塵閣下になりました   作:あーぷ

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地震カミナリ火事親父

 

 

 先をゆくヒュウガ・リクドウの後頭部が、さっきから大股数歩分ほど前にある。ゲブラー士官に化けた俺――着ている制服が一般士官用の量産型なので、見る人が見れば盛大に降格でも食らったかのような風体だ――ことカーラン・ラムサスは、ヤツの後ろを素知らぬ顔でついていく。

 

 

 

 ここはソラリス中央官庁。エテメンアンキの中心部、天帝陛下のお膝元たる聖ソラリス大宮殿が一角。反転された重力ベクトルにより、大地に向かって聳え降ろす九大尖塔の一柱に、俺たちはいる。

 

 物資輸送定期便を用いた不法入国(普通にヒト用座席に座ることが出来、前みたくモノ扱いされずに済んで大変めでたい)を経て。アラボト広場近くの馴染みの店でヒュウガと合流。王国《マルクト》・エリア北部のガゼル居住区を通り抜け、一般市民に紛れて堂々とここまでやってきたのだ。

 

 

 

 ちなみに、大宮殿全体をセフィロト・モチーフとして見るなら、現在位置は樹状図のいわゆる基礎《イェソド》部分にあたる。

 

 ソラリスの国章として扱われているあの形状が、そのまま都市設計にも用いられているというわけだ。

 

 歯抜けたブドウの房みたいなカバラ図面の、下から二番目の円の部分が現在地。西側三柱のうち真ん中の一柱が本部エリアとなる帝室特設外務庁ゲブラー同様、ここの尖塔、及び周辺部の正式名称としてはイェソド・エリアとなっている。

 

 

 

 ……まぁ、ソラリス市民の間では、その手のお高くとまったエリア名はイマイチ一般化しておらず、単に官庁、あるいはセントラルと呼ばれることがほとんどなんだが。

 

 ようは役所の親玉ってだけだからな、ここ。実態とも市民感覚と符合しないお仕着せがましい名称なんぞ、そう簡単には定着しないもんである。

 

 

 

 

 

 

 エントランス・ホールのIDチェッカーを抜けた後は、淡藍色の金属が剥き出しになった味気ない通路やエスカレータが続く。

 

「さあ、こっちです」

 

 ヒュウガの先導に従ってさっさと進んだ。目的地までの道すがら、時折一般職員とすれ違ったくらいで、総じて人通りはそう多くない。

 

 施設の敷地も、全体の間取りも。無闇やたらに広々としている割に、内に抱えている人員の数は相当絞られているのが分かる。警備用の逆三角形オートマトンの方がよっぽど目についたくらいだった。「国家運営の基幹はやはりヒト」とはいえ、オートメーション化が隅々まで行き届いていているおかげで、この過疎っぷりでもそこまで不便はないんだろう。

 

 当然、人力での保安活動についてもいい具合にお座なりだ。エントランス付近に人員が僅かに配されているが、彼らもとっくの昔に本来の目的から離れて転用済みのようで、そのほとんどが、ガゼル市民御用達の腰の低い案内役と化していた。ついでに言うと、通常運用時のオートマトンは正規IDの前には無力である。

 

 

 

 

 

 

 そんな、侵入者に対するウェルカム姿勢にも関わらず。さっきからヒュウガ・リクドウの口数は少ない。

 

 引き締まった表情のまま、目的地を目指して黙々と足を動かしている。入庁から二年そこそこの新米としてはそれっぽい振る舞いではあるんだろう。しかし、おそらく普段はそんな殊勝さなんぞ微塵も持ち合わせていないはずだ。

 

 後の鬼畜メガネとして、図々しさでは生来突出したレベルにあるこの男。こと今回に限っては極めて例外的なケースと言えた。

 

 

 

 それもまぁ当然の話で、ヤツが今片棒を担ごうとしているのは、腐っても祖国《ソラリス》に対する利敵行為であり反逆行為。

 

 おまけに、守護天使就任前で未だ刻印《リミッター》が外されていないことから、常時本能的な恐怖に逆らい続けているような状態でもある。

 

 今のヤツの行動を支えているもの。それは、未検証理論への納得感に後押しされた科学者的な規範意識と、天帝の絶対命令権を一部ハイジャックしている俺が醸し出す謎の説得力の二本柱だ。目下のところ、どっちにしたってイマイチ頼りないのが実情なのだった。

 

 

 

 ……特に後者がヒドいわな。根拠レスすぎて。いやー、スマンねヒュウガくん。そのうち機会があったら美人さん紹介するから許してね。

 

