塵閣下になりました   作:あーぷ

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美人に武勇伝を語る

 

 

 いやはや、酷い目に遭いましたよ。

 

 化け物相手に切った張ったの二十四時。休みもマトモに取れない強行軍とくる。目当てのモノは十分掻き集められましたので、目標未達にならなかっただけまだマシですが。それでももう少しキチンと見通しを建てておくべきでした。その点については反省です。

 

「まあ……。わたくし、ただ遺跡の発掘に向かわれたとしか伺っておりませんでしたわ。イグニス《向こう》では普遍的な労務のひとつ、危険といえば落石のような事故くらいしか思い至りませんでしたけれど……皆さま、それほどの処にまで赴かれていたのですね。ラムサス様もご無事でよろしかったですわ」

 

 ありがとうございます、シスター・アグネス。差し当たって、死人が出なかったのはまず幸いでしたでしょうかね。ドラゴンと出くわすハメになったときは実際相当マズいところまで行きましたが、ギアチームの尽力のおかげで、まぁ何とか。首の皮一枚とでも言いますか。

 

「ドラゴンですって? それは、いわゆるおとぎ話に聞くような?」

 

 はい。どうも、元を辿れば遺伝子操作で作り上げられた見世物だったようなんです。そいつが野生化して、都市遺跡の地下部分で密かに繁殖していたのが事の次第らしくて。

 

 まがい物とはいえ、けっして名前負けしていなかった。おとぎ話の謂われように見劣りしないだけのものがあったんじゃあないでしょうか。

 

「……」

 

 古代ゼボイムの技術力ってやつが伺い知れましたよ。生物工学にしても、機械技術にしても。

 

 ……もっとも、前者についてはお前ら好き勝手しやがってと胸中何度も毒づくハメになりましたけど。

 

「そんなものが巷に出てきたらと思うとゾッとしますわね……。今回搬出された物資については、わたくしの方でも先ほど目録に目を通させていただきました。本稼働が可能なギアが二個小隊ぶん、確か、これは24機ということですわよね。それから交換用の部品に、メンテナンス用資材各種に、通常兵器類、サンプル用も一揃い? わたくしではカタログ的な見方しかできませんが……これらに関しては、教団員《カハル》の者にこのままお伝えしてしまっても?」

 

 そうですねえ。情報の秘匿性を考えますと、今回発掘したギアの上澄み部分と、それから向上したユグドラシル級の具体的なスペックだけはなるだけ伏せていただけると有り難いですか。その他については丸々伝えていただいて差し支えないと思います。

 

「承知致しましたわ。ではそのように差配致しましょう」

 

 よろしく頼みますね(まぁ守られるとも思えんが)。……今後も中期計画として、第二陣、第三陣と、発掘自体は継続する予定です。ただ、当面の作戦行動には現有戦力だけでもおそらく十分でしょう。

 

 既に個々の性能については、ヒトでも、モノでも、こちらがだいぶん上を行っていますから。

 

「そうなのですか?」

 

 ええ。ご婦人に武張った話題を持ち出すのも恐縮ですがね、今となってはかのアヴェが誇る無敵艦隊が相手であっても、そうそう引けは取らない布陣を敷けるんじゃないかと思いますよ。

 

「頼もしいお話ですこと。ニサンも、あなた方のお働きには大いに期待しておりますのよ。わたくし共の力不足を負わせてしまうのは心苦しいですけれど……そのぶん上層部も、有形無形の支援はけして惜しまぬと申しております。何卒、大教母様方を、そしてアヴェをお救いくださいましね」

 

 はい。微力を尽くしますので朗報をお待ちください。

 

 なぁに、確かにこちらが寡勢ではありますが、向こうの手の内は割れている。心配御無用。逆賊シャーカーンを手玉に取って、イグニスの熱砂の上であの男をキリキリ舞いにさせてやりますとも。

 

 

 

 

 

 

 ……実際のところ。ゼボイムの基地から持ち出したギアの性能だが、近衛騎士クラスの人間が扱えるものですら、原作でハゲ一号をボコった時点でのヴェルトールのノーマルスペック――流石にイド・モード相手だとカカシ同然だろうがそれはまぁしょうがない――をそれなり以上に上回っている。

 

 Disk1中盤でDisk2終盤のパーツを使ってるみたいなもんなんだからそりゃそーだ。

 

