塵閣下になりました   作:あーぷ

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内憂外患と今後の展望

 

 

「とにかく! 殿下には今すぐにでも亡きエドバルト四世陛下の志をお継ぎいただき、ここニサンより、反撃の狼煙を上げるべきです!」

 

 さっきから道具屋のオッサンが怪気炎を上げている。

 

 バルトロメイ殿下とマルグレーテ嬢の奪還成功を受けて、打ち合わせと言いつつ半分祝いの席になっており、その流れでアルコールが投入されたのがマズかったようだ。持ち込んだバカはどこのどいつだ、っつーかこちとら未成年だぞ飲ませようとすんな。

 

 ユーゲントの風紀がわりと乱れてたおかげで呑めなくはないが、少なくとも今は要らねえっつうの。

 

「逆賊シャーカーンの無法は明らかだ。きゃつめはやりたい放題をやっている。ブレイダブリクでは処刑場に銃声の響かない日はないとされ、我らが教母様、聖太后様、ラヴァーン侯、いずれのご無事も未だ杳として知れぬまま。それもこれも、無法に対して正しきを突きつける、正義の姿がお隠れになってしまっているから。偉大なるアヴェ、厳聖たるニサンの結びつきが損なわれてしまったこと。それはこのイグニスにおける大いなる不幸、紅涙溢るる悲しみでありました」

 

 趣味で演劇でもやってるんだろうか。芝居がかった言葉遣いや身振り手振りが妙に様になっている。

 

 同席しているメイソン卿やシグルドからは懐疑的な気配がプンプンしているが……ニサン側のお歴々にはそこそこウケているっぽいのが厄介だなあ。

 

「ですが、今は殿下が居られる。これこそ福音と言うべきです。バルトロメイ殿下にお立ちいただき、我々ニサンがそれを最大限バックアップすれば……正しき正義の御旗の下、アヴェ全土の臣民が諸手を挙げて立ち上がること、これ間違いはありません!」

 

「しかし……シャーカーンめがブレイダブリクの国軍を抑え込めるだけの戦力を有していることは確かじゃぞ?」

 

「我らニサンの僧兵隊にはギアのような機械化戦力はそう多くない。敵対意志を明確にするのはいささか時期尚早なのではないか」

 

「いいえ、いいえ。何も今すぐ正面から打ち掛かれというつもりはありません。まずはきゃつめを交渉のテーブルに着かせることが肝要なのですよ」

 

 不敵な顔つきのまま目元を伏せ、ポーズを付けた片腕を左右に振ってみせる。

 

「旗色を鮮明にし、ニサンの国力を背景として圧力を掛ける。我らに正統性ありとなれば、さしもの卑しき逆賊とて、多少なりとも居住まいを正すことでしょう。それによって人質の身の安全を確保し、膠着状態を作り上げてしまえば、その隙に我々は戦力を蓄えることができる。きゃつめの私兵強靭なりとはいえ、砂漠の底から無限に湧いて出るものではありますまい?」

 

「ふぅむ……」

 

「卿の言うことも一理あるかもしれんな。クーデター勢力の破竹の勢いは挫かれている。今はまだ地方都市もおとなしいが、このまま行けばじきに不満は燻り火種となろう。それを縄を綯うようにして集めていけば……」

 

「なるほど、彼らも戦力として数えられる。なにも我々だけで当たらずとも良いわけだ」

 

「おっしゃるとおりです。元より何ら正統性のない簒奪者、人々はただ武力によって押さえつけられているに過ぎません。そのチカラに陰りが見えたとあらば、人々は自ずから大義の下に集うというもの。先日のシグルド殿、ラムサス殿の華々しい戦果により、すでに少なからぬ被害を与えられている今。風は我らと共にあります」

 

「光在るうちに光の中を進むべし、か」

 

「ニサンの教えにもかなう話じゃな」

 