 相性の良さに関しては太鼓判が押せるぜ? なにせ、未来で一度上手く行った実績があるんだからな。首を長くして待っていてくれたまえ。乞うご期待だ、わっはっは。

 

 

 

 もっとも。正味な話、今後本当にご紹介できるタイミングがやってくるのかっていうと、はっきり言って分からんのだが。

 

 

 

 とりあえず戦場での運命的な出会いを演出するのはまず無理だろーと思われるし、以前のラヴァーン卿救出の件でひと悶着あって以来、ガスパール嬢のスタンドプレー気質も相当ナリを潜めているからなあ。

 

 そこらへんの前提条件無しには、シェバト三賢者の孫娘がソラリス侵攻軍の司令官とコブシで分かり合う事態にはそうそうならんだろうと思う。

 

 一応、フラグ自体はまだ残ってはいるんだろうか? 喪われし未来の重みは如何に。適当でも良いから会わせてみたら、即座にビビっと来てそのままスンナリいくのかもしれない。

 

 が、ここまでくるともう、何がどうなるかなんてさっぱりだというのがぶっちゃけたところなのだった。

 

 分からんものは分からん。人の縁なぞ複雑怪奇だ。ええい、なるようになれ。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 中央官庁を北東へと抜ける。道中の慈悲《ケセド》・エリア――何が慈悲だよバカ野郎って感じだが、カレルレンの研究所を含むP4施設がここに位置するせいでケセド周りは普通に警備が厳しいのだ――に足を踏み入れないよう気をつけながら、大宮殿の内部を、ジグザグに横断して進んでゆく。

 

 エリアごとの合間をつなぐパイプ状の大道路は、反発力を利用した加速度レーンになっている。おかげで、宮殿外縁部の移動は極めてスムーズにいった。

 

 徒歩移動にも関わらず、ものの十分ほどで、俺たち二人は九大尖塔最長を誇る王冠《ケテル》・エリアへと足を踏み入れることができた。

 

 

 

 エリア内部、目的のフロアへと歩みを進めるごとに。徐々に徐々に高みへと登りつめていく。

 

 そうして、いよいよ目当ての“間”が目の前に見えてくる。

 

 

 

 尖塔内部を北に向かって貫く大掛かりな階段があり、それを登った先に続く通路を更に少し進んだところに、“間”の入り口はある。

 

 ケテル・エリアの最奥。ここエテメンアンキでもっとも高きに在り、それでいてもっとも低い標高に位置する唯一無二のフロアである。

 

 

 

 とは言うものの……そのフロアに続く、いよいよ大詰めとも言えるステップですら。今まで通ってきた道のりと比べて、然程代わり映えのするビジュアルをしていなかったりするんだが。

 

 見覚えのある建材。見覚えのある装飾。多少他所より大仰なところはあるけれど、大まかなところはここまでと何ら変わらない。

 

 既視感という絵の具で大掛かりな建物を描いたら、まさしくこんなふうになるのではというシロモノだった。この場所にはニサンの大聖堂や、ブレイダブリクの王城に見られるような、歴年に裏打ちされた特筆性が欠落しているわけなのだ。

 

 

 

 なんなんだろうなあ、このおざなりっぷりというか、雑な感じは。

 

 統制国家のいびつさというやつだろうか? あるいは設計主義の誤謬か。デウス復活という御仕着せの目的を戴く、ひどく硬直した組織であるがために。何もかもがトップダウンで配置され、ボトムアップからの改善が為されない。そのおかげで、表面的な形式さえ整っていればそれで十分だと見做されてしまうとか?

 

 ……単に、この“間”の主が、外身の飾り立てに関して無頓着だってだけかもしれない。そんな気もする。

 

 

 

 

 

 

 ヒュウガが入り口脇に備え付けられたコンソールで入室手続きを取った。ヤツは初年度の時点で既に守護天使候補として選抜されており、ガゼル上層部直々にこのエリアのフリーパスを与えられている。

 

 事前のアポもちゃんと通っていたようだ。コンソールの画面に、すぐさまソラリス語で入室許可の文言が踊った。

 

 

 

 確認を終えたヒュウガがこちらを振り向き、大丈夫そうですね、入れますよ、と言った。ただし、その表情は相変わらずの仏頂面で、顔色も今ひとつ優れない。……まぁ、そりゃそうだろう。

 

 自分のやっていること。これから目の前の俺がやろうとすること。そうしたあれこれに思い馳せるたび、ヤツとしてはポジション的にゲンナリくるのが間違いないのだ。

 

 うむ。その気持ちはよーく分かるぞ。なんで自分がわざわざこんなことを、というやつな。分かる分かる。

 

 

