東方白宙道〜Hundreds of Millions Wax PTERA〜 作:プルプルマン
お互い啖呵を切った霊夢と桑子は直後、弾かれるように距離を取り相手を見据えた。
そして、若干置いてけぼりにされかけていた魔理沙も2人にならって戦闘体制に入る。
時は未の三つ、雲ひとつない青空と1日で一番ギラついた太陽のコントラストが映える時間であった。
燦々と地上を照らすその光の元、先に動いたのは桑子であった。
彼女は眼科に広がる白宙道へとつながる左手の糸を一旦途切れさせ、大量の弾幕を放った。
放射状に放たれた弾は全て純白であり、蝶弾とは似て非なる、さながら蛾のような形の弾であった。
『あいつ…最初っから飛ばしてるな。こりゃ手強いぜ。』
『ええ、そうね。ちょっと気になることもあるけど…まぁ今考えてもどうにもならないし、闘いに集中しましょうか。』
襲い来る蝶弾…いや、むしろこの場合は蛾弾と呼ぶべきか。
視界を白一色に染め上げるほどの数の中に飛び込んだ霊夢と魔理沙は、お互いを見失わないギリギリの距離を保ちつつ、負けじと弾幕を放ってゆく。
霊夢のお札と魔理沙のレーザーが白を割り突き進んで行くが、桑子を目前に捉えたところで、悉くが弾幕を集中させた桑子に防がれてしまう。
その一方で放射状の蛾弾の数が減るということもなく、依然として攻撃は緩まらない。
膠着したその状況に闘いの場にいる全員がやきもきしている中、戦局を大きく動かしたのは霊夢であった。
どこから取り出したのやら、人の背丈の倍程はあろうかという巨大なお札を放ち、その圧倒的な威力と存在感で弾幕の中を掻き分けて行く様を見て、当然桑子も肝が冷えた。
迫り来るそれを慌てて回避しようとするも間に合わず、敢えなく被弾。
そのまま、なすすべもなく吹き飛ばされる。
『やるな!霊夢。けどよ、そんな急いでるとバテるぜ?気をつけろよ。』
『はいはい、そのぐらいわかってるわよ。ただ、あんたちょっと忘れてるんじゃない?こっちの敗北条件は、なにも単純な弾幕ごっこの負けだけじゃあないのよ。時間を稼がれて、あいつが外の世界に着いたりしても駄目なんだから、手早くやらないと。』
『なるほど、そりゃあ迂闊だったぜ。』
その時、再び力の流れが変わった事を察知した2人は桑子の居る方へと目を向ける。
彼女は既に体勢を立て直しており、飾り帯を靡かせながらスペルカードを宣言していた。
蚕符「蚕食弾幕」
その宣言とともに、桑子の周囲からは無数の若葉色に輝く中弾が不規則にばら撒かれ、回避することも困難なほどの密度で襲いかかってくる。
『中々の物量作戦だな〜やっぱり弾幕はパワーってわけか。』
近づいてくる弾幕の波を冷静に見据え、魔理沙は攻略法を考える。
すると、弾幕の中にいくつか異質な弾が混ざっていることに気がついた。
それは黒いカプセル状の薬のような形の弾幕で、類似したものとしては封獣 ぬえの「平安京の悪夢」に使用されていたものがあったが、それはあくまで形だけの話である。
桑子の放ったそれはぬえのものとは全く違う性質を有しており、色の違いだけでなく魔理沙の弾幕や自分自身の放った周囲の中弾と接触すると、途端にそれらを掻き消してしまうほどのエネルギーを持っていた。
当然、接触すれば手痛いダメージは免れないだろう。
しかし、これは逆に考えるならばこちらにとっても大きなチャンスとなり得る。
あの強力な弾がその他を食い潰すのであれば、必然的にその通り道からは綺麗さっぱりほかの弾幕が消えるはずである。
そのスペースに上手く潜り込むことができたのならば、いちいち大量の中弾を躱し続ける必要も無く、安定した攻撃が可能になるだろう。
そう判断した魔理沙は、自ら光弾の中に飛び込み、黒い弾を追った。
程なくして、果実に這う蛆の様に緩やかな右回りの軌道で動くそれに追いつきぴたりと張り付いて飛行し始めた魔理沙は、同時に星弾を放って反撃を開始するのであった。
