塵閣下になりました   作:あーぷ

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もじゃもじゃの家にて

 

 

 とうとう入国でき、ヴェルトールから降りてシェバトの地に第一歩を踏んだ。うぇーい!

 

 ……途端にいきなり憲兵隊に取り囲まれて拘束されました。うぇーい……。

 

 

 

 ……まー已む無し。ヴェルトールが嘗てのディアボロスと関係が深いギアだということを、憲兵隊諸君が実際知っていようがいまいが。見るからに異質な有機的フォルムを持ち、その上地上からシェバトの領空までスイスイ単独飛行してきたアレが、そんじょそこらのギアとは一線を画するヤバいシロモノなのは明らかだ。

 

 それを操るエーテル能力者である俺が、人品骨柄以前の問題として、間違いなく危険人物に該当するのもまた同様。

 

 向こうからすれば例によって猛獣生け捕りミッションに近いわけで、ここは大人しく檻に入れられておくのがお互いのためだと思われる。仮に俺が受け入れる側だったとして、当然初手はホールドアップで相手の武装解除を最優先したはずだしな。

 

 拘束といっても、武装した憲兵で周りを囲んで半強制的に連行しただけで、実力行使が物理で飛んできたなんてこともない。客観的に見ても、シェバト側の対応はそれなりに配慮の有ったものだと言えるだろう。

 

 

 

 ていうかアレだ。まずもって人類がマトモに生活できるレベルで暖かいってだけで十分すぎる。ぬくい。ウレシイ。

 

 人間、物理的な身の危険が遠のくと、やすやすと鷹揚さを取り戻すことができるものなのだなあ。

 

 

 

 お役人の皆々様につきましては、面倒なお仕事たいへんご苦労さまであります。あとご迷惑おかけします。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 搬入ドッグに併設された入管らしき建造物に連れ込まれ、そのまま奥まったところにある中くらいの客間へと通された。

 

 四方を囲っていた憲兵の大半は扉の前に残り、その中から二人だけが選抜されて一緒に部屋内まで入ってくる。付いてきたうちの一人、コサックのような帽子が特徴的な憲兵さんの片割れ――大柄な体躯、三十過ぎくらいの白い肌をした男だ――が言うには、しばらくこの場にてお待ちください、とのことだ。

 

 彼らの案内に対して一言礼を言っておく。向こうさんとしても、脅しつけて引っ張ってきたというよりか、厳重な警戒の下にお連れしたというほうが心の据わりが良いだろうさ。

 

 

 

 部屋の内装は灰がかった乳白色がベースで、薄いライム色と金の縁取りが、処々にさり気なくあしらわれている。

 

 だいたいの調度品に刻まれている、平たい漏斗のようなマークには見覚えがあった。原作中でもバルトがちょっと言及していたが、ユグドラⅡの外部ブリッジの片隅には、ほぼほぼ同じ形状をした1/3シャールほどの金属トロフィーが埋め込まれているのだ。

 

 おそらくこのマークこそがシェバトの国章なんだろう。……正直言ってわりとダサいが。

 

 ちなみに、ユグドラⅠ側の同スロットには、Ⅱとは異なりファティマ王家のエンブレムが入っている。サイズもそれぞれ同じくらいで、明らかに意図して二つを並び立ててあるものだった。

 

 ユグドラ系列艦建造当時。つまり、500年前における国家レベルの裏切りを経た後の両国間の関係性は今となっては知る由もないけれど、姉妹艦に互いのシンボルが仲良く配置されているのを見るに、少なくともある程度の友好が築かれていたことが伺えた。

 

 

 

 崩壊の日からこっち、ソラリスが世界規模の影響力を取り戻すまでにはかなりのタイムラグがあったはずだ。障壁《ゲート》を用いた地上エリアの寸断は、おそらくシェバトの公的な地上勢力が完全に一掃された第二次シェバト侵攻作戦よりも後に起こっている。

 

 ユグドラⅡ発掘現場、現王党派第二アジトに残っていた大量の物資のことを考えても。ファティマ家≒アヴェ、シェバト間のラインは500年前にブチ切れてそれっきりだったわけではなく、どこかしらで一時復旧に成功し、それから相当程度の期間に渡って繋がりが継続していた可能性が高そうだった。

 

 その間、両国の国民レベルで交流が一般化していたのか。それとも、単にゼファー女王とロニ・ファティマの、個人的な友人関係の延長線上に過ぎなかったのかは定かじゃないが。

 

 

 

 まぁさておき。このシェバトの国章、デザイン的には変なマークと言って差し支えないんだが、それ有りきを前提として客間全体の統一が図られているおかげで、不自然さがほとんど見られないあたりが良くできている。

 

