塵閣下になりました   作:あーぷ

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お仕事ブロックくずし

 

 

 近衛兵の中でも、ギアのようなスレイブ・ジェネレータ搭載式大型機械の適正を持つ人間を近衛騎士と呼んでいるそうだ。

 

 シグルドと、あと若かりし頃のメイソン卿もこれに該当する。てっきりラクダとかに乗るような兵科があるのかと思っていたが、そういやこの世界って馬もラクダもついでにチョコボも居ないんだった。

 

 代わりにスナハミとかいうイルカだか魚竜だかみたいなのが、文字通り雑魚モンスターとしてあちこちに居た気がするが……あいつらっていったいどんな生態をしてるんだろうな?

 

 他にも砂漠レモラなる、砂上艦の船底にくっついて穴を空けるコバンザメの害獣版みたいなのもいるらしい。

 

 当たり前ながら、砂の海とは砂漠であって海ではない。ユグドラのような潜砂艦や砂上艦は、音波によって砂を工学的に流体化することで砂上航行を可能にしており、普通の船舶とは根っこから構造が異なっている。砂漠で泳ぐなんぞどだい無理、ブタが空飛ぶ並にキテレツな話だった。

 

 にも関わらず、砂の海をスイスイ泳ぎ回っているらしきスナハミや砂漠レモラたち。もしかすると連中は、ヒトと同様にエーテルパワーを用いて機械類似の現象を発生させることで、海から砂漠へ生活圏を広げることに成功したこの世界独特の適応種なのかもしれないな。

 

 ……んー? てことは、将来ゾハルが停止したら世界各地でその手合いの大量死が観測されてしまうのか? うええ。予想が当たってないことを祈る。

 

 

 

 ちなみに、イグニス大陸で軍用ギアが一般化したのは実はかなり最近のことのようだ。

 

 大本の理由としては、やはり『教会』≒ソラリスが長年技術放出を絞っていたことによる。500年前の大戦からこっち、アヴェもキスレブも遺跡から発掘した機体をそのままレストアするのがギアの主な利用法で、ジェネレータだけ引っこ抜いて別途製造した機体に載せ替えたりは出来なかったらしい。

 

 アヴェ軍の主力機かつ最新型であるアヴェ01の型番を見てもそれが如実に窺える。わりとつい最近まで、この大陸には量産機というもの自体がほとんど存在していなかった。

 

 

 

 もちろん各国軍に戦力としてのギアが皆無だったわけではない。ただ、横並びのスペックで機数を確保できないせいで、軍隊式の集団運用には適さなかったんだろう。

 

 土木工事や建設用の特殊機体を除くと、伝統的にギアには秘蔵の奥の手、あるいは儀仗兵としての役割が持たされていたらしく。いきおい、近衛騎士の頭数は元々がかなり少なかった。そこからさらにクーデター時のゴタゴタで数を減らしているわけで……となると、今もなお王党派残党に与するギア適正持ちの人数と言えば?

 

 聞いて驚け。本騎士5名と見習い1名、総勢僅か6名の錚々たる陣容であるぞ。

 

 ……小隊どころか、俺とシグルド放り込んで見習いまで動員した上で辛うじて二個分隊が充足してるだけじゃねーか。

 

 ローテーションが組めないので僻地の防衛も覚束ない有様。ていうか、乗れる機体がロクにない時点でそれすら机上の空論にすぎない。

 

 二サンの拠点やアジトを目にした時点で、なんとなく察しは付いていたが。なかなか先が思いやられる味方の台所事情なのだった。

 

 

 

 

 

 

「そういや大将。キスレブのほうで近ごろ流行りのバトリングとかいうお遊びだけどよ」

 

 と、ミロクの大将もといミロク大尉は思い出したように言った。なんでか俺のほうが大将呼ばわりされている。わりと普通に勘弁なんだがナァナァで定着しそうなムードがあって、頼むから誰か止めてくれ。

 

「ジェネレータの出力と搭乗者のエーテル感応値が一定の閾値を越えると飛び道具の効きが一気に悪くなるってぇことは、アレには訓練として一定の合理性があると見ていいんだな? 純エーテルの誘導弾のみを牽制用に使い、限られた時間内に肉弾戦で決着をつける。さっきのレクチャーと符合するところが少なくないと見るが」

