いやー、やっぱ来ますか。来るとしたらまぁ、今だろうとは思ってました。全然、ひとっつも、1ミリ足りとも来て欲しくなんかなかったけども。
「ふむ、どうやらネズミが湧いたようだ」
ついさっきORヴェルトールの内部コンピュータに接続し、機体の損害状況等が図示されている正面の大スクリーン。そちらに向けていた意識を引き剥がし、精一杯不意を突かれたフリをしながら、全身を使って背後を振り向く。
黒衣の男のシルエットが、陽炎のように揺らめいて見えた。先史遺跡の中心部、ORヴェルトール佇む半円状のギアハンガー。そのすぐ脇にあるモニタールーム、唯一の出口の少し手前に。
グラーフがそこに立っている。自称『力の求道者』。接触者ラカンの成れの果てが。この世界でトップスリーに入る危険人物の一人が、目の前にいる。
……もっとも。ここでコイツと遭遇する確率自体は、そう高いものではないだろうと踏んでたんだが。
イド化したフェイを暗殺者として鍛え始めたばかりの時期である今。グラーフの拠点はおそらくアイリス・エリアのエルル近郊なはずで、イグニス大砂漠とは惑星のほぼ裏表だ。数値にして5000ケルテ以上の距離がある。
加えて、小説版でこの遺跡のポイントをキスレブ軍に指示してわざわざ探索させていたことから、ここの正確な座標は当然把握できていなかったものと考えられた。
そうした事前情報から判断する限り。ORヴェルトールの空き巣ドロが成功する公算は、かなり高いはずとの見積もりが上がっていたわけだ。
それでも、合理的な推測の枠を飛び越えて。グラーフがこの場に現れるかもしれないという予感はあった。何というか、特定のフラグを立てたら当該イベントが発生するという、ゲーム的な因果関係に基づいてというか?
そして今、その予感はこうして見事に的中している次第であるよ。……しなくていいっつうのな。マジで。
ナニモンだてめぇ、とチンピラちっくに啖呵を切りつつ。変装がてらに着込んだベドウィン衣装とターバンマスクの裏側で、手早く相手を観察する。
原作のビジュアルでは、エーテル感応波の立ち昇りのせいか、黒衣というか赤茶色の男といった感じだったが。こうして実際に目前にしてみると、なるほど色合いとしては黒一色。黒衣の男という呼称が相応しかった。
がっしりとした大柄の体躯。ポートレートの角度のせいで鼻水とか言われていた変なマスクぶんを差っ引いても、素の背丈では塵閣下の長身と遜色がない。接触者《フェイ》の身長は確か170代後半だったはずだから、嵩上げぶんに関しては、今こいつに憑依されている可哀想な誰かさんのフィジカルで下駄を履いているんだろう。
入り口の扉を見る限り、こじ開けられた様子はなかった。部屋入りする際にきっちりロックは降ろしてあって、そっちが外されたふうでもない。つまりこいつは何処からともなく、この部屋内に直接湧いて出たわけだ。
いきなりその場に現れて、そのまま煙のように消えてしまう。そうしたゲームでの登場シーンはただの演出ではなかった。グラーフと、そしておそらくミァンも、事象変移で自分自身の存在座標をいじることができるものと見られる。
極まったエーテルパワーは、どうやらテレポーテーションすら可能にするらしい。もちろん何らかの制限はあるんだろうが。それでも前提条件さえクリアしてしまえば、基本的にこいつらは世界中だいたいの場所に行ったり来たりが自由自在ってことになる。
なんだそれ。反則じゃねえのか。使われるぶんにはいくらでも不平不満が飛び出そうな話だった。もっとも、自分もやってみたいとはまったくもって思わんが。
「男。その汚れた手で我が器に触れることは許さぬ」
こちらの誰何に応えることもなく。グラーフが唐突に口を聞いた。
くぐもった、機械音のような声だった。しかしその奥には張り詰めたような感情があるのが分かる。緩やかに、しかしどす黒く渦巻く負の想念だ。
そこから湧き起こる威圧感が。にわかに膨れ上がり、こちらへの指向性を携えて、音もなく速やかに迫りくるのが感じ取れた。
「消えたまえ」
……って、この野郎初手から殺しにくんじゃねー! ぐえええええ!
