塵閣下になりました   作:あーぷ

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真似とて大路を走らば…

 

 

『……シャーカーン! 聞こえてっかこのクソハゲジジイ!!』

 

 El.アンドヴァリの外部スピーカーが子どもの甲高い声を響かせる。

 

『今日のところはこんくらいにしといてやるが……次来たときには、テメェを足のないタコにしてやるからな。せいぜいそっ首洗ってやがれ!!』

 

 内容はまんま俺がアジトで言わせたもんだが(録音するときメイソン卿にすっげー渋い顔された)、音声自体は他ならぬバルトロメイ殿下の肉声である。

 

 

 

 つい先ごろ、王城の中枢部からほうぼうに停戦命令を出した。その際に用いた通信回線は、俺からの指示で引き続き開けっ放しにされている。各地に展開しているアヴェ軍に対しても、今のバルトの啖呵はしっかり届いているはずだ。

 

 中央噴水前に佇む伝説の赤い巨人――わりと満身創痍なんだが名誉の負傷だと言いたい――から、こうやってアヴェ領内全域にブチかましておけば。期待できる演出効果は実際相当なもんだろう。

 

 

 

 何にせよ、今大事なのが“勢い”なのは間違いない。

 

『城のみんな。近いうちに俺が、バルトロメイ・ファティマがオトシマエ付けに戻ってくっから。悪ぃが今は、ムチャはしねえで待っててくれよな!』

 

 細かい部分なんぞどうでもいいとまでは言わないが、そうした小手先に頼るよりも、ノリとそれっぽさをホッカムリにして押せ押せで行くほうがよっぽどいい。

 

 国家のシンボルとしての王子健在。簒奪者の統治に正義なし。勧善懲悪のわかりやすい構図が民衆に方向感を示してくれる。そうすれば、理屈や整合性なんて、多少おかしかろうが目をつぶってもらえる。

 

『それじゃ、アバヨ!!』

 

 

 

 このとき、ここブレイダブリクにはそうした空気が確かにあった。……と思う。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 ソラリス製のコンバットスーツの上から、シェバトの服飾店で入手済みの浮世離れしたコートを羽織る。

 

 通路脇のガラス張りでちらっと身だしなみを確認。塵閣下の元が整っているから似合ってるっちゃ似合ってるんだが、単に地上文化じみたところを意図的に消し去ったというだけなので、ソラリス人としての感性からすると、イマイチちぐはぐな印象が拭えないビジュアルではある。

 

 それでも、まぁ。ゲブラーの地上担当官に近い雰囲気――参考にしたのがあのヴァンダーカムだというのがアレだが――は作れていると思われる。ハッタリ利かせるにあたってはそこそこ以上にお役立ちだろう。

 

 とりわけ、ソラリス本国に足を踏み入れたことがなく、それでいて一方通行的な関わりのある、純正の地上人《ラムズ》に対しては。

 

 

 

 第二アジトの最深部。一等厳重な取調室へと足を運んだ。

 

 見張りの陸戦隊員二人に目配せしてから、俺ひとりで中に入室する。

 

 

 

 薄暗く、殺風景な部屋の中央。両腕を後ろ手に、両足を椅子の脚に縛り付けられ、備え付けの椅子と一体化している男がひとり。

 

 髭面禿頭、インテリじみた風貌でそこまで線の太くないそのオッサンが、つい二日ほど前まで、アヴェの独裁者として専横を振るっていたというのは、なかなか信じがたいものがある。

 

 とはいえそれが事実は事実。ツカツカとそいつに近寄ると、頭の中で一種のスイッチを入れ、更にはソラリス人の見た目とソラリス語訛りを最大限前に出しつつ。蔑みの目を作ってみせた。

 

 

 

 ……ドブネズミには似合いだな? シャーカーン教皇。

 

「……何者だ、貴様は」

 

 面をあげよ。そして、言葉には気をつけ給え。

 

 濁った目玉は、どちらもまだ残してもらえているんだろう? 見たとおり。お察しのとおりの人間だよ。

 

「ッ……ま、まさか」

 

 もう少し、敬意を持っていただきたいものだね? 家畜《ラムズ》ふぜいが。

 

 

 

 

 

 

 ハゲ三号をひっ捕らえるのに成功したのは、王城直撃の翌日早朝だった。

 

