前回と比べると短いですが、それでも良ければご覧下さい。
「生徒の如何は教師の“自由“……ようこそ、これが雄英高校ヒーロー科だ」
顔をあげた担任教師の表情は、雲雀さんとどっこいどっこいの悪いものだった。
本日の予定は入学式の筈だ。
そう俺……上鳴電気は自問する。
確かに、雄英高校は“自由“な校風が売り文句と聞いていた。
その前情報はあった。
しかし、書かれていた予定を全消しというのは如何なものか。来賓とか生徒の門出を見学に来た保護者とか、迷惑を被る相手はいると思うのだ。……俺の関係者は誰も来てないけれど。
雲雀さんに至っては帰ってきたらまた付き合ってねときたものだ。
仕事はどうしたんだ、風紀財団総帥。
暇なのか、新年度の早々から。
そんな脳内コントを繰り広げる俺をよそ目に担任教師の話は続く。
要するには体力テスト。ただし個性あり。
つまりは己の明確な実力確認。ただし俺の場合は……。
(発電が出来ないとなると……一度に使える電気量ってどれだけよ)
掛け値無しに現在の実力測定をしなければならなそうな予感がした。
「個性」を改竄したことで、不利益は間違いなく生まれるだろう。
少なくともヒーロー科に入学するに当たり、出来なくなることが増えるのは間違いなかった。
本来の俺の戦い方は個性「発電」を用いて自ら電気を作りながらその電気を使う、自家発電システムを元にした物である。
朝や野外ならば日光、夜や屋内ならば照明、他にも炎や電灯エトセトラ……つまりや光源と呼ばれるものがあればあるほど、俺の戦闘効率は上がる。
さらにこのやり方ならば、外部の光源を使って即席で使う電気量を生み出しているので、俺自身に溜め込んでいる電気の使用量は実質ゼロなのだ。
それが、「発電」が出来ないという制約一つで使えなくなる。
一種の戦闘スタイルの崩壊といっても過言ではない。
(入試の時はまだ制約されてなかったって所を幸運に思うべき何だろうが……なぁ)
何とも幸先不安だ。
ついて行けることを願うしかないだろう。
最下位除籍。
俺が一人で悩んでいる間にそんなルールが追加されていたらしい。
ソフトボール投げ、立ち幅跳び、50メートル走、持久走、握力、反復横跳び、上体起こし、長座体前屈の計八種目。
そのトータル成績だけで判断されるらしい。
(最下位除籍って事は、誰か一人は必ずおとすって宣言……いや、まだ一人だけと決めつけるのは早計か?)
先述の生徒の如何は教師の“自由“。
当人が放ったこの一言を曲解するならば、今のこの丁寧に説明されたルール自体、途中で変更可能とも言えるのだ。
自分に都合の良いように解釈していたら痛い目に遭うかもしれない。
(……あれ、でも一層のこと、あえて除籍処分になっちゃえば、今からでもこの話、降りられるんじゃない?)
