塵閣下になりました   作:あーぷ

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特攻野郎塵チーム

 

 

 搦め手考えるのが面倒になったので、正面から聞いてみたら普通に教えてくれました。

 

 おう、妙に素直だな? これがデレ期というやつか。男にデレられても嬉しくねえな。

 

 流石に一から十までご丁寧にとはいかなかったが、推測が立つくらいには聞き出すことができた。

 

 

 

 ざっくりまとめると。ゲーム開始時点ではシグルドからバルトに対する親愛の情というのは並々ならぬものがあったわけだが、それはあくまで彼らが十年以上に渡って苦楽を共にするなかで培われたものであって。最初から彼がまるまる持ち合わせていた想いではなかったのだ、ということ。

 

 

 

 もちろん、現時点では何の思い入れもない、だなんてワケではない。同じ血を引く兄弟として、ちゃんと大事に想ってはいるのは確かだ。

 

 それでも、今のシグルドにはバルトやマルーに対する家族愛よりも、自分を実の子のように(いや実際実子なんだがシグルド的には明かしてないつもりだったらしいので……)可愛がってくれた父エドバルト四世への敬愛の方が大きいようなのだ。

 

 そして、彼が善き王として築いてきたすべてを台無しにしてしまったシャーカーンに対して、公憤私憤がマゼコゼになった強い憤りを覚えている。

 

 

 

 まぁ確かに、聞かされてみれば腑に落ちる話ではあった。

 

 シグルドがソラリスに拉致られたのが13歳の頃。当時のバルトは良いとこ2歳、言葉も怪しい年齢だ。身内として親父殿が優先されるのはむしろ自然とも思える。

 

 そして、母子家庭で父を知らずにいた人間に、公私ともに尊敬できる父親が突然生えてきたとなったらそりゃ拘りもするだろう。最初は多少戸惑うかもしれんが、一年二年と接してきて非の打ち所もないとくればもうメロメロよ。

 

 

 

 史実では、ムチ打ちの拷問を食らって死にかけていたバルトを目の当たりにし、ブチ切れてシャーカーンの首を討ろうと単身特攻しようとしたところをメイソン卿に止められるという一幕があったらしいが。

 

 よりにもよってバルトの身の安全が頭から飛んでいる(原作のマルー救出作戦の最中にバルトがハゲ頭目指して突撃してたら120%ゲームオーバーだったろう)あたり、もともとシャーカーンというかクーデター勢力にはすこぶる怒り心頭だったわけだ。

 

 「若のため」というのが最優先される原作時とは異なり、当時ってか今はまだシグルドにとって弟もお家の名誉も同じくらいに大事。そこにバルトロメイ殿下という旗頭候補をボロクソにされたという事実が出てきたことで、天秤を傾けて後者に全ツッパする大義名分ができてしまったと考えると納得がいく。

 

 

 

 前もって聞いといて良かった。今のシグルドには、「バルト&マルーのためにならないぞ」という伝家の宝刀が使えない。もちろん相当レアなケースではあろうが、状況次第では非情にも身内を切り捨ててお家優先する可能性すらあり得る。

 

 俺という異分子の使い方次第では、現時点でクーデター潰しが可能とも取れるせいでよりアブナイ。

 

 そこのところ、原作からくる先入観が大きすぎて意識が行っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 とりあえず、今作戦では要人二名の救出を最優先する方針を強く強く打ち出しておいた。

 

 メイソン卿も交えて、念を入れすぎるくらいに了承もさせた。

 

 だいたい、今シャーカーンを足のないタコにしたところで、ソラリスが別の首をすげ替えに来るのは見えている。そんな戦略的状況下で、十歳にもなってない子どもをトップに据えてもジリ貧にしかならないだろう。

 

 リーダーシップは取れない、摂政のアテもない、軍の統制すら保てるか怪しい。軍部とツーカーでない王権なんて砂上の楼閣もいいところだ。そんなお寒い台所事情をめがけて、エテメンアンキ《お空の上》と『教会』各所《地上のあちこち》から、過剰戦力が寄ってたかって押し寄せてくる。