◆
「……フム?」
うげー。気分最悪。腹の奥から身体が爆発しそうだ。
こっちの肉体という、有機的な秩序性そのものを崩壊させるタイプの純エーテル干渉を、真っ正面から叩き込まれた形だった。
エントロピーの強制増大とでも言うべきだろうか? 仮に今のを食らったのがそこらの一般ピープルだったなら、さっきの一瞬で清潔な灰のかたまりと化して、そのままサラサラと崩れ散っていたことだろう。
とっさに同質の防御行動、つまりシステム構造を強権的に保持する事象変移を全身に発生させることで事なきを得られた。致命傷まで行かなかった理由としては、基本的にこの手のカチ合わせは防御側が有利なのと、そもそもグラーフ側の一撃が小手調べというか、まぁこんなもんでも何とでもなるだろ的な適当パンチだったことによる。
もちろん、そんな程度でも致命的じゃないぐらいの悪影響はそこかしこに発生しているわけだが。頭痛とか。吐き気とか。神経痛とか。きっつい。
グラーフが首を傾げて不思議そうにしているあいだに。風邪をひどく拗らせたみたいな全身の不調を、必死にエーテル治療を施して元通りにする。治療時独特の発光現象が漏れ出ないように気をつけつつ、さしずめ講義中の内職のようにちくちくとだ。我ながら涙ぐましい努力であることよ。
「……この場で『形』を保っている時点で生半ではないか。男。近傍の遊牧民めいた出で立ちだが、ただ行きずりとしてここまで迷い込んだというわけではあるまい? 何故この場にいる。答えよ」
……いきなりご挨拶だなオイ。いったい何しやがった。ていうか、どこの誰だよテメェはよ。人のことを聞きたきゃまずはそっちから自己紹介したらどうだ?
「ほう。ただの『ヒト』に過ぎぬものが、わたしを前にそうも振る舞えるのは、それだけで敬意に値しよう。確かにこちらも身を明かすのが礼儀であろうな。とはいえ……何者かとただ問われれば、なかなか返答に困るところがないではないが」
口調というか、超越者然としてお高くとまりつつミョーにこっちへネットリ絡んでくる感じは、どうやら小説版の雰囲気に近い。少なくとも原作でしばしば見られた、過度に時代がかった言い回しはいくぶん鳴りを潜めているようだ。
一人称も『我』じゃなく『私』みたいだし、やっぱりグラーフの人格は絶対的に独立しているものではなく、憑依している肉体の側に大きく影響を受けるんだろう。
原作中のグラーフが、カーンとしての側面をかなりの頻度で表沙汰にしていたのと同様に。目の前の男は大筋ラカンだと言えなくもないものの、彼そのものではないわけだ。今のコイツは、他人の身体を借りたラカンというより、見知らぬ誰かが憑依されることでラカンの記憶と執念とを持たされている、というのが実態に近いのではなかろーか。
「……そうだな。わたしはグラーフ。力の求道者。母なる神を滅ぼし、そして自らも滅び征かんとする者だ。もっとも、只人に過ぎぬおまえには、ただの空言にしか聞こえぬだろう」
けっ。テメェみたいなことを言うやつは、ただのイカレか、それか嘘八百の化粧で固めた我利我利亡者って相場が決まってらあな。
しかし、見るからに只者じゃねえってことは俺にだって分かる。なあ、グラーフさんとやらよ。俺はジェフ。ジェフ・フィガロってもんだ。機械屋フィガロっていやあ、ここらじゃちったあ名のしれた発掘屋なんだが、まぁそのぶんだとご存知なさそうだな。ここはお前さんの秘密基地か何かかい?
