ライス自体はまあ、アプリかアニメか原作かはごちゃごちゃかもすまん
ある日の事だった。突然、横から風が吹いたのだ。それは純粋で優しくまるで春風みたいで……同時にとてつもなく熱くて、黒い風だった。
「……はやっ」
俺の隣を駆け抜けたのは、トレセン学園のジャージを身に纏った小柄なウマ娘。彼女はそのまま綺麗なフォームを維持して走り去るかと思いきや目の前の信号に足止めをくらいに急ブレーキ。俺もそのまま横断歩道の前で足を止める。ーーその瞬間だった。
ぴちゃん。と俺の頭に冷たい何かが舞い降りた。
「……?なんだ今日は一日中晴れ予報だったのに」
俺はそう呟き、不思議な顔をしながら頭を掻くと何やら不気味な感触が……
「えっ……嘘だろおい、まさか……」
そう、その正体は雨では無い。なんとも白くて粘り気があって、それはそれは悪運の象徴であるアレだ。
「さ、最悪だ……そんな世界の全座標の中で何で鳥は俺の頭の上で用を足しやがったんだ……」
自らの汚れた手を長めながら、眉間にシワを寄せる。ため息を吐きながら、もうすぐ信号が変わるであろう横断歩道を渡ろうと前を向いたその時だった。
「ご、ごめんなさいっっ!!!」
「うおっ!?」
なんと急に謎の謝罪と共に目の前に立ち塞がったのは、先程のウマ娘だった。俺は訳が分からず一瞬混乱しつつも口を開く
「ど、どうしたんだよ急にまさかこの不幸が君の仕業じゃ無いだろうに」
「ち、違うの……!全部ライスのせいなの……皆んなを不幸にしちゃうライスの……」
「は、はぁ……とりあえず落ち着いてさ……」
なんと冗談で言っただけなのに、なんと地雷でも踏んだのかウマ娘の彼女は泣きそうになりながらそう訴えてきたではないか。まさか自分のせいで俺がこんな目にあったと思ってるのだろうか
「うぅ……本当にごめんなさい私が居なくなれば解決ですのでっ!それでは!」
彼女はそういうと、くるりと俺から背を向けすぐさま変わった信号とともにスタートを切ってしまう。
「は!?ちょっと!いっちまった……それにトレセン学園の方向、あの子も学園に戻る最中か」
……ネガティブだ、そう思った。そして、なんかほっとけないとも思った。と言うのも、この俺はトレーナーであるからだ。それもウマ娘の。もっとも、新人ではあるが……
「あっ……あの子、一個次の信号に捕まってんじゃん。てことは俺もか……」
ホントに運でも悪いのか……?と最初こそ疑ったのだがどうやらホントらしい。まあそれ自体は問題は無い。問題なのはそれを全て自分の所為だと思ってしまう彼女の性格であろう。
俺は何回か信号に引っかかった後、今にも俺に怒鳴り散らかされるとでも思っていそうなくらいオドオドとしている自称不幸ウマ娘に
「なぁ……君、走るの相当好きでしょ」
と、声をかける。
「ひゃ、ひゃいッ!ごめなさ……えっ?」
「いやいや!だから怒ってないって!ほら、靴だよ、ボロボロだ。努力家の靴だなって思って」
「……あ、ありがとう……ございます……」
嬉しそうではあるが、ちょっと不審感を持っているような目で彼女はそう言った。
「……何でそんなとこいきなり褒めてくるんだって思ったろ」
「ひ、ひぃ!?」
ドンピシャだったのか、ビックリしながらたじろいて見せた不幸ウマ娘。どんだけ臆病なんだこの子……
「ごめんな驚かせて、こう見えて俺トレーナーなんだ。新人だけどな。君と同じトレセンの」
「え……と、トレーナーさん……」
「そうそう。だからまだ教え子も居なくてさ、だから次の選抜レースで初めてスカウトしに行くんだよね」
「うっ……せ、選抜レース……」
「君は?さっき見かけた時綺麗なフォームだなって思ってたんだけど、やっぱもうデビューとかしてんの?」
「い、いや……私はまだ……じ、実はその選抜レースの為に今一人で練習してて……」
「え!ホントか!じゃあ引く手数多だな!こんな速くて走るの好きな子皆欲しいんじゃないか?」
そう言った瞬間だった。彼女は俯いてしまう。
「あ、いや……私実は今あんまり走るのは好きじゃなくて……レースも出ようか悩んでて……」
