東方白宙道〜Hundreds of Millions Wax PTERA〜 作:プルプルマン
そういうヌシには恒温動物よりも変温動物が似合う気がする。
いよいよ桑子は全力を解放し、光輝く翅を背負った。
あまりに巨大なそれは、一度羽ばたく度に台風でも来ているかの様な荒々しい羽音を立てている。
『まさか本気を隠してるなんてな。やるじゃないか。』
『ふふふ、虫は擬態が得意なのよ。これからもっともっと驚くことになるわ。用心しないと心臓だって止まるわね。』
『あんた、本当にどうやってそんな力を…いや、もういいわ。この際それを聞くのは野暮ってものね。』
『さあ!受けてみよ!全蚕達の煌めく意思を!完全なる家畜の研がれた牙を!』
桑子の背負った翅が大きく羽ばたき、それと同時にそこから大量の鱗弾が放たれた。
てんでバラバラに飛び回る鱗弾は、赤・青・黄など様々な色が混在しており、まるで一種の万華鏡のように霊夢たちの目に焼きついてくる。
それに加えて、桑子自身からは5方位に向けて純白のナイフ弾が一定の周期で放たれ、こちらもまた無視はできない。
極め付けに、霊夢と魔理沙めがけて背後から忍び寄る蛾弾も危険である。
数こそ一つずつであるものの、思考する時間を与えるまいと矢継ぎ早に襲い掛かって来ている。
霊夢と魔理沙は一旦距離を取り、高密度の弾幕を避ける作戦に打って出たが、相変わらず蛾弾は背後から現れるし、ナイフ弾に至っては高速で飛来し一瞬で追いつかれてしまう。
魔理沙と離れ、独自で弾幕の攻略を試みる霊夢であったが、全く隙を見せない相手に対してほとほと困り果てていた。
ふと魔理沙を見ると、彼女もまた攻めあぐねているようだ。
鱗弾とナイフ弾の隙間を縫って飛び回るばかりで、得意のパワー弾幕も満足に使えていない様子が見て取れる。
先程までは確実に優勢を誇っていた霊夢と魔理沙であったが、今やその立場は天邪鬼が聞けば大喜びしそうなほどに逆転した。
後退するしか出来なかった桑子は弾幕を放ちながらゆっくりと前進を始め、それに伴って霊夢と魔理沙は後退せざるを得ない。
『白宙道は一方通行よ!逆走なんてしないで欲しいわ。』
『くっそー、あいつめ、好き勝手言ってやがるな…』
魔理沙は悔しそうに頭を掻くが、実際問題として今の状況は非常によろしくないと言えるだろう。
相手に圧倒され逃げる形になっている現在は、攻撃という面でも防御という面でも負の連鎖に陥りかねない。
何より、そんな状況は精神衛生的にも気に食わない。
なんとか反逆の一手を打ちたいが…
その頃、霊夢も亜空穴を利用して攻めに転じようと試行錯誤を繰り返していたが、一向にうまくいかずに時間ばかりを浪費していた。
というのも、どれほど離れた場所や桑子の視界外に移動したとしても、一瞬で背後に蛾弾が出現し、次の行動を邪魔しにかかってくるのだ。
これではとても攻撃に集中などできはしない。
その時、ふと思いつく。
もし仮に魔理沙と自分が背中合わせになったのなら蛾弾はどう動くのだろう?
ものは試し、ダメで元々、取り敢えず試してみようと、魔理沙の側まで亜空穴で移動し、作戦を簡潔に伝える。
『あんた、私の、後ろ、守る、わかったわね?』
『な、何言って…』
よし、正確に伝わっていると見なそう。
魔理沙に背を向けた次の瞬間、背後で何かが炸裂する音が響いた。
振り返って見ると、魔理沙に向けて放たれた蛾弾と霊夢に向けて放たれたそれが衝突し、自壊していた。
よし、作戦成功。
背後さえ気にならなければこちらのものだ。
『魔理沙!そのままの位置で動かないでね!』
困惑しながらもその言葉に従う魔理沙を確認し、霊夢は自身の周りに何十ものお札を浮かべた。
それらは同時に桑子を照準に捉え、少しの暇の後そのまま一斉に放たれた。
弾幕の隙間を通り、変幻自在の軌道で急接近しようとするお札を桑子も全力で撃ち落としにかかるが、密集した弾幕の中を潜り抜けた10枚がついに桑子の背負った翅に命中したのであった。
突然の攻撃を受け、揺らぐ翅、途切れる弾幕。
このままでは追撃をもらうと判断した桑子はすぐさまスペルカードを宣言する。
野生「ヤサンオールスターズ」
白が辺り一面にパンデミックのように広がってゆく。
全てが白になった空で、桑子の周囲を取り囲むように使い魔が五匹出現し、正五角形の形を取ってピタリと停止した。
『…!来るわよ!魔理沙!』
桑子が手を振り下ろす動作をするとともに、五匹の使い魔達は一斉に弾幕を放ち始めた。
あるものはシンプルな色とりどりのばら撒き鱗弾を、またあるものは無数のカラフルな蛾弾を放射状に、別のあるものは霊夢と魔理沙の動きを縛るように赤いナイフ弾を雨霰と降らせ、他のあるものは太めのレーザーを縦横無尽に振り回す、そして最後の一匹は大弾よりも遥かに巨大な黒い弾をじっくりと溜めて放って来ている。