「そうです! この勢いに乗らないなどということがあってはなりません。奸臣何するものぞ、ニサンは正しきアヴェと伴にあり。今こそ我ら、ファティマの旗の下に立ち上がるべき時。さすれば、あの逆賊めが断頭台の露と消えるのも、もはや時間の問題と言えましょう!」

 

 

 

 ……うーん、マジでノってるなあ。どうしたもんかねこれは。

 

 

 

 

 

 

 それにしてもこのオヤジ、ゲーム中では気のいい道具屋のオッサンとしか描写されていなかったが、蓋を開けてみれば相当気合の入ったタカ派でやんの。

 

 まずもってニサン正教会上層部の肝入りで、血統から見ても先々代大教母の弟から派生した分家の出。つまり元を辿れば一応ファティマの血筋なのだ。流石に血が遠すぎて継承権やらは持っていないが、アヴェ王家やニサンの中枢に娘さんを第二、第三婦人として輿入れするくらいは全然やってもおかしくない家柄にある。

 

 当然ファティマの名にも思い入れが深いし、国家中枢に近い商売人として、両国の癒着関係からそこそこ旨い汁を吸っているポジションでもあるわけだ。

 

 そりゃもうタカ派にもなろうというもの。現世利益を大義名分でコーティングした人間の鼻息が荒いのは万国共通だった。こうして自ら演台に立って周囲の検分を受けているあたり、むしろ彼個人の誠実な人柄の現れだとすら言えるだろう。

 

 

 

 発言内容にしても、裏事情を知らなければそこそこ現実味がある話に聞こえてくる。

 

 クーデターでひっくり返った国の要人が友好国に亡命政権を立てる。その友好国から支援を受けて戦力を充実させ、国内の反クーデター勢力とも協力の上で簒奪者どもを叩きのめす。要人は返り咲きを果たせてハッピー、友好国も利権をより分厚く出来て万々歳と。

 

 別段変なことは言っていない。各々の出費については頭の痛い問題だが、まぁ本件はシャーカーンが無理筋すぎるので税金使って国全体から浅く広く絞ってもそこまで致命的ではないケースだろう。

 

 判断基準を盤面のコマだけに置くんであれば、れっきとした戦略眼がそこにはあった。

 

 

 

 もっとも、実際にはコマの換えは砂漠の底もといお空の上からほぼほぼ無限に湧いて来るし、ハゲ三号の代わりなんていくらでも用意できる以上、チェックメイトしても次のキングが横から雑に追加されるだけというのが現実なんだが。

 

 指し手を直接ブン殴らないと長期的には勝ち目がない。一見ゲームになっているようで、盤面レベルではゲームになってないのだ、この世界というのは。

 

 

 

 おそらく原作では、ニサンの支援を受けて決起した現地集団がシャーカーンの私兵に蹴散らされる、そんな一幕があったんだろうと思う。

 

 それもバルトとマルーが救出される前。さらに言えばシグルドが合流するより更に前の段階でだ。

 

 メイソン卿が立ち上げたのか、それとも今日のタカ派のような別勢力によるものなのかは分からんが。ともかく彼らはシャーカーンの前に手痛い敗北を喫し、ニサンには厭戦ムードが漂った。シグルドの合流によりバルト達の救出は成し遂げられたものの、そのムードを払拭するほどの効果はなかった。

 

 直近の敗北の痛みも鮮やかだったろうし、クーデターからかなりの期間が経過したことで、人質の生存もそう見込めない状況だったからだ。

 

 シャーカーン死に際のバルトのセリフから、マルーには「厳しい砂漠暮らし」を余儀なくされたタイミングがあったらしい。ハード・パワーを前面に押し出した交渉につき消極的になったニサンは、バルトとマルーの帰還を少なくとも公には受け入れなかったのだろう。

 

 殻にこもった彼らを動かすには戦力の充実が必須となり、結果として、シグルド率いる王党派残党がユグドラシルを用いた遺跡発掘に身を投じることへと繋がっていく。

 

 

 

