塵閣下になりました   作:あーぷ

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仲良きことは美しき

 

 

「おはつにおめにかかる。わたしがバルトロメイ・ファティマ。ファティマ王家のセイトーたる後継、かの偉大なる……イテッ」

 

 あーあ。噛みおった。

 

「アツツ……えーっと、そのー、偉大なる、偉大なる。……なんだっけ? コーコク王?」

 

 建国王、ファティマ一世だろうがよ。なんだそのメディアを牛耳ってそうな怪しい名前は。

 

 

 

 ……まぁ、なんとなくやらかしそうな気はしていた。バルトのやつ、事前レクの時点からして緊張した様子が微塵も無かったからな。それ見て皆して安心してたわけだが、緊張感に欠けるってのは、実際それはそれで危ないもんだ。

 

 

 

 公式ではあっても公《おおやけ》ではない。アヴェとシェバトとの初会談。数百年ぶりの二国の対面は、なかなかユカイな滑り出しを迎えたと言えそうだった。

 

 王党派第二アジト、大会議室。正面奥の壁際に用意された大スクリーンには、シェバトにおける女王の間の現在《いま》がリアルタイムで映されている。青い空、白い雲、綺羅びやかでありつつも厳かな内装。そしてもはや見慣れた感すらある普段どおりの席に座ったゼファー陛下だ。

 

 一方、こちら側に在るのは、相手と向かい合うように設えられた臨時の玉座である。そこに、王家の礼装に身を包んだバルトロメイ殿下が座す形となる。

 

 即席とはいえ玉座としての様式は整っている。建国の絵巻物を思わせる炎を模した彫刻に、古代ファティマ語で彫り込まれた厳かな祝詞。子どもの体格に見合わないおかげで、座っているというより座らされている感がいくぶん出てはいるものの。それでもまるで浮いたふうには見えないのは、流石は彼の生まれと育ちの為せる業といったところか。

 

 

 

 画面の向こう側の女王陛下は、微動だにせずにこちら側の様子を見つめている。

 

 ある種植物のように泰然と、しかしそれでいて重厚な意志を帯び。相手を厳しい目で見通すことで、鋭く検めるようなニュアンスがそこにはある。

 

 もっとも、その視線をまっすぐに向けられているはずのバルトだが。幸いというか、ほとんど当てられた様子は無さそうだった。

 

 ホント、図太いヤツだよなあ。別に無神経ってわけじゃなく、ただそこにはおかしな気負いのようなものがない。歴年の為政者を前にして自然体で居られる。それが何事もなくスンナリ受け入れられていて、不興を買うようなことも無いあたり、何というか実にトクな質《たち》をしていると言えよう。

 

 

 

 まぁ、本人は未だにすっぽ抜けたセリフを探して頭を捻っていやがるので、状況自体はフリーズしたままドン詰まっているわけだが。

 

 

 

 ちなみに、ファティマ王家臣下一同は、礼服――砂漠の民らしく、一般にカンドゥーラと呼ばれる、スカーフ+ロングワンピースな一揃いだ――に身を包んで、玉座のやや後方で跪いている。

 

 っていうか、顔を伏せたままアワアワしているのが見るからに分かる。

 

 初っ端からしくじるとは思っていなかったらしいのと。あと、色んな意味でポジションが悪いことから、彼らがとっさにフォローに回るにはちょっとばかし無理がありそうだった。どうも、お目付け役のアギーことシスター・アグネスがこっちに居ないタイミングだったのが良くなかったな。

 

 

 

 ……しゃーねえなあ、ここは外野がヘルプしてやるか。

 

 なんだかんだこの会談は内々のセレモニーではあるので、今みたく下手を打とうが、実はそこまで悪影響はない。とはいえ、それでも上手く事が運ぶのに越したことはないしな。

 

 ついでに言うと、この場面が、俺の“立場”を示すのに便利遣い出来そうだという思惑があったりもする。

 

 

 

 他と同じく跪いていた体勢から、やにわに立ち上がって前方へと進み。メイソン卿たちの群れを追い越して、大画面の前に、ずいっと身体ごと横入れしてみせた。

 

 

 

 

 

 

 ……あー、第三皇女殿下。お元気ですか。

 

 体面上あんまり首突っ込むのもどうかとは思いますが、このままだとろくすっぽ進まない気がしますので、横車押させてもらいますよ。

 

