塵閣下になりました   作:あーぷ

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割りの合わない家業について

 

 

「なーアニキ、ちょっと聞いていいか?」

 

 ……んー?

 

「俺ってさぁ、これからどうすればいいと思う?」

 

 そんなもん分かりきってるだろう。子どもは適度に遊んでしっかり勉強するもんだ。

 

「いや、そうじゃなくてさ。俺にもあれだよ、タチバってやつがあるだろ。そーゆーのも入れてってことな」 

 

 と、バルトは年齢と性格に似つかわしくない憂いのある表情を浮かべて、呟くように続けた。 

 

「シャーカーンのやつが許せねぇってのは、あるのさ。カタキを討つんだって、今も思ってる。でもその後ってどうなるんだろう? 俺、王様をやらないといけないのかな? 爺や、コノエのやつらや、ニサンの人が助けてくれるって言ってる。それは、そうなんだと思うよ。だけど俺にそんなのツトまるのかなって」

 

 んー、勤まるかどうかで言や、勤まるだろうな。ファティマには歴史がある。歴史があるってことは、長年積み上げられてきたノウハウ、つまり色んなやり方の蓄積があるってことだ。

 

 国ってのはでっかい脳みそみたいなもんで、前もって経験したことについてはある程度融通を利かせられる。過去を紐解けば、今回みたいなケースも今までになかったわけじゃない。

 

 政争による混乱期を経て若年の王が擁立され、バックには前王の臣下がつく。はじめは臣下が手綱を握って象徴としての扱いに留め置かれるが、王の成長を待って徐々に権限が戻される。

 

 完全に元通りになるかはともかくとして、とりあえず、そういうシナリオ自体は十分に描くことが出来るだろう。

 

 ちょーっとむつかしい話をしたかもしれんが……ようはやり方については誰かが覚えているから、お前さんが一から考える必要があるわけじゃないってことだ。

 

 もちろん覚悟は必要だろうが。でもそれはお前さんが「何かをする」覚悟じゃなく、周りの色んなシガラミどもから「何かをされる」覚悟だな。

 

「……」

 

 もっとも、これはあくまで外向きの話だ。お前さんが聞きたいのは、たぶんそういったことじゃあないんだろう?

 

「……うん。あのさ、ここだけの話、俺、王子ってやつは面倒だなって思ってたんだ。色々やらされるし、やっちゃいけねェことも多いし。だけどそういうのは全部教えて貰えた。父上や、母上や、シンカの連中や、マルーの家族や、二サンの人なんかに。結局さ、根っこのとこでは俺じゃない誰かが、“そうしろ”って言ってくれてたんだ」

 

 バルトの手が握りしめられているのがチラリと見えた。この世界の人為的な不条理が、目の前の子どもにも重く伸し掛かっていることに憤りを覚える。

 

 ……といって、ただそれだけってわけじゃないことも分かっていた。政争なんてものは、そしてそれに伴って起こる悲劇的な事件というのは、あるがままの人々の営みのなかでも、しばしば見られる出来事なのだ。悲しいことに。

 

「でも、これからは全部が全部、俺自身のことなんだって。“そうする”って決めなきゃいけないんだって。そう考えたら、そうだな、怖くなったんだ。情けねェけど……やってける自信、あんまり、無ぇんだよな」

 

 

 

 つまり気の持ちようについてか。あるいは王としての……まぁ、そうだな。別にそうややこしく考えなくても良いと思うがな。ようは家業を継ぐってだけの話なんだから。

 

「カギョー?」

 

 そう。家の仕事と書いて家業ね。

 

 極論言っちまうなら、八百屋のオヤジも王様家業も変わらんわけさ。バルトロメイ・ファティマ、八百屋の一人息子としよう。親父さんが倒れた、他に身内もいない、実家の八百屋が経営の危機だ。さてどうする?