察するところ、部屋の外のギアはそちらの持ち物なんだろう。この家業を始めてからそこそこ経つが、夢描いたにも余りあるような、見るからにとんでもねえシロモンだ。
一介の発掘屋としては歯ぎしりするほど惜しいんだが……こっちもお前さんの底知れ無さに敬意を表して、アレについては諦めるとするよ。ここには他にもお宝が山程ありそうだからな。俺は分を弁えて、そっちの方で満足することにする。どうだい。
「残念だが、そのようなわけにはいかぬのだよ。この古の場を衆目に晒すのは、来たるべき時を待たねばならぬ。おまえは、未だ幕の上がらぬ舞台にまろび出た一匹のネズミに過ぎないのだ。その身の不運は憐れと言えようが……やがて訪れる真なる破滅を前に、ヒト一人の生き死になど瑣末事。扱いはネズミ相応を覚悟するのだな」
そう言いつつも、グラーフは仮面の裏でくつくつと笑った。さっきから絶えず発せられていた底冷えするような威圧感が、その笑いとともに、ほんの僅かながら和らいだかに見えた。
……つーかアレか。将来的にここをひと目に晒すのが前提ってことは、こん畜生、小説版の顛末はほとんど丸ごと演技というか余興であって。この遺跡にキスレブ軍を引き入れて死霊《ウェルス》化やギア・バーラーのデータを直接取得させることで、キスレブ側の各種技術のバージョンアップを計るのが本来の目的だったってことか?
主人公機たるコピー版ヴェルトールにはキスレブが一枚噛んでたはずだ。フェイたちがゲートキーパー付き爆撃機《ゴリアテ》を掻っ払ったときにもコイツが直々に追ってきたあたり、イグニス大陸北側のパワーバランス調整については、ミァンと繋がりのあるグラーフがもともと相当細かなところまで関与してたってわけだ。
そりゃ、狙いすました釣りエサに目当てのサカナ以外が食いついてたらとっとと竿を上げますわな。くっそー、騙された!
「……しかし、フィガロ、フィガロか。その名そのものに憶えはないが、耳に懐かしい言葉心地が感じられる。只人の身でこの場に当てられずに済んでいるコトといい、おまえの系譜を遡った先には、ともすればわたしの遠き日の知己が居るのかもしれんな」
へぇー? 俺の親父か、それとも爺さんの知り合いってことかい。ま、ひけらかすようなこっちゃないが、確かにこれでも、そこそこ良いとこの出ではあるからな。
「然様な瞬きほどの間の繋がりではないよ。代替わりの数で言えば、五や十ではもはや利くまい。遠い、遠い過去の日のことだ。私はおまえの遥かなる祖とともに歩み、袂を分かち……そして矛を交えた。そうなのかもしれぬ。おまえなどには思いもよらぬことではあろうがね」
おいおい、お前さんいったい幾つなんだ? ずいぶん良いガタイをしているあたり、ヨボヨボの爺さんだってふうには見えんがね。
それでも一笑に付すってわけにはいかない凄みがあるのは確かで、何とも扱いに困る話じゃねえか。
お前さん、精霊《ジン》か、それとも悪霊《シャイターン》か。大魔《マーリド》ってには、流石にちょいと行き過ぎかもしれねーが。もしかしてその手の類かい? ガッツリ年季の入った、おとぎ話のバケモンってわけだ。
超科学の遺跡に潜りこんでみりゃ、そこで出くわしたのは超自然的存在とくるか。いやあ、俺もなかなか焼きが回ったってェ感じだな!
グラーフがもう一度低く笑った。出鱈目を並べつつその中に事実を掠めるそれっぽい単語を散らすことで、相手の気を引くプランはそこそこ上手く回っているようだ。
……自分でやっといてなんだが、絵面のマヌケっぷりに反してやってることの綱渡り感が半端ないなこれ。
「面白い男だ……。くるくると軽く回る口、それなのに妙に真実に触れる物言いをする。イグニスの地、その名、そしてその強さにて保たれた血は、そう薄まらぬものなのだな。もっとも、穏やかだった“あいつ”に比べればずいぶん品性に欠けるようだが……それでいて根は、非常に良く似ている」
ロニ・ファティマのことを言っているらしい。品性に欠けてるだあ? まぁ否定はせん。
「悪霊というのは、言い得て妙かもしれぬ。なにせわたしは……そう、執念だから。ただ現象としてとこしえに存続する、この歪んだ世界への憤怒の具象。この肉体とて、しょせんは借り物にすぎないのだよ。真《まこと》の肉体はすでに滅び、それでもなおわたしは生き永らえる。わたしは生きねばならぬ、そうでなくてはならないのだ」
ふん。行きずりを乗っ取って狂わせる憑き物か。めっぽうタチの悪いやつじゃねえか。
てェことはだ、実体がないってわけじゃあないらしい。お前さんは確かにそこにいる、そのことには別に違和感はないからな。しかしそうなると、さっきのはいったいどういうカラクリだ?
