東方白宙道〜Hundreds of Millions Wax PTERA〜   作:プルプルマン

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ホントのホントに最後だとおもう


虫織桑子の素敵な一日
虫織桑子の素敵な一日


幻想郷の樹海、魔法の森

そこに呆れるほどある巨木の一つ、その樹洞の中で一人の妖怪が目を覚ました。

開いているのか瞑っているのかわからないほど半開きの目をこすりながら、彼女は外を見回して太陽の位置を確認する。

うん、まだまだ時間は大丈夫だ。

約束の時間は…確か太陽が天頂に来たらだっけ?

適当な枝を適当に削って作った櫛で髪を梳かし、そのまま大事な触角もほぐしていく。

寝違えてたら大変だからね!

長くて汚れやすい飾り帯もチェックして出かける準備は万端、火の元そもそも無し!戸締り必要無し!そもそもここに戻ること無し!

おっと忘れてはならない、出かけようとする直前に彼女は手近な木をよじ登ると、その梢で翅を目一杯伸ばして腹ばいになり日光浴を始めた。

そう、彼女はれっきとした虫の妖怪であり朝日をふんだんに浴びて体温を上げなければ満足に動けないのだ。

しばらくの間は日に当たりながら葉の脈が何回枝分かれしているかを数えて暇を潰していた彼女だったが、やがて首が前後に船を漕ぎ始めた。

不可抗力である、人間にせよそれ以外にせよ春の日差しを前にして惰眠を我慢することができる者などほんの一握りなのだ。

という持論(言い訳)を夢の中で展開しつつ少女は眠りに落ちていった。

 

 

 

『むべっ!』

突如後頭部に走る衝撃! ふわふわした夢の世界はからくも崩れ去り、彼女は現実へと引き戻された。

加えて、泣きっ面に蜂と言わんばかりに叩き起こされたはずみでするりと枝をくぐり抜け木の根に背中を強打することとなり、もはやこれまで満身創痍である。

『そんなところで寝るもんじゃないな。悪戯マニアの妖精に撃ち落とされるかもしれないからな。』

木の根にノックアウトされた彼女の上から声が聞こえ、何かが降りてくる。

それは、先日の異変で欲しくもない縁ができた森の魔法使いの霧雨魔理沙であった。

『うげっ、馬鹿力魔法使いだー、今日は厄日だわ。』

『おいおいまったく、最近の妖怪は礼儀と感謝ってモンを知らなくて困るな。せっかく人が妖精に叩き起こされる前に吹き飛ばしてやったってのに礼の一つも無いとは。』

『要するに私は暇つぶしで叩き起こされたの?むごい。』

『不満なのか?』

『あたりまえよ!もう頭にきた、こうなりゃ弾幕で語ってやるわぁぁ‼️』

『喧嘩っ早くていけないな。古事記にもあるぜ?和をもって尊しと成すってな。』

『すべてが間違ってる!』

 

 

 

 

彼女はものの見事にボロ負けした。

『む……無念、同志達よ後は頼んだ。』

『受け継がれる意思ってやつか、感動的だな。まあ暇つぶしにはなったぜ、ありがとな。』

微塵も抑揚が感じられない声でそんなことをぬけぬけと言ってのける魔理沙、幻想郷が平和な証である。

飛び去る魔理沙を見送りながら彼女は、次に会った時こそは自慢の糸で木に吊るしてやろうと決心しつつ背中をさするのだった。

 

 

 

 

『もー酷い目に会ったわ、なんか気分転換でもしたいけど…』

彼女が森を出ると道は開け、さらに大きな通りへとつながっている。

それは人間の里に続いており、必然と農地や河川から様々なものが集まることになるので暇つぶしにはもってこいなのだ。

もちろん、里の外ゆえに妖怪も多少姿を見せるがその妖怪相手に出店をこしらえて商売をしている人間もいて、その逞しさには彼女も感心することがある。

残念ながら、今日は店があったりはしないようで殺風景な道が続くのみだったが、唯一いつもと違う点は森からの道と大通りの合流点に小さな少女がしゃがみ込んでいることだった。

彼女も(一応)立派な妖怪であり、やはり人間からの知名度と畏怖は常に求めて止まないところである。

というわけで、一度飛んでからしゃがみ込む者の前に降り立ち、両手を目いっぱい振り上げて前から使い回してきた脅し文句をかける。

『小童よ!この大怪蟲様の領地に誰の許可を得て立ち入った?もはやお前が帰る道は無い、さて糸でくるんで繭にしてくれようか?それとも、八つ裂きにして桑原の肥やしとしてくれようか!』