 

 ああ。これから大陸全体でギアの性能向上がエスカレートしていくにあたり、ギア戦の様相はどんどん蛮族じみた殴り合いの世界になるだろう。そこらへんを見越して近距離格闘に長けた人材やデータを集めるってのは、方針としては非常に理に適っていると思うぞ。

 

 さっきの講義でも話したが、人間並みの動作がオペレーション可能な高度なギアについては、操作系にエーテル制御が噛まされている都合、発揮できる攻撃力が搭乗者の肉体に馴染んだ武装や武術に依存する。特殊なエーテル・ガンを除き、その枠に含まれない射撃はアッサリ弾かれるのがオチだ。戦艦の主砲が直撃でもすりゃ話は別だがそんなもんはまず当たらん。

 

 よっぽど片方が格上でも無い限り、接近戦を仕掛けないと決定打にはならないわけだ。

 

「なるほどなあ。てこたぁ、やっぱりジークムントの野郎も並の器じゃねえってことか。このところのアヴェの不利は、単純に両国に埋蔵された遺跡の量の差が出ているってのが通説だったが……どうもプランニングのレベルでもいささか水を開けられている感じだな。戦略部の連中もずいぶんと情けない仕事をしてくれてたもんだ」

 

 んー、まぁ、その結論も間違っちゃあいないさ。元々の機数が多ければ量産化が軌道に乗る前でも全体の傾向は掴みやすかったろうし、前提条件が有利な時点で事前計画の質が上がらないはずもないからな。

 

 それに、貴官もじきに仔細知らされることになるだろうが。この件にはソラリス《割とどうしようもない裏事情》が絡んでる。両国ブレイン同士の知恵比べの結果と言い切るには、流石にノイズが多すぎる。

 

「はァん?」

 

 ……しかし、こっちも聞きたいんだが、今までアヴェではギアの扱いってどんな感じだったんだ?

 

 あくまで要所要所での一機単位の運用が主だったとは聞いてるが。現場の声も一応抑えておきたい。

 

「そうさなあ。乗り手によっては妙に硬いし機動力もあるが、もとがガラクタを仕立て直したもんだから火線を集中させれば案外ポトリと落ちることも多い。コストリターンが合わんからどっちかというとお飾り向けで、今後も主力は戦車と砂上艦だってのがもっぱらの評判だったさ。ただ、ちょうどシャーカーンのハゲタコ野郎が宰相になったあたりで、『教会』のほうでなんかブレイクスルーがあったらしくてな。その流れを受けて急遽量産化に漕ぎ着けたのがアヴェ01ってェわけだ」

 

 ふんふん(……ブレイクスルーってか、おそらくイグニス大陸の戦力均衡のためにソラリス側から調整が入ったんだな)。

 

「そんで、突然画一化されたギア部隊が現場に降って湧いたわけだが、カラダだけ出来上がってても運用法が定まってねえ。ドクトリンも未発達だし、そもそもギアを主力として運用すること自体に懐疑的な声もわりとでかかった。俺たちだって同じだわな。昨日まで個人個人が好き勝手やってたのが、いきなり団体戦やれって言われてもどうすりゃあいいんだって話だ。その点、大将の講義は答えの先取りになってる感がある。大いに参考にさせて貰ってるぜ」

 

 答えの先取りね。実際その評価はとても正しい。どこから何がどうとはまだ言えんが、俺の話していることってのは、結局のところカンニングに近いものがあるからなあ。いわゆる巨人の肩の上に立つってやつだ、ギアの話だけに。生兵法ゆえ色々と至らないところもあるかもしれんが……。

 

「謙遜するない。王城に一機で突っ込んで殿下とマルー様を助け出したって聞いたときにゃ、こいつぁ単なるイカレ野郎かと思ったもんだが。詳しいところを開けてみりゃ、なかなかどうして筋が通ってる。理屈をしっかりカラダに馴染ませるのはそう簡単なことじゃねえ。大将のトシ考えりゃあ驚異的といっていいだろうさ」

 

 ご評価いただき有り難い話だ。失望されないようせいぜい頑張らないといけないな。

 

 ……ところで、その大将っての、もうちょっと何とかならんか? 正直ムズがゆい。

 