いきなり宙から湧いて出たように思うんだがね。俺がここで物漁りをやってる間、部屋の隅で長らく出待ちしてたってわけじゃあねえんだろう?
「まさか。わたしはつい先程まで、遥か遠き地に居たのだよ。布石として永きに渡って置かれていた我が器が思いがけず目覚めた。それによっておまえのごとき不届き者の存在を知り、空間を飛び越え、瞬きの間もなくここまで駆けつけたというわけだ」
グラーフは右手を軽く掲げると、その手甲ごと赤いオーラを纏わせて見せた。そのちょっとしたパフォーマンスからも感じ取れるエーテル感応波の密度というか出力係数の高さは、なるほど今まで身近で触れてきたものとは明らかにケタが違っているのが分かる。素の殴り合いじゃ勝負にもならんな、これは。
「だが、そのために用立てる理論はおまえが呑み込み得るものではあるまい。消え失せ、そしてまたいずこかに現れる。ただ、選ばれし者のみが扱えるそのようなチカラとだけ思って於けば良い。おまえも只人としては並ではないが……上には上がいるということだ」
ほー? 消え失せて、また現れる、ね。一見便利に見えなくもねェが、お前さんみたいなのでもなきゃ、扱いようのない危険物だな、それは。
それこそ死をも恐れぬバケモンだからこそ使い回せる、ほとんど自殺技みたいなモンってことか。
「……何が言いたいのだね?」
いや。一度消え去って別の場所に現れた時点で、主観的にはどうなってるんだろうなって思ってな? 物質の連続性は途切れてる。パターンとしての継続性すら怪しいもんだ。それってつまり、転移する前の側は実質死んでるみたいなもんじゃねえのか? 出てきた側はナリだけ同じの別人だ。
仮に俺がそれを使いこなせたとして、どれだけ積まれたってやってみせるのはゴメンだね。
「フム……確かにそうした見方もあろうな。しかしそのような懸念は考慮にも値せぬ。何故なら、わたしの奥底から沸き立つこの憤怒こそが――」
へぇ。てことはあんた、もう「生きて」はいないってわけか。ただの残滓。思いの残骸。過ぎ去った過去に拠って立つ、しかし過去を失った、取り残された焼付けに過ぎないんだ。
悪霊じゃなく、死霊、あるいは亡霊のたぐいだな。
「……おまえ、何を知っている?」
別に? 何も。ただ少し想像力が豊かってだけさ。見当外れなのかもしれんがね、お前さんの想いの大元となった何者かに、ちょっとばかし哀れみを覚えるよ。もはやこの世にいないそいつに代わって、赤の他人が、自分じみた振る舞いを引き継いでいる。妄執だけが独り立ちして、あれこれ好き勝手をやってるってわけだ。
そのことに対して何の責任も取れないし、何かを得ることもないし、自覚すらもない。
ま、そりゃ当然だ。なにせそいつはもう「生きちゃいない」んだから。死者は何も語らねえ。語れねえ。何も知らないし、何も求めない。そういったものを奪われてしまったからこそ、そいつは死者と呼ばれる存在なんだから。
そう考えると、憐れまれるべきにはあんたも含まれるのかもしれねえな。破れた誓いを後生大事に持ち続けてるんだろう。それがどういったものかは知らねェが、持ち主が異なっている時点で、誓いが正しく守られることはない。
「……」
そう。もはや、グラーフ《あんた》にはどうすることも出来ないんだ。
グラーフがものの見事に押し黙った。効いてる、効いてる。
ラカンの怨念がおんねん。なんでおんねん。ソフィアの言霊が呪いと化しておりまんねんだ。もともと歴代の接触者は死んでも転生する(まぁこっちもゾハル経由でデータを遺伝パターンが同一の個体のイントロンへ焼き込んでるだけっぽいから主観的には死んでるくさいんだがな)こともあってか、そこまで際立った生への執着がなかったように思える。
アベル、キム、ラカン、そしてフェイ。彼らはいずれも各々の形で世の動乱に身を投じている。自己保身に長じた平凡な人間にはとうてい取れないような選択だった。言っちゃ悪いが、いくつか頭のネジが飛んでないと、革命家なんてそうそうやっていられないはずなのだ。
