グラスワンダー【アメリカンシスター編】   作:メンダコとスミス

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get ready

 ……なぁ、みんな。

 

 おれ、今どこにいると思う?

 

 頭上を見上げればそこにあるのは星天の星々。今夜のマンハッタンは晴天なり、地上を見れば夜になれども、街ゆく人々の活気は静まることもなく。それは、この学園外にあるゴミ捨て場まで聞こえてくる。

 

 ゴミ捨て場まで…聞こえてくる。

 

 ゴミ捨て場……。

 

 …………。

 

「って、なんでじゃああああ!!」

 

 前回から急展開すぎるわ。読者以前にまだ俺がついてけてないわ!

 

 ……はぁ、一旦情報の整理だ。思い返してみよう。

 

 

 

 

 

 遡ること2時間前。

 

 車から降り、俺たちは学園内を案内されていた。

 

「正門から真っ直ぐ進んだここが、学園の講堂になります。ここから右の廊下がトレーニング棟、左は図書館棟になります」

 

「えっと、過去の大会データや現代科学に基づいた強化メソッドなどあらゆる情報を閲覧することができます」

 

「まぁ……」

 

 おぉ〜、すげぇ施設。

 

 トレセンは、歴史のある建築様式って感じだが、ここはそれから一変、最先端を具現化したような近代的な景色が広がる。

 

 学園と言うよりは、効率を追い求めた巨大な実験室みたいだ。……ん?

 

「……トレーナーさん?どうかされましたか?」

 

「あ、いや……なんでもない」

 

 目新しい光景に新鮮さを感じて浮かれているだけか、どこか違和感を覚えながらも案内は続く。

 

 

 

 

「以上で宿舎棟を除くすべての施設の説明を致しました。御二方ともお疲れ様でした。最後に我が校の理事長からご挨拶があるとお聞きしておりますのでご案内いたします」

 

 …あぁ、ようやく終わった。トレセンも広い広いと思ってたが、それが狭く感じるほど、ここはデカかった。各施設も倍ほどの数があり、トレーナーとしては垂涎するほど充実している器具たち。

 

 でも広すぎだ、さすがに疲れた…。

 

「大丈夫ですか?トレーナーさん」

 

「…ん、トレーナーさんはまだまだ元気よ」

 

 とはいえ、慣れないことだらけでも、トレーナーの俺がしゃんとしないようじゃグラスも不安を感じちまうからな。

 

 何より、こんだけ見れば違和感の正体にだってさすがに気づく。

 そこんとこも含めてここの理事長には聞いておかないとな。

 

「失礼します。理事長、客人をお連れしました」

 

 声とともに閉ざされていたドアが開き、中へと案内される。部屋の中は白一色。床、照明、机から小道具を含めた全てが徹底して白に統一されていた。さながら手術室を思わせるような人間味のなさ。

 

 まさに、この学園の長が存ずる場所という感じだ。

 しかし、そこに人の姿はなく…。

 

「…だれも、いなくね?」

 

「君の目は抜け穴かな?」

 

「ん?会長さんなんかいったか?」

 

「…はぁ、私ではありません」

 

 あれっ、おかしいな。確かに声がしたと思ったんだが。

 

「どこを見ているんだい、駄犬くん」

 

「誰が駄犬じゃあ!…って、おっ?」

 

 あー、そうゆうタイプかぁ。まっすぐな視線をすこ〜しだけ下げると、小さな女の子が俺のお腹に向かって話しかけていた。

 

「よしよし、君は理事長のお付の子かな?」

 

 この学校の幹部はみんなお付をつける制度でもあるのだろうか?

 

「トレーナーさん、その子…」

 

「ん?、この子がどうした?」

 

 小さくて可愛い子じゃないか。あ、そう言うと語弊が生まれそうだな。ちっちゃくて可愛らしい子じゃないか。ほら、この綺麗でいてきめ細やかな金髪、柔なそうな肌、アメリカ最高だぜ!

 

「……変態(ボソッ)」

 

 長年連れ添った相棒から聞いたことない罵声がきた気もするが気にしない。基本的にはロング派なんだが、時折ショートがとても似合う人を見るとときめく、そんなこと君もあるんじゃないかな?

 

 えっ、キモイ?、うるさいよ?

 

 まったく、うちの理事長も年は近いんだからこーゆー風になれば良いだろうに、ほら、この子のショートをロングにしたらそっくりだろ。素材は良いのに。

 

 あれ、よく見たらなんか似てるような、、……てか、似すぎじゃね?