 シェバト製とゼボイム製を中心に揃えたおかげで、通常兵器の性能についても古今東西一級品。ユグドラ《フネ》の速力でもアヴェの標準的な陸上戦艦に対して1.5倍近い差を付けている。

 

 お愛想程度に数で劣っていようと、他の部分が断崖絶壁レベルで隔絶しているわけで、負けようと思って負けるほうが既によっぽど難しかったりする。

 

 

 

 ぶっちゃけ、戦術レベルでの仮想敵はソラリス本国軍やシェバトになるだろう。

 

 量はともかく質的な意味ではアヴェとかキスレブはもう眼中になかった。それこそ、無敵艦隊程度の相手なら鎧袖一触で粉砕できるものと見られるが……そこまでニサン側にオープンリーチをかます必要はないだろうとも思う。

 

 アヴェにとってニサンは掛け替えのない友好国。上層部に至っては血縁関係塗れでズブズブとはいえ、それでも頭から足先までが心底身内というわけではないのだ。

 

 

 

 それに、圧倒的な戦力でただすり潰しましたってだけじゃ、こっちとしてもあんまり良い格好はできんしな。色んな意味で。

 

 

 

 

 

 

 ……ところでこちらも。良かったらどうぞお持ちください、シスター・アグネス。オマケみたいなもんですが。

 

「これは……雑誌かしら? 旧ファティマ語、ではありませんわね。今では使われなくなった音素文字が随分多いし……活用も複雑だわ。旧ファティマよりも、もっとずっと、古い時分の言語?」

 

 お察しのとおり、ゼボイム時代の雑誌です。データベースからサルベージした複製品ですけどね。流石に紙モノは経年劣化で見れたもんじゃあ在りませんでしたので。

 

 おそらく、都市風景に女性のファッションを合わせたコンセプト集ってとこですか。完品で手に入ったものの中では、当時のゼボイムの雰囲気を摘んでもらうのに丁度よい一冊かと思いまして。

 

 タイトルやキャプションなんかは、ゼボイム言語なんでところどころ不明瞭だけど。貴女でしたら大よそは読み取れるんじゃないでしょうか?

 

「……素晴らしい資料ですわね! 風変わりで、でも洗練されていて。それにとってもきれい。当時の習俗をこんなに間近に感じられるものが、まさかありのままに残っているだなんて! ニサンに残る古文書だけでは、未だゼボイム文明は実在すら疑われているくらいですのに……」

 

 

 

 大振りなスクラップ・ファイルを繰っていく手付きはしなやかだった。薄褐色の肌にヘーゼルの瞳。少し神経質そうな整った顔つきが、写真や文面のここぞというところへ次々傾けられていく。

 

 歴史的資料からエッセンスを汲み取る作業に、彼女が長じているのが見るからに分かる。

 

 二十歳そこそこの若年で、王家子女の教育係とカウンセリングを一手に任されるだけのことはある。シスター・アグネス、出自良し学び良し、ニサン法皇府の若手では指折りのインテリなわけだ。

 

 

 

「……やっぱり季節感の変化があるわ。閉じられた地下都市であっても、四季折々の移り変わりを楽しむ気風は残されていたということなのね。あら、こちらは新年を祝う飾り付け? イグニス最南部の伝統様式と少し似たところがあるわね。ゼボイム中央第7ビル17階、セントラル・エリアを見下ろす、ええっと」

 

 んー、それは隠れ家でいいんじゃないかな。Bar.ジョーの隠れ家にて。そんな大通りに面した大店で、隠れ家もなにも無いって気はするけれど。

 

「当時の諧謔ということかしら? 4000年前のユーモア。こうしたレトリックで、表現に落差を造ってみせるのが流行だったのかもしれませんわね。……ああでも、媒体には媒体なりの偏りがあるし、メディアからの単方向な視点だけで、そうしたものだと思いこんでしまうのは早計だわ」

 

 さしもの彼女も随分テンションが上がっている。まぁそうなるんじゃないかと狙ってはいた。なにせ、隔たる年代量を考えると、古代エジプトあたりのリアルタイムが突如手元にこんにちはってことになる。

 

 俺としては、ゼボイム文化はあまりにもモダンすぎるせいで、正直そこまで感慨は湧かなかったんだが。この世界の教養人の観点ではSFじみた未知の古代文明の他何物でもなく、好奇心がフィーバーするのも無理からぬことだ。

 

 資料価値が分かる人間として、初めてそれを我が手に検めることができたというのは。ある意味、歴史的偉業の達成に間近で立ち会えたようなもんだろう。

 

 

 

「ねえ、ラムサス様。空洞都市の市街跡に、実際に出向かれていたとおっしゃって? でしたらお分かりになりますかしら。こちらの書籍に取り上げられている都市風景ですけれど……まさか、遺構が現存しておりますの?」

 

 都市全体の保存状態の良さは折り紙付きですからね。外観については、ほとんどがそのまま残っていると思いますよ?