「ん? ……はっはっは! ケツの穴の小せえこと言うもんじゃねえぜ。大将が大将らしくしててくりゃ、今後のアヴェの先行きにもそこそこ希望が持てるってもんだ。期待してるぜ、大将!」

 

 

 

 そう言ってミロク大尉は立ち上がると、人の背中をバンバン叩いてからシミュレータ室の方へ歩いていった。痛えっつーの。

 

 しっかし、もう大将呼ばわりは諦めたほうが良さそうだなこれは……。

 

 

 

 

 

 

 先日アジトの練兵場で顔合わせした近衛騎士の面々は、上は40代から下はハタチ前後まで。ミロク大尉はその中のちょうど中堅どころだ。彼を含めて隊員はみな南方イグニス系、有色の肌をした屈強な男女が揃っていた。

 

 儀仗兵を兼ねるからか全体的にマスクが整っているが、兵士としての厳しい訓練を経ているわけで、面構えは至って精悍だ。

 

 

 

 そんな連中を前にして。まずは素手で個別に立ち会ってシバキあげ、お互いの立場を明確にさせた。

 

 ……正直言って、後ろ弾が怖いのでこういう手はあまり取りたかなかったんだが。時間に余裕が無い中、よそ者の若造が教官役に収まるという無理を通すには、多少の暴力沙汰が必要だというのが塵閣下の知識に拠ったところの結論だった。

 

 身も蓋もない話、軍隊稼業には腕っぷしに物言わせるのが最善手なことも多いらしい。

 

 絵面としてはキスレブD区画でフェイがリコの部下から食らったリンチを彷彿とさせる。もっとも、仕掛けていったのはこちら側なので逆洗礼の儀式とでも言おうか。向こうも軍隊格闘をそれなり以上の練度で修めていたようだが、基礎ステータスに差がありすぎるおかげでまぁ勝てる。

 

 腕力、敏捷性、頑丈さに感知能力その他諸々。マッチメイクとしては大型獣相手にプロ格闘家が徒手空拳で突っかけたようなもんだろう。

 

 ギアのシステムは搭乗者の身体能力がダイレクトに反映されるから、この勝ち負けはギア戦における彼我の力量差をそれなりに良く示していると言えた。

 

 

 

 生傷を量産して自分で治療するという不毛な下準備を終えたら、練兵場から停泊中のユグドラ会議室へ場所を移し、まずは座学だ。

 

 ユーゲント式の教育内容を、簡易バージョンで片っ端から叩き込んだ。教科書的な戦術論から最新のギア操縦法まで。彼らの脳内にアップデートすべき情報はいくらでもあった。

 

 先の救出作戦時における敵部隊の展開からも示唆されるように、敵するシャーカーン私兵もまた、ニワカ仕込みのゲブラー教育を受けているものと見られる。敵を知り己を知ればナントヤラ。寡兵という不利を覆すにあたり、相手の裏をかくことは欠かせないわけで。そのためにはまずもって定石を知らないことにはお話にならない。

 

 戦場では突発性の出来事が多く、直感と反射神経に物言わすこともしばしばだが、それでもとっさに身体を動かすには司令塔たるアタマの充実が不可欠なのだ。

 

 ……まぁ、現時点でアジトには訓練用のギアすらないため、座学以外だとシミュレーターでお茶を濁すか生傷量産の継続くらいしか選択肢がなかったという説もあるが。言わぬが花という言葉もあろうさ。

 

 

 

 カリキュラムをこなすうちに受けた印象としては、なんだかんだ、王家の近衛にまで上がってこられる連中なだけのことはある。

 

 切った張っただけに留まらず頭の出来もよろしいようで、最初は未知の情報に戸惑っている気配こそあったものの、ペースを掴んでしまえばスポンジのように知識を吸収していった。

 

 つーか、規格統一したギアを集団運用することの有効性を瞬く間に受け入れられるあたり、少なくともハゲ一号ことヴァンダーカムなんかよりは遥かに優秀っぽいんだが……そもそもあいつってなんであのトンマっぷりでそこそこ出世出来てたんだ?

 

 相対的に優先度の低い地域とはいえ、一方面軍の司令官職が窓際ってことはないだろう。ガゼル出身ということで血統主義的なコネでもあったんだろうか?

