東方白宙道〜Hundreds of Millions Wax PTERA〜   作:プルプルマン

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ついに饕餮が出てきたぞっ!
これで畜生界の三大組織の頭が全て自機組にのされたことになりますが、恐ろしいことです。


リベンジはほどほどに

全く反省する様子もなく(反省する奴の方が少ない気もする。)現れた桑子であったが、闘い敗れて大部分の力を失ったにも関わらず、妙な自信を持っているようだ。

『どうした?性懲りも無くやられにきたのか?ご苦労なこった。』

『ふふん、余裕で構えていられるのも今のうちよ!白黒の!私には最強の助っ人がいるんだからね!』

どうも単なるハッタリではないらしい。

桑子のものではない異様な、且つどこか覚えもある雰囲気が場を満たしてゆく。

 

『おいでくださいませ!我らの神、摩多羅 隠岐奈様‼️』

 

突然予想だにしない名前が耳に届き、霊夢と魔理沙は密かに仰天していた。

摩多羅神だと?あいつと桑子の奴になんの関係が…

『桑子よ、毎度言っているじゃないか。私はあくまで養蚕の神でもあるだけで、蚕そのものの神ではない。』

桑子の呼び声に答え、彼女の背中にある扉から姿を現したのは、紛れもない後戸の神、摩多羅 隠岐奈であった。

『でも、摩多羅神様ってばなんだかんだ世話を焼いてくれるじゃないですか〜ほら、私が人間と揉めた時とか。もう蚕の神様とお呼びしても大丈夫かな〜と。』

『ちょっとちょっと、私達を置いてけぼりにするんじゃないわよ。そいつの身に余るパワーの源があんただってのは今わかったけど、なんでこの異変にあんたが一枚噛んでるわけ?』

隠岐奈は椅子に腰掛けたまま少し考え込んで、言葉を発する。

『特に理由などないさ。神は常に気まぐれなもの、一喜一憂してはその度豊作も天災も引き起こすだろう?知人の救援要請に応えない理由もなかったしね。』

『これだから気まぐれな奴ってのは困るぜ。…おっと、私の知り合いは半分くらいがその気まぐれな奴だったな、やれやれだ。』

『ハハハ、実に幻想郷らしいことじゃないか。…さて、今日私が出てきたのは他でもない、この桑子がお前達とリベンジマッチをしたいらしい。私は単なる助っ人だが、これで条件は2vs2。悪いが、少々付き合ってもらおう。』

背後の方でも何者かの気配がする。

大方あの二童子達だろうが、逃げられないようにでもしているつもりなのだろうか?

『ああ、はいはい、どうせ断っても見逃す気はないんでしょ?だったらさっさとかかってきなさいな。ここはあんたの支配が及ぶ後戸の国じゃない、2人まとめて針串刺しの刑よ!』

星空に敷かれた道はより輝きを増し、最早道というよりは煌めく水銀の河という表現の方が似合うようになっていた。

 

『よし!まずは伝統と信頼の小手調べだ!』

隠岐奈が少し後ろに引き、逆に前に出た桑子が両手から無数の赤い鱗弾をばら撒いて仕掛けてくる。

霊夢と魔理沙は鱗弾の合間を縫うように飛び、慎重に相手の出方を伺っていた。

なるほど、この鱗弾はスピードとそこそこの密度さえ気に掛けていれば難なく回避できそうだ、

そして、本命の弾幕のためのフェイクというわけでもなく、本人が小手調べと言っていた通り、ただ単純な攻撃のためのものと見える。

ただ、少し引いた隠岐奈が何か仕掛けてくるかもしれないという不安はあるが…

瞬間、背後に突如何かが現れた気配を感じ、振り向きざまに針を投げつける。

空中に描かれた魔法陣、それが今にも弾幕で霊夢と魔理沙の背中を撃ち抜いてやろうと魔力を集中させていた。

霊夢の投げた針はものの見事に実体を持たない魔法陣をすり抜け、どこかへ飛んでいってしまった。

『魔理沙!後ろに気をつけなさい!やっぱり隠岐奈の奴が仕掛けてきたわ!』

霊夢が声を張り上げると同時に魔法陣からは無数の青いクナイ弾が放たれ、法則性のない向きへと進行を始めた。

事前に察知していた霊夢は当然ヒラリと躱し、魔理沙も霊夢の忠告のお陰もあり危なげない回避に成功する。

しかし、問題はその後のこと。

丁度桑子の弾幕と背後からの攻撃に挟まれる形となってしまった。

桑子を攻撃しながら後ろの油断ならない魔法陣にまで気を配るのは非常にストレスフルだ、一刻も早くこの状況を覆さなくてはならない。

魔理沙が動いた。

どうも何かを狙っている動きだ、もしかしたら似つかわしくない高度な作戦を…

『とにかく突撃だ!後ろから追い付かれるよりも先に桑子の奴をぶっとばす!』

…練っているのではと一瞬でも考えた自分を咎めたくなる。

さて、魔理沙は放っておくとして、私はどう動くべきだろうか?

