……とりあえず、四期から見直そうかな?(^0^;)
この世界は平等じゃない。
それが齢五つにして知る社会の常識。
そんな社会で四つの誕生日の直前に個性を発現させてしまった俺は、同時に人生史上一番の絶望を知った。
「電気君」
そう俺を呼び軽やかに笑うのは父方の祖母にして俺の育ての親である沢田奈々。
父親同様に実年齢と揃わないような若々しい美貌は可愛らしく、事情を知らない相手からは良くて実母、悪ければ実姉に間違われてしまうことさえある。
違う場所に居住しているとはいえ、実際に姉がいる分、居たたまれなさは二重である。
そんな俺の内情など知らずに今日も可愛らしい様子で笑う彼女が差し出したのは一枚の封筒。
その中身は。
「入学試験の結果、来てるわよ~」
封筒上にはっきりと書かれている差出人の記載は雄英高校。
確かに先日俺が受けた志望校からだ。
俺がまだ開けていないのに受かっている事を疑っていないのか「今日はお赤飯ねー」と傍目でも分かるほどウキウキとした様子で台所で向かう彼女は脳天気なのか肝が据わっているのか。
小学校入学と同時に同居している今でも判断に迷うところだった。
雄英高校は偏差値70越えの超難関。その中でも俺が受けたヒーロー科は受験人数もべらぼうで、倍率300倍という、平々凡々どころか、ある方々からは所謂「出来損ない」と呼ばれる俺としては滅茶苦茶敷居の高すぎる所だった。
そこに何で俺が受験したかというと、簡単に言えば父親の意向である。
事情を知る相手であればその一言で済むのだが、知らない相手がいる可能性も考慮し、まずは父親の事から話しておこう。
俺の父親、沢田綱吉は世界的にも有名な
何でここまで肩書きが多いのかというと、自警団と呼ぶのはイタリアの現地住民やらボンゴレ傘下のファミリーの領域内に住む人達。
敵予備軍と呼ぶのはイタリア以外の国の政府上層部やらヒーロー含む治安維持に関わる方々。
イタリアンマフィアと呼ぶのは実際に実働などでそこに関わる内部の人間の呼称である。つまり使う人間はバラバラなのだ。
因みにそう呼ばれている父親とその周囲の人達は基本的にどういう呼ばれ方をされていても気にしていないが、実害を防ぐため、内部の情報規制はしっかりしている。
さて、そんな情報規制の一環として、とある理由……隠すことでもないので吐露すると、個性発現と同時に後継候補から外された俺は父の意向で「平凡な人生」を歩むために祖母のいる並盛へと移された。
それが小学校入学直前。
そしてそれ以来、今まで一度も接触してこなかった彼から来た要請、お願い、提案といろいろ形としては並べ立てた実質的な命令が「雄英高校ヒーロー科の入試を受けて入学してほしい」だった。
何でも彼の勘曰く「今年はいろいろヤバイ」らしいが、そんな勘が無い俺にははっきり言って全然分からない。
さてここまで言葉を並べたものの、結局の所、試験自体に受かってなければ所詮は絵に描いた餅。
たとえ命令だろうがお願いだろうがここで失格となっていればそれで済むはず……だと思いたいのだが。
(どうか落ちてますように……っ!)
普通の人ならば考えないマイナス方向を願いながら恐る恐ると開いた封筒の中身は。
『私が投影されたっ!!』
「うわぁっ!?」
条件反射でぶん投げたのは決して俺のせいだけではない。
『平和の象徴』オールマイト。
ヒーロービルチャートを一位独占し続ける不動のナンバーワンヒーローがいきなり投影された理由は、彼が来年度から雄英高校の教師となるからだそうだ。
内容がそれだけならば一つの映像をコピーして合格者分同封しているだけかと思いきや、これは合格結果発表。
自分の筆記、及び実技試験の点数を読み上げ鼓舞するように祝辞を述べるその動画は間違いなく合格者人数分、一枚一枚丁寧に撮影したものだと分かる。
(なんてサービス精神……)
流石ナンバーワンヒーローというべきか。
そこまでサービスしないとなれないものなのかと呆れるべきかは判断に迷うところである。
(いや、これ……合格者だけだよなぁ……?)