 

「…まったく初対面から女児の体をジロジロと、これは私からの挨拶だ」

 

「……ん、…ん!?」

 

 あ。

 

「ロリコン変態駄犬がぁあああああ!!」

 

「ギィャアアアアアアア!!!!」

 

 説明しよう、少女の身長は俺の腹筋くらいの高さ、そんな少女がアッパーしたらどこに当たるかだいたい分かるよね。

 

「アッ…アウ、」

 

「自業自得です」

 

 あっ、いつもなら「トレーナーさん!!」って心配もしてくれないんだ。

 

「そんなわけでようこそ諸君、我が学園へ。もうお察しだとは思うが私がこの学園の理事長、秋川つゆだ。」

 

「あ……、秋川?じゃあそれってやっぱり」

 

「ああ、そうだ。君たちの学園の理事長は私の愛しい姉君だよ。ま、親戚だがね」

 

 ああ、やっぱり。

 

「それはそうと、私は時間を無駄にするということが1番嫌いでね。トレーナー君、きみ、私に言いたいことがあるだろ?一つだけ許可するから早く言ってしまえよ」

 

 っ!?

 

「……よくわかったな」

 

「みんなそうだからね、ほら、はやく」

 

「じゃあ言わせてもらうぞ、なんでこの学園にはトレーナーが一人もいないんだ!?」

 

 歩いている間に気づいた、ここには誰一人としてトレーナーが付いていなかった。トレーナーだけじゃない。管理人、食堂、全ての施設においてもそうだ。大人がいない、まるで意図的に排斥されたかのようだ。

 

 それになりより……、

 

「……はぁ、考えうる限り一番退屈な質問だったな」

 

「なにっ!?」

 

 ついぞ一転し、理事長は使わなくなったおもちゃを見るようにすっかり興味失った瞳でこちらを見下ろす。

 

「そんなの至極単純だろう?答えを開示するよ」

 

 ガコッ。

 

「え…」

 

 不意に感じる浮遊感、何とか足元に視線を下ろすとあら不思議、床がないじゃない。

 

「わたしははなから君を読んだ覚えはない。いちばん強いウマ娘を、伝えたのはそれだけだ、君じゃあない。ここで不純にまみれた大人達はいらないんだ。悪かったね、さよなら」

 

「おぉおおおおおおおおおおおおお!!??」

 

 浮遊能力などなく、重力に従ってトレーナーは深い闇へ消えていった。

 

「っ!?トレーナーさんっ!! 貴方、なんて事をするんですか!?」

 

「おっと、いかなる時も冷静沈着が大和撫子なんだろ?落ち着きたまえ、死んじゃあいないよ」

 

「そういう問題ではっ」

 

「けど、このマンハッタンの夜空英語もまともに話せない、お金もない彼が無事に過ごせるかは知ったことではないがね」

 

「っ!!」

 

 言葉と同時に体が動く。こんなところに用はない、自分の身勝手なわがままでこんなことになってしまった。今は一刻も早くトレーナーさんを…

 

「まぁ、落ち着きたまえよ。ここからはどうせ出れない」

 

「え……」

 

「当然だろう?君の選択肢は私からの申し出を受ける。この一択のみだ」

 

「だれがっ」

 

「言っただろう?私は時間の無駄が嫌いだって。対価は君の望むものを約束しよう。それとも、存外薄情だったりするのかな?」

 

「……くっ、」

 

「安心したまえ、約束は守るよ。ただし、君には地獄を見てもらう。せっかくの客人だ、十全にもてなさせておくれよ。ようこそ、我が学園へ」

 

 渦巻く狂笑へと物語は歪み、巻き込まれていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、

 

 まったく床に落とし穴っていつの時代だってんだ。あの女狐めいつか絶対泣かす。

 

 それはそうと……

 

「ぶわぁっくしょんっっ!!」

 

 寒っ!!!!、え、アメリカってこんなに寒いの!?常夏の海外でエチエチなお姉さんたちが日光浴、どころか雪が降り始める始末。

 

 ヤバいッ、このままだとやり返す以前に明日を迎えられない。

 

「えー、このダンボールを組み合わせて雨風を防げるか?」

 

 ちくしょう、まさかわざわざアメリカにまできてホームレスを余儀なくされるとは

 

 っと、あれ、い、意識が。だんだん眠く…

 

 最後はかわいい女の子の太ももで迎えたかっ…。

 

 先ほどの夜空から一転マンハッタンの風は冷たく肌をなぞる。道行く者たちも特に珍しくもない異国のホームレスになど目もくれず、淡々と横を通り過ぎていく。

 

 幾ばくか、時間の流れも体温の低下とともに鈍くなり、トレーナーの意識は徐々に混濁していく。

 

「う……う、、」

 

 

 

 

 

「……トレーナー、さん!?」

 

「……えっ」

 

 嘘かまぼろしか。どこか既視感のある…。

 

「…大丈夫ですか!?」

 

 あたたかく。

 

「お…まえ、は…」

 

「すぐに――――――

 

 グ…ラス…。

 

 一瞬の緩みが、寒空のもと一心にとどめられていた意識の手綱を手放させた。

 

 それは安心からくるものか、それとも…。

 

 

 

 

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