あれから、度々アインの戦闘訓練を指導することが増えた。組手だけでは無く、剣などの武器を使った訓練などもする。
それから、僕の階級が上がった。今は大佐だ。佐官になってから自分で部隊を率いて、任務に赴く事もある。自分よりも偉い上司が居ない仕事は、中々良い。
「ピトー大佐、間も無く目的地です。」
簡素な船室に海兵の声が響く。
「気づかれてないよね。」
「は!電伝虫による盗聴対策は完璧かと。」
「そ、ならいい。下がっていいよ。」
「は!」
そう言って、海兵は部屋を出て行った。
フールシャウト島、島全体に生息している巨大なサボテン。まばらに生えている芝生だ特徴の島、その島に海賊船が停泊していた。
「さぁ、着いたぞ。コアラ、ここがお前の故郷だ。」
そう少女に言うのは、赤い肌に鰭を持つ三メートルは超えるほどの大きい魚人。フィッシャータイガーであった。
魚人、人間と似た見た目をしていて人間には無い魚のような鰭やエラを持つ主に海中で生活している生き物である。赤い大地にあるシャボンディ諸島の真下、海底に位置するリュウグウ王国を根城としているものが多い。そして、魚人と同じく海中に住んでいる者がいる。人間の上半身を持ち下半身は魚高度な水泳技術を持ち海を泳ぐ速度では魚人を凌ぐ、人魚である。
そんな彼らは、数百年前まで魚類だと思われており世界政府にリュウグウ王国が加盟するまで人権がなかった。しかし、その差別意識は凄まじく。世界政府が魚人・人魚を人間と定めても、差別や迫害は消えず奴隷として売られる為に攫われる事も頻発していた。
この男、フィッシャータイガーもその一人。彼は魚人島を出て、一人で世界を旅していた。不運にもその旅の途中で奴隷狩りに会い、天竜人の奴隷として売られてしまった。しかしそこで終わらなければ、彼は高額な懸賞金を掛けられはしなかっただろう。
彼は何と天竜人の元から脱走し、他に捕まっていた奴隷を解放して回り天竜人の住む土地マリージョワから逃げ出すことに成功するのだ。その結果、二億三千万ベリーという破格の懸賞金を掛けられたのだ。
その後彼は、逃げ出した魚人の奴隷と共にタイヨウの海賊団を結成した。タイヨウの海賊団は、自由ともう二度と奴隷にはならない決意を掲げ海軍や奴隷商人相手に暴れ回っていた。その評判は海軍本部の将校の耳にも入るようになった。
「ありがとう!タイガーさん!本当にありがとう!!」
両手を広げ大声でタイガーへ感謝の言葉を伝える少女、コアラ。彼女はタイガーに助けられた奴隷の一人であった、しかし一人では海を越えられない彼女はタイヨウの海賊団に一時的にだが加わり。タイガーたちと、旅をしながら彼女の故郷に帰って来ていた。
「私!!魚人のみんなが!良い人だって!みんなに言うから!」
「ありがとうー!!!」
その様子を見ていたタイガーは、軽く手を振り来た道を引き返した。実を言うともう少しコアラと一緒に居たかったが、コアラを出迎えた村人の目を思い出す。あれは恐怖と邪険の目だ、邪魔者はさっさと退散しようと思い。足を海岸へと向ける。
(コアラ、きっとお前のように純粋な次の世代が成し遂げてくれる。そう思ってるぜ。)
「元気でやれよ、コアラ。」
誰にも聞こえない小さな声で、タイガーは呟いた。タイガーは今となっては自分では実現不可能な理想をコアラに抱きながら、足を進めた。
暫く歩いた後、荒野の岩場に座る人影が見えた。そして、その人影の羽織っているコートを見て息を呑んだ。
「ッ!」
その羽織っているコートの背中に描かれている正義の二文字、海軍の証であった。
「僕は海軍本部大佐、ネフェル・ピトー。気軽にピトーって呼んで良いよ。それで、少し聞きたい事があるんだけど。君がフィッシャータイガーで合ってる?」
海軍本部大佐と聞いて、瞬間的に身構えるタイガー。そして、相手を見やる。端的に言って、少女のような海兵だった。耳などは普通の人間とは形が違うが、その細い体躯はタイガーのような体の大きい魚人が何回か殴ればすぐに壊れてしまいそうだった。
「それで聞きたい事って言うのはっと!まいいか。ほぼ確定してるし。」
タイガーは早く終わらそうと、座りながら話している海兵に向かって拳を振り下ろした。しかし、呆気なくかわされる。そして、気づくと周りが海兵に囲まれていた。
「投降すれば、殺しはしないよ。どうする、元奴隷。」
「俺は!奴隷じゃない!!」
タイガーはまるでピトーの言葉が癇に障ったように怒鳴りながら、拳を振るう。しかしまた避けられる。
「総員、発砲開始。」
ピトーは周りにいる海兵に命令する、多方向からの発砲音と共にタイガーの体に穴が開く。
「グッ!」
しかしタイガーは止まらない、先に周りの雑魚をどうにかしようとその大きな腕を振るう。が、ピトーがサーベルで切りかかって来たので目標を変えて腕でガードする。サーベルを防いだ瞬間、鮮血が舞った。
「チィッ!」
(俺の武装色を貫通するか!)
タイガーは内心、毒付きながらピトーへの警戒心を引き上げる。元々魚人は人間の十倍以上の腕力を持っている、それに加えて覇気を纏った強靭なタイガーの腕に傷を付けたピトーにタイガーは驚愕した。
(見た目は少女、中身は化け物か。)
タイヨウの海賊団の船は混乱に陥っていた、霧に紛れていた海軍の軍艦が出てきて自分達が囲まれている事に気づいたのだ。
「か、海軍だー!」
船員の誰かだ叫ぶ、それと同時に五隻はいる軍艦から砲弾が飛んで来る。
「くそ!霧に紛れて追って来やがったのか!」
「兄貴!この船はもうダメだ!俺が奴らの軍艦を奪う!兄貴は大兄貴を!」
「アーロン!分かった、頼む!」
「野郎どもー!船を捨てろー!」
「「「おお!!」」」
その頃、タイガーは満身創痍になっていた。ゼエゼエと、肩で息をし全身から血が流れ出ている。体のあちこちに弾丸の穴と切り傷が、深々と刻まれている。
「奴隷を救いたいって気持ちもその程度かにゃ。」
ピトーは落胆したように言う、今回の任務はピトーも気になっていた天竜人の奴隷を解放した魚人の奴隷。タイガーは世界の権力に抵抗した、他の海賊とは違う、そう期待していた。魚人というあまり会わない種、と言うのも期待に拍車を掛けた。
しかし違った、人間の信念は強さには比例しないらしい。これではいつもの弱い者いじめと同じだ、弱い者いじめが嫌いなわけではも無い弱者を一方的に殺すのは爽快だ。だがいつもそれでは飽きもする、少しは心躍る戦いが出来るかと思っていたが、どうやら期待外れだったようだ。
「グッ、ハ!」
ピトーに鳩尾を蹴られ、口から色々吐き出しながら吹き飛び地面を転がる。
「お、お前ら、スマねぇ。」
タイガーは泣きながら、消え入りそうな声で呟く。
その時。
「タイの兄貴ー!!」
海岸の方から、魚人の集団が物凄い勢いで突っ込んできた。
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