 

「まぁ! なんてことでしょう。学府の先達たちに知らせたら、きっと驚きのあまり目を回してしまいますわ」

 

 テーブルの上にファイルを開けたまま、目をキラキラさせて手を取られた。睫毛長えなってか、オネーサン、食いつき良いっスね?

 

 ……まぁ、ニサン側としても今後のゼボイム発掘計画にはしっかり噛んでいきたい思惑があるはずで、この積極性をどこまで鵜呑みにすべきかは気をつける必要があろうが。

 

「今後も発掘を継続されるのでしたわね。ゆくゆくは法皇府学寮の調査チームを同道させて、発掘計画にフィールドワークの側面を持たせることは出来ないかしら。ラムサス様、学問に理解ある方として、何卒ご検討くださいませ。もちろんわたくしも精一杯協力させていただきます。ささやかながら予算も降りると思いますわ」

 

 れっきとしたアカデミアの協力が得られるのは有り難いです。貴女の熱意にも敬意を評する。前向きに検討致しましょう。

 

 ……ただ、保存状態良好とはいえ、滅んだ都市の残骸であることには違いありません。どこもかしこもひどい有様で、その資料を前提にお考えですと、流石に些か期待はずれかもしれませんよ。

 

 それに身の危険も。今のところ、貴女を直接お連れするのはちょっと躊躇わざるを得ないかなあ。

 

「あら。わたくし、そうしたものにだって、十分に親しめるほうだと思いますわよ? これでも史学や考古学には一家言ありますの」

 

 と、彼女は両手を自らの胸元に引き、祈るようにそっと瞼を伏せた。

 

「華美な装いが朽ち果ててしまった後にも、有る種の侘び寂びが宿るもの。それに……滅んでしまった都市であっても、そこで生き、亡くなった人々の残滓が残されているはず。各方《おのおのがた》の生のすべてを無にすることのないように、手ずからそれを継承していくのは、今を生きる我々の、成すべき責務だと思いますわ」

 

 あいや、シスターの見識を疑うつもりはないけどね? ただ史学と言うか何というか、どちらかっていうとアレは大衆向けのパニックホラーだからねえ……。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

「近ごろは殿下も、マルー様も、お勉強がたいへん捗ってらして。始めた頃は少々遅れ気味だったのですけど、今ではもうスケジュールを追い越さんばかりですわ」

 

 取り留めもないお喋りが続いている。お互い予定の詰まった身のはずだが、まぁたまにはいいだろ。

 

「お二人とも、とてもご立派になられると思います。殊に殿下におかれては、先王陛下にも勝るとも劣らない、素晴らしい為政者として身を立てられるのではないかしら」

 

 ふぅん。こっちも発破かけた甲斐があったもんだ。バルト君って地頭は良いのに……いや、良いからこそかな? 決められたとおりに愚直にっていうのがちょっと馴染まない感じはあるよね。

 

 そのあたり的確に引っ張ってあげれば、より良い方角に向かうのももっともな話か。

 

「そうなんですのよ。……といって、御身に降り掛かった災禍を思えば、身が入らないのも無理からぬことではありますけれど」

 

 彼女は悲しげに目を伏せる。当然その感情に嘘偽りなどあるはずもなかろうが、とはいえ今だけはある種のポーズっぽさがあった。

 

「たとえ貴なる者の務めであっても、殿下はまだ、十歳《とお》にもなられていないのですもの。ご両親を亡くされて、都から遠く離れてただひとり。わたくしも手を拱いていたところは正直あって……ラムサス様のご助力には、本当に感謝しておりますわ」

 

 いやあ、実際のところね、バルト君にはこっちとしても助かってる部分があるんだ。なにせ騎士団員をまるっと含めても、ギア操者として俺と渡り合えるのはシグルドと彼くらいだから。

 

