよ…! しつこいですね」
オレから少し離れた場所に座っていた南雲が立ち上がりオレの方へと詰めてくる。
「飲んで、ないですから…」
終いには仰向けのオレに覆い被さるようにして南雲がソファに手をつける。こ、これが俗に言うカベドンか…? いや、だが断じてオレはしたい側であってされたい側ではない。屈辱的に感じることはあってもドキドキすることは決してない。はずだ…。
くっ、近い…。
「な、南雲…?」
「…」
「おい、落ち着けって。なんかよく分からないけど、やっぱお前酔ってるだろ」
「…」
「南雲…?」
パタンっ、と糸が切れたようにして南雲はオレに被さった。
「お、おい。南雲…? お前、まさか…」
…すぅすぅ。
かわいらしい寝息が聞こえてきた。
寝てる。
南雲唯はどうやら完璧に寝てしまったようだ。
「人騒がせなやつだ…」
オレは仕方がなく南雲をどかそうと思い肩を掴んだ。うっ、なんかいい匂いだ。甘すぎなくてほんのり香るっていうか。なんか、うまそうな匂い。いい香水使ってるんだな…。
日浦求
大学生二年生
20歳
趣味:ネトゲ、カラオケ、読書(ラノベ)
特技:ブラインドタッチ、断食
好きなもの:かっこいいもの
嫌いなもの:高い料理
能力:???
かくしごと:???