 

 人間稼がにゃ生きてはいけない。でも、今までほとんど親任せだったわけで、何をどうすればいいかなんて分かんねえぞとくる。

 

 客商売の作法とか、仕入れ先との付き合いとか、野菜の新鮮さの見定め方とか、たぶん色々あるんだろうな。幸い助けてくれそうな親戚や、近所のヤサシーお兄さんなんかはいるようだが。だからって、そいつらが何でもかんでもやってくれるってことにはなりそうにない。

 

 そーいう状況で、今後も八百屋をやるのかどうか。そこはまぁ、自分で決めなきゃならんわな。

 

 確かに、答えを出すのが難しい問題だとは思う。けども、構図自体は単純だ。そうだろう? ご両親への義理とか、お前さんのプライドとか、周りに掛かる迷惑とか。色々と全部乗せして秤に掛けて、やれそうならやってみれば良いし、ダメそうならブン投げちまえばいいってだけの話だ。

 

 馴染みの八百屋が潰れたらご近所は困るだろうが、それでもそのうち何とかなる。遠くまで買い出しに行けば当座はしのげるし、じきに近場に新しい八百屋が建つだろうさ。

 

「……そっか。そうだよな」

 

 

 

 それに、もし仮にブン投げることになったとしてもだな。全部まとめて放り投げることを無理強いされるわけじゃない。

 

 要ると思う所だけ引っこ抜いて、余計なところは捨てちまってもバレなきゃ構わん。

 

 たとえお前さんが、誰から何を託されていようと……継いじまった八百屋は、お前さんのもんだ。

 

 世界は回る。状況も変わる。それに合わせて、世の中臨機応変にやってかないとな。

 

「え、いや、それは……」

 

 ……ま、いよいよにっちもさっちもいかなくなったなら、そのときはギアパイロットをやりゃあいいだろう。アヴェの近衛騎士ってのはあれでも相当エリートでな? お前さん的には日毎にどんどん手応え無くなってるから、なかなかそうは思えんだろうが。

 

 そんなやつらと渡り合える子どもが、引く手あまたは違いない。

 

 兵隊仕事が嫌ならサルベージャーやるのもいいし、エンジニア、建築関係、運送業、なんでもござれの選り取り見取りだ。そのへんについては安心していいぞ。将来有望だ。

 

 なんで、結論としては。

 

「……としては?」

 

 しっかり勉強しろい。シスター・アグネスがなあ、お前さんの旧ファティマ語の書き取り課題がボロクソだってボヤいてたぞ。

 

「えー! ……いやだってさぁ、アレワケわかんねえんだもん。だいたいムカシの言葉なんか読めたっていったい何の役に立つんだよー!」

 

 おうおう、学生お決まりのセリフを言うじゃないか。だがキョーヨーは大事だぞ。お堅い場でいざ古典の知識が求められたときに、ピシッと決められないことほど格好悪いもんはないんだぜ。ましてやそれが自分の国の話題となればなおさらだ。

 

 将来恥かきたくはなかろう? 良いからとっとと真面目にやりたまい。時間が合うときは俺も付き合ってやる。

 

「げぇー……」

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 ……とまぁ、一昨日ここでそんなやり取りがあったんだよ。

 

「そうか。地獄に落ちろ」

 

 なんでだよー。未だにシグルド卿呼ばわりで他人行儀にしか扱ってもらえない憐れな実兄さんが、いったいこの俺に何の恨みがあるっていうんだい? ……っておいこらこっちの防御打ち消しながら肩パンすんのマジで辞めろ。痛い痛い痛い。

 

 

 

 状況としてはアジトの食堂にてまたもや報告会である。

 

 ニサン経由で新鮮な食材が入ってくるおかげで、アジトでの食事は実はそこそこ質がいい。担当のおばちゃんが売店と仕事を兼ねているので、食事時が近づくと売店の方が使えなくなるのが難点ではあるのだが。

 

 パン食を中心としたお上品な見た目の料理各種に加えて、甘味類がやけに充実しているのが特徴と言える。清涼飲料水「ニサンの水」に、ニサン東部地方特産のエルフバナナ。それにおばちゃん方お手製のシフォン・ニサーナが戦列に加わる。

 

 マルー嬢やシスター・アグネスや近衛の女性士官なんかには殊更ウケが良いようで、満足度のアベレージはかなり高い。

 

 一応、野郎代表としては食い出がイマイチで物足りないという意見も無いではないが。まぁあえて言うまい。台所周りの話で女性陣に楯突いたって、だいたいにおいてロクなことにはならないものだ。