久々にやってみたが、手応えありだ。

なんなら、今世紀一番の恐怖を体現できたのではないだろうか。

これで明日からは幻想郷縁起大幅改訂、増版・貸し出しの嵐、私は石燕の百鬼夜行を超越する大妖怪となって稗田は過労で倒れること間違い無し!…などと考え笑みを隠しきれない彼女だったが、驚かされている本人は白けた雰囲気を醸し出している。

『……あれ?今私、妖怪として恥ずべき眼差しを向けられてたりする?』

気まずい沈黙の中、最初に口を開いたのはしゃがみ込んでいた少女だった。

『色々と、なってないのう。それじゃあ人間からの扱いは妖精やら傘の付喪神と変わらんぞ。具体的にいうと一面中ボスがいいところかの。』

もはや憐憫に近い目を向けられ、甲鱗同盟の活動(ただの遊び)にうつつを抜かしすぎて人の襲い方を忘れかけている自分を直視せざるを得なかった。

『そ…そんなぁ、それじゃあ私ってただ大きいだけの変な蛾になっちゃうじゃない…珍生物扱いはいやー!』

『仕方ないのう、ワシとて弱小とはいえ妖怪の端くれ。腹も減っておることじゃし、ここは手を組んでターゲットを絶望の底へと叩き落としてやらんか?』

『そのアイディア!気に入ったーー!』

こうして、1日限りの最強?タッグが結成されたのだった。

 

 

 

 

『よいか?まずは次にここを通る漁師を脅かすんじゃ。そりゃもう錯乱して釣った魚を食べだすくらいにの。』

『そりゃあ凶悪だねぇ。して、プランのほどはいかがいたしましょう!』

『やはり最初は古典的…いや、シンプルと呼ぼうか。そういう作戦で行くぞい。今、ワシらが隠れている草むら…ここから飛び出してターゲットの前に躍り出る!』

『おおっ!』

『追撃に水か何かでも投げつけてやれば腰も抜けて転がっていきよるわ!はっはっはっ』

『ハイ!私めに一つ提案があります!』

少女が挙手し相方もそれに乗っかる。

『うむ!発言を許可しよう!』

『いっそ私のつくる糸をぶつけて、存在をアピールしたいです!』

『やる気があって大変すばらしいのぅ。採用!変装もしてみようか!』

作戦会議は最高潮の盛り上がりを見せていたが、それを遮るように砂利と草鞋の擦れる音が聞こえてくる。

いよいよ、暇を持て余した妖怪たちに絡まれる哀れな被害者が近くまで来たようだ。

少女は草むらに潜み、微動だにせず待ち構える。

迫る足音、伝う緊張、土の冷たさが地面についた腕を登り始めたそのとき…

全力で少女が飛び出し、自身の能力で作り出した糸を歩いてきた漁師へと吹きつけた。

 

 

 

(しめしめ…今日はすべてがうまくいったぞ…)

男の魚篭にはとても夜明けから今までの短い時間で釣れるはずもないほど大量の鯉や鮒が詰まっていた。

では、この男は妖怪が跋扈する危険な真夜中から釣りをするほどの豪傑太公望なのだろうか?

そんなことはなく、男は毒草を調合した薬剤を水辺に撒き、麻痺して浮かんできた魚を獲る毒もみを行っていたのだ。

短時間で大きな成果を挙げる方法ではあるが、当然代償もあり水の汚染や河川のバランスに対する撹乱などが生じ得る。

そのため、幻想郷の特に人里につながる河川ではその小さな支流に至るまで毒もみを禁止する掟が出ているのだが、この男は監視の目をすり抜け度々小川で魚を乱獲していたのだ。

(にしても…今日はやけに風がうるせぇな…なんだか、誰かが喋ってるみたいで不気味だしよぉ…)

そのとき、ピタリと風が止み時が止まってしまったような静けさが周囲を覆ってゆく。

(な…なんだ?この景色…どこかおかしい…)

徐に揺れる草むら、そこに目を向ける暇すら無く目の前に怪物が現れる。

ソレは6つの目を持つ怪物で、頭には一対の巨大なツノ、更には腹部と思しき場所からは無数の脚が生えた少々小ぶりながらも異形と呼ぶに相応しい姿であった。

あまりに突然の出来事に男の思考はパニックを起こし、ひたすら意味もない文字が頭の中を駆け巡る。

(妖怪? 昼間だぞ え?死ぬ? 魚腐っちまうなぁ 里まで走る? 妖怪も箸で食うのか? おっかあ)