 いかにも伝統ある応接室といったふうで、例えば映画の撮影なんかに使われたら画面映えすること間違いなしだ。インテリア担当がいい仕事をしたという面もあるだろうし、長年使い込まれたおかげで綺麗に最適化されている部分もありそうだった。

 

 憲兵さんの勧めに従い、テーブル席に着かせてもらう。椅子の座り心地もたいへんよろしい。残念ながら茶の一つも出なさそうだが、前面に出ているのが憲兵隊ということは、ここの管轄は軍組織なわけでそうした気遣いはまず高望みというもんだろう。

 

 しばらく待った。入り口で直立している憲兵さん二人に、適当に話を振って時間を潰した。雑談については大凡拒まれてしまったけれど、やんわりと良くできた断り方だったのでこれについても悪印象はない。

 

 当たり障りのない会話で彼らからいくつか学んだあたりで、いかにもお偉方といったふうな、茶色いひげを蓄えた壮年の男が、秘書官らしき二人を背後に引き連れてやってきた。

 

 憲兵二人がすかさず敬礼の姿勢を取る。ついさっき彼らから聞き出したところによると、このエラそうな男性は、一般論で言うならいわゆる外務大臣のポジションに就いており、外交の場においてはゼファー女王に次いで、実質国家のナンバーツーであるそうだ。

 

 

 

「ようこそ、お越しくださった。我が国は特使殿の来訪を歓迎致します」

 

 席から立ち上がった体勢で待ち受け、相手側の名乗りを受けてこちらも名乗る。互いにしっかりと握手を交わすと、なかなか力強いグリップだった。

 

 こっちの背丈よりも少し低いくらいの程よい長身。僧衣に近いゆったりとした服装に身を包み、左胸には国章をベースとした意匠の勲章を三つばかし下げている。

 

 ゲーム中のビジュアルとの符合はだいぶん怪しいところが有るが……おそらくシェバトの元老院の一人。ラスト間際の雪原アジトで、フェイにカーボナイト凍結をカマした件を詑びていたキャラクターではなかろうか?

 

 グラフィックの使い回しの関係上、ここらへんになると誰がどうというのがイマイチはっきりしないのが難点だった。

 

 まぁ何にせよ、外務大臣兼ナンバーツーたぁこれまた随分な大物である。メンタルがパンピーな生き物としては、正直気後れさせられる部分がないではない。

 

 

 

 とはいえ……この世界の国家って、技術水準の高さのわりに、規模的にはずいぶん小ぢんまりしてるんだよなあ。

 

 百万都市に手が届いているのが、せいぜいキスレブの首都ノアトゥンくらい。ブレイダブリクは近郊在住者を含めてもその半数に満たない40万と少し。

 

 巷にもまだまだ危険地帯が――人為的なものも含めて――多く。面積換算で人類の生存圏が相当狭められていることから、おそらく全世界の総人口でも数千万のオーダーに収まるはずだ。

 

 翻って、いくらか多目に盛ってもブレイダブリクよりマンパワーで劣るはずの空中都市シェバト。

 

 そこの対外トップツーと言われても、現代文明基準では、せいぜいが中堅都市の市議会議員くらいのヒエラルキーになってしまう。

 

 

 

 もちろん、こんな殺伐とした世界だからこそ。一国家を率いるリーダー層には、並々ならぬものが求められるのは間違いない。

 

 加えて元老院ということは、カレルレンプレゼンツの生き地獄ツアーの招待客であり、ゼファー女王同様、500年以上の人生経験をお持ちなわけだ。

 

 ゲーム中ではフツーに憎まれ役ではあったものの。ていうかソフィア誅殺あたりでは完ペキ悪役ムーブをやらかしてるんだが、当時の彼らには彼らなりの言い分があったろうし、今となっては断片的すぎて実情はよく分からない。あんまり一方的な目線で見るのも良くはないように思う。

 

 とりあえず、500年以上に渡ってその地位を維持できている時点で並じゃあないのだ。実際、俺という二足歩行の猛獣Aを前にして、憲兵さんや秘書たちは表面上の応対こそすこぶる丁寧だが、裏では普通に怯えているのが分かってしまう。カーン殿にしたって正直仕事が雑だった。

 

 対して目の前の外務大臣殿は、まったく自然体かつ友好的な雰囲気。つまりは外交官としての正道を、そつなく実践しているのが見て取れる。

 

 長らく閉ざされていたこの国で。ゆうに百年はお蔵入りになっていたはずなのに、年月による錆付きなどおくびにも出さない立ち振舞い。目の前にいるのは明らかに外交のプロである。

 

 ようはまったく油断ならない相手ということ。見くびっていいところなんて、毛の先ほどもないはずだった。

 

 

 

 

 

 