ここはやはりクナイ弾の方に対処すべきか、癪ではあるが魔理沙に倣って桑子を攻め立てるべきか…

『決めた…』

そう呟くと霊夢は魔法陣の周囲に結界を張り巡らせ、それだけにとどまらずさらに積み重ねてゆく。

そして、霊夢が指を鳴らすとそれを合図として一斉に結界から弾幕が放たれ、魔法陣の放ったそれを全て相殺し、封じ込めた。

『さて、これでこっちは抑えられたかしら。次はあいつの方だけど…』

その時、桑子の元には魔理沙が辿り着き、既に激しい弾幕の応酬が繰り広げられていた。

『ちょこまか逃げ回るんじゃないぜ!私のはどこぞの巫女みたいに追尾する弾幕じゃないんだからな!』

『なんとでも言ってろー!勝てば良かろうなのだー!』

交差する星弾と鱗弾、両者がかち合う音が何度も響いている。

超至近距離での撃ち合いを制したのは魔理沙であった。

無数の星弾の一つが桑子にクリーンヒットし、彼女を大きく吹き飛ばす。

『よしっ!私が一本先取ってところだな。』

『なんだ、もうひと段落ついてたのね。わざわざ抑えてた私は空回りしただけかしら?』

直後に霊夢もやってきたが、既に魔理沙が一撃入れたことを確認して少し残念そうだ。

『くっ、それなら次はスペルカードで勝つ!』

 

蛾人間『時速160キロのレッドアイ』

 

桑子の背中にある一対の翅に妖気が集まり、彼女の黒い瞳が真っ赤に染まってゆく。

『私もちょっと前に流行ったオカルトとやらを取り入れてみたわ。なんでも外の世界にいるでっかい蛾らしいけど…まあものは試しね!』

いつぞやの鴉天狗のように桑子がどんどんとスピードを増してゆく。

その中で赤く光る2つの目玉だけが残像を残して一本の紐のように見えていた。

『あいつ、やっぱりスピード狂なんじゃないか?こないだもチョロチョロ飛び回る弾幕使ってたしさ。』

『スピード狂かどうかは知らないけど、天狗の天敵のお膝元で天狗みたいなことしてるのはちょっと妙な感じがするわね。』

十分すぎるほどにスピードがつき、霊夢と魔理沙の弾幕が桑子に追いつけなくなったその時、彼女は奔放に飛び回ることを辞めて目の前の2人に向けて速度を保ったまま追尾を始めた。