放心状態だった彼であったが、手首に感じた冷たさによって現実へと引き戻される。

男が自らの手首を見やると、そこに伝わる冷たさの正体はすぐにわかった。

それは白く軽い糸であった。

瞬間、男の脳裏によぎったのは蜘蛛の巣に絡め取られた夜盗虫の姿。

後ろめたい方法で魚を獲り、今度は自分が捕まる…

『あう…ぅあ……ひぃぃあぁあああ‼︎』

男は脇目も振らず必死で逃げ出した。

ただひたすらに死にたくないと願い、自分の行いに懺悔して。

 

 

 

『やったよやったよ!これで私が恐怖の象徴だ!アンゴル・モアだぁ!』

『ええい、朝っぱらから耳元で騒ぐな!まったく、蓑がなけりゃ耳が潰れて永遠亭の世話になってるところじゃ。しかし、何はともあれまずは一勝。ここからはより引き締めていかねばならぬぞ?…って、お前さんそいつはやめといた方が…』

次なる通行人に飛びかかっていった少女だったが、2匹目の泥鰌というわけにはいかず通行人の持っていた大振りのハンマーで容易く打ち上げられ、見事にノックアウトされたのだった。

『だからやめておけと言うたろうに…まあいいか、取り敢えずさっきの不届きものが置いていった魚でも焼いて、朝餉にするかね。』

周囲に魚の焼ける匂いが立ち込める頃、少女はようやく目を覚ました。

『おお、やっと起きたか。脅かす相手が人間かどうかくらいよく見んか、まぁよい食事はできておるぞ、どうせお前さんもまだ食うておらんじゃろう?』

少女は鯉を丸々一匹食べた。

『よくそんなに入るのう…今の食べっぷりを人間に見せれば何よりも驚くじゃろうに…』

『そうかなぁ…でも私フードファイターなんてやるつもりは無いしなぁ。…っと!もうこんな時間だ!じゃあ私ちょっと約束あるから行ってくるね!またコンビくも〜』

気づけばかなり高くまで登っている太陽、そのことに気づいた少女は普段以上に忙しなく起き上がって人間の里方向へと走り出した。

『おーい!変装くらい外して行け〜!』

その呼びかけで思い出したのか、少女は腰に巻いた蔓の束や触角に被せた羊歯のカバー、翅に目玉模様を描く木の実の粉を振い落とし、そのまま駆けていった。

 

 

 

『さて、行ったか。ああ、まったくいい暇つぶしだったわ。』

『それは何よりだ、(妖怪の端くれ)殿。』

不意に背後から響く声、こんなことをする者の心当たりは幻想郷広しといえどもそう多くはない。

加えて、先ほどの彼女が去った後に話しかけてきたということを考えると…

『これはこれは摩多羅隠岐奈殿。お初にお目に掛かります。』

そこにいたのは幻想郷の管理者の一角にして自分と同じく様々な顔を持つ存在、摩多羅隠岐奈その人だった。

『しかし、失礼を承知で申し上げますが、いくら賢者と称される貴女でも会話の盗み聴きなどは如何な物かと…』

『幻想郷で盗み聴きがアウトだと言うのならば、紫の奴は全ての幻想郷住人に菓子折り持って謝ることになるだろうな。それはともかくまずはその気持ち悪い敬語をやめてもらおうか。上っ面で話されるのは好まんのでな。』

『これは失礼。こっちも貴女のお気に入りの子守りをすることになって疲れたのよ。まったく、私が人間を脅かしてしまう羽目になるなんて。もし信仰が足りなくなったら責任とって摩多羅様を習合させて貰おうかな。勿論、私メインで。』

『確かにその件については感謝を示すのが筋というものかな。だが、今日彼女に付き合ったことでどこかの河の安全は守られたかもしれないぞ?』

お互いに腹の内を探り合う沈黙が数秒間続き、空気が少しピリついた。

『つまり、今回の件は貸し借り無しにしよう…と、こう言わせるためにわざわざ姿を現したのかい?』

沈黙を破ったのは小柄な少女妖怪の方であった。

『ふむ、確かにそれもあるにはあるが、あくまで二の次。お前は彼女の交友関係を深めるきっかけになってくれたからな、その礼を言うのが本来の目的さね。』

『本当に…えらくあの妖怪がお気に入りなんだねぇ。礼など言われずとも今度会ったらまた相手をしてあげるさ。』

実のところ、彼女も少し楽しかったのだ。

本来は妖怪である少女を利用して無法者を懲らしめるだけが目的だったはずが、思い返せば自分も結構ノリノリで計画していたことを思い出し、道の守護神塞神ウズメは一人苦笑いを浮かべるのだった。