 攻勢による私兵戦力の段階的喪失に加え、バルトロメイ・ファティマの生存周知、すなわち王家断絶という統治上の正当性をも失った。形勢不利と見たシャーカーンは、即日のうちにブレイダブリクからの脱出を決断したようだ。

 

 急襲作戦当日の夜半前。王城に王党派の陸戦隊を投入して制圧完了した時点でとっくにトンズラこいていた。いやはや、流石は(王位の)ドロボーだけあって逃げ足は早い。

 

 

 

 だが、逃げ込もうとした先が近場のソイレント現地施設だったのが運の尽きだ。

 

 デウス復活のための人体パーツ生成施設として世界中に点在するソイレント・システム。現時点ではもっぱら『教会』が全世界的な支配力を維持するための物資集積所兼輸送パイプとして用いられている。

 

 シャーカーンとしては、王党派には知られようのないルートで一旦イグニス大陸を脱出し、『教会』本部でソラリス本国の指示を仰ぐとともに、戦力の追加を打診する腹積もりだったんだろうが。

 

 残念ながら、直前の遺跡調査でどこに何がってのはすっきりバレバレになっているのだよ。まぁスケジュール的には本気でタッチの差だったんだけど。いやー、間に合って良かった良かった。

 

 

 

 急いで敷いた警戒網にすぐさま引っかかり。レグルスとディルムッドで囲んでフクロになってもらった後、私兵残党ともども揃ってアジトにご招待と相成る。

 

 アジトでシャーカーンを待ち受けている出し物は数多い。既にいくらか手厚い歓迎を食らっているようだが、俺からも追加で聞き取り調査というわけだ。今後の対『教会』、対ソラリスを念頭に置くと、コイツには情報を絞れるだけ絞っておく価値がある。悪いが当面はこちらの舞台構想にお付き合いいただこう。

 

 なお、シャーカーンを捕まえた際に乗っていたギアは普通の『教会』仕様機(後のエトーン・ギア)だった。どうやら現時点ではシャーカーン・ギアは影も形もないようだ。

 

 一応、『教会』の機体のなかでは最新型っぽかったので全機鹵獲して解析に回しているが。見どころというか注意点としてはゲーム中でも乱発されていた刻印砲くらい――乗り手の信仰心とは名ばかり、薬物《ドライブ》投与とマインドコントロールでパイロットの精神を狂信化させ、本来の感応値以上の火力を引き出すという非人道兵器くさい――で、本体のスペック自体はディルムッドをかなり下回っており使いみちは薄そうである。しょんもり。

 

 

 

 

 

 

 

「……なぜ。なぜ、上なる御方が、王家の者共に肩入れなさっているのです」

 

 わなわなと小刻みに震えながら、シャーカーンは訴えかけるような目でこちらを見上げてくる。

 

 コイツとしては真剣というか切羽詰まってるのは分かるんだが、ゲンナリくるというか、言っちゃ悪いが直視に耐えない面があるなあ。

 

 ただでさえ足八本な見た目なのが、陸戦隊員あたりにブン殴られたと思しき顔面のせいで、受ける印象がより一層ネガティブに振れている。ここにくるまでの経緯が経緯なせいで同情もできん。

 

「私は、あなた方に忠実であったはずだ。ただひたすら、命ぜられるままに……王党派《あれら》を追い落とし、国家《アヴェ》を掌握し、あなた方のためを思い、日々の職務に勤しんできた」

 

 ……ほう?

 

「無論、余すところなく無私であるなどとは称しませぬ。私にも卑近な欲望はある。ですが……それでも、己が役割を全うすることにかけては、相応に矜持がございますゆえ。その心がけは今なお変わらぬところ。たとえ、生殺与奪を握られた子羊であろうと、斯様に従順な一頭を、何ゆえかくも屠ろうとなさるのか?」

 

 両目をつぶり、無念、とばかりに首を左右に振ってみせる。

 

「おかしいと、思っておりました。王党派《あれら》に、これ程の戦力などあろうはずがないのだ。世を統べるあなた方から賜ったチカラ。それを上回る戦力など……他ならぬあなた方からしか出て来ようはずがない。上なる御方のお考え、推し量ることすら不遜ではありましょう。しかし、私がごとき者としても、斯様なまでの仕打ちを受けるに至っては……」

 

 フン。なかなかに演技派と見える。白々しい。

 

「何をおっしゃる……」

 