その頃霊夢は、魔理沙よりほんの僅かに早く弾幕の性質を見抜き、奇しくも同じ戦法へと辿り着いていた。
『落ち着ける場所を確保したはいいけど…こりゃ埒があかないわね。』
確かにこの戦法は比較的安定は得られていたが、逆に霊夢と魔理沙の攻撃も膨大な量の弾幕が壁となり、殆どが防がれてしまっていたのだ。
その中をくぐり抜けた数少ない弾も桑子にしっかりと回避されてしまっている。
時間の余裕があるとは言えない霊夢は針に加えて博麗アミュレットを呼び起こし、桑子の弾幕に鋭く切り込む様に放った。
放たれたアミュレットは緩やかなカーブを描き中弾を切り裂いて桑子の目の前に躍り出る。
これに対し、桑子は右手の桑の枝を振るい、力をぶつけて相殺する。
そして、このままの弾幕では霊夢と魔理沙に押し勝つには不十分だと感じたのか、弾幕のパターンを更に攻撃的に変化させていく。
緑の中弾はより数を増し、それを喰らう弾は右回りだけでなく、左回りの軌道でも飛び始め、その色も黒から白へと移ろってゆく。
その変化には流石の霊夢でさえも攻めを躊躇い、守りに徹することを決めるのだった。
結果的により堅牢且つパワフルとなった(俗に言う発狂)弾幕が嵐のように吹き荒れ、霊夢も魔理沙も簡易的な結界を張ってそれを耐え抜く。
いつまでもこのままでいれば単なるジリ貧であり、霊夢と魔理沙側にとっては不利に思われたが、いくら異変を起こした張本人とはいえそんな出力の力がいつまでも持続する訳もなく、数分ほどで僅かに弾幕の乱れが見られてきた。
この好機を逃さず捉えたのは、勿論我らが主人公霧雨 魔理沙であった。
彼女が霊夢ばかりに手柄は渡すまいと放った2本のレーザーは、強固な弾幕の手薄な場所を突き破り、ついに桑子を捉えたのである。
桑子は咄嗟に桑の枝で防御したものの弾き飛ばされ、慌てて空中で体勢を整える。
『魔理沙、あいつ、想定よりだいぶやるわよ。』
『ああ、正直びっくりしちまうぜ。こんな力を持った奴が今の今まで隠れてたとはな。幻想郷は意外に広いモンだ。』
想像以上であった敵の強さに霊夢と魔理沙が驚愕していると、体勢を立て直した桑子が既に次の弾幕の用意をしている気配が肌で感じられた。
『ぐ〜よくもやったなー!じゃあ、これならどうだッ!』
桑子は再び弾幕を展開し、勝負に新たな風を巻き起こすのであった。
力を込めた桑子の周囲に複数の白い蛾弾が生成され、伸張したバネのような螺旋状の軌道を描いて放射状に広がってゆく。
無論黒幕を張っている彼女がそれだけで済ませるわけもなく、今度は桑子自身が手に持つ桑の枝から、これまた放射状に細く短いレーザーを放つ弾幕も加えられているようだ。
恐らく、妙な軌道で進んでくる蛾弾に近づかないでおこうと臆病風に吹かれた相手をレーザーで仕留めるつもりなのだろう。
だが、霊夢も魔理沙もそんな手には引っかかる訳もない。
それどころか、魔理沙に至っては螺旋の中を通って桑子に接近してくるほどであった。
『嘘でしょ⁉︎私の完璧?な計略が〜』
『特別に教えといてやるが、そーゆう小細工が通用するのはお前の仲間…甲鱗同盟だったか?その2人組ぐらいまでだぜ。少なくとも、格上の相手に通じるものじゃないな。』
『それならッ!』
魔理沙に向けて大量の蛾弾を放ち、それに対して魔理沙が反射的に距離を取った次の瞬間、彼女の真横を先程よりも太いレーザーが貫いた。
驚いた魔理沙が辺りを見回すと、レーザーだけでなく蛾弾の様子も変化しており、ただ一つずつが螺旋状に飛ぶだけだったものが一対ごとに二重螺旋を描いて飛ぶようになっていた。
『なに敵を焚き付けてんのよッ!』
霊夢の大幣でペシリと頭を打たれ、思わず飛び退く。
『痛ーッ!いきなり何するんだよ⁉︎もっと常識を弁えてくれよな〜』