『……』

 

 別にこうも仰々しくやる必要、ないんじゃないですかね? どうせ、腹ン中じゃ孫かなにかを見ている気持ちでいるんでしょう。そうやって表面上厳しさを押し出して見せるのも教育上必要なのかもしれないけれど、それには、裏打ちされた善意ってやつが相手側にしっかり伝わってなきゃならないはずだ。

 

 たいがい年季の入った政治屋さんの面の皮。おまけに画面越しじゃあ、通じるものも通じませんぜ。

 

 元よりゼファー・シェバト《あなた》とファティマさん家《こちらさん》との間柄だ。今さら腹の探り合いも無いってものですよ。もっと適当で良いんじゃないですか、こんなふうに。

 

 

 

 テイク・イット・イージー。意図的に頬を釣り上げ、片手を軽くかざしてひらひらさせて見せる。それを受けても、女王陛下の顔つきは特にこれといって変わらない。

 

 しかし、画面向こうの少し遠くから、無礼な、とかいう非難の声が微かに聞こえた。

 

 しゃがれた男声。今の所俺自身に聞き覚えはない。スクリーンの表示には収まっていないが、おそらく手前の通路脇に控えているらしき、シェバト元老議員のなかのひとりからだろう。

 

 

 

 うむ。誰だか知らんが、至ってマトモなご反応をありがとう。

 

 恐れ多くも国家首魁二方の御前である。現実問題無礼極まりないもんな、コレ。

 

 だが、無礼で結構コケコッコー。物言い付けたジーサンは細かい事情をはっきり知らんのだろうが、俺の(設定上の)身の上からすると、むしろある程度は無礼に振る舞わないとおかしいのだよ。

 

 なにせ、我こそはソラリスの威光を引き継ぐ者なり、だからな。

 

 フッフッフ、いい加減この手のノリにも慣れてきたぜ。そこのけそこのけ、現世統べし超大国の天子様がお出ましだ。下々どもを前にして、いったい何を慮ることあるものかー。

 

 

 

 ……なお、たとえ慣れようが胃壁にスリップダメージは行く模様。つらたん。

 

 

 

 

 

 

『……“ラメセス殿”』

 

 あ、はい。

 

『この場の気遣いには感謝しましょう。しかし、軽薄な露悪趣味は程々になさい。報告は受けておりますよ? 大胆な立ち回りも結構ですが、貴人は、手にした得物を無闇やたらには振り回さぬものです』

 

 イエス・マム。……いや、これはまたたいへん失礼を。不作法をお詫びいたします、女王陛下。

 

『……まぁ、よい。言わずとも知れているでしょう。ですが先のごとき振る舞いを“外”に持ち出さぬよう、くれぐれも念を押させてもらいます』

 

 いやあ、ここはここでもうわりと“外”な気はしますけどねえ。……オホン。ご助言ありがたく頂戴いたします。ともあれ、陛下。今日のところは、ある程度までこの私なりのやり方で行かせていただくことを、何卒お許しくださいませ。そうした方が今後の互いのためかと思いますのでね。

 

 モットーよりもフレンド・シップとでも言いますか。プライベート的な、と言っても良いかもしれない。もっとも、此の度お時間を割いていただいている、双方お控えの皆々様にはたいへん申し訳ないですが――

 

 

 

「……なんかさぁ?」

 

 と、斜め前でゴチャゴチャやってる俺の方を見上げ、バルトが意外そうな顔で呟いた。

 

「けっこーフツーにやって良さそーなカンジ? 俺、そっちのが嬉しいんだけど」

 

 ええ、バルトロメイ殿下。ご覧になったとおり、陛下は気さくなお人柄ですので、そこまで肩肘を張る必要は無いかと存じますよ。

 

 ……もちろん、俺みたくやり過ぎると叱られっから程々にはしとけよ?