 

 俺は苦笑いを浮かべながら、コンソール前に立ったヒュウガを追い越し。それから振り向いて、労いの言葉を投げ掛けた。

 

 

 

「いよいよ、この先です。しかし、カール。出来ることなら、ですが……くれぐれも穏便に」

 

 案内感謝するよ、ヒュウガ。あとで埋め合わせはさせてもらう。ただ、悪いがそのあたりについては望み薄だな。

 

 向こうさんの出方次第ではあるが、そこそこ物騒なことになる可能性は高いと見るよ。

 

「……でしょうね。やれやれ」

 

 なにせ、あっちは大層年季が入ってる。アタマの硬さには相当なものがありそうだ。一発二発ブン殴られるくらいは覚悟せにゃなるまい。

 

 もちろん、こっちだってやり返すべきはやり返させてもらうがね。

 

 目には目を。歯には歯を。頑固親父には馬鹿息子をだ。何、今さら醜聞を憚るようなお家柄でもなかろうさ。

 

「まったく。あなたという人は」

 

 そう言ってくれるな。不肖の息子って役回りを演るのも、なかなかどうして面倒なもんだ。ついでに言っとくと、残念ながら子は親を選ぶことなんて出来ないんだよ。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

「……私のチカラを中和するだと?」

 

 こちらに向けられていたエーテルパワーの奔流が勢いを失い、やがて何事も無かったかのように消えていく。

 

 有機的な構成物に対する直接干渉。しかしそれが俺の身体の隅々まで行き渡ることはなかった。毒虫が自らの毒でくたばることがないように、ゾハルを用いたエーテル・システムには、自傷行為を妨げる安全装置《セーフティ》が前もって仕込まれているからだ。

 

 そうして、ぱちぱちと煌めく光沢の余韻だけが尾を引いて残った。

 

 皮膚表面のそこかしこがひりつくけれど、せいぜいそれぐらいで、行動にさしたる支障はない。その程度のことだ。その程度で済んだ。

 

 

 

「馬鹿な……貴様はいったい?」

 

 ……だから。さっきも言ったとおりだよ、家庭内暴力は止めてくれんかね、親父どの。

 

 あー、もう。どこぞの誰かと行動パターンが一緒じゃないか。事情もそこまで分かってないのに初手から殺りにくるとかバッカじゃねえの。ご丁寧なことにエーテル干渉の属性《タイプ》までおんなじとくる。おーいてえ。

 

 たとえ血が繋がってなかろうと。グラーフ《アベル》と、カイン《あんた》が、兄弟だってのは、まったくもって納得の行く話だよ。

 

 

 

 

 

 

 謁見用の円盤状浮遊機械の上にあぐらをかいて座り込み、うんざりした表情を作って、目の前を見つめた。

 

 四方は暗闇。入室と同時に入り口の輪郭が消え失せ、床も含めてすべてが明るさを失った。それなのに“間”の内側は至って明瞭に見通せた。

 

 大小さまざまな、抽象画めいたタッチのカンバスが、周囲をゆったりとした速度でうごめいていた。

 

 そんな不可思議な部屋の中心部。目前に浮かんだ玉座に御わすのは、金色骸骨黄金バット……ではなく、神聖ソラリス帝国を率いる絶対者、天帝カインその人だ。

 

 

 

 初っ端から図々しく距離を詰めてみたところ、いきなり無礼討ちを食らったというのが事の次第である。我ながら、相手からの突っ込み狙いのボケ倒しめいた風情が無いではなかった。

 

 天帝サマのエーテル出力は対存在、即ちミァン、ないしエレハイムに比肩する。グラーフには明確に劣るものの、それでも相当高出力なのは間違いない。今さっき食らった物理干渉は、それほどのポテンシャルが遠慮会釈もなく発揮されていた。

 

 こっちがカイン・コピーとしての特殊耐性のない一般人だったなら、全身が灰と化してグズグズに崩れ落ちていたはずだ。いやー、あぶねーなあもう。

 

 

 

 とはいえ、こっちの為人を証明するにあたって、これほど分かりやすいモンもないだろうと思う。

 

 桁外れの大出力をただ耐え抜いたのでなく。あくまでも中和し、事象変移自体の発動を尻すぼみにさせてしまったという異常性。

 

 ポッと出で現れた自称『息子』なんぞ、怪しさてんこ盛りにも程があるが。こうやって明らかな物証を突きつけられてしまえば、多少なりとも信じないわけにはいかないはずだ。

 

 そして、所与として持てる信任は、共犯関係をスムーズに進めるにあたってこれ以上ない潤滑油となる。いやはや。古来より、権力者たちが血縁に重きを置いていた理由が分かろうってもんである。

 

 

 

 

 

 

 ……それで? もう一回、最初から、クドクドとご説明申し上げたほうがよろしいですかね、親父どの。

 

 ボケ老人には根気と寛容の精神が大事ってのが、医療マニュアルにも書いてある。たいへん面倒ながら、身内の草臥れ具合に付き合うくらいの甲斐性は一応自分にもございますが?