 第44次サルベージ計画。知らぬとは言わさん。

 

 

 

 そう告げた途端、目下のハゲ面が凍りついた。

 

 取り繕った表情が瞬時に剥がれ落ち。両目を見開いて小さく喉を鳴らす。それを見てこっちも思わず苦笑いを浮かべそうになってしまうが、なんとか堪えた。

 

 

 

 ……まぁ、こいつが知らんわけがないわな。第44次サルベージ。後にソラリスから盛大に粛清を食らうことになる、『教会』反乱計画のコードネームだ。

 

 計画開始が原作の19年前だそうなので、既に道半ばというか、道が断線するまでの半分くらいはバッチリ進んでいる計算。現時点でも、『教会』本部に強制捜査が入れば動かぬ証拠がボロボロ出てくることだろうさ。

 

 

 

 対外的には『教会』から追放を食らっているシャーカーンだが、裏では未だに最高位の教皇としての権限を持つ。

 

 障壁《ゲート》のエネルギーを利用すべく解析に手を付けていたりと、こいつ個人の翻意についても将来的には折り紙付き。『教会』本体と同根かはともかく、五十歩百歩であることは疑いようもない。

 

 

 

 さあ、どうする未来の謀反人。高慢ちきで分かりやすいソラリス人の若造に向かって、どんな説明を披露してくれるのかな?

 

 ていうか、実際言い訳のしようなんかあるんだろうかね、コレ。とりあえず俺は思いつかんぞ。

 

 

 

 

 

 

「……上なる御方のご慧眼には、誠に脱帽いたします」

 

 しかし、シャーカーンもさるもの引っ掻くものだった。

 

「忠節の心を新たにする次第。この場にひれ伏せぬのが、心底歯がゆく思います。……閣下。この愚かな咎人より、申し開きをさせていただきたい」

 

 唖然としていたツラをただちに引き締め。いかにも忠臣といったふうな表情をすぐさまその上に貼り付けてみせる。

 

 うーむ、切り替えの速さは大したもんだ。アヴェ政変における動機も行動も小悪党一直線とはいえ、当面一国家のトップに居座れるだけに足る胆力は、ちゃんと持ち合わせがあるらしい。

 

「私は……私は、あのものどもの企みには、当初より距離を取るべく心がけて参りました。イグニス任官の折、教皇の地位を返上したのも、そうした理由によるものであったのです」

 

 ……下界の役職のさじ加減なぞ知ったことではないよ。貴公らの内の、誰がどうというくだらんこともな。

 

 管理者の適正は最悪だった。累は『教会』の悉くへと及ぶであろう。

 

 そもそも……だったらどうして上へ仔細な報告を上げなかった? それも含めて貴公の職務のはずだがな。矜持とやらが聞いて呆れる話だ。

 

「直ちにご注進に及ばなかったことにつきましては、もはや弁解のしようもございません。堕したる身内に背を刺されることを恐れ、日々の職務にも追われる中。ただただ手を拱いているばかりだった。今、こうしてあなた様の前に引き出されていること。それそのものが、己が過ちの何よりの証明にございましょう」

 

 まったくだ。手間を掛けさせてくれる。我が身の愚かさを嘆いて、聖職者らしく殉死でもするかね?

 

「愚かさへの報いは当然のことかと存じます。悔いても悔いきれぬとはまさにこのこと。……ですが、閣下。今や穢れた我が名誉に対し、せめて、その汚辱を濯ぐ機会をお与えいただけませんか?」

 

 と、決然とした顔つきを作ってみせる。いけしゃあしゃあと。随分な役者っぷりだった。

 

「伝うるべきを伝え、為すべきことを為す。そのための機会を。虫のいい願いであることは存じております。如何様なものであれ、今のごとき肉体へ振るわれる処罰は、甘んじてお受けする所存です。しかし……! 我が誇りと忠義にかけては、何卒、お慈悲の程を賜りたく」

 

 ハッ。物は言いようだな。つまりはこの場で仲間を売って、己が身の生き残りを図ろうというのだろう?