 

 そうだとしてもあの顔、あのキンニク、あのファッションでガゼルなのかというでっかい疑問は残るが。まぁさておき。

 

 

 

 講義のついでにメモリー・キューブを使って測定したところ(もちろん俺自身は指一本触るつもりはない)、簡易のギア適正診断としても使える各員のエーテル感応値は100前後だった。

 

 だいたいユーゲント生の落ちこぼれに匹敵する数字だ。

 

 言い方は悪いが、地上人でこれは相当上澄みな部類に属する。イグニス大陸全体で見ると上位1%はカタいだろう。おおよそ、平均的なゲブラー下士官相手ならドライブ込みでも状況次第で競り勝てるくらいはあるわけだから。

 

 

 

 地力はある。アタマもある。学ぶ意欲もしっかりある。脳みその更新を完了し、適切な機体、適切な戦場さえ与えれば、彼らは地上指折りのギア・パイロットとして大いに活躍できるはずだった。

 

 引き続き、頭数の不足については如何ともし難いものの……とりあえず質だけはそこそこのレベルを確保しておけそうだ。

 

 ないないづくしのなかで、それは珍しく耳に入ってきた良いニュースだった。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 朝っぱらから陸戦隊の基礎訓練に付き合い、朝食を挟んで近衛騎士たちを前に今日のぶんの講義をやり、質疑応答を終える。続いてバルト&マルー両名のお目付役として派遣されているシスター・アグネスに時間を割いてもらい、イグニス大陸諸国の歴史的、経済的、地政学的なバックグラウンドにつき教授を受ける。その後はひたすらユグドラ動力周りのメンテと修繕に時間を費やす。

 

 とりわけ最後のひとつが難物だった。装甲板の補修やハンガー等設備のチェックくらいならアジトの人員でも何とかなるが、スレイブ・ジェネレータの調整となると、今のところ俺かシグルドしか手が出ない。その俺にしてもシグルドにしても、メカニックとしての知識はあくまで緊急事態用の余技として身につけているにすぎず、いきおいデータベースの奥から引っこ抜いてきたマニュアルを片手にチンタラやるしか手段がなかった。

 

 そしてシグルドは外回りでほぼ居ない。1基2軸のバカでかいジェネレータと、そこから出力されるエネルギーを艦全体に供給する網の目のような配線周り、それから効果動翼と推進機等々。そこらへんをまるっと俺一人で担当しなければならないわけだ?

 

 はっきり言って手に余る。技師チームマジで早く来てくれ。今のままだとユグドラはいつまで経ってもドンガメだ。

 

 

 

 粉粒液状化用オシレータの調整が手詰まりになり、作業全体がにっちもさっちもいかなくなったので、気分転換に別の仕事をすることにした。

 

 気分転換とはいったいという疑問もないではないが。まぁ今更だ。

 

 明日の講義用のテキスト作成。ユグドラのロビーにて、塵閣下の記憶の中からポータブル・デバイスへと各種データを打ち出していると。

 

 廊下向こうの階段の上で、何やらちょろちょろしているバルトの姿がふと見えた。

 

 

 

 子どもたちのニサン滞在は、ほんの三日ほどで終わってしまった。現状二人の身柄はこの隠しアジトに預けられている。王城から脱出した事実を公にはまだ伏せておくためだ。

 

 メイソン卿から両親の死を知らされて、バルトはここのところすっかり塞ぎ込んでいると聞いていたが。遠目に見る感じ、救出作戦のときと然程変わった様子はない。むしろ寝ているところを叩き起こされたのでないぶん、子どもらしい陽性のアクティブさに溢れているようにすら思えた。

 

 もっとも、それは覆いにすぎないのだろう。

 

 心の傷は深い。言うまでもなかった。まだ十歳にもならない子どもが、両親を理不尽な理由で失ったのだ。一週間やそこらで癒えるようなもののわけがない。

 

 それでも。その悲しみや辛さを胸の内に押し込んでしまえるのは、単純な強さだ。

 

 生まれだとか、肩書きだとか、そういったものから来るのでない、ただバルトロメイ・ファティマという個人のプライド《強がり》。そんな男の心意気を尊重するために、俺は至って普段どおりに振る舞おうと、胸中密かに居ずまいを正した。

 

 

 

 バルトが階段の手すりの合間からこちらを覗き込んだ途端、目を見開き、そのまま片手を振りながらてこてこと段差を降って寄ってきた。

 

 どうやら俺のことを探していたらしい。掛けていたデータ投影用のメガネを取って、やってくるお子様一名のほうへと向き直る。

 

 よう、と声をかけた。するとバルトは、開口一番こんなことを宣った。

 

「なあカールのアニキ!」

 

 ……うん?