 

「……」

 

 要らない? そりゃ結構。それじゃ早速、こちらよりいくつか要望を並べさせてもらいましょうか。

 

 ひとつ、デウス復活の断念。ふたつ、シェバトとの休戦条約の締結、並びに地上世界への過度な干渉の取り止め。

 

 みっつ、ガゼル上層部の粛清とゲーティアの小鍵の破棄。よっつ、ソラリス市民に対する情報統制の一部解除。

 

 

 

 んー……とりあえずはここらへんですかねえ。為政者としてはともかくとして、“ヒト”としての一般常識に照らし合わせてみれば、そこまで異論は出づらい部分なんじゃないかと思いますよ。

 

 もちろん、ソラリス《おたくら》の既得権益層にとってみれば、噴飯ものの要求かも知れないが、こっちとしてはそんなこたぁ知ったこっちゃねえ。

 

 我が方の手の内をいくらか明かしておくと。既にギア・バーラーの編隊にゼボイム謹製の反応兵器背負わせて、エテメンアンキまでピクニックする算段は整ってるんだぜ?

 

 地上のゲート《障壁》発生装置が無事だった頃は、直接手の出しようがなかったが。しかし今の本国のみの一枚看板であれば、アウラ・エーペイルの防備と条件はそれほど変わらないからな。

 

 ギア・バーラー級のチームプレイで十分に対応可能なのが分かってる。もちろん最悪のケースではあるが……こちらとしても、いざってときの使用に躊躇いはない。

 

 つまるとこ、相互破壊保障が成立済みってわけだ。もはやソラリスの絶対的な優位は失われ、シェバトは、対等な交渉相手として対面に立つ。拮抗からの緊張緩和《デタント》に持ち込むためのパッケージとしては、現時点でもなかなかのモノが揃っていると――

 

 

 

「口を慎むがいい、ヘテローギェンよ」

 

 ……あーん? ヘテロ? なんだい、そりゃ。

 

「今このとき、私を害しうる存在が、この場に姿を現すのであれば。それは、カレルレンの走狗でも、ミァン《母》の意を汲むものでも。ましてや法院《あやつ等》の手先というわけでもあるまい?」

 

 ふむ。まぁ、そうだね。

 

「福音の劫《とき》を間近に控えた今。我々の目論見が来している数多くの齟齬……それを齎せしひとりのヒト。貴様は、これまでの何者かの積み重ねに拠ることなく、何処からともなくこの世界《盤面》の上に現れた」

 

 厳かな、しかし朗々とした声が。仮面の内側から刺すように響いた。

 

「その策動は、ヒト一人の為し得る域をゆうに飛び越え、既存の計画すべてを御破算にすらさせかねぬ。斯様な存在が想定されたことなど、これまでに無かった。故に、異質なるもの《ヘテローギェン》。我が前に在る不遜な男のことは、そのように称するべきであろう」

 

 なるほど。……なるほど?

 

 

 

「ヘテローギェンよ。お前が何者であり、何を識っているのかは、一先ず問わぬ。だが、とりわけそのひとつ目の要求は、馬鹿げたものだ」

 

 黄金のヨロイをまとった右手を翳し、天帝カインは断固として告げる。その言葉には、言葉以上のものがあった。もし、刻印《リミッター》がまともに機能している者がこの場に居合わせていたら、おそらく有無も言わさず足元にひれ伏していたはずだ。

 

 まぁ、俺にとってはちょっとした圧迫感以上の効果はないんだが。

 

「神の復活は、我々の存在意義。至高目的。それが成されぬ場合、我らは滅びの道を辿らなければならぬ……。そも、捨てされるような選択肢では、ない。それは、ただひたすら絶対の目的。揺らぐことなき絶対の、志向性なのだから」

 

 

 

 

 

 

 絶対、ねえ。しかし、その目的地が崖下じゃあ、落っこちるまでにどれだけエレガントに踊ってみたって単なるギャグだぜ。

 

「……何が、言いたい?」

 

 いやだって、実際問題ムダだしな? あんなもん、復活させても大した足しにはなるまいよ。

 

 

 