 さて、まずはお題目の確認から入るべきだろう。

 

 互いに席に対面で着き、二時間少々前に、カーン殿に向かってペラペラ喋ったことを外相殿に対しても大まかに伝える。続けて、バルトの署名と王家の公印(ハンコ本体がクーデター時に持ち出せておらずレプリカなので、ぶっちゃけ信頼性は偽造と大差ない気もするが言わぬが花よ)付きの公文書を直接手渡す。

 

 その内容は概ね常識的なものだった。大昔のアヴェ、というかファティマ王家とシェバトとの関係性を引き合いに出しつつ、両国の友好を復活させ、更にはより一層深化させることを求める。その上で共通の敵たるソラリスについての情報共有を提案する。

 

 最終的には共同戦線まで持っていきたいのが王党派としての本音だが、現時点ではそこまで突っ込んだことは書かれていない。そして第一段階の交渉については俺ことカーラン・ラムサスに全権を委任し、それにより、俺の言葉はいわばバルトロメイ・ファティマの言葉となる。

 

 

 

 ……といっても、しょせんはお飾り王太子の言葉相応であり、実質的な決定権なんぞほとんどないんだけどな。

 

 俺に対してファティマ王家から付与されている権限は、せいぜい言って親善大使に毛も生えない程度に過ぎないのだ。

 

 従って、いざとなったら俺に詰め腹切らせてしまえば、大筋反故にして知らんぷりしても、道義上そこまで問題はないくらいには雑なコミットメントだったりする。

 

 とはいえ、そんなことをシェバトにこぞって表沙汰にする必要も、意味もない。事実関係は彼ら自身の手で裏取りすべきことであって。地上における情報収集力がザルどころかもはや穴なのは彼らの責任であり、こっちとしてはそんなもん知ったこっちゃないのだ。

 

 

 

 外相殿は公文書に一通り目を通すと、背後の秘書にいくつかの指示とともに下げ渡した。秘書の片割れが一礼して足早に部屋を去る。

 

「貴国の意向については承知致しました、特使殿」

 

 ありがとうございます、外相閣下。両国関係の益々の発展を心より願います。

 

 ところで私としましては、拙速ながら、早急に女王陛下とのご会談を願いたいところなのですが?

 

「ほう、なにか際立った事情がおありのようだ。このわたくしでは不足ということですか。……ああ、捉え違いをなさらないでいただきたいが。特使殿もおそらくご存知かと思うが、貴国の王家と我が国の関係性については、陛下とってのある種のプライベートに拠っている部分が小さくないのでね。実のところ、以前からわたくしの頭越しというのは、そう珍しくもなかったのです」

 

 苦笑しつつも、どこか昔を懐かしむような柔らかい表情を作ってみせる。

 

「外相といっても、しょせんは表向きの交渉役。貴なる人々の思惑に揺られる、哀れな一葉に過ぎぬのですよ。ただ、一点のみこの場で確認させてもらいたいのだが」

 

 何でしょう?

 

「特使殿が乗ってこられたあの機体のことです。特使殿の名誉のためにも、今のところ内部については一切手を付けておりませぬ。ですが、あれは我らシェバトの民にとって、自らの罪と、過去の恐怖とを想起させうる最たるもの。指先ひとつ触れることなく遠きに置くか、さもなくば隅々まで暴いてしまいたいという欲望はつとに大きい。どちら付かずとなっている今の状態は、率直に言って、お互いにとって好ましからざる状況ではありませんかな」

 

 なるほど、分かる話です。

 

「特使殿はあの機体を我々に譲るとおっしゃる。ゆえに尋ねたい。ファティマ王家は、あるいは特使殿は、我々にあれをどう扱うべきとお考えか?」

 

 譲る以上は煮るなり焼くなりご自由に、と申し上げたいところではありますが。今後共同してソラリスに当たることを考えますと、貴国の一戦力として運用していただくのが最良かと。

 

 先だって通信にてお話しましたとおり、フェイ君の父君であるウォン・カーン殿であれば、おそらく十全に乗りこなせると考えております。下界にて、かつてのロニ・ファティマが乗機、El・アンドヴァリが、王家の者の手で今もなお用いられているのと同様に。

 

 

 

「あの機体は、見た目こそ変じているとはいえヴェルトール。ギア・バーラー固有の性質として、かつての搭乗者たる絵描きラカンの他を易々とは受け入れぬはず。……特使殿は、なぜか悠々動かしておられたが」

 

 外相殿は目を細め、蓄えたあご髭をゆったりと扱いた。

 