 

「俺にもギアの乗り方おしえてくれよ! 父上と母上のカタキをとるんだ!」

 

 メイソンさんとシスター・アグネスが許してくれたんなら、教えること自体は別に構わんが。しかし、なんだいそのアニキってのは。

 

「え? アニキじゃダメか?」

 

 ダメってわけじゃないが。いきなり言われるとちょっと面食らうぞ。

 

「えっと、爺にオッサンじゃなくて“ラムサスどの”って呼べって怒られたんだ。でもさあ、それってちょっと呼びにくくねぇ? 舌噛んじゃいそうじゃん」

 

 こっちが座ったままでも目線は下だった。目の前のアタマが落ち着かないせいで、金髪の三編みが尻尾みたいに揺れている。

 

「だからファルケのやつに聞いてみたんだ。どう呼んだらいいのかなって。そしたら、相手が年上で、色々教えてもらうんなら、ダンナとかアニキでいいんじゃないかってさ。ダンナってのはおみせで商売してる人の呼び方だろ? だったらアニキの方がいいかなって思ったんだ。どーよ?」

 

 うーん、なるほど? まぁ俺もまだ18だし、オッサン呼びは密かに勘弁してほしかったところだが。別に呼び捨てでも構わんぞ? カールでもラムサスでもゴ…いやまぁマジでなんでもいい。よっぽど変なのでなけりゃあな。

 

「“シンカ”じゃないから呼び捨てもダメなんだってさ。ムツカシイよなー。あ、それと、俺のほうはデンカじゃなくてバルトでいいぜ!」

 

 そっちはそっちで良いのかそれで。こっちとしてはラクでいいが、周りに示しが付かんのじゃないか?

 

「いいのいいの。だいたいさー、カールのアニキにデンカって言われても、ケーイってやつが感じられないんだよな。道具屋のおばさんが近所の猫呼んでンのとあんま変わんないんじゃねェの? それだったら最初からフツーでいいよ、フツーで」

 

 

 

 ……うーむ、バレてらっしゃる。

 

 確かに俺にあるのはミーハー根性だけで、この世界の王家など各種権威に対してリスペクトする気持ちはあんまりない。必要な場面場面では表面上尊重はするが、裏ではバルトもマルーもそこらの子どもと扱いとしてはそこまで変わらん。

 

 俺の目的にとって彼らは重要な要素ではあるけれど、良くも悪くも絶対的な存在ではないのだ。

 

 もちろん、彼らを予め知っているからこそ持てる愛着というものはあるだろう。未だに俺の中での原作知識の比重は大きい。しかしその反面、知っているからこそ突き放して見てしまう部分もあるわけで、足し引きしたところが近所の猫というのはなかなか言い得て妙だった。

 

 そのあたりをスッパリと見抜いてしまう無意識の観察眼。いやあ、お見逸れ致しました。原作どおり出たとこ勝負なきらいもないではないが、なるほど彼は王子云々関係なしに、将来一廉の人間になるんだろうなと、そんなふうなことを思わせてくれる。

 

 嫌味のない才気溌剌さは目に心地いい。バルトロメイ・ファティマを前にして、俺自身、いつの間にか協力を惜しまない気にさせられている。これが王者の才ってやつなのかねえ。血は争えぬ、獅子の子は正しく獅子であるってか。

 

 

 

 ふんふん。じゃあバルト。もうちょいやったらこっちも片付くから、その後で良ければ付き合ってやるよ。

 

「よっしゃあ!」

 

 カタキ討ちとかはまぁともかく。ギアに乗れるようになっとければ便利だからな。普通はもうちょっとタッパが出来上がってから始めるもんだが、お試しくらいなら多少のフライングは構わんだろうさ。

 

 

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