 

「ん、分かった分かった。……なぁ、ゼファーさん。アヴェ《うち》とそっちのカンケーを教わってからさ、ずっと聞いてみたかったことがあるんだけど。いいかい?」

 

『なんでしょう、バルト?』

 

 ゼファー女王が一転して柔らかい笑みになる。いかにも親戚のバア……いや、おねーさまといった風情であるな。

 

「ありがと。あのさ、今、ユグドラん中に、アンドヴァリってギアが置いてあるんだ。アレって俺のご先祖サマが……」

 

 

 

 

 

 

 その後は三人でのやり取りが続いた。内容としてはほぼほぼこの場に似つかわしくない雑談であるよ。

 

 往年のロニ・ファティマのエピソード各種。ゼファー女王と、レネ・ファティマの妻たる教母補佐官ジークリンデとの友達付き合いについて。崩壊の日以降、国交が断絶するまでの両国間の外交関係から、シェバトやアヴェの伝統料理いま昔といったことまで。

 

 思い出話にヨモヤマ話。過去に横たわる500年間を行ったり来たりだ。ここでソラリスあれこれを開陳するわけにもいかないので、俺は原作知識を振り回して横から茶々入れするのがほとんどだったが。それでも実に興味深くかつ意義深い一時だったと言えよう。

 

 砕けた対話の中で互いに距離を詰めることができたし、気のおけない雰囲気についてもアピールオーケー。それでいて、会談のフォーマルなやり取りの中で、両王家の間に権威上の序列が生じてしまう可能性についても塞いでおけた。

 

 ゼファー女王個人がどう思っているかはさておき。シェバト側としては絶対マウント取っときたくなる場面だったろうからな。

 

 

 

 そのままで数十分、最後まで雑談メインで押し切った。俺という道化役を交えつつ、バルトとゼファー女王はすっかり打ち解けた雰囲気だった。

 

 なんとこの場で次の予定まで立ったくらいだ。機会があれば、マルーさんも交えて近々お茶会でも開きましょうか、などと。

 

 そうバルトに告げた後に女王陛下は俺の方を向き、ほのかに皮肉めいた笑みを浮かべ、別に貴方は来られなくても良いですよ、とのことだが。いやあ、保護者兼野次馬としましては、仲間外れは極力ご勘弁願いたいですなあ。わっはっは。

 

 

 

 ……ま、置いてきぼりにしてしまった両家臣団の皆様には悪いが。今後の双王家の関係構築にあたっては、そこそこ価値ある一幕だったんじゃないですかね。たぶん。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

『それで、同盟は成ったと見て良いのかね、ラムサスくん?』

 

 はい。そこについてはもう異論の出ようもないでしょう。しっかり流れに乗っていますので。

 

 我々王党派は既にアヴェ中枢の再掌握を凡そ済ませておりますし、貴国女王陛下のご権勢については、元より確固たるものがある。下拵えも恙無く片付いた。互いの格好さえ付いているのであれば、後は前へと進むだけです。

 

 アヴェ、シェバト間の対ソラリス共同戦線。じきに、地上レジスタンス《そちら》にも正式にお達しが来るかと思います。

 

『結構』

 

 壁の上部分に埋め込まれたモニタリング画面の向こうで、ガスパール翁はその特徴的な長鼻をやや上方に傾けて見せた。

 

『となれば、我々としても協力は惜しまんよ。さっそく『教会』本丸を押さえるための詳細を詰めるとしよう』

 

 有難うございます。それではまず、先日ご提案いただいた物資の割当配分の件ですが――

 

 

 

 第二アジトの通信室。アクヴィ・エリアのレジスタンス組織との通信チャネルが開けたのは一月ほど前のことだ。

 

 その頭目は、シェバト三賢者のひとりガスパール翁。末端を含めれば構成人員はゆうに千人を超えると聞く。彼らは本国の支援を受けつつ、ソラリスの地上支配に対して長年ゲリラ的な抗戦活動を続けている。

 

 後の第三次シェバト侵攻作戦において壊滅的な打撃――おそらくシェバト本国の生き残りのために前線ですり潰されたんだろーと思われる――を受け、原作時点では、ほとんど有名無実化していたみたいだが。現時点ではソラリスにとって最大の目の上のたんこぶだ。

 

 現実に、『教会』にとっての対応優先順位は、シェバト本体よりも地上のレジスタンスの方が上にあるらしい。実用一辺倒なパイプ椅子に座ったガスパール翁が表示されている画面には、さっきから頻繁にノイズが飛んでいるが、これはセキリュティの関係上シェバト本国経由でチャネリングしていることによる。それだけ彼らの位置情報の取り扱いについては慎重を期しているというわけである。

 

 もっとも、ブレイダブリク奪還後にゼファー女王の仲介を特別に受け、俺自身が向こうに出向いての顔通しは済んでいる。そのときを含めればこれでもう五回目の会談だった。おかげで、今では画面越しでも終始気楽なやり取りを通すことができる。

 

 

 

 ――アヴェ王党派の現況については以上ですかね。いざとなれば、今日このときからコトが動こうと取り立てて問題はありません。その点、そちらの進捗はいかがですか?

