一夏達が心配しているのを余所に、エクトルとアルゴスはクラストから課せられた試練を乗り越えるべく、深淵の世界へと入っていった。
Sideエクトル
エクトル「・・・・ん、ここは・・・。」
気付くとエクトルは、どこかの家庭の寝室にいた。ベッドには誰かが横たわっている。その人物は・・・・
エクトル「これは・・・・僕?、という事はここは・・・。」
そう、そこにいたのはエクトル自身だった。つまりここはエクトルの実家である。部屋の時計を見たところ、今から3年程前になっている。
エクトル「これは、僕の過去。一体何が始まるんだ?」
※ここからは現在の本人と区別するため、「過去エクトル」の名前で設定しておきます。
過去エクトル「はぁ・・・、今日も学校か。行きたくないけど、母さまに心配かけたくないし。」
エクトル「・・・・・。」
イサベル「エクトル、おはよう。」
ミレイア「兄様、おはよう!」
過去エクトル「母さま、おはようございます。」
過去エクトルはどこか空元気で挨拶する。
朝食を終えて、学校に行く。
エクトル「・・・・・。」
学校に着くと、過去エクトルを数人の男子生徒が取り囲んだ。
男子「ようベレン、今日もご機嫌だな。」
過去エクトル「うっ・・・おはよう。」
過去エクトルがぎこちなく挨拶すると、
男子「お前ん家金持ちなんだろ?少しくらい俺らに金よこせよ。」
過去エクトル「何を言ってるんだ、そこを退いてくれ。」
男子「何だと、このマザコンが!!」
そう言って過去エクトルの襟首をグッと掴む。
男子「っていうか、何なんだこいつのこの髪?」
男子は後ろからエクトルの母譲りの三つ編みの長い髪を引っ張る。
男子「コイツ女みてえなツラしやがって。オカマ野郎が。」
教師「コラッ!!何をしている!!!」
男子「チッ、先公が来やがった。」
教室に入ってからは・・・・
女子生徒「ちょっとベレン、アンタさー、いい加減その髪切ったら?」
過去エクトル「僕の勝手だろう、ほっといてくれ!」
女子生徒「男のくせに何でこんなに綺麗なわけ?」
女子生徒「時代が女尊男卑だからじゃない?」
過去エクトル「僕に聞くな、それにこの髪は母様に似ているんだ!」
女子生徒「母様だって、キモーいマザコン。」
エクトル「・・・そうだ、僕は中学の頃に虐めを受けていたんだ。」
エクトルは自身の辛い過去を見つめながら呆然としていた。
エクトル「だが、これが試練とどう関係するんだ?」
過去のトラウマに唇を噛み締めて震えるエクトル。
過去エクトルは休み時間に図書館に入り浸り、1人神話や宗教の本を読みあさっていた。
過去エクトル「・・・神の前では男も女も同じだというのに、何故いつの時代も人間は無秩序なんだ。何故僕はこんな目にあわなければならない?」
エクトル「・・・・・。」
不意に、背後にクラストが出現する。
クラスト「エクトル、一つ聞くが、何故汝が一夏やアルゴス同様に生まれながらにしてISを動かせられると思う?」
エクトル「・・・・わからない。」
クラスト「人の子で言えば機体への適性があるか否かだが、それは形に過ぎぬ。汝は心優しく信心深い故に、世界に絶対なる導きと秩序を求めたのであろう。その意思に機体が応えたのだ。」
エクトル「・・・そうなのか?」
クラスト「そして汝は天使達のために殉教者となり、神の代行者セラフィエルとなったが、同時に人の心を失ってしまったであろう。」
エクトル「・・・・・要するに、セラフィエル復活のためには、僕が人としての心を完全に取り戻す必要があるという事か?」
クラスト「その通りだ、エクトル、人の子として強くなるには、自身に勝つ事。さあ、戦うのだ!!」
クラストが念じると、エクトルの前にもう1人エクトルが現れた。つまり、かつての自分との戦いである。