 しかし現実では俺が介入したことにより、シグルドはかなり前倒しで王党派に合流したし、救出計画も早まっている。おかげで失われるはずの戦力が丸々残っており、旗印たるバルトは居り、加えて人質にも生存の芽が出てきていたり。

 

 そこにダメ押しとして、若造二人に良いようにやられたシャーカーン与しやすしの空気まで醸成されてしまっている。

 

 前提条件のだいたいが火に油だ。これではイケイケムードも大いに燃え上がろうってものだった。

 

 

 

 ……ぶっちゃけると、事前情報からこうなるであろうことはある程度分かっちゃいたんだが。それでも立場上あれこれ黙ってるわけにもいかないし、積極的に献策して誘導しようにも味方側のバックヤードが不明瞭すぎるしで、何ともはや。

 

 外様は辛いよホント。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 結局、ニサンの屋敷での打ち合わせは主戦論にだいぶん傾いたまま持ち越しとなった。俺たちは郊外の隠しドッグに戻り、ユグドラの作戦会議室にて、うんざりした顔を突き合わせた。

 

 

 

「いやはや……教団員《カハル》の方々が、あそこまで前のめりになるとはよもや思いもしませんでしたな」

 

 少々上手く行き過ぎてしまったということなんでしょうね。実態はどうあれ、急造の寡兵に対してシャーカーンはこの度不覚を取った。ヤツのクーデターが成功したのは宰相としてアヴェの内部事情に精通していたことによるもので、私兵の戦力自体は実は然程でもないのではないか。

 

 外から殴れば案外脆いのではという推測が立つのも、まぁ分からんではありません。

 

「我々が訂正しても利かんだろうな……。成功者の謙遜か、もしくは自分達の勝利をより大きく見せようとしていると捉えられるのがオチだろう。それで、今後の方針としてはどうすべきだと思う? カール」

 

 だいたい考えてることは一緒だと思うが。血気盛んな方々には試しに一当てしていただいて、即死しない程度の大やけどで現実を知ってもらうしかないんじゃないかね。酷な話かもしれんが、仮に舌先三寸でゴリ押しして今トータルの利益を取っても、長期的には俺らの持ち出しが増えて損失が嵩むだけだと思う。

 

「そうなってしまうか。ソラリス本国の兵には及ばんとはいえ、シャーカーンはゲブラーの支援を受けている。そのあたりの事情を説得力のある形で示せない以上、ヤツの強みがソフト面だけでないことを理解させるには、実際に矛を交えてもらう他にないわけだ。……俺としては、彼らの気持ちもわかるんだがな」

 

 お前さんの心情としてはそうだろうなあ。しかし、現時点でバルト君を矢面に立たせることだけは断固拒否を貫いておくべきだ。それをやるとせっかくの手札がまるっとブタになっちまう。

 

 虎の子のギア一機、カッコ張子の虎を失ったこっちとしては、しばらく全ツッパは難しい。とりあえずニサンの側でも何かしら戦果を上げてみせてくれないか。ピンの戦力でまったく対抗できないならそもそもバックに付いて貰う意味もないわけで、多少は実力を示していただかないと。結果が出たならこっちも腹くくって旗揚げしますわと、当面の落とし所としてはそのあたりじゃないか?

 

 向こうにしてみれば鼻白む話だろうし、王党派として角が立ちそうなら俺の口から言わせてもらうが。

 

「いえ……ラムサス様のお手は煩わせません。我々王家近衛兵としての立場でカハルに要求いたしましょう、元はアヴェの側から出た不始末とはいえ、この度マルー様をお救いしたという事実はけっして軽くはありますまい。その程度の求めを受け入れさせる余地はあるかと存じます」

 

 ありがとうございます、助かります。

 

 となると、今こっちで取り掛かるべきは長期戦を戦えるだけの地力の確保だな。まずはこのユグドラを戦闘態勢《バトコン》レベルで運用できる人員を揃えるべきだろう。今後の展開を考えるに、2セットプラス予備が1で3セット欲しいが……。

 

「無茶言うな」

 