 

 誇りか。忠義か。意味に反してまるでボロクズを思わせる。……なるほど、薄汚いドブネズミには実に似合いの装いだな。

 

「そう取られかねぬことは承知の上。嘆かわしくも下賤の身にてございますゆえ。ですが、襤褸は着れども心は、とも申します。実情はともあれ、そうあろうとする心意気にかけては、どうかご寛恕いただきたく……」

 

 

 

 

 

 

 責任者だし組織のヤラカシも知ってたけど自分は反対してたから大目に見てね、なんてーのが通るわけがない。

 

 だいたい根拠レス甚だしい。嘘八百もバレている。はっきり言って、何ひとつとして言い訳にはなってないんだが。

 

 それでも、場の雰囲気だけで説得力があるかのように思わせられるレベルに辛うじて持って行けているのは、わりとすごいな。

 

 

 

 弁舌が立つというか。演出家というか。

 

 茶坊主の才能だろうと才能は才能だ。それに、どこぞのハゲフェチの助力と機体の性能に助けられてとはいえ、イグニス・エリアのゲート攻防戦において少なくとも準エレメンツクラス三人を相手取っていい勝負が出来たあたり、このオッサン、ギア操者としてもそこそこの水準にあるはずなのだ。

 

 惜しむらくはその能力をもっと良い方に向けられなかったことか。ソラリスが唆したという面もあるんだろうが、突き詰めるとそこは個々人の性格や資質の問題だからなあ……。世の中ままならんもんだよまったく。

 

 

 

 ともあれ、話の風向きはこっちの目的に沿っている。ここは有り難くノセられておくことにしよう。

 

 

 

 ……まぁ、よかろう。下界でこれ以上余計な時間を費やすつもりもないのでな。

 

 貴公のその生き汚さに免じて。牧羊者《アバル》より今一度、彷徨う羊に役割を与えてやるとしよう。

 

「……恐悦の至り」

 

 近々、かの忌わしきシェバトに対し、鉄槌を下すことになるであろう件は知っているな?

 

「このところの慌ただしさ。何か大掛かりな軍事行動が為されるとは感じておりましたが……なるほど、左様な兆しにございましたか。よもや狙い目が罪深き隠者どもの中枢とは、上なる御方の果断さには、誠に舌を巻きまする」

 

 (お前知らんのかい)そうだ。ソラリス《我が国》の威容の前には取るに足らぬとはいえ、あれが目障りな小石で有り続けているのもまた事実。地上をうごめくレジスタンス、あのうざったい地虫どもも含めてな。

 

 遅くとも数年のうちに、ソラリス・ゲブラーの手になる粛清の幕があがる。鎧袖一触、粉微塵にせよとの天帝陛下のご意向である。

 

 此度の計画には第三次侵攻作戦の銘が打たれる。これこそ、およそ三百年ぶりの栄誉となろう!

 

「おお、なんと頼もしいことか」

 

 ……裏切り者の『教会』には、その露払いとして散ってもらう。前菜と言っても良い。貴公はレジスタンスどもに『教会』と我が国との繋がりをリークし、先んじて『教会』本部を襲撃するよう誘導するのだ。

 

 裏切り者に死を。不埒なレジスタンスどもには家畜《ラムズ》殺しの不名誉を。加えて、正面からぶつかり合えば双方に相当の損害が出るはず。いずれにせよ、我らガゼルにとっては総じて利にしかならぬ。

 

 

 

「それは……よろしいのですか? シェバトの者共に、『教会』を隠れ蓑とした組織の全貌が露わになりかねぬ懸念が出てまいりますが。何分、レジスタンスどもがこちらの意図通りに動く賢明さを持ち合わせるかは、些か計りかねまする」

 

 構わん。この件はカレルレン閣下からもご同意をいただいている。もとより『教会』のシステムなど、我々にとってしょせんはひとつの手遊びにすぎないのだ。そのごときの代物の根が腐り果てているのであれば、使い潰すのにさしたる躊躇いもあるものか。

 

 これより貴公はレジスタンスどもに引き渡される。せいぜいやつらに役立つ証言をくれてやりたまえ。『教会』に蔓延るゴミどもを、この世から速やかに除くための手管を、な。

 

「……」

 

 心配せずとも、アヴェ国の司法に引き渡される前には掬い上げてやるさ。

 

 家畜《ラムズ》どもの手の内では、多少の野蛮な扱いは已む無しであろうが、貴公の立場を考えれば、殺されるまではいくまいよ。それに貴公も聖職者のはしくれ。苦行に身を窶するのはお手の物だろう?