『あんたが敵に妙なやる気を出させるからでしょうが!お陰で面倒くささが増えただけじゃないの!』
『ま、まぁこれぐらい手応えがあってもいいじゃないか…ほら、折角の黒幕戦なんだからさ。』
『ハァー…もういいわよ。それより、今は闘いに集中すべきよね…』
『おう!その通りだぜ!流石霊夢、わかってるな〜』
『お前が言うなッ‼︎』
霊夢と魔理沙は蛾弾とレーザーの隙間を潜り桑子と一旦距離を取る。
そして、一呼吸置くと、凄まじい勢いで弾幕の中へと飛び込み、高速での撃ち合いを繰り広げていく。
右へ左へと霊夢と魔理沙の弾幕を躱す桑子、そして桑子の放った弾幕の中を飛び回り追走する異変解決屋2人、現状優勢であるのは明らかに霊夢と魔理沙であった。
小細工が無駄と知り、純粋な弾幕勝負で押されている。
その現在を巻き返すため、桑子は2枚目のスペルカードを宣言するのであった。
桑符「マルベリーシューティング」
その瞬間、彼女たち3人を取り囲む空域のあちらこちらにどこからともなく桑の実の様な形状の黒い弾が出現し始めた。
霊夢と魔理沙は咄嗟に背中合わせとなり、あらゆる方向からの攻撃に備える。
しかし、いくら目を凝らして見てみようとも、出現した弾はウンともスンとも言わず、動きを見せる様子もない。
一体、どんな意図で配置したのだろうか?
あるいは…
霊夢はサッと桑子の方を向き、予感が的中したことを理解した。
桑子は、霊夢と魔理沙が目を離した隙に上に向けて突き上げた右手の桑の枝から一本の槍の様なレーザーを作り出し、今に2人に狙いを定めて投げつけようとしていたのだ。
『魔理沙!兎に角離れて!』
突然大声を出した霊夢に驚きながらも、言われた通り背中合わせの体勢から離脱する魔理沙。
それから、ほんの一瞬遅れて彼女がいた地点を光の槍が貫き、地上に向けて猛スピードで飛び去っていった。
『おしい!もうちょっとで1人落とせたのに!』
『な、なんだぁ⁉︎周りの弾幕はデコイかよ⁉︎』
『ふっふっふ、それはどうかな?決めつけるには早いわよ!まぁまずは、この弾幕を躱せるものならやってみろ!』
再び桑子が突き上げた右手の枝にエネルギーが集まり、槍が形作られる。
そして、当然それは魔理沙のいる場所に対して正確に投げつけられた。
しかしながら、一点に集中するタイプの弾幕の弱点としてありがちなことではあるが、敵に動き続かれるとまともに当たらないというものがある。
だからこそ、多くの人妖はその弱点を補うために同時にばら撒き弾などを放って対象の動きを牽制する様な構成の弾幕を使うのだが…
弾幕ごっこに手慣れている魔理沙も、当然照準を外すために飛び回り、投げつけられた槍を回避する。
槍が自身の背後を通り過ぎた瞬間、桑子の溜めに合わせて反撃しようと弾幕を展開する魔理沙。
その様子は、一見極めて有効に立ち回っている様にも見てとれた。
だが、その時魔理沙の脳内に不穏な予感が走った。
咄嗟に攻撃を中止し、その場を離れた彼女の目に飛び込んできたのは、つい1秒前まで自身がいたまさにその場所を通過する複数の黒い中弾であった。
加えて、その弾はほぼ全て発生源が背後であり、その存在を知らなければ回避することは困難であっただろう。
『えー、今のなんで避けれるのよ〜後ろに目でもついてるの?』
『あいにく、人間にゃ背中に目はないぜ。ま、虫の知らせって奴じゃないのか?どっちかというと虫はお前だが。』
『ぐぬ〜さては虫界にスパイがいるのか〜?』
『ご名答、その勘の良さに免じて正体を教えてやるぜ。蜘蛛なんだ。』
『そうなの?でも、蜘蛛の知り合いはあんまりいないんだけどなぁ。』
『いやいや、実際にお前もスパイを見つけたら言うはずだぜ?「スパイだー」ってな。』
魔理沙と桑子が話していた僅かな時間に、霊夢は桑子の背後から陰陽玉をぶつけ、勝負を決めるつもりで動いていた。
