塵閣下になりました   作:あーぷ

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塵閣下になりました

 

 

 表題の通りです。

 

 もう…生きて…俺の…塵。

 

 

 

 ……いやいやいや。我ながらそう呟きたくなる気持ちは色んな意味でわからんではないが。実際にそのセリフをのたまうことになるのは少なくとも十数年後となるはずだ。つーか、身も心もボロクソにされた上で年下の女の子たちの前で死んだ魚の目をして件のセリフを言わされるという羞恥プレイの極みは勘弁してほしいので、そうならないよう全力で頑張るつもりですよ、ええ。

 

 念の為確認しておこう。俺の名前はカーラン・ラムサス。ヒットラー……じゃねえや、ソラリス・ユーゲントの三回生で、ソラリス二級階層市民だが両親は謎の火災事故カッコ笑いにより亡くなっており、天涯孤独の身の上だ。身分階級第一のソラリスの気風に反発し、能力主義の御旗を掲げる新鋭気鋭。成績は座学実地ともに同期のトップを走り、アッシュブロンドの色白イケメン、そして甲斐甲斐しくも有能な彼女(絶世の美女)持ち。うーんこの。

 

 なんというか、藁人形に髪の毛放り込んで五寸釘を打ち付けたくなるようなプロフィールではある。嫉妬の炎が燃え盛るぜ。しかし裏事情を見ていくと、概ね頭のてっぺんから足のつま先まで厄ネタの塊で、そこらへんご存知の方にしてみれば同情を飛び越えてシュールギャグの域に突入している御仁だったりする。特に彼女(絶世の美女)がね。一等ヤバい。ヤバすぎる。

 

 正直、書き置きすら残さず今すぐケツをまくりたい感すらある。仮に書き置きなんぞしてミァン《あの女》に思考の端緒を与えてしまった日には、一瞬で身バレして追い詰められたあげく、情報を抜かれた上で缶ヅメにボッシュートされる未来しか見えない。そういう絶望的な信頼感がてんこ盛りである。

 

 ぷるぷる。ぼくはわるい塵《ごみ》じゃないよ。ゆるしてください。

 

 

 

 ……まぁ、なんだ? 名作だよね、ゼノギアス。傑作とまでは言えないかもしんないけどさ。

 

 具体的に言うとDisk2のアレがね。でっかい十字架がぶらんぶらんしている下で、椅子に座ったキャラクターがストーリーを口頭で説明してくださるという、RPG風サウンドノベルもどきは斬新すぎた。納期のデーモンにしてやられたというのがもっぱらの噂だが、実情がどうだったのかというのは現場のスタッフの方々にしか分からんこと。そして、今この状況に置かれている俺にとってみれば、そういう世知辛くも興味深いヨモヤマ話はどうでもよくって、差し迫った事実現実をどう捌いていくべきかというのが肝要なところだ。

 

 ようはXeno世界というリアルの事実関係だな。

 

 記憶をほっくり返してみた感じ、ゲームの大まかな流れは覚えている。時系列、登場人物のバックグラウンド、ギアの性能なんかのデータ面もおおよそOK。カーラン・ベッカーもといラムサスとして生きてきたこの17年とのすり合わせについても、今のところさしたるトラブルは生じていない。

 

 ゲーム中ではボロ雑巾のような扱いをされていた塵閣下ことラムサス君だが、やっぱり根っこのスペック自体はめちゃくちゃ優秀のようだ。何というか、思考が澄んでいる上に立て板に水。さすがは人類種の原初にして頂点たる天帝カインのフルポテンシャルコピーといったところか。

 

 中身の人格がパンピーの俺なんで要所要所では微妙かもしれんが、ストーリーのあちらこちらで炸裂していたクローンであることによる精神面での不安定さは払拭されているようだし、トータルでみても言うほど劣化はしていないんじゃないか? と思う。そうだったらいいな?

 

 願望混じりなことは否定しない。

 

 

 

「カーラン・ラムサス、起きているかい?」

 

 キャスター付きのメディカルスクリーンをかき分け、ひょろついた医務官のオッサンが顔を出したので、首だけそっちを向いて頷いておいた。横になったままで適当に問診に応対していると、天井に備え付けられたスキャナーっぽい機械から青い光の帯が降ってくる。医務官の指示通りに両目や口、士官服の胸襟なんかを開けたり閉じたり(身体を動かすと全身ところどころに打ち身っぽい痛みがあったが気にする程じゃない)すると、一通りバイタルデータが取れたようだ。

 

 医務官が目の前に浮かび上がったホログラフィックページに目を通す。

 

「うん、大丈夫そうだ。内臓にも大血管にも損傷はなし、軽度の打撲が残ってるくらい。爆発規模のわりにパイロットの被害がこの程度というのは、主席ってだけのことはあるね。明日からはスケジュールに復帰してもらって構わないが、念の為今日の午後のコマは休むこと。担当教官にはその旨もう伝わってるからね」

 

 ありがとうございます、分かったからとっととあっちいけ。当然後半は口に出さなかったが、思いが通じたのか医務官は事項伝達も程々にしてさっさと出ていってくれた。学生がケガして担ぎ込まれてるのに席を外すのはここソラリスでも普通に職務怠慢ではある。塵閣下の記憶によると、あの医務官のオッサン、配合弄った軍用ドライブちょろまかして休憩時間中に一服ヤってる噂があるらしい。

 

 まぁどうでもよろしい。どこぞでラリってていいからこのまま当分帰ってこないでおくれ。

 

 目が覚めてからこの方、俺はユーゲント医療センターのベッドの上にいる。どうもギアの模擬戦中に事故ったっぽいんだな。塵閣下の名誉――なんか字面がおかしい気がせんでもないが――のために言っておくと、パイロットが操作ミスやらかしたとかじゃなくてスレイブ・ジェネレータのオーバーロードによる内部自爆が原因とのこと。ゲーム本編でフェイがラハン村でやらかしたアレの軽いバージョンと見ておけばいいのか?