 だよなあ。まぁとりあえず1セットで。それから『教会』のヒモが付いていない機械技師チームは必須で、ギアパイロットも少しずつで良いから育てていきたい。一昨日みたく少数精鋭で殴ったほうがいいことも多かろうが、頭数が必要な場面はどこかしらで出てくるだろうしな。ゲリラ戦と寡戦防衛が務まるだけの人員は最低限欲しい。

 

「人集めに関しては俺が動こう。近衛兵周りの他にも、実家方面のコネが多少ある。技師は王家の元お抱えに当たりをつけるとして、パイロットも適宜補充を試みるが……優先順位としてはフネのクルーが上でいいんだな?」

 

 ああ、それで頼む。今のオートパイロット頼りの運用だと原速航行が精一杯、敵さんと鉢合わせした時点でアウトだからなあ。メンテ不足であちこちガタも来ているようだし。足がまともに動かないんじゃ、何するにしてもまず手の施しようがない。

 

 パイロットは集まり次第俺の方で面倒を見るかね。今すぐってわけじゃないが、乗せるギアにも一応アテがある。

 

「了解だ。アジトに近衛騎士の顔ぶれがある程度残っているはずだから、お前は当面彼らを使い物になるまで鍛えてやってくれ」

 

 それプラス、技師の都合が付くまでの機械仕事全般がこっちの担当だな。オーケー。

 

 

 

「しかし……時間を掛けてしまえば、それだけ長きに渡って世にシャーカーンの暴威が続くことになります。王城内に残された方々の身を軽んじる形にはなりますまいか」

 

 遺憾ながら、そうした部分については今は拘るべきではないと思いますよ。俺がシャーカーンなら、一昨日の襲撃があった時点で人質に関しては即刻処分するか、もしくは交渉材料としてプールしておくかのいずれかにします。

 

 ヤツが逐次投入じみた処刑法を取っているのは、情報収集と見せしめのためで、軍事的に完全に優位を誇っていたから取れる手だ。それが必ずしも絶対でないと明らかになった今、少なくともこれまでみたいにジワジワやる意味はありませんから。

 

「うぅむ。たとえ明日意を決しようと、日数を隔てようと、助け出せる人数にはおそらく大差がないということですか」

 

 はい。もちろん見込みの問題ですから断言はできませんが……先程カハルの方々がおっしゃっていたようなことは、シャーカーンも同じく思い至るでしょう。あの提案は、シャーカーンの背後にソラリス本国が控えている手前、長期で見ると確実に負けるという点を除けば理に適ってはいますからね。

 

 そして本国の手を煩わせてしまうとそれだけシャーカーンにとっては失点になる。何とか自分の手で事態を丸く収めるために、交渉のカードはなるべく多く持っておきたいと考えるはずです。

 

 不確定要素を減らすために処分を早めるか、交渉材料として手元に置いておくか。ヤツがどちらを選ぶかは分からないですが、自分としては後者の方が可能性は高いと見ますね。

 

「なるほど……」

 

「ただ、それだとカハルが痛い目を見た後が危険だな。こちらを与しやすしと見たシャーカーンが、またぞろ見せしめの処刑を再開する恐れがあるぞ。それに、ファティマの至宝探しも依然としてソラリスの優先事項のひとつなんだろう?」

 

 そこのところは微妙だな。未だバルトロメイ殿下が伏せられている状況を、相手が重く見るかで変わってくる。なんで悪い方で考えて、カハルが完全にノックアウトされる前にこちらも準備を終えた上で、第二の人質奪還作戦を発動する必要があるわけだ。

 

「結局スピード勝負か」

 

「今後も慌ただしくなりそうですな……」

 

 

 

 

 

 

 ……つまりまたもや夜なべの突貫作業と相成るのだった。

 

 この二ヶ月、ほとんど休みなしで常時三人分くらいは働いている気がするぞ。月月火水木金金。こなせてしまう塵閣下のスーパーボディが恨めしいぜ。労働待遇の改善を要求するー。

 

 

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