東方白宙道〜Hundreds of Millions Wax PTERA〜 作:プルプルマン
私…ボスのテーマを混ぜ込んだ道中テーマが大好物でして、ついつい熱くなってしまいますね。
ちなみに場所は「白虫道最奥部」です。
道中テーマは【シルキーフライヤー】です。
どんな曲かは、皆様の思い思いで。
白よりも純白く
始めは、人里のはずれにある、一軒の何の変哲もない養蚕農家の家からだった。
その日の昼ごろ…人々も妖怪達も巨大飛行物体が空に浮かんでいる様子を見物するのにも飽き、その内いつもの異変解決屋が解決するだろうと考えて仕事や勉学・遊び(加えて、あまり褒められた事ではないが博打)に精を出している時間である。
そんな忙しくもどこか穏やかなこの時間、件の農家の跡取りである青年が飼育している蚕の様子を見に来ていた。
一家の収入の要である蚕たちに妙なことがあっては一大事であるので、見回りも大事な仕事なのだ。(餌が減ってたら足さなきゃならないし。)
そんな彼が蚕の飼育台が置かれている部屋の前に来ると、土壁が崩れて空いた穴から、部屋の中を白い蝶や蛾のような虫が飛び交っている様子が見られた。
明かり取り用の窓の格子にぶつかるコン、コンという音からして、かなりの数が中にいるようだ。
一体、なぜこんな桑の葉と蚕ぐらいしかない部屋に入り込んだのだろうか。
とにかく、そのまま部屋の中で力尽きられても病気やなんやのリスクがあって面倒だし、気味が悪い。
さっさと捕まえて外にでも逃がしてやろう、と戸を引いて部屋の中へと入る。
先程ちらりと壁の穴から覗いただけでもかなりの数がいることが伺えたが、実際に部屋に入って見た時、その数は想像以上であった。
元々見えていた窓の付近だけでなく、壁にも、天井にも、白い羽虫はとまっており、薄暗い室内との相乗効果でさながらプラネタリウム的な雰囲気を醸し出していた。
青年はその神秘的であるがどこか既視感のある光景に圧倒されて、しばらく言葉を失っていたが、我に帰って羽虫たちを追い出しにかかる。
彼も流石に魑魅魍魎が跋扈する幻想郷住民、怪奇現象の類は慣れっこである。
そんな彼が壁に止まった羽虫の一匹を捕まえようと手を伸ばしたその時、彼は自分の感じた既視感の正体に気がついた。
…気がつくと、部屋の中にもう一匹も羽虫はおらず、ただ自分がぺたりと座り込んでいるばかりであった。
どうやら呆然としていた時間はほんの僅かの間だったようだが、つい今しがた見たことが頭をよぎってどうしようもない。
オマケに大事な蚕まで成虫・幼虫・卵を問わず、ほぼ全てがいなくなっていた。
そんな一大事を知らせるために、父や母の居る母屋へと駆ける最中、青年は動揺を抑えて考える。
先程、自分が見たものは現実のものなのだろうか?仮に現実であるとすれば蚕たちの失踪と関係はあるのか?次から次へと疑問が浮かんでは積もってゆく。
母屋までの短い距離を走る間、何度も何度も、思い返していた。
既視感が拭えなかった白い羽虫。
それもそのはず、手が届くほどの近くで見ると、その正体は幼少より見慣れた蚕であったのだ。
単に逃げるという言葉を知らないような蚕が脱走している、という事実も受け入れ難い事ながら更に青年を驚かせたのは、その蚕が目の前で羽ばたいて空中へと躍り出た事であった。
本来ならば、ありえない。
そもそも、蚕という生物の体は飛べるようにできていない。
種族単位で重くなりすぎているし、仮に減量に成功したとしてもそもそも羽ばたく筋力が足りないのである。
青年は、生まれて初めて目撃した飛ぶ蚕に困惑し、ふと空に浮かんだ一反木綿を見て考える。
この時、彼自身も知り得ないことではあるが、その青年は最初にこの異変の真髄に近づいた1人であった。
青年が母屋に駆けているころ、他の養蚕農家においても同じような現象が発生していた。
その殆どの事例で決まって飛ぶ蚕が目撃され、気づいた時には成虫も幼虫も丸ごと居なくなっているのだ。
消えた蚕たちの行方は誰も知らず、里の養蚕農家の間では根も葉もない噂や突拍子もない憶測が広がりつつあった。
一方、此方は絨毯を神社に届ける最中の瑠璃橋。
ぶつぶつと文句をぼやきながら飛んでいる彼女が前方に違和感を覚え、目を細めて見てみると、何やら遠くの方で白い粒のようなものが大群をなして飛んでいるようだ。
まぁ、不思議に思いながらもさほど興味も無かったのでそのまま見送ったのだが…
此方は妖怪の山…三雲の住処にて、彼女は感心した様子で空を行く蚕の群れを眺めていた。
『今日って日は良くも悪くも退屈しないな…不審者、巫女、魔法使い、トドメに蛾の大群とは。』
思わず独り言が漏れる。
『では、そこに神様も加えて貰おうかな。』
また勝手に他人の家に上がり込む奴がいた。
もう少し常識に捉われていてほしいものだ。
声の主は道祖神のウズメであった。
『何か用かい?はぐれ神様?』
『つれないじゃないの、折角この異変についてちょっと教えてあげようと思ったのに。』
『それはそれは有り難い、酒の肴にでもさせて貰おうかね。しかし、何でまた私に?博麗の巫女やら白黒の魔法使いにでも教えてやったらどうだい?』
『フフフ、単なる気まぐれよ〜』
1人と1柱は昼間から空を眺め、神の語る異変についての推察を肴に酒を煽るのであった。
そんなこんなで、幻想郷の各地を賑わせながら彼方此方の空を蚕は飛ぶ。
一体どこへ、なぜ、向かっているのか。
その答えは蚕たち自身のみが知っている。
最近、チキンラーメンをそのまま貪ることにハマっております。
あの濃ゆい不健康を体現したような味がクセになるのです。
とはいえ、本当に健康によろしくないのでほどほどにしておきたいものです。
登場人物
青年
いわゆる村人A的ポジション。
背景によくいそうな姿をイメージしていただければ幸いです。
蚕
幼虫が吐く糸を衣服などに利用できる昆虫の一種。
人類とは数千年単位でお付き合いしており、人類史上初の完全なる家畜とも呼ばれており、実際野性回帰能力をほぼ失っているらしい。
その先祖は現在も生き延びているクワコという蛾であると思われるが、どうやって品種改良を行なったのかまではまだ解き明かされていない。
近代で衰えかけた産業であるものの、最近では作り出す糸の性質を変えたり、富岡製糸場が世界遺産認定されたりして再び勢い付いている。
桑
蚕の主食。
実はマルベリーと呼ばれ、そのまま頬張るなりジャムにしたりすると美味しい。
貴方の家にも、オヤツ兼雷避けとして一本いかが?
瑠璃橋・ウズメ・三雲
1〜3面までのボス達。
忘れかけてる人もいらっしゃるのでは?