膨大な量の弾幕が霊夢と魔理沙の視界一杯に広がり、2人の立場からは巨大な弾の波が迫って来たと錯覚するほどであった。
桑子の弾幕の中へと飛び込んでゆく2人、魔理沙はレーザーと追いかけっこをしながら無数に降り注ぐ蛾弾を打ち消し、霊夢はナイフ弾と鱗弾を躱して巨大弾を陰陽玉で打ち消してゆく。
しかし、次から次へと無限に押し寄せる弾幕に押される状況は変わらず、このままではジリ貧になることは目に見えている。
そんな時、最悪のタイミングで魔理沙の八卦炉が不調をきたした。
蛾弾を打ち消そうと向けた八卦炉から飛び出したものは小さな火花だけだったのだ。
思考が凍りついた。
時間がやたらと遅く感じる、遠くで霊夢が叫んでいるのが聞こえる、ちゃんと前見ないと被弾するぞ…
『あれ…私は…』
気がつくと魔理沙は白宙道の上に寝転んでいた。
奇しくも相手の生み出したコレに救われたらしい。
そして、ギリギリ防御の魔法陣が間に合ったのか特に外傷などは無いようだ。
にしても、情けない話だ。
こんなところで魔法道具の不調で負けましたでは酒の席での笑い話にもなりゃしない。
『ほら、何やってるの。さっさと立ちなさいな。』
顔を上げると、霊夢がこちらに手を差し伸べていた。
『ボーっとしてる暇無いわよ。いつまでも騙しておけないもの。』
霊夢が指差した先を見てみると、桑子はまだ何かと闘っているようだ。
知らない間に助っ人でも来たのだろうか。
『ちょっとした案山子よ。深く考えることもないわ。』
そんな魔理沙の考えを読んだかのように霊夢が言う。
『そうか…へへ』
『何よ、気色悪いわね。』
『いや、退治するだのなんだの言っておきながら心配してくれてんだなってさ。』
『あら、当然じゃない。今あんたがリタイアしたら囮がいなくなっちゃうわ。』
2人は憎まれ口を交わしながらもう一度桑子の元へと向かうのであった。
桑子は胸の高鳴りを抑えきれなかった。
白黒は倒した!後は目の前の紅白さえ打ち破れば理想郷への一歩が踏み出せる。
そして遂に飛び回る紅白の影に巨大弾が直撃し、続く弾幕の波に飲み込まれてゆく。
『よし!私の勝ちだ…』
桑子が言い終わる間もなく紅白の影は散り散りになり無数の光り輝くお札となって彼女に襲い掛かった。
心底驚きはしたものの、咄嗟に使い魔の弾幕を集中させてお札を防ぎきった桑子の背中に声が掛かる。
『さっきはよくもやってくれたな。お礼をくれてやるぜ。』
振り向いた桑子を激しい閃光が包む。
魔空「アステロイドベルト」
大小合わせて数えきれないほどの星弾が桑子と背中の翅を押し流し吹き飛ばしてゆく。
五匹の使い魔達もなんとかその攻撃を堪えていたが、霊夢が放った針によって一匹、また一匹と撃破され、やがて誰もいなくなった。
『ぃよし!やられっぱなしじゃ終われないぜ。』
『はいはい、良かったわね…と、』
霊夢が飛来した蛾弾をヒラリと回避する。
スペルカードを破ったにもかかわらず、桑子の攻撃は間髪入れずに続いていた。
彼女が力を集め、解き放つと、彼女自身を中心に蛾弾が同心円を描いて並び、そのままダンスでもするかのように時計回りで回転し始めた。
先程の弾幕の激しさから考えると、どう見ても繋ぎでしかない弾幕であることはあからさまではあるが、油断せず隙を見つけては弾幕を打ち込んでゆく。
派手とは言い難い弾幕、少しずつではあるが効いている筈だ。
力の象徴であるあの大きな翅だが、こと機動力という面に於いては大きなデメリットを抱えている。
なにぶん巨大なので、単純に的が大きいというのも一つではあるが、何より小回りがきかず動きにくいことこの上ないだろう。
飛び回る羽虫を牛刀で捉えることはできない。
弾幕の量が少ない今ならば機動力という面で大きく勝る霊夢と魔理沙が圧倒的に優位であった。
優雅なる群れの中を飛び回り翻弄する魔理沙、自らの勘のみを頼りに繊細な弾幕を放つ霊夢、力を溜めつつ霊夢と魔理沙への牽制弾幕を展開する桑子。
その状態が20秒ほど続き、闘いに次なる変化が訪れた。
地道な攻撃が功を奏して音を上げたのか、はたまたは彼女の中で準備が整ったのか、その理由はわからないものの桑子は一歩後ろに飛び退き、スペルカードを宣言した。
最近、アホみたいに辛いインスタントラーメンを集めて食べましたが、漢としてランクアップできた気がします。
登場人物
虫織 桑子
スペルカード
蚕符「蚕食弾幕」
桑符「マルベリーシューティング」
蛹符「スカシ玉繭」
翅展開後
野生「ヤサンオールスターズ」
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