 

 もはや暗殺一発の必要すらないだろう。適当に押しまくられるだけで、こっちが有形無形のストレスを受けて潰れてしまう。

 

 

 

 無論、シグルドだってそんなことは分かっている。戦力差は明らか、盤面をひっくり返す鬼札もなし。それでも親父殿に対する義理人情が頭の隅にちらついて、血気に逸った選択肢が魅力的に見えてしまっている。

 

 これはもう勝ち負けの問題ではない。復讐するは我にありだ。

 

 気持ちは分かる。

 

 分かるが、今はまだそれが破滅的な先行きでしかない以上。正しき旗頭たるバルトロメイ・ファティマの成長を待ちつつ、水面下に潜って力を蓄えるほか道はないのだ。

 

 

 

 

 

 

 ……まぁ、強いて言えば。シグルド・ハーコート自らが決起するという一手が、選択肢としては無くもないんだが。

 

 規定年齢を下回っての入団が特例で許された、出自に謎のある近衛兵。既にその『異質さ』は知られている。そんな人間が己が碧玉によってファティマの至宝《ギア・バーラー》を動かしてみせれば、身の証はアッサリ立てられる。

 

 年齢は原作バルトとほぼ同じ、能力も十分あるだろう。母方が少数民族出でバックが弱いことについても、ファティマ王家の旗に余計なヒモを付けずに済むと思えば悪くない。現リーダーのメイソン卿だっておそらく後押ししてくれるはずだ。

 

 

 

 彗星のごとく現れた前王の遺児が、建国の巨人のチカラをもって奸臣を追い落とし、乱れた国土を平定する。

 

 長年反目し合っていた大敵《キスレブ》と電撃的な和平を結び、イグニス大陸の総力を結集した上で、諸悪の根源《ソラリス》との対決に臨む。

 

 まさしく民心を惹きつける貴種漂流譚。諸々の不都合を押しのけて、胸躍るストーリーとして人々には受け入れられることだろう。

 

 

 

 けれど本人がそれを望んではいまいし、それに原作の流れをあまりにも変えすぎてしまうことで、俺側から打ち出すアクションが今後後手に回ってしまうのが難点だった。

 

 何より、ここイグニスにおけるソラリスの管理を、現時点で決定的に壊してしまうのは確実にマズい。それをやると高確率で処刑人《ミァン》が出張ってくるからだ。補体とはいえ“母”の潜在パワーは絶大で、現有戦力だと尻に帆かけて逃げるしかないんだが、突発事故だとそれすら危うい。

 

 俺が捨て駒になって半壊で済ますか、周りを犠牲にして俺一人逃げ延びるかになるだろう。どっちにしたって後味が悪いにも程がある。

 

 

 

 人の及ばざるに乗じ、慮らざるの道に由る。常に先手を打ちつつも、相手側にその事実を悟られないよう動かなくてはいけない。それでようやく土俵に立てて、まともな勝負を競うことができる。

 

 さもなきゃジョーカーをポンと切られてハイおしまいが現状なのだった。

 

 うーん、クソゲーかな?

 

 

 

 それでも、まぁ、やるだけやってやりますが。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 ブレイダブリクの双子山が闇夜の果てに浮かんでいる。といっても、今の位置取りではほとんど王城側の大山のほうしか見えない。倍率一倍のモニター越し、計測距離はおおよそ12.5ケルテ。現行機でブースターを吹かせば目的地までほんの1ツァイトル余りで到達できる範囲にある。

 

 ……ようは片道12km弱を一分半足らずで突っ切れるってことだ。いい加減この世界の単位にも慣れてきたが、慣れが中途半端なせいで目見当は付くのに計量単位の翻訳にワンテンポ取られるのが面倒なところか。

 

 スールにシャールにカーンにツァイトル。雰囲気付けとしては優れてるんだろうが、実際使う側に回ってみるとうーんって感じだな。なんというか、アレだ、ヤード・ポンド法みたいだ。単位を置き換えるだけでは済まずにその都度微調整が要るあたり、不快の方向性としてはだいたい似たようなもんがあるだろう。