 

 

 

 

ウズメと別れた後の少女は人里手前に着くと、茂みの中で術を使い触角と翅を隠して人通りの多い道を駆け出した。

様々な物が視界に入っては消え、大勢の声が耳に届いては遠ざかってゆく。

『貸本屋ですよー危ない妖魔本とかおいてませんよー』

『今日は秘蔵の10年モノを大開放だー!買った買った!』

『お客さん、その羽衣いいですねぇ。是非ウチの店で…』

昔は人間の集落など毛嫌いして立ち入る気も無かったが、こうして何度も来てみると中々にクセになるモノだ。

茶屋から漂う甘い御手洗団子の香り、草鞋や下駄にブーツなんかの足音が混ざり合ったある意味でオーケストラのような雑踏、店と客の仁義なき値切り交渉…すべてが大河の流れのように一斉に押し寄せ、五感で騒がしいと思える。

そんな幸せを噛み締めながら走っていると、前方に里のもう一つの出入り口が見えてきた。

ここさえ抜ければもうすぐだ、みんなはもう集まっているのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女がようやく辿り着いたのは博麗神社。

常識と非常識の境目にある幻想郷の正統なる(実態はともかく)信仰の地である。

それなりに立派な鳥居を一瞥すると、彼女は一段一段とその内側へと続く石段を登ってゆく。

鳥居の先からはすでに笑い声や何かが転げ落ちる音が響き、誰かの怒号が聞こえてきている。

少し長いようにも感じる石段を登り終えて彼女が鳥居をくぐると、そこには葉桜の下で座り込んで自分を待つ仲間たちや、鬼を頭から地面に埋めている鬼巫女がいる賑やかな境内が広がっている。

『ん?あ、遅いよーほらー座って座って!』

『よかった〜忘れてなかったんだ。あ、霊夢さん追加のお煎餅とお茶お願いしまーす。』

『だ・か・ら、これ以上あんたたちに飲ませる茶はないし、煎餅は尚更よ!』

『おーう虫けらども〜酒ならあるぞ〜〜ヒック』

『樹液の匂いがする〜』

『ラルバー!行っちゃダメだ!標本になるわよ!見てないで手伝って〜!』

『わ、わかった!』

鬼の酒は度数が常識はずれなのであながち冗談とも言い切れないのが恐ろしいところだ。

ちなみに、霊夢は文句を言いながらもキッチリお茶と煎餅を用意してくれていた。

 

『それでは、改めまして…甲鱗同盟の初夏定例会議を行います!』

リグルの宣誓とともに響く二つの拍手。

『それではまず、本日の会議場を提供していただいた霊夢さんに感謝を。』

『そんなことをした覚えはない。』

「えーと、次の話題は…そうそう、嫌われがちな蟲達のイメージアップ・地位向上についてでー』

その後は会議とは名ばかりの雑談タイムに突入し、(自称)甲鱗同盟のブレインことリグルでさえも当初の議題などとっくに忘れて最近食べたものやくだらない遊びで延々と話を続けていた。

初夏の妖怪には毒なほど暑くなった日差しを葉桜が丁度良い塩梅でカットしてくれている。

いつの間にやら日も傾き、どこかで茅蜩が鳴き始めた。

『もうこんな時間かぁ、さっきから霊夢さんもニコニコしてるし帰れって圧を感じるよ…』

『そーだね、私も夕日見てたら眠くなってきたし。』

「えー、まだまだ話し足りないなぁ、まぁラルバも眠そうだししょうがないかぁ。』

『じゃあ定例会議を一週間ごとにする?』

甲鱗同盟に電流走る!

『『賛成‼︎』』

 

『えーと、リグルは竹林の方で、ラルバは山の方だっけ。私は今日の寝床まだ決めてないなぁ。湖の方で探そうかな。』

『よし、それじゃあまた今度までに話題決めなきゃね…確か次はラルバだっけ。』

『任せろ〜』

3人がそれぞれ別の方向へと別れ、飛び去ってゆく。

去り際に約束とも言えぬ約束を残して。

『それじゃあまたねーー』

『まったね〜』

 

『うん!またねー!』

大きく手を振って、虫織桑子の素敵な一日は終わりを告げた。




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