ふと、一つの可能性を思い浮かべて、なんとも言い難い表情となる。
もしこれを受験人数分……つまり不合格者にまで配布していたとしたら、最早言葉も出ないというものだろう。
半ば現実逃避のように自分に関係ない事を惰性で考えてみても現実は何も変わらない。
受かってしまったという現実があるだけだ。
「合格おめでとう」
そう告げられた俺の顔を鏡で見てみたい。
絶対に喜びよりもめんどくさいという表情をしている。
だいたいにして、祝辞を述べる彼の目的をわかりきっている以上、この前振りの後に起きること自体が俺にとってはやっかいごとに他ならないという確信があった。
「アリガトウゴザイマス。ヒバリサン」
思わず片言になってしまった俺の目はどこか遠くを見ているだろう。
その心情は分かっているだろうに、彼はどこか面白そうな顔をして俺の様子を眺めている。
対峙する相手、彼の名前は雲雀恭弥という。
この並盛において、彼を知らない相手はいないという超有名人であり、実質的な並盛の支配者である。
勿論、並盛も日本の一地域である以上、現法上の理由により、一個人が全てを掌握しているなどあり得ない。
当然、選挙制度に則って知事やら市長やらは選ばれ、国会議員も規定数選出される。
ただし、須く雲雀の許可を得た上で、という、不可視の暗黙の了解を得た上で、だか。
十代の頃より並盛を牛耳っていた彼は二十代にして風紀財団を設立。
あらゆる分野にその経済的手腕を伸ばし、今や財団自体は全国を通り超して世界を席巻している。
裏ではボンゴレファミリーの要職……本人は口にこそ出さないが守護者の一角を担っているが、ここは今は関係が無いので割愛。
そんな大物である彼と一市民……である筈の俺が何故このように面識があるのかというと、ここにも父親の影がある。
時を戻すこと小学校時代。
父親と同じく並盛小学校に入学した俺は、雲雀恭弥に目をつけられた。
(……いや、知らない人から見れば意味分からんよなぁ。これでも)
語り手の俺でも悲しくなるが、ここに一文付け加えれば、「将来性のある獲物として」目をつけられた、というべきだろう。
この雲雀さんは、内実共に認めるかなりの戦闘狂である。
個性自体は戦闘に特化したものでないはずだが、だからこそ、純粋な肉弾戦闘を彼は好む。
より正確には強個性というアドバンテージを誇る相手を肉弾戦闘のみで再起不能とすることを好む。
そんな悪癖を持つ彼をさらに強化するきっかけを作ってのは、若き日の父と当時の彼の家庭教師との出会いらしい。
掟がどうとかの理由で詳しいことは聞いてないが、そこで彼や父親は個性を使わないにも関わらず、強大な強さを誇る猛者と何人もやり合ったらしい。
因みにその経験を経て、彼が最も戦いたいと思う相手のリストの名前には常に父親の名がのるようになったようである。
それらの過程を経て、彼が辿り着いてしまった境地が「個性を持たずとも強い奴は強い」という、何とも傍迷惑な結論であり……その第一人者の子供というだけで、幼少の俺は注目株としてリストアップされてしまった。
はっきりと言えば泣いて良いと思う。
そしてさらに悲惨なことに、そんな雲雀さんに目をつけられた俺の小学生生活は浮きに浮いた。
転校生というわけでない。入学式に出席して、平々凡々と入学した筈なのに入学した直後に風紀財団に拉致されるような子供に、親がどのような反応をするか、その反応を見た子供がどのような態度をとるか……後はお察しである。
これが虐めなどに発展すれば教師やらが動いただろうが、実際は遠巻きにするだけ。
その上事情が事情なので実際の所教師達も積極的に関わりたくない。
さらに養育者の後ろ盾があのぽややんを地とする祖母である。
単に気の合う相手がいないだけで済まされてしまった。
最も、彼女のフォローとして言っておくが、ここで電気が精神的に思い詰めていれば相談ぐらいはのっていただろうが、彼は元より楽天的な性格であるのに加え、元より親しくないクラスメイトに遠巻きにされている現状を憂いるよりも、雲雀さんとの戦闘とも訓練とも言い難いやり合いに生き残る事で忙しかったというのもある。
それらの要因が重なっての小学校時代は最早語るまでもなく、散々たるものだった。
打開策として中学校は並盛や風紀財団とは無関係な場所にしようと思ったのは至極当然の結果だったが、そこで縁を切ってくれるほど、雲雀さんは甘くなかった。
(まず、中学受験の出願とか編入届にも雲雀さんの許可が必要とか思わねーじゃん……)
因みに、引越などの転居に関する手続きも同様だと知ったのはこの時であると、ここに加えておく。
当然並盛大好きであり、並中愛にあふれる雲雀はいい顔はしなかった。
しかし、こと進学においては個人の自由であるはずだし、何より雲雀は知り合いではあるだろうが、親ではない。
この時ばかりは俺も大いに戦った。
そんな様子を見かねた草壁さんがそれとなく父親の方面に根回しをしてくれたらしいと後で聞いた。
結果として、定期的に彼と戦い続けることを条件に、別の中学への進学は認めてもらえた。
(今にして思えば、あの時の根回しでこっちの存在認識されていたのかも……)
