現在、僕はマリンフォードで海兵の訓練の教官をしている。なぜそんな事をしているのかと言うと、先の任務が終わって少しの間暇が出来た僕は久々に訓練棟に足を運んでみた。簡単に言うと、ただの暇つぶしだ。
来てしばらくは体育館の中で格闘訓練をする制服姿の海兵とゼファー先生を眺めていたが、途中でゼファー先生に見つかり、お前も付き合えと言われた。
「はあ!」
元気の良い掛け声と共に、青い髪の若い女性海兵がジャブを放ってくる。僕が横にずれて避けると、続け様にまたパンチ。僕はそれを一度も触れずに全て交わし切る。
「ふっ!はっ!」
段々と相手も僕も慣れて来てフェイントや蹴り、他にも色々と技を仕掛けて来る。少し息が上がって来たかと思うと、僕は彼女の腹に少し弱めに拳を突く。
「が!はっ!!」
彼女はその一撃で床に崩れ落ちた。弱くやったつもりだったが、彼女には強すぎたようだ。両手を口に当てて、必死に何かを堪えている。
「今のでダウンは弱すぎだよ、吐きたいなら吐けば良いけど実戦だったらその間に殺されてる。まぁ、吐いたら掃除するのは君だからねアイン。」
正直に言って、僕からの感想は弱いの一言。これで軍曹で実戦経験もあるって言うんだから驚きだ、僕が指揮した追撃部隊にいた軍曹の方が良くやる。これじゃせっかくの悪魔の実の能力も宝の持ち腐れ、グランドラインじゃ通用しない。
「ゲホ!ゲホ、申し訳ありません。ピトー少尉。」
辛そうに咳をするアイン、綺麗な顔が苦痛に歪んでいる。ゼファー先生からはよく絞ってやれと言われているから、もう少し痛め付けても問題ないだろう。
「ほら、立って。これくらいすぐ慣れて。」
僕はそう言いながらアインに手を貸し引っ張り上げ立たせる、向こうの方を見ると背が高く腕が異様に長いピンク髪の男がゼファー先生のアッパーをくらって倒れていた。
それからは僕のパンチや蹴りを喰らったアインが倒れては立たせて倒れては立たせてを、時間が来るまで繰り返していた。
最後の方、アインが泣きそうになっていたのは言わないでおいた。
「ご指導、ありがとうございました。」
敬礼をして頭を下げるアイン、訓練終了の時間が来た。
「うん、それじゃ。」
それに僕は素っ気なく応える、アインはゼファー先生の前で並んでいる海兵の列に戻って行く。それから僕はゼファー先生に挨拶をしてから体育館を後にした。
「アチッ。」
口に付けていたスープの入ったコップを反射的に遠ざける、昔から猫舌は治らない。克服は殆ど諦めている。コップをテーブルに置き、パンを齧る。
ここはマリンフォードにある食堂だ、海軍本部にいる海兵が多く利用している。今僕以外にも、昼食を食べている海兵が大勢いる。友達と一緒に食べたり、男女のカップルで食べに来たりしている海兵が多い。そんな中、僕は一人で食べていた。
「おいし。」
意味も無く呟く、この海軍に入ってからと言うもの仕事では無い私的な内容で他人とあまり関わった事がない。訓練兵時代は殆どルームメイトのチャズカとしか話さなかった、部隊に配属されてから結構経つが前よりも少し多くなった程度で他の人と比べると少ないように感じる。
実際にはピトーの端正な容姿とそれに似つかわしくない強さに驚き、畏怖する者が多く最近では憧れる者も出て来ている者もいる。そのせいで近寄り難い雰囲気が出ているのであまり話しかける人がいないだけなのだが、ピトーはその事に気が付いていない。
そんなピトーの目の前の席に、食事の乗ったトレーを置く人物がいた。
「あの、ここ良いですか。他空いてなくて。」
そこには、少し怯えの混じった困ったような顔をして立っているアインがいた。
「良いけど。」
「ピトー少尉は何で海兵やってるんですか。」
不意に、アインから質問が飛んできた。
答えるのは簡単だが、素直に答えるかどうかは少し迷ってしまう。ピトーの海軍に入隊した理由は、外の世界を見てみたいまだ見ぬ強敵と戦ってみたいと言うものだが、海軍歴が少し長くなって来たピトーは思う。訓練兵期間が終わってから色々な部隊に配属された、サカズキ中将の部隊で海賊を皆殺しにしたり、ボルサリーノ中将の部隊で天竜人を護衛したり、ガープ中将の部隊でガープ中将のサボった書類を片付けたりした。ピトーも、そこで少ないとは言え同僚や上司、部下とかと交流を持ち会話をするわけだ。
当然、長い間閉鎖された島で過ごし海賊を戦い殺し拷問していたスーパー野生児ことピトーも、社会性というものが芽生えてくる。相手を気遣ったり、遠慮するということを覚えた。最初は何も思わなかったが、時が経つにつれ段々とそれをしないと恐怖とまではいかないが心配になって来るようになった。
ときを経て、キメラアントの怪物であったピトーにも人の心を芽生え始めたのだ。それはまさしく、思春期の子供のようであった。
それが、質問とどういう関係があるのかと言うと、一言で言えば集団圧力である。この海軍、とても正義と言うものを大事にしている。若い海兵なんかに、なぜ海兵になったのかと聞くと正義の為だとか悪い海賊を正義の海軍に入って倒したいだとか、そう言う事を言う奴が多いのだ。
ピトーはこう言うのを聞いていて、いや他人と話していて自分の考えている事を軽々しく口にすることをやめた。本当にそう思って海軍に入った人に対して自分のそれではどう思われるのか分からない何と無くだがマイナスイメージが付くのではないか、そう言う考えが頭にへばりついて離れないのだ。故に、こう言う質問には困る。
「さあね、アインは何でやってんの。」
こう言う時は有耶無耶にして、話題をずらすに限る。いつも通りの笑みを顔に貼り付け、ピトーは言い放つ。
「私ですか、私は昔住んでいた所が海賊に襲われて。そこを海軍の人に助けてもらってから憧れてて、それから海兵になろうと思いました。」
照れ臭そうに言う、アイン。よくある身の上話だなと、ピトーは思った。
実際多い、上官に誘われて飲みの席などでなぜ海軍を志したのかを聞かれ純粋な新兵などはよくそうゆう事を言う。
何故だろうか、ピトーはこういう正義とか弱い人を守るとかそう言う考え方をあまり気に入る事が出来なかった。そう言っている奴の仕草などから、本気で言っているのは分かる。だが、理解できるかと言われればそうでは無い。ピトーとて海兵、民間人を海賊から守ったのも一度や二度ではない。だが、それで何か感じたかと聞かれれば、ただ自分が守った人間は生きて自分が殺した人間は死んだという事実しか分からない。
ピトーには、正義という物が解らなかった。
「へぇ、良いね。きっと、その海兵も誇らしいと思うよ。」
「そ、そうでしょうか。」
相手を傷つけないように、というエゴでコーティングされた言葉をかける。それを間に受けているアインもどうかと思ったが、口には出さないでおいた。
ピトーは、いつの間にか空になっていた皿を確認して席を立った。
「ごちそうさま、じゃあね。」
「あ、はい。」
それだけ言うと、ピトーはトレーを返し。少し、逃げるように食堂を出て行った。
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