 

『こちらも、兵站等の前準備に関しては現時点でほぼ完了しておるよ。ただ、やはり機械化戦力の不足がネックになるな。一時的に本部を制圧できたとしても、『教会』側がギア部隊を投入して本腰を入れてくると、維持は厳しいというのが正直なところだ。畢竟、乗り手《パイロット》の頭数が足らんでな。幸い、この点については、アヴェ《そちら》側にアテがあるというふうにシェバト《上》の方から聞かされているが?』

 

 はい。私どもも量的な意味ではけして潤沢とは言えませんが、可能な限りの戦力供出をお約束致します。

 

 具体的には、ファティマ王家近衛騎士のうち、実数にして2/3をお貸しします。ガスパール翁直下にてご采配ください。

 

『ふむ』

 

 彼らのデータも追ってお渡ししますが、先日鹵獲した『教会』の機体と照合する限り、性能面で連中よりも二世代ほど先にあると見てくださって構いません。単体戦力ではソラリス本国のそれをも上回る。仮にソラリス・ゲブラーと直接かち合うことになっても、防衛戦に専念すれば十分余裕を持って当たることができるかと考えます。

 

『まさしく虎の子か。よくもまぁ、大海を跨いでわざわざこちらにまでお出でいただけるものだ』

 

 ここが賭けどころだというのが王党派の総意になりつつありますので。アクヴィ・エリアでのソラリスの策謀につき、仔細を早々にご提供いただけたのは幸いでした。

 

 アヴェでは未だに『教会』勢力の影響力つとに大きく、あのならず者組織に今後も根を張り続けられるのは危険性大なり。少なくとも、王党派の内々では、その危機感は概ね共有されているものです。

 

 

 

『頼もしくもあり、失礼ながら少々意外にも思うな。彼奴らの非人道的な行状はイグニス・エリアの各所にも及んでいようが、それを隠し果すことの巧みさに掛けては、我々としても認めざるを得んものがある。こちらの一方的なデータだけで地上の一国がここまで機敏に動けようとは、正直思いもよらなかった』

 

 と、ガスパール翁は顎を引き、目を細め。こちらを見透かしたような微笑みを作ってみせる。

 

『貴国にはよっぽど視野の広いブレーンがいるらしい。それとも、ラムサスくん、これも君の働きによるものかな?』

 

 自惚れるわけではありませんが……本件に関しては、私の説得が功を奏した、という側面が大きかろうとは思います。

 

 今までに積み上げてきた影響力を行使し、メイソン卿《トップダウン》と、騎士団員ないし陸戦隊《ボトムアップ》から説き伏せてここにまで漕ぎ着けた。そのぶん、かなり無理押しをやったという自覚もあります。

 

 クーデター鎮圧直後とあって、アヴェの地方情勢については未だに安定的とは言い難い。長期的な視点では対ソラリスは不可欠ではあるものの、国体継続に直結する喫緊の課題を優先すべしという意見にも、相応に説得力がありましたから。

 

『なるほど? では、此の度の作戦の成否如何で、君のそちらでの立場は大きく様変わりしかねないというわけか』

 

 そうなります。確固たる地歩を手に入れられるのか、それとも一転逆落としか。ゾッとくる話ですがね。

 

 もっとも、それだからこそ、本作戦に対する私の意気込みにかけては、十二分に感じていただけるかと思います。乾坤一擲。あるいは背水の陣かもしれない。まぁ、零細勢力にとってはいつだって背後は死地であって、目をつぶって前に出るしか無いというのが常ではあるのでしょうけれど。

 

『ははは、なかなか面白いことになっているな』

 

 握りこぶしを片頬に添えて、ガスパール翁が楽しそうに言った。こっちは思わず苦笑いが出そうになるのを抑え込んでいる。そりゃ、踊ってるのを傍から見てるだけなら面白いんでしょうけどお?

