ライスシャワーと、そのトレーナーであるアキラはレース後にトレセン学園へと戻る最中だ。熱狂は束の間、普通にクールダウンしたライスシャワーはいつもの様に赤に光る信号機のを横目にアキラにペコペコと頭を下げていたのだった。
「ま、また赤……ごめんなさい……」
そんなライスをみて、アキラはやれやれとため息をつく。
「でも今日はいつもより青で渡れた横断歩道が多かったんじゃないか?」
と、言った。
「……そ、そうかな」
ライスシャワーはアキラを見た後、身を逸らしなんとも言えない表情で人差し指を合わせる。
「ライスは悪かったことを反省するのはちょー得意なんだけどな〜、良いことも数えてしっかり飲み込んでかないと!」
「う、うん……!」
アキラは相変わらずネガティヴなライスシャワーを元気付けようとしたのかそう言った。
「まったく……さっきまでのギラついた目はどうしたんだ〜?」
少し間を開けた後、アキラは頭を掻きながらライスを少しおちょくるように問う。彼も段々とライスシャワーのメンタルコントロールに慣れてきたのだろう。
「は、恥ずかしいからあまりその話はっ……!」
レースで熱に溺れたような表情をしていたライスシャワー。今までの彼女からしたら明らかに"キャラ"じゃないからかとても恥ずかしそうにしてその小さい身体でアキラの口を塞ごうと手を伸ばす。
「ライスもあんな顔するんだな」
そう言ってそんなライスの小さい手からくるりと背を向け、アキラは簡単に逃げ切ってしまう。
「へ、変だったかな……?」
すると、ライスシャワーは戯れるのをやめ少しシュンと肩を落としてしまった。アキラはもちろん、ナーバスなライスにはそんなこと無いよと言ってあげーー
「……?変だったぞ?」
ーーることは無かった。
「うっ……」
ライスはますます凹む様子を見せる。
「でもライス……"変"はね、武器だ。どんなに変でも絶対にあの熱狂を忘れない方がいい」
そんな様子を見てアキラは少し優しい顔でそう言う。そんなアキラにライスシャワーは「え?」と首を傾げた。
「ライスは恐怖を感じることが悪だと決めつけてた様に、変であることも悪だと思ってるんだろ?」
「……」
ライスはギクリと肩に力を入れた。アキラは続ける
「変であることはそもそも善悪の物差しでは測れない。結局ただその人の意見や思考、啓蒙や価値観がマジョリティかマイノリティかの話の域を出ない」
「マジョリティか……マイノリティ……」
「そう。そして言うまでもなく変であるライスはマイノリティだ。そして正直に言うと常に、君はマイノリティな方が良い」
「な、なんで……?」
「競技において誰もが栄光を望む。それは今日ライスがレースで身をもって知ったように、理屈以前に本能に近い。そんな中勝者はたった一人だ」
「あっ……つ、つまり」
「そうさ。勝者は究極のマイノリティなんだ」
「……!」
「言われてみれば確かにって感じだろ?レースで強いやつってな、大体変なんだよ安心しろ!」
アキラも、言わずもがなどちらかと言えば"変"な奴である事は間違いない。詭弁と言われればそれまでだし、アキラ自身も自分が全て正しいなんて思っては居ない。
でもライスシャワーは意外にもこのアキラの価値観や才能論がいつも自分に勇気をくれるから好きだった。気持ちの悪い全肯定でも、悲観なリアリストでも無いこのアキラ節がなんとも気に入っていた。だからライスは少し嬉しそうに「うん」と頷く。
「……それと、マイノリティでいて欲しい理由はもう一つ」
アキラは道端の方を指差しながらそう言った。
ライスもアキラの指を追って、道端に目をやる。するとそこには、小さな花が一輪コンクリートの隙間から顔を出していた。
「あっ……」
「珍しいなあんなとこに咲くなんて……ライスが目指してるのも、絵本の中のちょーマイノリティな色したあいつだろ?」
「幸せの青い薔薇……」
「ライスのトレーナーになってからいろんなことライスに言ってきたけど、全部その通りにしろって訳じゃ無いからな。俺だけじゃなく、色んな人の話を聞いて欲しい。その中で自分がどうするか自分で決めるんだーー」
「他人にも、世界にも、運命にも決めさせるな」
ライスはアキラを遮りそう言った。
「ライス……」
「トレーナーさんの口癖だよ」
ライスシャワーは笑っていた。アキラは少し恥ずかしそうに頬を掻く。夕陽はそんな二人の姿を照らしていた。
「まぁ話は逸れたが、少なくとも俺がライスのトレーナーになりたいと思ったのは他人より"変"な長所がいっぱいあったからだ。……コイツならきっと。って思ったんだ」
「……」
「……まだしっかり言えてなかったな。ライス、今日はおめでとう」
アキラは笑っていた。
今日ライスシャワーはたくさんの人を沸かした。勝負の残酷さと姿勢を学んだ。力を出し切っていた。そんなライスのところに咲いたトレーナーの笑顔。ライスは口をポカンと開けながらアキラを見ていた。そしてあろうことか、自分変だからトレーナーになったと言うアキラと絵本の中のあの人がふと重なる。
「お兄さま……」
ライスシャワーはポツリとそう呟いた。
「えっ?お兄さま?」
いや、呟いてしまった。
当たり前だが、アキラはよく分からずそう繰り返すように聞き返す。
すると、ライスシャワーの顔はボンっと一瞬の内に赤く茹で上がり
「えっ!?あっ……ラ、ライス何言って……!?」
そんな自身が見たこともないライスを目の前にアキラもどうしたんだと困惑気味である。
「あっ……でもあるよな?偶にな?」
「ち、違……違うの……!」
「例えば先生をお母さんって呼んじゃうみたいなやつだろ?俺も小学校の時に一回だけ……」
「ぴゅ〜〜〜〜〜〜〜〜!?」
アキラは目がぐるぐるとしているライスシャワーを落ち着かせようとしたが、話を聞かずライスシャワーは一目散にすごい速度でアキラから逃げて行ってしまう。
「はっ!?ライスお前赤信号……!って……あっ!?全部青に……!?」
何とアキラから見える信号は青に変わっている。一体ライスはどうしてしまったのだろうかと開いた口が塞がらないと言った表情でアキラは遠ざかるライスを見つめていた。
「アイツ……レース直後だぞ?世界一の末脚か……?って、あ!ライスっ!寝る前にストレッチ絶対やれよー!って聞こえてないか……」
もう、ライスの姿は見えない。まあ、後でメールしとけば良いかとアキラも歩き始める。
「今日は頑張ってたし飯でも奢ってやろうと思ったのにな、まあまた練習の後とかで良いか……レース後だから明日はオフだし、ライスも居ないしどっかで飲んでこ」
レースで心に熱と勝利への執念のタネを植えたライスシャワー。読者の皆様はこれからどうなるか暖かく、というより一緒に滾りながら見てくれたら嬉しいです。一緒に熱狂を体験できたら最高です!