グラスワンダー【アメリカンシスター編】 作:メンダコとスミス
「……ん。ん」
「おはようございます、トレーナーさん」
目を開けると、すーっとこちらを見つめてくる端正な顔。その先に見えるのは天井だろうか。そして、後頭部には柔らかい感触。
……ふぅ。
「おれ、トレーナーやってて……よかった」
「あらあら、お寝坊さんが何か言ってますね。お体は大丈夫ですか?」
「ん、こんなのこの前ゴルシに食らったドロップキックに比べれば気持ちいいくらいだぜ」
記憶が飛ぶのにもそろそろ慣れてきたな。ここどこ?
「お目覚めのようですね、トレーナー様」
「……誰?」
「向こうの学園の方です」
グラスの言葉で、ようやく自分の状況を理解することができた。
「……ふむ」
目の前には、見慣れないウマ娘が2人。1人は金髪…と言うよりはプラチナゴールドな髪色の子。腰まではある長くおろした髪を先端でシュッと結っている。
もう1人は赤毛でミディアム、そばかすに眼鏡という感じで少しばかり控えめそうな雰囲気で、前者のひとつ後ろのシートに座っている。
特に先頭の子は鉄仮面、というか表現筋がお亡くなりなっているんじゃないかってくらい丁重な言葉とは裏腹に無表情だ。
いや待てよ、、これは……!!
「では、お揃いのようなので、軽く当学園のご説明をさせていただきまーー!?
ムニムニッ。
「きゃああああああ!!」
「きみ、いい足してるね。ここの筋肉なんてとってもいいバランスだ、けどここは少し多すぎるな。もしかして、最近スタミナ強化のトレーニングを中心にメニューを組んでないか?」
「えっ、…えと、は、はい」
赤毛の子は、急なことと、トレーナーの初見とは思えないあまりにも的確な指摘に目を丸くしながら、おずおずと答える。
「おそらく、メニューの中に偏りがあるんだろう。ここの筋肉にはまだ余白があるからこの部分のウェイトを増やすとよりバランスが良くなるぞ?瞬発力に関しては文句のない脚質だ、これからが楽しみだな」
「え、あっ、ありがとう…ございます」
ムニムニムニムニ
「うーむ、あと体幹と、ここももっと伸びるな」
「あ、あの…」
ムニムニムニムニムニムニムニムニ
「あっ…」
ムニムニムニ…ガシッ!!
「ん?」
「トレー、ナー、さん??」
ギリギリギリギリッ
「ア、ハイ」
あれれ?さっきまで俺の事を心配してくれた女神は?般若さんがおるんですが、あ、、やめてください。反対の手は握りしめないで!!
「大っ変、申し訳ありませんでしたー!!」
謝ろう、謝ってから話し合おう!
「えっ、あ、あの。全然大丈夫…ですので、、」
「あらあら、少しでもお気に触れば仰ってくださいね。学園の前へ行く前に警察署へ寄り道ていただきますので」
ちょっとぉおおお!!一応パートナーだよね、俺たちっ!?
「あー、ゴホンッ!!」
ビクッ!?
「そろそろ話しても……?」
「「「ごめんなさい…」」」
「では、改めて当学園に関するご説明をさせていただきます。まずはコチラを」
そう言われ、それぞれ手渡されたのは、1台のスマホ。
「これは…?」
「これは当学園内における、一種の身分証明書になります。基本的にこのスマホに搭載されているアプリを使えば、学園内の衣食住は不自由なく過ごせます。また、トレーニング施設の利用も同様です」
「へぇ〜、便利なもんだな」
おお、確かに色んな機能がある。トレーナー用は、担当ウマ娘に関するデータの管理もできるのか……いや、プライバシー的に大丈夫なのか?
……チラッ
「……?、どうかしましたか、トレーナーさん?」
……やめておこう。真実とは時に諸刃の剣なのだ。……ん?
「なぁ、このGPってのはなんなんだ?」
よく見ると、見慣れない文字が画面の右上に表示されている。【0】って書いてあるけど。
「あぁ、…それはこの学園独自の機能なのですが、今回VIPであるお二方には縁のないことですので、省略させていただきます」
「えっ、私のにはないのですが……なんででしょう?」
「細かい仕様は、実際に学園内で使っていただければ感覚的に掴めると思いますので、ご不明な点があればその都度メールでお知らせ下さい」
説明の最中、赤毛の子がさっきから何か言いたげな顔をしているが、目を合わせるとスっと顔を下げてしまう。
「それと、先程は彼女にアドバイスをして下さいましたが……彼女には無用なのでお気になさらずに」
は?
「あー、いやいやいやいや。確かに勝手な事を言っちまったのは悪かったが、悪意があった訳じゃーーー
「いえ、伝え方が誤っていたようです。彼女は選手ではなくただの【水汲み】ですのでお気遣いなくという意味です」
え、そんなわけないだろ。一目見りゃわかるぞ。あの子が必死に努力してる事くらい。
「おい、それはいくらなんでもーーー
「あ、あのっ!!」
っ!?
「わ、私の事は……いいですから。本当です。私は…ただの水汲みですので」
「だが…」
「説明は、以上です。以降はこれよりお話になられる理事長にご質問下さい」
それと同時に、車は止まり、ドアが開く。
「ようこそおいで下さいました、グラスワンダー御一行様。世界一の学園、マスタービーツ。どうぞ、ご堪能くださいませ」
車から降り立ってすぐに二人は、初めに感じていた不気味な違和感が確信に変わるのを感じた。
この学園には何かがある。先程の会話と言い、これはどうやら穏やかな遠征とは行かなそうだと帯を締め直す。
「グラス、」
「はい」
「気を引き締めろよ、ここはどうもきな臭い」
「…はい」
警戒心を持ちながら進んでいく二人、しかし、そんな想定をもはるかに超える試練が行く末に待ち受けているのを、まだ二人は知らない。