 あの年齢では驚異的どころの話じゃない。訓練相手として申し分ないから、いたずらにこちらの時間が失われてるってわけではないのさ。

 

「まあ」

 

 アヴェ建国の王とされるロニ・ファティマも、優れたギア操者だったという説があるらしいけれど。バルト君の才能も、その血統からくるものなのかもしれないな。

 

「あら、お詳しいんですのね?」

 

 ここのデータベースを見せてもらったときにちょっとね。あと、メイソン卿からもいくらか聞いたよ。

 

「事実、アヴェの建国神話をそうした形で読み解く論者もいます。王は総身に炎まといて、巨人と血の契約交わせし。ファティマ一世が力を借りたその巨人は、太古の昔に創られた人造神であるとか。この度のゼボイム史跡のことを思えば、その解釈にも一定の信ぴょう性が出てくるのかもしれませんわね」

 

 放射性同位体の測定結果を見る限り、ゼボイム4000年は眉唾ってわけでもなさそうだしなあ。500年前の一代記に、太古のギアが絡んでいても全然おかしくはないね。

 

 

 

「それはそうと……近づく降誕祭の催しの折には、殿下にも、マルー様にも、もう一度ニサンにまでお越しいただくことを考えておりますの」

 

 正教の降誕祭ってと、六月後半だから、だいたいひと月後? 随分急だね?

 

「未だ、表舞台へはお出でになれませんけれど。ずっとこの拠点に押し込まれたままだと、お二人とも気が滅入ってしまいますでしょう? 降誕祭の時期にはイグニス全土からニサンへ巡礼者が訪れます。そのタイミングであれば、シャーカーンの手の者にも気取られずに済むのではないかって」

 

 カハルの見解がそれで、こっちの上も問題ないってことなら、俺としては否はないけど。

 

「メイソン卿の承諾は先だっていただいておりますわ。それで、殿下はラムサス様にずいぶん気を許しておられるようですし、その折にはご一緒されてはいかがかしら?」

 

 俺も?

 

「はい。聞けばラムサス様は、これまでニサンにしっかり滞在されたことがお在りでないとか。差し出がましいかもしれませんが、今後も長らくご助力願う御方に、わたくしどもの膝下を是非一度ご覧いただければと思いますの。降誕祭はニサン正教最大の催し。一年でもっとも華やぐニサンの街並みをご案内致しますわ」

 

 なるほど、それは面白そうだ。バルト君とマルーちゃんの護衛がてらってことなら、スケジュールの都合的にもまぁ、何とかなるか。

 

 あ、それならついでにシグルドのやつも連れていっていいかい?

 

「シグルド卿、ですか?」

 

 うん。あいつも最近根詰めてるようだから、休暇がてらね。

 

「近衛の方々でしたら、また別の場をお持ちする方が良いのではないかしら。ニサンに総出でお越しいただくのは、今はなかなか難しいでしょうし」

 

 えっと、そういったオープンなものではなくて。そうだな、貴女には言っておいたほうが良いのかもしれないな。

 

「……というと?」

 

 実はもう少し内々の部分にも、あの男を噛ませていくべきじゃないかと思っててね。

 

 近衛騎士としてではなく、シグルド・ハーコートという個人として。ちょっとした裏事情があって、なるべくそういう方向に持っていきたいと考えている。それに、能力的にも、立場的にも、あいつにはそのくらいの資格はあると思うんだよ。

 

 

 

「そうですわねえ。それは少し……」

 

 シスターがふいに片手を自分の口元に寄せ、すぐに取り繕うようにこちらへと目線を傾けた。なんだなんだ?

 

「あ、いえ。別に何か、思うところがあるわけではありませんのよ? ただ、最近マルー様が、あの者に随分とご熱心なのが気掛かりなのです。卿が僧兵隊のものであれば、マルー様の直属として遇することも吝かではないのですけれど。伝統的に、ニサンは近衛のものとは一線を画する慣習になっておりますので……」

 

 あー、組織上の線引きというか、昔ながらの微妙な関係性みたいなのがあるんだ? そのへんの機微については俺は目玉が曇ってるからなあ。

 

 分かった、とりあえずメイソン卿と話してみるよ。人事調整で迷ったら彼に聞くのが一番だろうしね。

 

 

 

 

 

 

 ……近衛兵と僧兵隊の縄張り争いがどうたらは、別にどうでもいいんだが。

 

 何? マルーちゃんあの白くて黒いのにお熱なの? へぇー?