 

 とっさの事態にラムサス君は研修用ギアの緊急停止モードを作動。見事周囲への被害を抑えることに成功するも、ちかちかと白く煌めく爆発に伴いコックピット内に吹き荒れた衝撃波までは如何ともしがたく全身打撲ののち無事失神と。

 

 腑に落ちない部分もないではないが、とりあえず大事にならなくてよかったよかった。生きているって素晴らしい。

 

 ……ていうか、反射的にエーテル防護膜を展開して全身をガードしたのに気絶沙汰というのは、搭乗者が塵閣下じゃなかったらフツーに死んでたんじゃないかって気がするぞ。一応生きてるからそこまで突っ込む気にはならんが、下手するとソラリス・ユーゲントの安全管理体制が問われそうな話だな。

 

 もっとも、Disk1終盤のソラリス潜入時を思い返せば、ソラリスって基本的にソ連も真っ青な統制国家な上、一般ガゼル以上、ガゼル法院未満クラスの上層部には親の腹ん中にモラルを置き忘れたマッドサイエンティストがウヨウヨしている模様で、パイロットの安全性なんぞ元からさほど考慮されてないのかもしれない。身の周りにはしっかり気をつけておいたほうがよさそーだ。

 

 

 

 さてと。ベッドに横になったまま、今後のことを考える。現況把握と方針策定はサクサク進んだ。塵閣下の頭のデキがよろしいのが憎らしくも大変ありがたい。

 

 さしあたり、このまま行くと世界そのものがほぼほぼ滅ぶ。刻印開放に伴い人々の大半がウェルス化してデウスのパーツにされ、その運命から運良く逃れられても、次はアイオーンによる一大虐殺が開幕する。500年前に接触者《ラカン》がブチ切れ金剛でやらかしたいわゆる「崩壊の日」では全人口の90%以上が死滅したらしいが、甘めに見積もってもそれと同クラスの被害が出るはず。

 

 ってか、ゲームだと南極に墜落したシェバトを流用した間に合せの拠点くらいにしかロクに人員が残っていなかった時点で、人口消滅率9割台後半を記録していても全然おかしくないだろう。

 

 一説には、現代文明を技術的に継承するには二億人の人口が必要だという。21世紀初頭地球の先進国人口は最大限大目に見て20億人いかないわけで、単純換算で9割吹っ飛んだ時点でこの星の文明そのものが概ね瀕死のタヌキと言える。いわんや9割5分オーバーにおいてをや。

 

 そこにゾハル停止によるスレイブ・ジェネレータの機能停止、エーテル能力消失に伴う人類種の身体能力低下、デウス端末のアイオーンはまぁ止まってくれるのかもしれんが、ナノマシン治療の手が回らない野生化したウェルス問題は未解決のまままるまる残るわけで……オイオイオイ、死ぬわコレ。ウェルスって普通にギアサイズのがウロウロしてんじゃん。対処フノウ対処フノウ。

 

 もうこれ、ドテスカチュチュポリン(知能レベル、天文学的に低い)どものリミッター全外しした上で顔面床に擦りつけて頼むぐらいしないと、この星における人類種の生き残りは無理ゲーと違いますか? 神様仏様チュチュポリン様とか笑えねえ事態だよ。フェイ《主人公》とエリィ《ヒロイン》が全裸で走り回って爽やかに終わったエンディングとは裏腹に、あの後の人類種にとっては難易度インフェルノがそのまま継続していたんだなあ。

 

 なんだかんだ生き残りのみんなで頑張って最終的にはメデタシメデタシなんだろうが、そこに至るまでの犠牲の量を考えると、正直察するに余りある。

 

 とにかく、そこらへんまるっと回避するのは必須だな。原作知識を大いに活用しよう。そのために、塵閣下の立ち位置で取りうるプランとしては――

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 ――あれこれ考えているとリストウォッチのアラームが鳴った。今日のぶんの士官候補生向け正規講座が全コマ終了したらしい。普段なら終了後に同クラスを集めたミーティングがあって、そのあと成績不振者や志願者については補講や自学自習タイムが続くようだが、今日は怪我人という大義名分がある。ミーティングからひとまとめにブッチしてしまっていいだろう。

 

 同室の某者が戻ってくる前に寮に戻っておくことにする。日常的なことは概ね覚えているので大丈夫だとは思うが、細かいやらかしを防ぐためにも前もって確認はしておいたほうがいい。

 

 ヤツを味方に引き入れるのは欠かせない前提条件なのだ。この星の未来にとって。そして、それよりも何より、俺自身の身の安全にとって。

 

 

 シグルド・ハーコートくん! たーすけてーぇー!

 

 

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