その中でなぜラカンだけが500年ものの熟成を果たせているのかというと。死に際のソフィアが、呪いのように投げかけた、「生きて」という言葉に執着していることによるものと思われる。
ラカンは生きようとした。“母”の言葉のとおりに。デウス初期型機動端末《ディアボロス》を率いてすべてを滅ぼした咎により、かつての仲間たちから拒絶され。終の孤独の果てに、その肉体が滅んですらも。ただその執着だけを糧として。
神《デウス》を滅ぼすという目的意識についても、しょせんは「生きる」ための動機づけ、マクガフィンのひとつにすぎないのだ。
グラーフの狂信的な意志を揺らがせるためには、そこらへんを突付くのが一番効果があると見ていた。「生きようとする」ための過程で、もはや大元は「生き延びてすらいない」こと。約束が破られてしまっていて、もはや取り返しが付かないこと。
そして、そのことはグラーフ《ラカン》本人だけの問題ではない。現在憑依されている誰かしらの側にとっても、そうそう看過できない内容だった。何しろ本人の意志に反してムチャクチャやらされている側なわけで、ただでさえロクでもない状況なのに、ハイジャックされた身体が遠距離移動するたび実質死亡じゃふざけんなって話だろう。
カーンのように憑依先の肉体には強靭さが求められるから、今の肉体の保つ意志力も並のレベルでない可能性が高い。そっちの方面からもブレーキが期待できた。
こうして正面からぶつけてみれば、実際にそれなり以上の効果があったわけだ。
……もちろん、キム・カーリムが研究者として優れた業績を残していることからも分かる通り、接触者の脳みそは水準としては相当高いところにあるものと見られる。こんなスワンプ・マンじみた話なんぞ余裕で思い至る内容で、わざわざ俺ごときから言われなくたって知れたことのはずだ。
しかし、死者の残滓として存在し続けるにすぎない目の前のヒトの焼き付けにとって。そんな理屈などいちいち気に留める暇はなかったのだろう。
あるいは、無意識の内に努めて目を背けさせられていたにすぎないのかもしれないが。
さて、どーなるか。グラーフの目的意識に一当てし、わずかながら動揺させることくらいは出来たと見る。ここからの向こうの出方次第では、こっちのペースでもっと細かなところまで見ていくことで、もう少しお互いに歩み寄りを……。
「……おまえは危険だ。不愉快でもある。このひりつきをそのままに、真っ直ぐにぶつけさせて貰うとしようか。運がなかったな、フィガロの者よ。口の軽さは身を滅ぼすということを、その身を持って知りたまえよ」
あ、火油のちに即炎上っすか。そうっすか。
しゃーない、プランβへ移行だ。時間は稼げたしタイミングも測れた。……上手くいってくれよ。
「おっと、逃げ果せようなどとは思わぬことだ。ただ苦痛だけが長引くことになる。心配せずとも良い、つかの間懐古の念に浸れた礼をせねばなるまいからな。貴様が如き頑健たる肉体も、我が最奥を持ってすれば、砕くこと容易い」
目の前が赤く染まっていく。グラーフのエーテルパワーが感応波として漏れ出している。やつの身体に凝集される圧力も並大抵ではないはずなのに、それでもなお強烈な迸りが生じているのが見るからにヤバい。
これが超指弾というやつか。どうみても人間相手にぶつけるよーなもんではない。この耄碌ジジイマジでやりたい放題やってやがる。
「光栄に思いたまえ、これ程のチカラの発露はここ数百年無かったものだ。遠けき日々の末よ。些か名残惜しくはあるが、痛みも驚きも無きままに、終わらせてやろう」
……あー、そうかい。だったら俺も精一杯抵抗させていただこうかね。『優しき風も時に聖母の剣たるが如し』、こっちもそう簡単にやられるつもりはねえ。かかってこいや、オラァ!
コンソールパネルの上に置かれ、部屋内をモニターし続けている持ち込み式の端末に良く伝わるように。俺は取ってつけたようなニサン正教流の慣用句を強調して口火を切った。
グラーフが、構える。