 

『何、気力体力に飽かせて、大風呂敷を広げられるのは若人の特権だ。せいぜい我々を使いこなしてくれたまえ、ラムサスくん。我が方としては、大義に沿い、正しきを貫ければそれで結構。奇しき辻風、浮世を訪い渦巻くが如し。君には大いに期待させてもらっているよ』

 

 

 

 ……うーん。「お前には期待している」ってのも大概殺し文句だよなあ。言うだけならタダだし。そんでもって期待に満たなかった場合にはさくっとオサラバされかねないわけで、ずいぶん残酷なことを言いなさる。

 

 食えないジーサンだわ。名実ともに年季が入っていらっしゃる。ったく、どいつもこいつも。

 

 

 

 

 

 

 とはいえ、今回俺が広げた風呂敷は実際問題かなりデカイ。

 

 本作戦の目的は、単に『教会』弱体化というだけに留まらず、ソラリスの障壁《ゲート》ジェネレータを三基まとめて取り除き、あの国の本体《エテメンアンキ》を丸裸にすることにあるからだ。

 

 レジスタンス組織が主力となって『教会』本部を制圧する裏で、ギア・バーラー主体の精鋭チームがサルガッソー・ポイントに向かう。そこで無事一基目の破壊に成功したら、返す刀でイグニス・エリアの二基目もぶっ壊す。その上で碧玉要塞とバベルとをそれぞれ確保。

 

 ラストは原作同様の砲撃反射戦法を用いて『教会』本部地下の三基目にも玉屋ってもらい、ソラリス本国を衆目の前に露わにさせるという寸法だった。

 

 手探りで一基ずつ壊していった原作とは異なり、最初から三基ぶんの座標を同定し、流れ作業でオシャカにしていく算段を立ててある。ソラリスにとってはそれこそ思いも寄らない一手のはずで――やつらは地上勢力が障壁《ゲート》の存在すら知らないと思っているのだ――、スムーズに行けば妨害ゼロの完全勝利も夢じゃあない。……はずだ。

 

 

 

 このエテメンアンキおっぴろげ作戦をやり遂げるために、近ごろあちこちでひたすら根回しを講じてきた。

 

 以前の資金繰りとも並行しつつ。メイソン卿を説き伏せて、戦力拡充済みの近衛騎士たちを私物化するのを目こぼししてもらったり、バルトやシスター・アグネスと一緒にニサンに出向いて大霊廟の使用許可を取ったり。キスレブの出方にも目を配り、こっちから天上世界における具体的な情勢についてのデータを適宜提供することで、水面下の緊張緩和はかなりの程度まで進んできている。各地の『教会』末端や、ソイレントの地上施設についても普段どおりの活動から変化はない。

 

 どうもイグニス大陸の南側については、シャーカーンから『教会』本部を経てソラリス本国へという情報伝達ルートを採っていたらしい。早期にシャーカーンを押さえられたことで、彼らの目と耳が実質的にマヒ状態になっているのは僥倖だった。

 

 シェバトは元より対ソラリスの一環として本作戦に否はなかったが、『教会』に直接ぶつかって貰うことになるレジスタンスに対しては、こっちとしても相当念入りに気を使ってきたつもりだ。

 

 

 

 他にも、タムズ船団と接触を持って水中装備の調達。ゼボイム遺跡の手がかりと引き換えに(もっとも、タムズの戦力レベルだとあそこに末端部から侵入してのサルベージは危険過ぎるだろうけどな)、彼らからサルガッソーについての詳細情報を入手した。また、今後を見据えて通商や物流に関する条約を正式に締結し、イグニス・エリアとアクヴィ・エリアの経済的な結びつきに緒を付けた。

 

 『教会』が除かれ、ソラリスの地上支配が和らげば、エリア跨ぎの商取引において、彼らのツテを頼るケースも加速度的に増えていくはずだからだ。戦後ヒマになるギア部隊を活用した航路の安全保障計画についても青写真がある。現段階から一枚噛ませておくことで、ゆくゆくは彼らに地上世界を立ち直らせるための橋渡しの役目を担ってもらおう。

 

 

 

 準備は万端、とは言えない。例によって突貫作業の見本市である。出たとこ勝負に時の運。このままで上手くいくかだなんて、まったく知れたもんじゃない。

 

 それでも、伸るか反るかの勝負になるくらいには、こっちも手札を山程ベットしてるってわけだ。

 

 

 

 ……何とかなりますよーに。ホント。頼むぞ。

 

 

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