でなければ高校進学のこの時期に、こんな話が都合良くこちらに来る訳がない。
「じゃあ、始めようか」
ちゃきりと、彼が構えたのは彼の獲物として長年使われているトンファー。
それに対して掌を保護する特殊な手袋をつけているだけの俺に獲物と呼べるものはない。
トンファーに見慣れてしまった薄い炎が纏われるのを見つめながら、俺の体にも、微弱な電流が流れていく。
「楽しませてよ?」
これがいつもの日常だった。
ブラッド・オブ・ボンゴレ。別名を超直感。
それがボンゴレファミリーを継ぐための、無くてはならない要素だと言われているらしい。
「らしい」とあくまで伝聞系なのは、雲雀さんからの又聞きで、直接俺が誰かに面と向かって尋ねた訳ではないこと。雲雀さん自身も俺の後継資格云々はそこまで興味が無かったからか、詳しいことは聞いてないらしい。
イタリアの父親の元で暮らす姉には果たしてそれがあるのかは分からないが、俺と異なり、父親の元で育てられていると言うことはそちらの方が見込みがあると言うことなのだろう。
雲雀さんは興味が無いから以下略。
そうでなくても俺自身の存在の情報規制のため、基本ボンゴレの幹部は俺に接触禁止らしい。下っ端に至っては存在を知らないらしい。
雲雀さんは良いのかと聞いてみれば、「僕はボンゴレの人間じゃないから」と訳の分からない答えが返ってきた。草壁さん曰く、風紀財団の方で接触しているし、並盛の中である以上、もみ消すのは簡単、らしい。
権力は怖い。
さてここで物語の冒頭における俺の人生史上一番の絶望について、そろそろ話しておくべきだろう。
個性の発現と同時に後継候補から外された。
その一番の根拠は父親の沢田綱吉まで綿々と繋いで来た、ボンゴレボスの系譜が……全て無個性であったからだ。
超常黎明期。今から百年あまり前のこと。
個性の発現によって、世界規模で人間の秩序は崩れた。
後の世に言う第一世代、初代ボンゴレボスのジョットは、その世代で、迫害される個性持ちを救うために、何人かの有志と共に立ち上げたのがボンゴレファミリーだったらしい。
時を経て、個性よりも無個性の方が少なくなる現代。当然ファミリーには個性持ちが多く、ボスの血筋にも個性持ちが出てくる。
しかし、どのような個性でもそれを有するものの中からは、「超直感」を持つものは現れなかったそうだ。
その長い歴史の証明がいつしか、「超直感」は無個性のみが持ちうる力と認識されるようになったと言われている。
「ああ、そうだ」
まるで一息入れるかのような空白。
指向性を持たない個性故に純粋な徒手空拳のみでしか相手に一撃を入れられず、入れられたとしても加減が難しいこちらを気にする様子もなく、獲物を振り回す相手は藪から棒に。
「《赤ん坊》からのプレゼント、今から渡すね?」
「……はい?」
聞き慣れない人物名に、思わず回避のスピードを緩めた俺の耳に、次いで届いたのは銃声の音。
トンファーの先端から、硝煙の煙。
(あの武器……仕込みありすぎでしょ……)
彼の本気を出させるのには、俺にはまだ荷が重すぎる。
俺の個性には、明確な限界量がある。
正確にはそれは体内に溜め込んだ電気を戦闘に用いれられる限界量であり、それを超過した場合攻撃能力が消失してしまうのだ。
その原因は現在も不明だが、この問題、即ち体内に溜め込める電気量は個性伸ばしで限界量を拡大できるので、そこまで悲観はしていない。
「……ちょっと待ってください。「アホになる」って何ですか?!」
思わず叫んだ俺に雲雀さんは怪訝な顔で言葉を返した。
「言葉の通り、アホになる。そういう特殊弾だよ」
内容は、彼曰く《赤ん坊》さんからのプレゼント。その中身であった。
「君、自分の個性、忘れた訳じゃないでしょう?」
心なしか目が据わっている雲雀さんに思わず背筋を伸ばしながら頷く。
「当たり前じゃないですか。《発電》……「体内、体外の光源をエネルギーに変換して電気を作る個性」です」
「うん。それ改竄したから。雄英側には《帯電》……「電気を帯びる個性」と伝わっているから、そのつもりでね」
「……はい?」
思わず変な声が出た。
雲雀さんの目が険しくなる。
これは怒っているな。今更ながらにそれに気づいた。
「当たり前でしょ。君、自分の母方の血筋、忘れたわけじゃないよね」
「母方、……あぁ」
ようやく納得して、俺は天を仰ぐ。
本気かと。
超常が生まれた現代の歴史を紐解くにあたり、最初の一節はほとんどが同じ文面から始まる。
”始まりは中国軽慶市、発光する赤子が生まれたというニュースだった。“
「“発光する赤子”の子孫がこんなところにいるなんて、吹聴するような真似は出来ない。だから個性の詳細は改竄するし、そうならない一歩手前で個性を使えなくなるように手を打つ。……最も脳を強制的にショートさせてアホにするなんて特殊弾。まさか作ってくるなんて思わなかったけどね」
どこか感心したように吐息を零す雲雀さんは雲雀さんなりに考えていたんだろう。
しかし一つ言いたい。
せめてそれならそれと先に説明してほしい。
戦っている途中に撃たれるこちらは心臓に悪いなんてものじゃない。