返ってきた答えは意外なものだった。と言うか、じゃあなんで?と俺は一つの疑問が浮かんだ。
「え?じゃあ何で靴がそんなボロボロになるまで頑張ってんの?」
彼女はハッと俺の目を一瞬みてから、目を大きく逸らした。
「気が紛れるの……辛い練習をやってるとダメダメな自分から逃げられる気がして」
「……」
逃げられる。そんな言葉に俺は少し昔の自分を思い出す。
「でもダメダメなライスにとってはこれくらいしか……分かってはいるの、こんな現実逃避してたって現状は何も変わらないって……」
今はデビュー前で一人で練習してるのに加えて、普段自分自身で悩みとか抱え込んでしまっているのだろうか。一旦少し吐き出してしまうとなかなか彼女の口は止まらない。
「あー、分かるよ。まああるよねそうやって逃げたくなっちゃうこと。でも……君はそんな現実に嫌気がさしてダメな自分から逃げてやろうと奮起した。少なくともこれは事実だ」
「……」
つまるところ、辛い練習に夢中になることで弱虫でネガティブ思考に陥る暇を無くしてると言ったところか。今の彼女の必死のメンタルコントロールなのだろう。
「それに"何も変わらない"なんて事はないよ」
「え?」
「君、速いでしょ。速いなら話は別だ」
「速いなら……別……」
「良い意味でも悪い意味でも速さにはもの凄い力がある。しかもそれはそれは強大で、人一人の運命なんて容易く変えてしまえるほどだ」
彼女は汗を垂らしながら固唾を飲んだ。俺は続ける。
「……確かに逃げるだけじゃあダメかもな、でも逃げ切れば君の勝ちだ。レースと一緒さ。君は速いが、まだそれにはちょっと遅いだけだよ」
「な、なんでそう言い切れるの……?」
「お互い様だよ、君こそ何も変わらないと言い切っていただろ?」
「それは……」
「まあ、強いて言うなら俺がそうだったからだよ。俺は逃げ切ったんだ、弱虫な自分から。まあ、言っちゃえば自分より遅い奴は誰も俺に触れることすら出来ないわけだ」
「っ……!!」
「まぁ、もっともウマ娘の君とは速さの土俵は違うけど」
気付けばあんなに信号に引っかかったのに、もう学園の目の前だと言うところまで来てなお、話し続けていた。別に俺は昔のちょっとした自慢話をしたいわけでも、ましてや彼女に説教をする気なんてさらさら無い。でもなんか今、俺との会話で彼女にもし"熱"が芽生えたならば、なんと言うか今後なんと言うか……もっとこう、彼女が楽しく走れる様な気がしたのだ。
「こ、こんなライスでも速くなれるかな……?」
すると彼女は上目で下から俺の目を見た。声も震えて不安そうではあるが、しっかりと目を見てそう言った。
「それは俺は分からない、君自身が決めることだ」
だからこそ俺はそう言った。熱は無理矢理帯びさせるものではないからだ。
「ライスが……決める……」
彼女はそう呟きながら今度はしっかりと顔を上げる。
「そうさ、自分で決めちまえば良いんだ。他人にも、世界にも、運命にも……!決めさせちゃダメだ」
「……!」
多分この子にも夢と言うか、彼女がトレセンに来た理由と言うか、所謂目標があるのだろう。そんな初心を思い出したかのように彼女はハッとした様な様子で自らの手を胸に当てた。
「……君がどんな理由でトレセンに来て何を志してるのかは知らない。でもきっとあるんだろ?なりたいもんがさ」
「うん、うん……!で、出る……ライス出るよ……今度の選抜レースに出る……!!!」
「……!そうか!じゃあ楽しみにしてる」
気付けば学園の正門前、俺は手を振って彼女を見送る。その時少し振り返ってあのオドオドウマ娘が軽く手を振り返してくれた。ちょっと嬉しかった。しかし、ここで驚くべきなのはもう夜も遅いのにトラックに向かった事だろう。まさか、これから走るのだろうか……ますますレースが楽しみになってきた。
(有力ウマくらいチェックしとかないとだよな、あの子そう言えば何番登録なんだろ……ん?)
「あれ……?そう言えばあの子名前なんてんだ???」