 

 

 

 なんで、正直油断していたところはある。わざわざ食事の席を立ってまで殴りにくるとは思ってなかった。行儀が悪いぞシグルドよ、食堂の風紀を乱すものにはおばちゃんから正義の鉄槌が下るぜ……とは、流石に言わないほうがよさそーだな。

 

 この野郎どうも相手にダメージを残す殴り方のコツを心得ているらしく、ブン殴られたところにエーテル治療を施してもなかなか痛みが引かないのだ。

 

 からかうにしても程々にしとかないと後で何されるか分かったもんじゃない。つーか、相手に遠慮がなくなるとキレやすくなるというのは、こいつわりと素でアルコール投入したらダメなやつではなかろうか?

 

 速攻で潰れなかったら酒乱と化して暴力沙汰を引き起こすタイプと見られる。後天性の体質で酒が呑めなくなっててよかったよホントに。ソラリスのマッドどもに感謝すべき数少ない事例かもしれん。

 

 

 

 ……それで? シグルド卿、実際どのあたりが主にご不満ですか。弟がどこの馬の骨とも知れぬソラリス野郎に自分より懐いていることですか。それともその弟君が、自分たちで担ごうとしている玉座に対して煮え切らない想いを抱いている件ですか。あるいはその苦悩を自分自身が汲んであげられなかったことへの慙愧の念というやつですか。

 

 それらのうちいずれか、もしくはそのすべてですか。

 

「もう一発、次はその顔にくれてやろうか? 豹変したお前にもいい加減慣れたが、それはつまり精神に変調をきたした怪我人に対する遠慮がなくなったってことでもあるんだぞ。どうせ傷自体はすぐ治せるんだ。そのスカした面を今すぐ男前にしてやる」

 

 いや、これはわりと普通に真面目な質問な。ある程度の予備知識はあっても、なんだかんだで俺はよそ者だ。お前さん方の腹の内の細かいところはイマイチ分からん。そのへん、しっかり言語化してもらっておく方が齟齬が少なくなって後々のトラブル発生を防ぐのに有益だろうと判断した。

 

「だったらもう少し癇に障らないよう配慮しろ。……話していて疲れる」

 

 いやあ、すまんな。ヒュウガが感染ったかな?

 

「まったく……。返答だが、どれも正解を掠めているがいずれも当たっているとは言えない、だ。お前の助けもあって、状況の推移自体はそこまで悪くなってはいないんだろう。しかし、今後の具体的な展望が今ひとつはっきりしないように思えてな。さしずめ沼に浮いた板の上に立っている気分だ」

 

 ……なるほど。

 

「星間戦略兵器システム《デウス》。太古の兵器を復活させんがため、世界規模で進められている各種の策謀。聞かされたときには突拍子もない話だと思ったが、念頭に置いて各地を見て回れば、確かにその一端は窺える。網の目のように張り巡らされた諜報網、物資輸送網。イグニス大陸でエスカレートし続ける軍拡競争とそのコントロール。傍目には野放図に見える死霊《ウェルス》のような人体実験。……ソラリスの目的がただ支配だけだとするには、余計な部分が多すぎる」

 

 うむ。

 

「何か得体のしれない計画があるのは明らかだ。それが、お前の言うように破滅的な状況をもたらすものであるなら、前もって手を打つことに関して異論はない。だがその過程のなかで、我々はいったいどのようなところに落着するのか? そこが分からないことからくる曖昧さだな。不満の根本的なところは」

 

 ふんふん。まぁ言いたいことは分かる。人命はたくさん救えましたがその裏でアヴェは人知れず滅びましたじゃ、お前さんとしては承服できかねるわな。

 

「そういうことだ。我田引水と言いたければ言え。我々にも……いや、俺にも立場というものがある」

 

 そこについては俺も人のことは言えんから文句はないさ。人間自分が正しいと思うようにやるしかやりようはない。正義に絶対性を求めたってロクなことにはならないからな。

 

 しかし、今後どうなるかか。そんなもん分かったら苦労はしない、というのが一般論だろうが。本件に関しては俺自身がモロに例外だからなあ。

 