 

 ゾハルをどこぞの龍玉扱い出来るなら今すぐ度量衡を多次元宇宙レベルで統一したいくらいだが、流石に無理かねえ。その願いは私のチカラを越えているってか。

 

 

 

 ……なぁ、シグ。照明弾の発射タイミングはこっち任せになってるが、渡せるなら今のうちにそっちに渡しておこうか? どうも砂嵐がらみのノイズが多い。試射数発どまりの俺より、砂漠環境下の経験が太いお前さんのほうがマシに狙えると思うが。

 

「……いくらなんでもこれ以上は俺の管理能力を越えてる。環境が悪すぎて内蔵チェーンガンと外付け四門がギリギリだ。予定通りそっちでやってくれ」

 

 左様か。

 

「舞う砂はレーダーを乱すが、実体弾への影響自体は言うほど大きくないはずだ。ディレイを効かせてなるべく早めに、最適な位置めがけて撃ち上げればそれで行ける。やること自体は普段とほとんど変わらないんだ、敵機がまともに照らせないなんてことになったら承知しねェぞ」

 

 善処はする。が、俺のほうも飛行制御と近接戦でそこまで余裕はないからなあ。有効範囲を捉えた時点で適当にぶっ放すことになる可能性は高い。最悪、エアッドの要領でエーテル探知掛けて、メクラ精密撃ちするハメになるかもしれんから覚悟しといてくれよ。

 

 もし神経焼ききれそうになったら言うだけ言え。こっちのキャパが余ってる状況なら片手間で回復はしてやる。

 

「頼もしい話だな?」

 

 おうとも。まぁいずれにせよ急造だ。目的地まで着ければ御の字、お互い相手が頼れないのは前提で、それでも頼って押し付けあうしかなかろうな。

 

 

 

 エトーン・ギアもどき改のコックピット内は、ソラリスの軍用ギアに比べると天と地の差がある。もちろんこっち側が地の方だ。ニサンからアジトに搬入されていた物資からあれこれ見繕ってなんとか体裁は整えたものの、間に合わせではいかんせん限度というものがある。

 

 そしてその限界値は正直かなり低かった。

 

 コントローラの反応は硬いし、モニターパネルの質も悪い。多人数を詰め込めるようにスペースは広く取ってあるが、おかげで人間の身体を機械に合わせるハメになっていて座り心地も最低だ。今回きりで使い納めとなると微調整を頑張る気にもなれなかった。

 

 そのあたりの事情は後部に設けたサブシートも同様のようで、ていうかむしろそっちのほうが酷そうな感じで、火器管制パネルとコンソールに囲まれたシグルドの体勢は神経痛患者のように歪んで見えている気がしなくもない。

 

 

 

 実はギア本体よりも、システム周りの不備のほうがより深刻だったりする。

 

 現状、エーテル火器管制のサブシステムを乗っけてないので照準から発砲、再装填に至るまでオール人力で回さないといけない。急襲作戦中にそこまで目配りするのはさしもの塵閣下スーパースキルでも不可能だったため、システム代わりにシグルドを充てて無理やりブン回す仕組みになっている。

 

 そして俺に細かな連携を取る気はない。最優先すべきは目指す王城東棟への到達で、そのための操縦に細心の注意を払うつもりだからだ。一発二発の被弾は覚悟の上、目の前に立ち塞がる相手のみを斬り伏せる。周りの雑兵の位置取りなんかにかかずらっている余裕はないだろう。

 

 なので、シグルドは勝手に動いていく状況に対応して火力の管理をしなくてはいけない。

 

 後部座席から。他人の運転に合わせて。ガラクタに毛が生えたくらいの粗雑なインターフェースでだ。

 

 ようは視点が完全にオート移動なのに固定方向にしか射撃できない上、プレイ画面の質が悪くて敵影が見えたり消えたりする、操作性最悪なシューティングゲームといった風情である。

 

 

 

 ぶっちゃけると相当なクソ仕事かと思う。しかしシグルド君なら大丈夫だと俺は信じている。

 

 得意分野だし出来るでしょ。がんばれ!