 

 まぁ、せいぜい堪えることだな。今後の働き如何によっては、おまえを愚昧なる教皇共の後釜に据えてやってもいい。

 

「……誠、でございますか」

 

 誠だとも。おまえが、その口で言うとおり、忠実に、ただ諾々と職務をこなすものであるというのであればな。

 

 此の度の不遜極まる企てにつき、天帝陛下はお怒りであろう。死を持ってその罪を贖うは必定。

 

 しかし、ソラリス《我が国》の地上統治は今後も滞りなく継続される。となれば地上にて差配できる使い走りが必要なのだ。粛清し、その上で組織に大きく手を入れる。粛清官としての私の権限を持ってすれば、そこに貴公を捩じ込むのも、わけはない。

 

「有難き幸せ。閣下のお慈悲には、正しく感謝の言葉もございません」

 

 私を失望させてくれるなよ? シャーカーン教皇。

 

「……はっ。天帝陛下のお心のままに」

 

 そう、実に良い心がけだ。天帝陛下のご意思は絶対である。貴公もせいぜい身を粉にするといいさ。

 

 ドブネズミに使いみちが残されているかぎり。このヴァンダーカムが、おまえを存分に使ってやるとも。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 取調室から出て、しっかりと施錠して、張り詰めていた緊張を解いた。

 

 ついでにスイッチ・オフ。両手で頬をぐりぐりして変なふうになった表情を正した。その様子を見ていた見張りの二人に大丈夫ッすかとか言われたが、大丈夫じゃねえよ実際不快度ハンパねえわ。

 

 何が、とは言わずに。あと、王党派として恨み骨髄なのも分かるが、“今はまだ”そこまで手荒い真似はするなよとも釘を差しておく。

 

 そのまま、シェバトに首尾の程を伝えるために、アジトの通信室へと足早に向かった。

 

 

 

 さっきシャーカーンに対してああは言ったが、現実問題ハゲ三号を助命する予定なんぞ一ミリもない。

 

 ダブルスパイにするにもこっちから操縦するための手札が足らないし、そもそも本人がまったくもって信用ならない。

 

 ヤツはこのまま良いように使われた後、ブレイダブリクでの正式な裁判を経て速やかに処刑台コースだろう。

 

 

 

 謀反人の扱いとしては妥当なものだ。……とはいえ、やってることのタチがヒッジョーに悪いというのも、自覚はある。

 

 

 

 人間一人をだまくらかして死刑台へと歩かせる。拷問とか自白剤なんかに頼るよりもこっちの方がよっぽど情報の確度は上だし、善悪を抜きにすれば優秀と言えるシャーカーンの頭脳もしばらく使っていけるわけで、とりあえず合理的なのは確かなはずだ。

 

 それでも、俺自身の精神衛生上よろしくないのと、毎回上手くいくかなんて知れたもんじゃないので、あんまり多用はしたくはない戦法だった。

 

 もともと塵閣下はカイン・コピーとして、ヒト種に対する天帝の絶対命令権を幾らか借用できていた。更にソレをさっきみたいに能動的に展開していくことで、この手のハッタリ戦術の成功率はより一層高まることになる。しかし、だからって調子に乗っていると、どこかのタイミングでコツコツドカンと行きかねない。

 

 騙すやつほど騙されるという箴言もある。乱用は謹むよう厳に心がけるべきではあるんだろう。良心も痛むしな。わりと。かなり。

 

 

 

 ――と、言いつつも、今後もこの手の仕事は降って湧いてくるような気もしていた。

 

 なにせ、当面取るべき立場が立場だからだ。良きにつけ悪しきにつけ、役者仕事がだんだん板に付いてきている感もある。我が事ながらそれってどうなのと思わんでもないが、とりあえず、切れる手札が増えるってことに限れば、それはそれで歓迎すべきことなのかもしれなかった。

 

 

 

 ……あとスマン、ヴァンダーカム。話の流れで偽名に使っちまったい。残念ながらお前さんは能力に疑問符が付きまくるダメ人材ではあるものの、あんなふうな厭味ったらしいタコ野郎ではなかったな。

 

 図らずもというか、ついうっかりというか、悪評の流布をやっちまった形だった。もし将来ソラリスに帰って遭うことがあったらしっかり詫び入れることにしよう。

 

 

 

 まぁ、ここまで既にムチャクチャやってきた都合上、今さらアヤツと接点が持てるかと言うと、可能性としては相当薄いよーな気はするが。

 

 

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