「分かってるなら知っていることをキリキリ吐け」

 

 簡単に言ってくれるけども、こっちだってなかなか難しい立場に居るんだぞ? なにせ神ならぬ人の身、何もかもを包み隠さず知っているってわけじゃあないからな。

 

 今後の流れをざっと見せられて、このままじゃマズいと思って動いてはいるが。俺がアクションを起こすことで生じる変化を勘案しつつ、話して大丈夫なことと伏せておくべきことを、自己裁量で切り分けないといけないんだ。

 

 心理的に優位なポジションにいることは否定しないが、だからってお気楽ご気楽とは程遠い。

 

 

 

 ……ただ、今回のバルト君とのやり取りの兼ね合いで、ひとつ伝えておいたほうが良いことがある。これについてはお前さんにも知る権利があるだろう。

 

「ほう」

 

 実のところ、バルトロメイ・ファティマが抱えているのは王位継承権だけじゃあないんだ。彼が先王さんから受け取ってる遺言としてだな、アヴェを共和制国家とするってのがあるらしいんだわ。

 

「……なんだと?」

 

 共和制。統治権を国民の手に移し、王権は廃止する。将来シャーカーンを退けてブレイダブリク奪還を果たした後、民衆の前でバルトロメイ殿下はこれを大々的に宣言することになる。

 

「それは……どの程度確度のある話だ。あやふやなままで出したのなら、幾ら何でも冗談じゃ済まされんぞ」

 

 ほぼほぼ事実だ。さっき話したバルトの反応とも整合性がある。……とはいえ、この遺言については、彼にどれだけ正確に伝わっているかは怪しいところがあるとは思ってるがな。

 

「……続けてくれ」

 

 共和制への移行と言うが、現状のアヴェを見る限り、そこまでメリットがあるようには思えないんだよな。

 

 ソラリスやシェバトのように技術的に自分たちを上回る仮想敵が存在する状態で、アベレージだと優秀だが意思決定に時間がかかりがちな民主共和制を採用することに意味があるのかどうか。

 

 ユグドラの件をみても、先王陛下に先見の明があったことは確かなように思える。果たしてそんな御方が、ただ道義的な側面を優先して、国全体に混乱をもたらしかねない一手を狙って打とうとするだろうか?

 

「……『教会』影響下での普通選挙はゾッとしないな。連中が介入するスキが大きすぎる。何にしても、現行の世界情勢ではある程度強権政治でないと外部勢力に振り回されて終わりだ」

 

 そう。船頭不在による混乱が行き着くのは往々にして軍事独裁だが、それってつまるところ第二第三のシャーカーンがこんにちはなんだよな。ソラリスにとって非常にやりやすい土壌なのは間違いない。アヴェって国の舵取りとして、良い方角を向いているとはイマイチ思えないんだ。

 

 これは俺の想像だが……先王陛下が考えていたのはあくまで権力の段階的な民衆への移譲であって、一足飛びに王権を廃するつもりはなかったんじゃないかな。現状の統治体制の維持は長期的には不可能と見て、漸進的な制度改革を試みるつもりだったんだろう。

 

 いずれ国を国民の手に返さなければならない。先王陛下からバルトに伝わっている言葉はそんなふうな、あくまで理念であって具体的な肉付けの欠けたものだと思う。遠き未来を見据えた王者としての立場ではそれは正しい結論なのかもしれん。

 

 しかし、どこまで行っても理念は理念だ。少なくとも明日明後日の方針としては似つかわしくない。

 

 結果として、バルトが宣言する共和制の樹立は、間に入るべきステップを大量にすっ飛ばした荒療治と化す。

 

「分かる話、ではあるが……。むぅ」

 

 まぁ、年齢一桁の跡継ぎが口頭で聞かされただけじゃ、行き違いが腐るほど出るのもやむを得んさ。俺の知る未来では、バルトが王権廃止を宣言するところまでだが。どうせ近いうちにゴタゴタ発生で、最終的には王政復古が求められるオチになってたんじゃないかね。

 