 神《デウス》ってったって、結局は万年前の一兵器にすぎないわけだ。アレを製造した星間文明が今なお存続していたとして、当然そこには最新式の軍備がなされていると見るべきだろう。

 

 兵器としての枠組みに囚われたゾハルの用途は限定的な範囲に留まる。状態保持期間の長さに、エネルギー精製能力の優位性だけで、歴年の積み重ねをひっくり返せるとは到底思えん。

 

 兵器体系における単体戦力の粋たる起動戦闘端末《ギア・バーラー》だって、質量でブン殴ればぶっ壊れるという事実があるんだ。本体《デウス》にしたって同じこと。あんな型落ち品の暴走機関車でノコノコ敵地に突っ込んだら、こっちの射程に入る前に袋叩き食らって宇宙の塵《ごみ》が関の山でしょ。それか、鹵獲されて骨董品として博物館のオブジェだ。

 

「それは……」

 

 

 

 行く川の流れは何とやら。世の中変われば変わるものだし、概ね未来はより良くなっていく。そんなことにすら思い至らないってのは、盲目的にも程があるだろ。

 

 もちろん、逆向きに進んだ未来だって描けはするさ。星間文明が、文明としての正しい発展段階を逸脱し、残念にも滅びの道を辿ってしまった、というような。

 

 しかし、それはそれで非常にマズくはないだろうかね?

 

 朽ち果てた星々の空の果てに、兵器《デウス》だけがポツンと浮かんでいても、何の意味も、価値もない。君臨するとは何ぞやという間の抜けたお話になってくる。

 

 そして、賭け事ってやつは、最後には勝つか負けるかしかないものだ。文明の発展についても同じように言える。栄華か、衰滅か。一万年ぶんのダイスロールの果てに、現状向こうさんがどっちに転んでようと、ハイエナを狙う側としてはお先真っ暗だ。

 

 おたくらの計画は詰んでいる。無用の長物。無駄な努力。

 

 だいたいなんだよ神になるって。最大限上手くやって、いいトコ単なる暴力装置のコントローラーなのに、そんな御大層なもんになれるわきゃ、ないだろうに。

 

「……」

 

 言わせてもらえば……結局、誰もがプログラムされた強迫観念に背中を押されてるってだけじゃないのか?

 

 カイン《あんた》も。法院の連中も。ミァンも。誰も彼もが。

 

 存在意義。至高目的。まったく大層なお題目だが、客観的に見りゃ単なる誇大妄想にすぎないよ。

 

 とっとと捨てっちまえよそんなモンさあ。実際、親父どのだってわりと疑念を抱いているんだろう? 揺らぐことなき、だなんて。心にもないこと言っちゃいかんよ。

 

「ぬぅ……」

 

 

 

 

 

 

 天帝カインが押し黙った。

 

 “間”に一時の沈黙が落ちる。それでもこの場は静寂から遠い。暗闇の中で絵画がぐるぐると回り続け、機械的な回転が無機質な音を響かせている。その中に入り交じる鈍い脈動は、おそらく、親父どのを生き永らえさせている生命維持装置の稼働音だろう。

 

 そうした中。俺は引き続きあぐらを掻いて座り込んだまま、頬杖をつき、目の前の男がもう一度口を開くのをただ、待つ。

 

 

 

 ……メタ的な推察が入りまくっているとはいえ、我ながら妥当な見解を述べていると思う。神《デウス》復活という目的に、そうプログラムされているから、という以上の価値や正当性はそもそも無いのだ。

 

 目標に至るまでの主体的なロジックが欠落していて、方向性も宙ぶらりん、ひたすら惰性だけで前へと進んでいる。

 

 当然そんなやり方では全体最適化なんて望むべくもない。トータルで見た場合の効率は極めて悪いし、おまけに計画完遂後を見据えた長期的な展望すら皆無と来ている。

 

 正直言って、こんなもん、駄目プロジェクトド真ん中としか言いようがないよーに思われる。

 

 そんな負け戦からはとっとと身を引くに限るだろう。回収の見込みのない過去の投資ぶんに拘っても、往々にして、いたずらに傷口を広げるだけだというのがお約束なんだから。

 

 

 

 これがガゼル法院のように目的意識が凝り固まった相手であれば、正論で殴ったって反発されるだけというのが容易に想像がつく。

 

 しかし、有機生命体としての長年の生活《ランダマイズ》により、カイン自身そのプログラムから解き放たれつつある今。彼に対してこの説得はそれなりに『刺さる』内容なのだった。

 

 

 

 ……刺さるよね? 刺さるはず。黙ってんじゃねえぞおいこら。このクソ親父め、何とか言え。言ってください。頼むよホント。

 

 

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