過去が写っていた世界は真っ白に塗りつぶされ、エクトルともう1人のエクトルの2人きりに。
過去エクトル「この世界に光をもたらすには一切の汚れを無くすのだ!神こそが全て!!神の意志に反するものは、全て消え去るのみだ!!!」
エクトル「くっ、まさか本当に自分と戦うことになるとは。」
2人のエクトルは専用機ケイローンを装着し、いざ勝負する。
過去エクトル「一夏の唱える調和など、戯言に過ぎぬ!完全こそ平和である!」
エクトル「黙れ!僕の姿で一夏を侮辱するな!!」
互いに激しい攻撃を行うも、同じ機体であるが故に拮抗する。
過去エクトル「アルゴスは堕天使と共に地に堕ち、一夏は腑抜けた選択をした!行き場のない人間なら神を、そしてその代行者である僕を信じるべきであろう!」
エクトル「人は意志を持った生き物、全てを強いることなど誰にも出来ない!!」
アルテミスの矢を射尽くした所で互いに接近戦をする。ここでも拮抗するかと思われたが、エクトルが過去エクトルを押していく形に。
過去エクトル「グフッ、馬鹿な、貴様は同じ僕だ!何故こうも差が出る!?」
エクトル「教えてやろう、僕はいつも一夏やアルゴスを始め、みんなと共にあるから成長できた!導きや秩序に執着していた頃こそ敵対したが、今ではかけがえのない友だ!!」
エクトルはかつて苦手だった接近戦も、みんなと切磋琢磨して磨きをかけていったのだ。
過去エクトルの機体には亀裂が生じ、顔には疲労が浮かぶ。
エクトル「くたばれぇぇっ!幻を追うかつてのエクトル・ベレン!!」
エクトルは近接武器ラストロスの鉤爪で過去エクトルの喉を貫きトドメを刺す。すると、過去エクトルの姿が変わっていき、正体をあらわにする。
そう、現れたのは・・・・
セラフィエル「・・・見事だエクトル、だが今度は我が相手になろう、我を従えたくば打ち勝って見せよ!!」
エクトル「よし、望むところだ!」
今度はセラフィエルと戦うことに。
エクトルは早速仕掛けるも、セラフィエルはアルテミスの矢を全て叩き落とす。
エクトル「みんな、あの時は大変だったんだろうな。」
エクトルは自身のせいで危険な目にあった専用機メンバー達に心の中で謝罪する。
セラフィエル「どうした、我が怖いのか?」
エクトル「今の僕はあの時とは違うぞ!!」
エクトルはダメージ覚悟でイグニッションブーストで正面から突っ込む。全身には黄金の波動が広がっていき、
セラフィエルは両手で受け止めたが・・・・。
セラフィエル「馬鹿な!?何故ここまで?」
セラフィエルの両手は砕け散っていった。
セラフィエル「我は一夏とその仲間に敗れはしたが、力は消えていない!何故貴様1人にここまでの力が!?」
エクトル「それは、僕の心にみんながいるからだ!信じるとは、何かに身を委ねる事じゃない、苦楽を共にできる絆を守る事だ!一夏の思う調和こそが、真の導きに繋がると、今なら確信を持てるんだ!!」
エクトルは大きく吠えるように心の叫びを声に出し、セラフィエルを叩き伏せた。
クラスト「エクトル、よくやった!汝は己に勝ち、そして一夏達との絆を心に宿すことができた!」
エクトルは歓喜の表情でガッツポーズをする。
セラフィエル「見事だエクトル、その心を信じ、我もお前達やクラストと共に行こう。」
セラフィエルは体の再生に伴い、その見た目を変えていった。
エクトル「セラフィエル、君にもそんな姿があったんだね。」
セラフィエル「汝が我に人の心を教えたが故だ。」
エクトルとセラフィエルは握手を交わす。
これにてエクトルの試練は終わった。
Sideアリーナ
エクトル「ハァ、ハァ、無事に現実に帰ってこられたな。」
十字架の高速が解けた瞬間、疲労からか、エクトルはそのまま倒れ、眠りについた。