『不味いわ、とにかく距離を取るわよ!』

『了解!全速力で逃げるぜ!』

霊夢と魔理沙はくるりと後ろを向き、いきなりトップスピードで桑子の追跡から逃れようと試みる。

しかしながら桑子の攻撃は緩まることを知らず、的確に霊夢と魔理沙がいた位置を駆け抜けていた。

どうやらあまりのスピード故に急なカーブや蛇行などはできず直線の軌道でしか襲い掛かってこられない事が救いだろうか。

しかし、桑子が通った跡からは多数の鱗弾が発生しているし、下手な逃げ方をすればいつのまにか逃げ場を失いチェックメイトという事態に陥りかねない。

霊夢は天性の勘で、魔理沙は単なる直感と経験で常に逃げ方を選べるように行く方向を定めていく。

奇しくも2人が導き出し、通った道筋はほぼ同じものであった。

赤い目のチェイサーに追われる事数十秒…突然もどかしい時間は終わり、桑子の動きが目を疑うほど鈍重になる。

『つ…疲れた…頭痛い…呪ってやる〜』

うーむ、驚くほど普通の理由だ、なんか呪おうとしてるし。

しかし呆れている暇はない。

疲れきった桑子と入れ替わるようにどこからともなく隠岐奈が出現し、選手交代とばかりに弾幕を放ち始めた。

彼女の周りを回転する魔法陣から様々な色のクナイ弾が放たれ、霊夢と魔理沙に一息つかせる間もなく波のように押し寄せてくる。

その僅かな隙間を通り抜け、2人はなんとか隠岐奈に接近していく。

だが、あと一歩で捉えられるというところで先程まで存在すらしていなかった白い蛾の使い魔が現れて隠岐奈を援護しはじめた。

早くも休憩していた桑子が復活してきたらしい。

『ふむ、もう少し休んでいても私は構わないぞ?』

『大丈夫!昆虫は省エネですっ!』

密度の高いクナイ弾にランダム性の高い蛾弾、その2つがたまたま最悪の位置で重なるリスクを考慮すると、中々前に出ることが億劫になる。

しかし、現在魔理沙だけが相手から一本を取っている状況、このままなのは何か悔しいものがある。

霊夢は意を決して大きく前に動き、弾幕を集中させた。

一塊になったお札と針、陰陽玉が相手の攻撃を強引に押し退けて突き進む。

やがて、隠岐奈の眼前に到達したそれは閃光と爆発音を振り撒いて炸裂したのであった。

『…どうかしら?手応えはあったけれど…』

その独り言に答えるように煙の中から椅子に腰掛けたまま余裕を崩さない隠岐奈が現れ、スペルカードを宣言した。

 

裏蚕「富岡製糸場で見た悪夢」

 

彩り鮮やかな炎弾が円陣を組み、高速で回りながら跳ね踊っている。

それだけで済むようなチャチな弾幕を隠岐奈が使うはずが無く…

『おっと…コイツは長引くと面倒だぜ。』

クナイ弾が連なって生糸のように伸びた弾幕が絶え間なく霊夢と魔理沙を追跡してきていた。

後ろから急かされつつ勢いよく燃える炎にまで目を向けておかなければならないわけだが、ここに加えて桑子が何かするかもという不安定な要素もある。

魔理沙の言った通り、長引くとこちらが不利なのは明白だろう。

霊夢は少々早いタイミングであることは承知の上でスペルカードを宣言した方が良いと判断した。

 

境界「二重弾幕結界」

 

二重に重なった巨大な結界が片っ端から弾を消し去り隠岐奈を挟み込んでいく。

そして、2つの結界は完全に閉じ、隠岐奈を彼女の弾幕ごと押しつぶしたはずであった。

『…上手く避けるものね。てっきりこれで決まるものかと思ってたんだけど。』

『伊達に幻想郷の賢者なんて呼ばれてないってことよ。それより、随分早いスペルカードだったがどうしたのかな?もう少し私の弾幕を堪能してくれてもよかったのに。』

『別に理由なんてさほどないけど…強いて言うなら道中あんまりドカって思いっきりやれる場面がなかったからかしらね?魔理沙みたいで嫌だけど。』

『…なんにせよ、流石の結界術といったところか。ああ、博麗の巫女でさえなければいい童子になるだろうに。』

『なりません!』

ふわりと桑子が隠岐奈の横に並び、2人揃って何かの準備を始める。

『さあ桑子よ、手順はわかっているな?』

『はい!摩多羅神様のお荷物にならないよう頑張ります!』

 

「パーフェクトスレイブ」

 

スペルカードが宣言された瞬間、隠岐奈から桑子へと鱗弾で構成されたワイヤーが繋がり、長く伸びてゆく。

そのまま桑子はゆっくりと移動を開始し、霊夢と魔理沙を纏めてワイヤーで絡め取ろうと迫り来る。

さらには隠岐奈からは低速の大弾が、桑子からは高速の中弾がそれぞれ同心円状に放たれ、さらに2人の移動可能範囲を狭めてきていた。

魔理沙が桑子の方に八卦炉の口を向けると、たちまち遠ざかり射程外に離脱していく。

かと思いきや、気まぐれに急接近してくることもあり、どうしても不安定な軌道の桑子は捉えられそうになかった。

『中々ストレスが溜まるぜ。この感覚は縫い針の穴に糸が入らない時のアレだな、うん。』

『あんた普段縫い物なんてしないでしょ。ほとんど霖之助さんまかせなんだから。』

高速の中断が頭のリボンを掠めて飛んで行く、そこに軽口を叩く余裕はもう無かった。

少々短絡的ではあるかもしれないが、フラフラ飛び回る桑子は一旦無視して隠岐奈の方を狙うこととしよう。

しかし、そこは隠岐奈も幻想郷トップクラスの実力者。

霊夢の針を難なく回避し続け、お札を的確に結界で防御する。

一方魔理沙はというと、こちらはこちらで邪魔なワイヤーを断ち切ろうと試行錯誤していた。

『ぐぬぬ…消しても消しても新しいのが出てきやがるな。どうしたもんか…』

『もう諦めたら?今なら頭を着けて白旗を上げれば許してやるわよ!』

『生憎、ここは天空なんだ。手近にいい地面が無いんでな、却下だぜ。』

近づいてきた桑子に向けて適当に弾幕をばら撒いて追い払う。

しかし本当にどうしたものか…

その時、ふと目に入ったものは隠岐奈と互角の弾幕合戦を繰り広げる霊夢の姿であった。

向こうの状況は均衡しているようだし、2vs1の形になれば或いは…?