「つまりはウォン武官が、というよりもその息子が、絵描きラカンの縁者であるということですか? しかし、ウォン家の係累であれば、わたくしどもも大凡把握しております。少なくともここ数代に渡っては、かの家の者が、アウラ・エーペイル出身の純粋なシェバト民であることは疑いもない。すると、イグニス・エリアの生まれである細君の系譜を見るべきかと思うが、そうであれば息子本人はともかく、武官自身が適性を持つというのは少々考えにくいのでは?」

 

 血縁、ではないですね。ですがおそらく遺伝的な構成の特定部分が非常に近い。その故にカーン殿のご子息は身柄を拐われることになったと、我々は、というより私は見ています。

 

 ギア・バーラーが同調率として認識しているのは現実の家系図などではなく、あくまで、遺伝子パターンの一致性の多寡にすぎないでしょうから。

 

「ふむ。特使殿の推察を検める手段も、我が国にはないではないが……しかし今は時間が惜しい。後ほどウォン武官に試乗を求めることになりましょうな。ともあれ、然様であればヴェルトールに関しては、現時点より我が国の裁量にて取り扱う形でよろしいか? 無論、貴国及び特使殿の顔に泥を塗ることのないよう、配慮は最大限図らせていただく」

 

 ええ、はい。そのあたりはご随意に。ちなみに、私がアレを扱えた理由についてはまた後ほど。

 

「種明かしはまず陛下のお耳へ、ということですな。委細承知。感謝致しますぞ、特使殿。……ああ、そこの君。直ちに憲兵隊第7ブロック担当から軍総監部に直接繋いでくれたまえ。咎人の鎧を暴いてよし、ただし破壊は許さぬ、とな。一言一句違えず精確に伝えよ。頼んだぞ」

 

 扉の前で控えていた憲兵さんの片割れが、一瞬面くらい、その後直ちに敬礼の姿勢を取り了解を示した。彼が部屋を出た後に外がバタついたのが微かに聞こえる。たぶん扉の向こうでも一人か二人が消えたようだった。

 

 ……咎人、ねえ。まぁ、咎人か。

 

 

 

「……慌ただしくして申し訳ない。しかしこの一点に関しては、我が国としても形振りかまっては居られぬのですよ。あの機体に、ヒステリーじみた反応を示す者がここシェバトには少なくありませぬ。恥ずかしながらわたくし自身にも幾分その傾向がある。そして、不安とは往々にして不確かさから来たるもの。実物の存在と曖昧な状況、二つの相乗効果となれば、齎される影響は、殊の外大きい」

 

 いかにもほっとした、というような気配を見せる。それがどのくらいまで演技なのかは俺には判別が付かなかったが、過去の経緯を思い起こせば、彼らの心情自体はまぁ腑に落ちる話だった。

 

 それに、外交官というのは交渉ごとの矢面に立たされる立場上、概ねリアリストかつ穏健派に寄りがちだと考えられる。

 

 国内には彼らと意見を異にする過激派だって居るだろうし、その手の連中を納得させるには、なるべく目で見て分かりやすい成果が必要のはず。とりあえず、ある程度までは本心だと見て良さそうか。

 

「何分、閉じられた空間でのその日暮らし。パニックの発生だけは断じて避けねばならなかった。ご不快に思われることもありましょうが、何卒、ご容赦いただきたい」

 

 いえ、こちらも配慮に欠ける行いでした。重ねて謝罪申し上げたく思います。

 

 下界より貴国にコンタクトを取る手段が思い当たらず、やむなくあやふやな知識に頼ってあのギアを持ち出すことになったのですが、それ程まであなた方の心肝寒からしむるものとはよもや思いもせず……

 

 

 

 

 

 

 ……その後もしばらく鞘当てのような対話が続いた。いやー、疲れる。

 

 矢継ぎ早のやり取りのなかで手持ちの札をちらつかせつつ、しかし本命部分は気取られないよう細心の注意を払っておく。しかも、表面上は至って友好的な雰囲気を崩さないままでだ。

 

 流石に、この手の仕事を頭の回転の良さだけでゴリ押しするには限度があるわな。塵閣下の基礎スペックの高さ自体は言を俟たないとはいえ、しょせんは指揮官養成学校《ユーゲント》という井の中の蛙の住人にすぎないとも言える。とりわけ外相殿の何百年ものの経験量には分が悪さが否めず、実際ビミョーにマズい部分まで情報を抜かれちゃった感もある。

 

 原作知識でゲタを履いているおかげで何とか渡り合えたものの、それってつまりはフェアな勝負ではボロ負けする公算が大きいということ。

 

 外相という立場上、今後も何かと関わる機会は多そうだし、ゼファー女王にばかり目を向けているとあっさり足元掬われるかもしれんなあ。ニサンの道具屋主人のときも思ったことだが、ゲーム中でモブだったからって軽く見てはいかんね、ホント。

 

 

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