 そもそも、現状のイグニス大陸南部の教育レベルやら治安レベルやらを考えると、いきなり選挙をやったとしてマトモに機能するとは思えないんだよなあ。単なる現地勢力の信任投票と化して、じわじわ収拾つかなくなってくだけじゃねえのかという。俺の判断材料はほとんどシスター・アグネスから仕入れたものだから偏りはあるかもしれんが。

 

 なんで当面は王政継続で、現行の立憲君主制をより民主的な形にスライドさせて行くほうがよっぽど無難かと思う。

 

 それだったらお前さんだって何とか受け入れ可能じゃないか? 貴族連中には割を食うやつも多そうだが、とりあえずファティマの名は残り続ける。形を変えて、しかし確実に。

 

「……まぁ、な。キスレブの国家体制を鑑みると、遺憾ながらアヴェの国体がいささか劣後しているのは否めない。国民意識を醸成し、国力の集約を図っていく必要性は今後どうしても出てくるはずだ。そのために、国政の主役を国民に譲り渡すことについては理解できる」

 

 工業生産力については既に相当差が付いてるみたいだからなあ。旧文明由来の原子炉のおかげで、ノアトゥン近郊の電力事情が異常に恵まれているという理由があるにせよ。何とか追い上げてバランスさせないと、仮に和平を締結できたとしても後々経済力で呑み込まれて終わっちまう。

 

「ああ。俺としては、そのあたりはソラリスの技術を盗むことで何とか埋め合わせるつもりだった。しかしたとえどういった手を採るにしても、改革を進めていくにあたって強力なリーダーシップは欠かせない。アヴェの民が、アヴェの民の意志により、アヴェの民のための政治を行う。その折に断固たる方向性を示すためには、ファティマ王家という象徴はどうしても必要となってくるだろう」

 

 同感だ。後々の民主化を視野に入れつつも、しばらくの間は中央集権化した上での開発独裁式で対処する。当事者バイアスが掛かってないかは逐一気をつけるべきだろうが。今後取るべき方向性としては、だいたいそんな感じで良いんじゃないかね。

 

「先王陛下のご遺言に関しては……面目次第もないが、一時の猶予をいただくしかなかろうな」

 

 

 

 ……とまー、そんなわけで。お前さんいい加減腹くくれや。

 

「? 何のことだ?」

 

 バルト君に洗いざらい白状しちまえってことだよ。子ども一人に何もかも抱え込ませた結果、国力を盛大に毀損させかねない事態がそのうち発生するんだぞ。そうさせないためにも、打てる手は打てるうちに打っとかなきゃいかんだろう。

 

 あの子に今必要なのは無条件で信頼できて、胸襟開いて話し合える相手、つまりは身内だ。実兄はとっとと名乗り出て、目上の身内としてもっと親身になってやれ。

 

「……」

 

 よそ者の俺ではダメだ。メイソン卿やニサンの連中も、身分的な上下関係が絡んでくる時点で話にならん。マルー嬢はポジション的にはいけるかもしれんが、年下の女の子に堂々と寄っ掛かれるほど小器用な男じゃあないだろう。

 

 そうなるともうお前しかいないんだ。黙ってて済まなかった、今まで独りで良くやった。色々と面倒もあるだろうが、これからは一緒に頑張ろうでいいんだよ。そうすりゃ厄介ごとのいくつかは丸く収まる。だいたい、くだらん建前押し出して勿体つけたせいでなかなか言い出せないとか三文ドラマじゃあるまいに。

 

「……少し、考えさせてくれ」

 

 おう。別に急ぐ話ってわけじゃあない。技師チームのおかげでユグドラのレストアは軌道に乗ったし、それが終わったら次は戦力拡充フェイズに入る。引き続き死ぬほど忙しかろうが、それでも合間合間に時間が取れないって程ではなくなるはずだ。そのあいだに適当に考えを纏めて、メイソン卿あたりの立ち会いで内々に済ませりゃいいさ。

 

 ま、何にせよ、面白そうな見世モンだ。お前さんの醜態を永久保存版にすべくカメラ付きで馳せ参じるから、いざってときが来たら俺にも前もって知らせろよな。わっはっは。

 

 

 

 

 

 

 ……あの野郎笑顔で右フックはねえだろうが。イテェ。

 

 

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