 

 

 

 ……無茶振りに答えてくれる味方がいるのは大変ありがたいんだが、だからってあんまり酷使すると後々ロクなことにならないのは見えている。

 

 疲労は貯まるし不満も募る。組織構造が偏ったまま固定化してしまうのもたいへんマズい。今回のギアの改修にしても、ほとんど俺とシグルドでの夜なべの突貫作業だったわけで。

 

 しかし、今は人も居ないし時間も足らなかった。後の不都合には目をつぶって、有り合わせで何とか急場を凌いでいくしか道はないのだった。

 

 

 

 こういうのを泥縄って言うんだろうなあ。もしくは泥沼、あるいは底なし沼と言うべきなのかもしれないが。

 

 

 

 

 

 

 ……そういや、ほぼほぼ六年ぶりの再会になるわけだよな。お互いずいぶん様変わりしてるだろうし、向こうは憶えがあるかも怪しいと思うが。出会い頭の方針ってやつは決まってるのか?

 

「なにより殿下とマルー様の安全が第一だろう。臣下として欠かすべからざる礼は尽くすが、ご説明については最低限だな。とにかく急ぎお乗りいただいて……」

 

 いや、そういうのじゃなくて。第一声の話な? 無事か我が弟よ。お兄ちゃんが助けに来たぞ、とかそんな感じでどうよ。

 

「バカじゃねェのか。というかお前、何百ぺんでも言うが余計なことヌかすなよ口滑らせたらマジで殺すぞ」

 

 おーこわ。

 

「だいたい……年上腹違いの継承権下位者なんて、厄介事にしかならないもんだ。俺自身王位に拘りはないし、誰もそんなものを求めちゃいない。良くしてくださった前王陛下の恩義に応え、バルトロメイ殿下のお力添えをする。それだけでいい。それ以上は要らん」

 

 見返りは求めないってか。なるほど高潔なことでたいへん結構だが、ちょっと浸ってるところはありゃせんかね?

 

 確かに船頭多くしてナントヤラはありがちなパターンではある。しかし今の俺らには内ゲバやれるだけの基礎体力すらないだろう。現状ではまだまだ、手札の数を多く見せられるメリットの方がでかいと思うぞ。

 

 それに、お子様には保護者ってやつが必要だ。表に出ないのはまだ良いとしても、せめて……

 

「くどい」

 

 ……わかった、わかった。まぁそろそろ時間だ。一発やらかすか。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 正面パネル脇のタイマーがカウントを始めた。作戦決行のタイミングは深夜二時きっかり。スリープモードにあるジェネレータを二十秒前に叩き起こし、五秒前にブースターに点火、そしてそのまま行動開始へと至る予定だ。

 

 コントロールスティックに両手を這わせ、その時を待つ。カウントは進む。

 

 緊張はしている。しかしそれはプランを的確にこなすための必要最低限のものだった。指の強張りや足の震えや呼吸の乱れはなく、ただひとつの機械部品のように冷静に、それでいて血の通った人間らしい柔軟さをも保っている。

 

 見るべきすべてに気を配りながら、目指すところを見失わず。流れを捉えて乗りこなし、目標に向かって邁進する。

 

 言うは易しだ。人間なかなか出来るもんではない。

 

 だが、カーラン・ラムサスであれば、それができる。できてしまう。そのはずだった。

 

 

 

 

 

 

 コクピット内に派手な振動が響き、衝撃とともに猛烈なGが掛かった。景色が飛んでいく。シグルドの管制する備え付けの砲門が軋みを上げて細やかに蠢くのが分かる。

 

 連装式の照明弾の打ち上がりとともに、飛行姿勢のギアに片手持ちのブレードを構えさせ、俺は前方180度に向かって意識を発散させた。

 

 

 

 そうして、アヴェ軍の緊急アラートの鳴り響くさなか。不格好なシルエットが夜闇を割って駆け抜けていった。

 

 

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