不本意ながらも合格してしまったとはいえ、結局あのお願いという意向が伝えられて以降、父親の方からの連絡はない。
雲雀さん経由で当に結果の報告は受けているにもかかわらず、だ。
本来ならば入試の筆記、または実技試験で手を抜くことが出来れば一番良かったのだが、そこは並盛の支配者、雲雀さんからの無言の圧力というものが手を回していた。
なんせ雄英以外の第二、第三志望校やら私立の併願やら、本来ならば抑えとして受けるだろう他の高校への受験を全て彼の一言で潰されたのである。
まさか並盛町外のという理由で選んだ進学先の中学校にまで雲雀さんの意向が届くとは誰が思おうか。
(……本当になんなの、あの人)
今までの苦労を思い出して思わず自問するが人に聞くまでもなく、「雲雀恭弥だから」で納得出来そうな己の思考回路もかなり毒されている気がする。
並盛の常識に。
(まぁ、過ぎたことは良いか。流石に天下の雄英にまではあの人の意向も届かないだろうし)
別のことを考えようとモヤモヤと燻っていた思考を振り払おうとしていた俺は。
「おーい?……おぉい!?」
「……うえぃ!?」
目の前で仰ぐように振られた掌で漸く自分がいつもおなじみの物思いに耽っていた事に気づいた。
顔をあげて相手を確認すると、そこにいたのは自分の次の出席番号にあたる男子生徒、切島だった。
「次俺らだけど、大丈夫か? ぼんやりしているけど、もしかして具合悪いの?」
次いで出てきた言葉は心配十割のたいそう思いやりを含んでいるもの。
「あ! ……平気平気!! 絶好調だぜ!!」
思わないところから受け取り慣れないものを与えられて瞬間
「……おい、さっさとしろ」
なんとも言えない間が開き、相手も俺も次の言葉が発せられない状態で、どうやら順番が来てしまったらしい。
機嫌が悪そうな担任教師の声が、俺達の行動を促してきた。
「あっ! すいません!! ……じゃあ! 頑張ろうな!!」
先生に向けて元気に答えながら、俺にまで器用に気にかける。
何ともヒーロー気質な男だと思った。
「おー」
さて、結果発表といく前に、何とも笑えない失敗談から始めよう。
先にも言ったように、俺の元々の戦闘スタイルは、自分の個性で電気を作りながらその電気を戦闘に応用する、自家発電式戦闘法である。
元々戦闘に個性を応用しようとしたきっかけが雲雀さんとのあれこれから来るので、当然俺の戦い方における一番の見本は雲雀さんだった。
しかしながらこの雲雀さん。
人に教えることに関しては言っては何だが親切な人ではない。
まずは群れ嫌い。そして自己中心的。それだけならば良いがこの人は、元々己自身が独学で戦闘を覚えた人だ。
一時……これも俺の父親絡みらしいが、家庭教師をつけられたことはあった。……あったものの、その教え方は。
『朝から晩まで、あらゆる環境下で戦ってらっしゃいました』
『……それだけですか?』
これが草壁さんから俺が教えられた全てだ。
よって雲雀さんは馬鹿丁寧に、俺に教えてくれる人ではなかった。
その代わり、彼がよく話してくれたのは俺の父親の話だ。
正確には、俺の父親の戦い方。
そしてその弱点の付き方だった。
この人は俺に妥当父を目指せとでも言うのかと、真剣に考えたのだが、結局その答えは聞けてない。
さてさて前振りはここまでにして、肝心の俺の失敗談。
これは何も昔の話ではなく、本日、しかも数十分前だ。
自分で使えないだろうなぁと思っていたにも関わらず、試しに使ってみようと思ってしまったのだ。
最初の種目、50メートル走で。
白状すればそこで力を使いすぎれば他の種目は全て測定不能。何もせずともそのまま最下位になれるのではないかと画策したのだ。俺は。
そしてその、他の真面目な参加者を鼻で笑うような愚策を執行しようとした俺は、それ相応の報いを受けた。
「いってえっ!!!」
加減して流したのが悪かったのか、1カ所に限定して流そうとしたのが悪かったのか。
足首に流そうとした電流は強烈な痺れとなって発現した。
思わず叫んだが、その時は根性でなんとか走りきった。
確認したときは見事に腫れあがっていたが、あれは痺れだろうと言いたい。声に出して。
だからそんなにガン見しないでいただきたい、緑髪の少年。
「ちなみに除籍はウソな」
挙動不審な少年を気にしていたせいか、担任の言葉を理解するのに一拍遅れた。
「君らの最大限を引き出す、合理的虚偽」
その直後に響き渡った驚愕の悲鳴。
特に挙動不審だった彼の顔はかなりの代物となっていて、思わずこちらも目をそらす。
改めて確認した順位は前よりも後ろから数えた方が早い有様だが、
(とりあえず、素手で戦うのは無理そうだから……早急に何らかの道具は欲しいよなぁ)
体の一部のみに電気を流して行う戦いは、どうしても微細な調整が必要で、如何せん己はそこまで繊細な調整は出来ないと分かったのが今日の収穫と言えるだろう。
頭の片隅でこれからのことを考えながらも、俺は教室へ戻るべく踵を返す。
こうして俺の入学初日は終わりを迎えた。