いざ、背後を陣取り陰陽玉を投げつけるも、突然後ろに振り向いた桑子は枝を振るってその攻撃を弾き飛ばし、そのままエネルギーを集めて槍を作り出した。
かなり接近していた霊夢であったが、なんとか投げつけられた光の槍を真横への宙返りで回避する。
飛び回りながらその様子を観察していた魔理沙であったが、その過程で先程自分が危うく餌食になるところであった中弾の出処を目撃する。
なんと、投げつけられた光の槍が霊夢の背後に漂う桑の実の様な弾を貫き、破裂させているではないか。
その破裂した欠片は黒い中弾となり、放射状に飛び散ってゆく。
『なんだ、そういうことか。なかなか面白いじゃないか。』
魔理沙は星弾を放って霊夢の背後に迫る中弾を打ち消し、桑子の目の前に躍り出た。
桑子はからかうようなその行動に誘われて槍を投げつけるも、魔理沙は持ち前のスピードで悠々とそれを回避したのだった。
その槍はまたしても魔理沙の背後にあった設置弾を貫き、拡散させるも既にネタを知っている魔理沙は、軌道を読み切り首を傾ける仕草だけで背後からの弾を回避する。
そして、安安と回避されたことに驚きを隠せない桑子と魔理沙の弾幕が背後で突然炸裂したことで未だに驚いている霊夢が動きを止めていた僅かな時間にミニ八卦炉を構え吹き出す星弾の氾濫で桑子を捉えたのだった。
もう10月ですよ
出雲で神様たちが密ですよ
作中にある蛾弾についてですが、基本的な当たり判定などは本家様の蝶弾に準拠したものと考えていただければ幸いです。
違いと致しましては、蝶弾には付いていない櫛のような触覚がついているイメージでございます。
登場人物
封獣 ぬえ
かつて多くの人々を震撼させた大妖怪且つ恐るべきベントラーシステムの仕掛け人
星蓮船怖いのぅ
虫織 桑子
スペルカード
蚕符「蚕食弾幕」
桑符「マルベリーシューティング」
?
?
?
?
幻想郷で新しい生活を始めた彼女であったが、当然頼れる知人もおらず、幻想郷のルールも知るはずがない。
それでいて人里に近い桑畑に居着いたため、畑を利用する人間を襲い続けては忌み嫌われ、中途半端に人里近くに住んでいるため妖怪とも打ち解けずこのまま時間が過ぎれば、当時の博麗の巫女が討伐に出向き、消されることは避けられなかっただろう。
しかし、ある日突然彼女は桑畑から姿を消した。
人々は不思議に思ったが、妖怪がいないに越したことはないとすぐに日常へと戻っていった。
その時、彼女は自身と縁の深いとある神に拾われていたのだ。
神は彼女が己を生み出した人間の営みを忘れないように、輝かしい野生を秘めるように現在の名を与え、幻想郷での在り方を導いた。
かくして、彼女は改めて幻想郷の一員となったのであった。
それから月日は流れ、異変の数週間前の事。
それまで彼女は同じ妖蟲たちと同盟を組んでみたり、変装して寺子屋で慧音の授業を受けてみたり、とそれなりに楽しく暮らしていたのだが…
ある日、1人の少女から話を持ちかけられる。
外の世界へ舞い戻り、仲間と空を駆けないか?
彼女はその話に大きな魅力を感じ、懇意にしている神様に相談した。
当然、そんな胡散臭い話に乗ることをあまり良くは思わなかった神であったが、かといって自立した妖怪である彼女を無理矢理に引き留めるのも気が引ける。
結局、神は彼女の異変に手を貸す事を決めた。
精一杯に力を注いで正面から異変解決屋達に打ち破られれば諦めもつく、それになんだかんだで面倒見の良い連中なので、その後の面倒も見てくれるだろう、そんな予測のもと彼女の背中を押したのだ。
そして、彼女は異変を起こした。
空に純白の道を敷き、遠い昔の記憶の中で羽ばたき舞っていたあの頃を全蚕達が思い出せるように。
そして、全ての仲間とともにまだ見ぬ桑畑《らくえん》に向かうため。
part-2
異変後へ続く