思い立ったが吉日という話もある、早速180度向きを変え、桑子を背にして隠岐奈の方へと向かこととしよう。

『あっ!待て〜私を無視するな〜!』

『それはあれか?洒落なのか?』

魔理沙は振り向き様にマジックボムを桑子に投げつけ、そのまままた直進する。

一方、思わず投げつけられたそれをキャッチしてしまった桑子は慌てて手放そうとするも、慌てすぎてただ右手から左手へ、左手から右手へと移動させ続けることしかできない。

そして、抵抗虚しく彼女の懐でマジックボムは炸裂し、爆風でなすすべなく吹き飛ばされてしまったのであった。

時を同じくして、突然桑子との間にあったワイヤーに大きな衝撃が加わり、裁断した箇所を修復することもできなくなった隠岐奈は疑問に思い桑子のいた方へと目を向ける。

そんな彼女の目に映ったものは、こちらに向けて今まさに勢いよく突撃せんとする魔理沙の姿であった。

『奴は桑子と戦っていたはず…しくじったか?』

まぁもう起きてしまったことはしょうがない。

今はとにかくこの状況に対応することが先決だ。

こぼれた水は器に戻らないかもしれないが、何かしらを新しく注ぐことはできるだろう。

魔理沙の方へと意識を向けようとする隠岐奈であったが、その目前を陰陽玉が待っていましたとばかりに突き抜けてゆく。

霊夢ほどの相手、そうやすやすと隙を見逃してくれるわけは無い、ということだろうか。

しかし、霊夢ばかりに構っていては背後からくる超火力の魔法使いに焼かれてしまうだろう。

隠岐奈がどれだけ思案を重ねても現状を脱する手段が浮かんでくることはなかった。

どちらかを取ればどちらかがダメになる、つまり…

『ふむ、私達の負けか…無念無念。』

霊夢の攻撃と魔理沙の攻撃が空にXを描くように重なり、その交点が隠岐奈を捉えた。

同時に、桑子と隠岐奈が放っていた弾幕は霧散し、そのスペルカードが終結したことをものがたっている。

かくして、桑子のリベンジは失敗に終わったのだった。残念無念、また来世ー!




まだ11月も中盤ではありますが、やはり北海道は特別なようで、吹雪の洗礼を受けてきました。
深夜の街灯の下に雪が舞い、冬のソナタでも始まりそうな雰囲気でしたね、こわ。

登場人物

二童子
隠岐奈の弟子という扱いの2人組。
傀儡

虫織 桑子
スペルカード
蛾人間「時速160キロのレッドアイ」
摩多羅 隠岐奈と合同で
「パーフェクトスレイブ」
その他の設定は過去話をご参照ください

摩多羅 隠岐奈
養蚕の神
能力 あらゆるものの背中に扉をつくる程度の能力
種族 秘神
スペルカード
裏蚕「富岡製糸場で見た悪夢」
虫織 桑子と合同で
「パーフェクトスレイブ」


彼女が桑子から話を聞いたのは異変の実行より20日ほど前のことであった。
なんと彼女はとある人物の誘いに乗り幻想郷を出ようとしているとのこと。
ハッキリ言って胡散臭いことこの上ない。
第一、畏れられなくなってこちらに来た桑子がより妖怪の存在が薄れた現代に再び現れても消滅まっしぐらであろう。
しかし、桑子がずっと同じ境遇の存在と巡り合わず、悩みを抱えていることも確かである。
そして隠岐奈は考えた。
霊夢や魔理沙、異変解決屋達に異変を起こした桑子と闘い、阻止してもらおうと。
自身で力を振り絞り、その上で敗北すれば桑子も諦めがつくだろうと。
あわよくばそのままなんだかんだ面倒見のいい彼女達に桑子と関わりを持ってもらおうと。
そして隠岐奈は桑子の背中に扉をつくり、結界越えを成すほどの力を与えた。
その日、彼女の狙い通り、異変解決屋達は桑子の元に辿り着き、激しい弾幕ごっこの末、結界越えは未遂に終わる。
結果、その目論見は成功し、桑子には新しい友人ができた。
もう彼女は無理に外へと向かおうとすることもないだろう。
幻想郷も気に入っているようだし。
彼女の見守る幻想郷は今日も平和で、以前より少しだけ賑やかになっていた。
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