 

 若マルとか言われて大いにカップリングされていたあたり、てっきり恋愛方面の組み合わせではバルト一択だと思っていたぜ。

 

 

 

 しかしまぁ、ちょっと振り返ってみると、コトの成り行きとしては腑に落ちる部分がなくもない。

 

 マルー嬢がバルトに惚れたというか、ご執心となったキッカケっていえば。クーデター後の幽閉当時にバルトが彼女を庇い、ハゲ三号からムチ打ちをくらって死にかけたというイベントのはずだ。

 

 俺が居るせいで、そもそもの起点がまるっとスルーされている。

 

 そんでもって、救出の際にはお姫様だっこでシグルドベッタリのまま数時間。間近でドンパチやらかす危機的な状況だったこともあり、いかにも吊り橋効果が発生しそうなシチュエーションに置かれていたと言えよう。

 

 バルトにはわりかし煙たがられているフシのある「篤実たる臣下でございますううう」的な立ち振舞いにしても、女の子目線で見ると、お姫様と騎士的な間柄に収まってフツーに受け入れやすいものなのかもしんない。

 

 なんだかんだあの野郎は眉目形の良いイグニス男だという物証もある。原作を知るものとしてはビミョーに釈然としない話ではあるが、客観的に見ると、ヤツがマルー嬢の憧れのお兄さん枠に内定すること自体は然程おかしくはないのだった。

 

 

 

 

 

 

 この手のすれ違いは今後も頻繁に発生し、その都度この世界の徒然模様は原作の関係性からかけ離れていくものと見られる。

 

 ズレのひとつひとつはちっぽけなものでも、塵も積もれば山となる。ズレまくった結果がいったいどういったところに行き着くのか、さっぱり見当もつかなかった。

 

 歴史の修正力的なものが働いて、元サヤに収まるのかもしれないし……逆に、原型を留めないレベルでしっちゃかめっちゃかになる可能性だってあるかもしれない。

 

 先行きは不透明。そして道標も頼りなし。何とも不安になる話だった。

 

 

 

 とはいえ、それってつまりは平常運転ということでもあるだろう。

 

 未来とは闇の中の手探りであると唄ったのはどこの誰だったか。だからって怯えて縮こまっているわけにはいかない。原作頼りというのがまずもって甘えた話なのだ。

 

 別に色恋沙汰に限らず、人間関係自体がそもそも予測の難しい複雑系である。

 

 何がどうなるかなんて考えたって分からんのだから、その場その場での変わりようを、努めて楽しむくらいの気持ちでいるべきなのかもしれなかった。

 

 

 

 

 

 

 しっかし、シグルド・ハーコート、18歳。対してマルグレーテ・ファティマ、ろくさい。

 

 現時点で実数にして三倍かよ。うわあロリコン……とか言ったら、流石に顔面変形する勢いでブン殴られかねんからクチ滑らさんよう気をつけておこう。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 ……ところで、年に一度の華やかさということだけど。宗教的な催事がそんなに盛り上がるものなのかい?

 

「はい。正教の式典といっても、実態は、ほとんどお祭りのようなものですから」

 

 アヴェにとっての大武会みたいなものか。といって、そっちにしたって俺は幾らか聞き齧っているだけなんだが。人混みとかも凄そうだなあ。

 

「それはもう。イグニス全土から人々が続々と訪れるのですもの、宿は連日満室、大通りは途切れぬ人の波ですわ。長年の戦乱もあって、最盛期に比べると客足は控えめになってはいますけれど。それでも、アヴェでは北端のプリスから南は――」

 

 ……ん?

 

 ごめん、ちょっといい? 今言ったのは街の名前ってことでいいのかな。先に言ったほう。プリス?

 

「えっ? ……そうですわ。プリスはアヴェ北東部の、キスレブとの国境近くに位置する発掘街のひとつです。南東部のダジルなどと並んで、数ある発掘拠点の中でも指折りの規模。地方間交易の中継地点としても栄えている一帯の要所ですが……。何か、気にかかることでも?」

 

 

 

 

 

 

 ……プリス、プリスね。あるのかぁ、プリス。てことはアレがコレでああなって……うわぁ、面倒くせえ。

 

 いやまぁ得難い面もないではないんだけど。それでもやっぱり面倒くせえ。

 

 

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